名前で呼んでv
〜それは千石の狡猾なる計画・・・なのか






 ついに迎えた青学
vs山吹中による都大会決勝戦。D2つを終えて現在1対1。このS3を取った方が断然有利となる。そんな中・・・。
 「ふーん、ラッキー(↓)千石、ねえ・・・」
 周りの言葉に合わせる形で少し離れた木陰にいたリョーマも小さく呟いた。が、
 「・・・ん?」
 ちっちっちっちっち
 なぜか千石が試合そっちのけで(いやまだ始まってはいないが)こちらを見て指を振っていた。
 「ダメだよ越前君。ラッキー(↑)千石。何度も言ったでしょ?」
  笑顔で説明する千石。その2つ名のとおり運良く彼には少し離れた青学サイドで「『何度も』・・・?」と呟く存在は目に入らなかったようだ。ついでにその付近を漂うどす黒いオーラも。
 「だから―――ラッキー(↓)千石」
 「じゃなくて―――ラッキー(↑)千石。はい!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「ここは重要なんだから。ちゃ〜んと覚えてもらわなきゃ」
 「―――なんで?」
 「下げちゃうと違う誰かっぽいでしょ?」
 「誰?」
 一昔―――かそれ以上前にテレビを見ていた者ならその名前はおなじみであろうが、あいにくリョーマはその頃アメリカにいた身、当然の事ながらそれが誰を指すのかはわからない。
 「とにかく、上げるんだよ?」
 にっこりと微笑まれ、リョーマは顔を俯かせた。その頬が多少赤くなっている・・・・・・などと青学サイドで今もオーラを撒き散らしている人が知ったらどう思うのだろうか。いや既に知っているのかもしれないが。
 (う〜ん、リョーマ君可愛いなあ・・・)
 俯いたまま何度も口の中で練習するリョーマに千石の鼻の下が伸びる。と、
 「―――なんか難しいよ」
 どうやらそれが我がお姫様―――もとい王子様の出した答えらしい。
 「そんな事ないって〜。『ラッキー(↑)千石』。ホラ難しくないでしょ?」
 「・・・・・・『ラッキー(↓)千石』・・・」
 (か・・・カワイイ・・・・・・vvv)
 拗ねたように口を尖らせ、上目遣いで呟くリョーマは壮絶に可愛かった。それはもう、話し相手の千石どころか見ていた者全員をノックアウトしてしまいそうなほどに・・・・・・。
 「う〜ん・・・・・・」
 (ああ、リョーマ君、その顔は反則だよ・・・)
 リョーマのそんな顔を見ると、もうこんな事どうでもいいような気がしてくる。
 (―――けど! これはやっぱり俺のアイデンティティに関わる問題だし! やっぱ妥協は良くないでしょ!!)
 なぜ名前の、それもあだ名の呼ばれ方が自己同一性に影響を及ぼすのか、それについてはとりあえず―――千石の思考回路と価値観が通常人の場合と若干異なっていた、と述べておこう。
 「だから、ね?」
 だから―――めげずにくじけずに諦めずに、千石は繰り返した。気分は最早猫に芸を教えるブリーダー。
  が、教わる猫はあっさり飽きたようだ。
 「ね?」
 「・・・・・・」
 「ね?」
 「〜〜〜〜〜〜!!!」
 「ね?」
 しつこい千石にリョーマの怒りが爆発し、そして・・・。
 「キ・ヨ・ス・ミ!!」
 「・・・・・・え?」
 「もー『ラッキー(↑)千石』って言いづらい!! おんなじ名前ならこれでいいんでしょ!?」
 王子様ご乱心。
 元々上がり気味だったアーモンドアイを更に吊り上げ、リョーマはわめき散らした。恐らく彼は今自分が何を言っているのかわかっていないのだろう。それが千石を天に登りそうなほどに喜ばせている事も。そして練習の効果あってか初めて正しく発音できた事も。
 「うん!! ぜんっぜんいいよ、
リョーマ君vv」
 「・・・って俺はファーストネームで呼んでいいなんて一言も―――!!」
 「けどリョーマ君が呼んでくれたんだし。ここは僕もぜひ呼んであげなきゃv ね、リョーマ君vv」
 「〜〜〜///!!!」
 本当に嬉しそうに微笑む千石に今度こそ真っ赤になるリョーマ。それをほほえましく眺め、千石はもっていたラケットをブンブンと振った。
 「じゃ、愛するリョーマ君のためにこの試合での勝利を捧げるよvv」
 おいおいそれじゃ嫌がらせだろ、とその場にいた第三者全員が思ったが、取り合えずそれは口に出さない事にしておいて。
 どうやらリョーマは別の事の方が耳に良くついたらしい。
 「〜〜〜/// キヨスミのバカ〜〜〜!!!」
 「あ,リョーマ君!?」
 叫んで走り去るリョーマ。できるならば今すぐ追いたいが、まさか試合放棄をするワケには行かない。
 (あ〜行っちゃった。けど、ま、いっか)
 なにはともあれリョーマが名前で呼んでくれるようになった。それだけでも大きな進歩であり、千石には大ラッキーな事であった。
 (とりあえずこの試合は勝たなきゃね。そしたらリョーマ君も機嫌直してくれるかな?)
 だからそれは嫌がらせ・・・ともしもこの時千石の心の声を聞く事が出来たならば誰もがそう突っ込んでいただろう。
 そんなこんなで波乱の開けぬまま、S3は始まりを迎えたのだった。





♪   ♪   ♪   ♪   ♪






 そしてここにも波乱が一つ。
 「フフフ、『キヨスミ』かあ・・・・・・」
 「ふ、不二? なんか怖いにゃ」
 「僕だってまだ『不二』先輩なのにねえ」
 「い、いやあの・・・」
 「君はいいよねえ、『英二』先輩v フフフフフ・・・・・・」
 (だ・・・誰か助けてにゃ〜〜〜!!!)
 ブラックオーラを全身どころか半径3メートルほどに撒き散らす不二に、そのテリトリーに運悪くハマり(というか意図的にハメられ)抜け出せない英二。他の者はとばっちりを恐れ、2人の存在を脳と視界から締め出しただひたすら無心に試合を観戦した。
 (薄情モノ〜〜〜!!)
 心の中で泣き叫ぶ英二の、そしてやはり心の中でそんな英二の冥福を祈るみんなの横で、不二の呟き(怨念)は桃城が千石を下すまで続いた。
 ―――ちなみに桃城の勝利はリョーマへの失恋によるヤケが理由の大半を占めたらしい、という噂。



やはりオチなし・・・・・・

















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え〜と、今日(7.31)のアニプリ、『狙われた大石』を見てほぼ即行で書いたものです。だってリョーマってば千石の事思いっきり『ラッキー(↓)千石』って読んでたんスよ。あ、ちなみにこの話は今日のアニプリ及びコミックス11巻のおまけ一コマ漫画を見られた方にはわかるものです。
 そうそう、サブタイトル通りテニプリでまともに
CPもの書くのはこれが初めてです(ちょろっとだ〜けだったら『練習の後に』で不二リョ&大菊出したんですけどね。本当にただのおまけっぽかった―――というかほとんど意味のない設定だったし)。初めてでなぜか不二リョでもなく菊リョでもなく3-6メイツでもなく周裕でもなく(全てリバ可)千リョとは・・・・・・。なぜか本日とっても千リョ日和。しかもネタまで公式で転がってるし。このままでは不二・英二・桃城・そして千石による四つ巴になりそうな予感。あ、ちなみに私としてはこれに裕太を巡って不二vs観月が好きです。不二はどちらに転がってもよし。ただし基本的には不二リョで裕太への想いは弟を思う兄のそれ、それを激しく勘違いする裕太―――などというのもいいなあ・・・とこの場で意見を変えてどーする。ちなみにこの設定はデジアドのタケル・ヤマト・太一の関係と同じだなあ、こういうの好きなのかなあ? まあ兄弟スキーは否定しないけど・・・。

P.S.千石さんの性格がイマイチ把握しきれてません。彼ってこんな人でいいんですか・・・(ミもフタもない発言)?

2002731