B.乾汁のバアイ




 「何コレ・・・?」
 リョーマの呟きどおり、それは本気でワケのわからないものだった。コップに入った変な色の液体(多分)。それを片手でに乾がもう片手でノートを開いた。
 「乾汁スペシャルバージョンだ」
 「スペシャル・・・って。しかも『野菜』汁じゃないんスか?」
 「だから『スペシャル』だ。今回は野菜以外のものも入っている」
 「・・・・・・」
 「大丈夫だ。危険な物は入れていない。それは保証する」
 「・・・・・・・・・・・・」
 固まるリョーマを見て、そして乾を見て英二が呟いた。
 「乾が作ったって時点で十二分に危険っしょ・・・」
 「なんで? おいしいじゃない」
 「・・・・・・・・・・・・」
 ある意味乾を超える変人から目を逸らし、再び英二はリョーマに視線を戻した。
 「―――って大体おかしいじゃないっスか!! なんで俺が理由[ワケ]もなくそんなモン飲まなきゃならないんスか!!?」
 「理由? 越前は俺に一緒に走るよう要求した。俺はその見返りにこれの味見を頼んだ。公平[フィフティーフィフティー]だろ?」
 「・・・・・・」
 何かを間違っているような気もするが、それにリョーマが気付くよりも早く乾が案を持ちかけた。
 「―――だが運動の最中に大量の水分を一気に補給するのは体によくない。それに味見に大量に飲むのは意味がない行為だ」
 「じゃあ・・・!?」
 乾の珍しい妥協案にリョーマの目が輝き―――
 「というわけでジョッキではなくコップにした」
 「・・・・・・」
 そして絶望の色に染まった。
 「どうする、越前? コレを飲むか? それとも今から新たに誰かを探すか?
 だが生憎と中学生で身長が
180cmを超えている者は少なく、この学校の教師でそれに達する者はいない」
 「ああそう言えば僕たちって身長高い方だったね」
 「そうにゃの? にゃんかいつも高い奴見てたからよくわかんにゃいや」
 ぽんと手を叩き妙なところで納得する不二に、やはりよくわからず笑顔で言う英二。確かに身長が高いほど有利な(厳密にはその場合の多い)テニスにおいて、今まで青学が戦ってきた相手校の選手は中学生の平均に比べ背の高い者が多かった。「小さい」と思われがちな不二ですらクラスでは中間の背丈である。
 納得したくないが覆せない事実を前に恨みがましい目で乾を見るリョーマに、さらにその乾から追い討ちがかかった。
 「それにこんなところでのんびりとしてていいのかい? さっきからアナウンスで君のことが流れているよ?」
 「え・・・?」
 『さあ1年の借り物競争もラストになり、2組の越前君を除き次々とランナーが帰って来ようとしています! 途中までトップだったにも関わらず今だ応援席にて何やら押し問答をしているらしい越前君! 彼は一体何を引き当てたのでしょうか!?』
 「っ・・・・・・!!」
 負けず嫌いな彼にとってはかなりの屈辱的なアナウンスに、リョーマの心は一瞬で決まった。
 ヤケクソ気味に乾からコップをひったくり、叫ぶ。
 「飲めばいいんでしょ飲めば!!」
 答えも待たず、コップを口につけるとリョーマは一気に飲み干した!!
 「ぐ―――!!!!!!」
 「だ、大丈夫か越前!?」
 口元を抑え何も言えずに目を見開くリョーマに大石が手を伸ばした。だがそれが届くよりも早く、乾の腕をがっと掴みリョーマがかつてない程の勢いで走り出した。それは体力アップした乾ですら引きずられそうな勢いで。
 『ゴ〜ル!! 凄い!! なんと越前君怒涛の
11人抜きでトップに踊り出ました―――と・・・・・・?』
 ゴールと同時に乾から手を離してそのまま水道へ走り出そうとするリョーマ。だがさらに5
mも進まないうちに力尽きたかぱたりと倒れた。
 「え、越前!?」
 「どうしたの、リョーマ君!!」
 既に走り終わり各順位の列に並んでいた人たちが立ち上がり、起き上がる様子のないリョーマに駆け寄った。そんな中、1人倒れたリョーマを助けもせず黙々と―――もといぶつぶつと持ちっぱなしだったノートにペンを走らす乾。
 「なるほど。100mは走れるという事か。どうやらまだ効果は薄いようだな。ならば次は―――」
 と怪しげな計画に没頭する乾の足元で、リョーマは小さく、力なく呟いた。
 「もう・・・絶対に乾、先輩に頼み事は・・・・・・」
 いい終わる事なく「ぐふ・・・」と呻いてそれきり動かなくなる。完全に気絶したリョーマの口中にはいまだ乾汁以下略の、もはやなんと形容して言いかわからない味が這いずり回っていた。



おわり・・・?


















 友達にジャンプの切抜きを見せてもらって思いついた話です。9/26に出たトレカ第3弾。なんでも『school card』として9枚、文化祭と体育祭の青学メンバーが入ってるとか。
 んでその体育祭のシーンに手塚が『メガネ』と書いた紙をもつ男子生徒(予測)にメガネを渡そうとするカットがあったんですよ。それでこのネタ。つまり青学では借り物競争があるらしい、と。どうでもいいですがラストでリョーマに駆け寄ろうとしたのは堀尾と桜乃です。名前特に挙げませんでしたが。
 ―――しっかし『長いもの』って・・・。ちなみに話中2年は出てきませんでしたが桃は
170cm、海堂は173cm。余談として荒井169cm、林165cm、池田162cmだそうです。ファンブックより。1年トリオは当然の如く150cm台。

2002.9.29〜30(夜書いてたら日付変わっちゃいましたよ・・・・・・)