不二様一日独占券




a.m6:35
千石:「不二くん、今日俺とデートしようvv」
不二:「ごめんね、朝連あるんだ」
千石あっさり撃沈。





p.m0:15
千石:「不〜二〜くんっ! じゃあ今は?」
不二:「今? って学校あるんだけど」
千石:「学校なんてサボって、ね?」
不二:「『ね?』って言われても・・・(苦笑)」





さて、朝から連敗続きでとぼとぼと山吹中へ帰ってきた千石。前方から後輩の室町が近づいてきたようだが応える気力もなかった。
室町:「千石さん、どうしたんですか?」
千石:「ほっといてくれ。今俺は傷心の旅に出ようと思ってるトコなんだから」
室町:「旅に出る・・・って、今帰ってきたところじゃないですか」
千石:「・・・・・・うるさいぞ。そういう細かいところ気にする男ってのは女性に嫌われるんだぞ」
室町:「それはどうも」
室町は千石ほど女性主義の価値観を持っている―――というか女の子を中心に世界が回っているわけではない。
あっさりかわし、ふと気付く。
室町:「ところで千石さん」
千石:「うるさいなあ。だから俺は―――!!」
室町:「ハイハイそれはもういいですから、そんなことより帰る間何か変わった事ありませんでした?」
千石:「俺は不二くんに振られてそれどころじゃなかったよ」
室町:「ああ、不二のところへ行ってたんスか。それで」
千石:「はあ?」
1人何かを納得したように頷く室町に千石が首をかしげた。と、
ぺり
室町:「千石さん。背中にこんなもの張り付いてましたよ」
千石:「え?」
室町が突き出してきた紙を見る。そこには―――





『本日午後7時、青春台駅まで来られたし。正装原則』






千石:「???」
室町:「よかったっスね。とりあえずお誘いが来たじゃないですか」
千石:「そ、そうか!
いやあ、やっぱ不二君が俺のために何もしないなんてことあるわけないよなあ」
ははははははは! と腰に手を当てて笑う千石。
他人のふりをしてその場から離れつつ、室町はぼそりと呟いた。
「とことん楽天的な人だなあ、千石さんも」





p.m6:45
千石:「さ〜って、不二くんはどこかなあ?」
といいつつも不二がまだ来ていないであろうことは先刻承知である。ちゃらんぽらんに見えてさすがミスター軽薄、ナンパ男。待ち合わせに遅れて相手を怒らせるようなバカな真似はしない。
と、
?:「お待たせ、千石君」
千石:「・・・・・・は?」
背後から肩をぽんと叩かれ振り向く。が、そこにいたのは待ち人の不二ではなかった。
千石:「え・・・・・・?」
突如現れ、にこやかに微笑む少女にさすがの千石の対応も遅れた。そう、少女。黒のワンピースと白いブラウスという一見地味な服をシックに着こなして見せているこの栗色のロングヘアーの彼女はどこをどう見ても少女だった。しかも―――
千石:「(か、カワイイ・・・vvv)」
今こそ不二という恋人がいて他人に目を向ける余裕などないが、もしもまだフリーなのだとしたら絶対に惹かれたであろう。
謎の少女:「どうしたの? じゃあ行こうか?」
千石:「え? い、いやあの。俺はここで待ち合わせしてて・・・・・・」
そう言って謎の少女が自分の腕を引いて歩き出すのを止める千石。心の中で(あ〜もったいない・・・)と思っていたりすると、
謎の少女がくすりと笑った。それはそれはよ〜〜〜く知った笑みで。
千石:「ま、まさか君不二く――!?」
叫ぼうとした千石の口を不二の繊細な指が押さえる。その動作に思わず赤くなる千石の耳元で不二が囁いた。
不二:「駄目だよ、『不二君』なんて呼んじゃ。男だってバレちゃうじゃない」
妖艶な笑みを浮かべそう言う不二に、千石は言葉も発せずただこくこくと頷いた。
千石:「で、でも不二く―――」
不二:「だからそうは呼ばないでね(にっこり)」
千石:「けど、じゃあなんて呼べばいいのさ?」
不二:「ん〜」
あごに手をあて不二が俯いた。
不二:「不二―・・・・・・。周助・・・・・・。周ー・・・・・・」
そのまま口をもごもご動かし考え込む不二は本当にかわいらしかった。
ただでさえ好みのタイプの子。それが目の前で無防備な姿をさらけ出しているのだ。ついつい不埒な行為へ進もうとした千石を責められるものはいないだろう。きっと。
千石:「ふ、不二―――」
不二:「―――そうだね。まあ今日だけは仕方ないから呼び捨てでいいよ」
千石:「へ・・・?」
不二:「だから、僕の呼び方」
千石:「あ・・・、それか・・・・・・」
不二:「どうしたの?」
千石:「い、いや、別に。ははははは・・・」
不二:「? ならいいけど・・・・・・
じゃ、行こっか」
千石:「は、はい・・・・・・」





そして連れて来られたレストラン入り口にて。
千石:「あ、あのさ、不二・・・・・・」
不二:「何?」
千石:「ここって・・・・・・すっごい高いところじゃなかったっけ?」
確かランチで万札が飛ぶ超一流レストランのはずだ。不二の家がなかなかの金持ちであることは知っているが、だからといって不二が金持ちであるわけもない。
が、そんな千石の心配などお構いなしといったようにためらうことなく店へ足を踏み入れる不二。一瞬だけ振り向いて自分を待ちながら、いつもどおりの笑みを浮かべる。
不二:「大丈夫だよ」
千石:「ま、まあ不二・・・がそういうなら・・・・・・」
ついつい『不二くん』と言いかけて慌てて言葉を止める。自動ドアの隣には既に見せのものと思わしきタキシード姿の男が立っている。
ウエイター:「お荷物をどうぞ」
不二:「ありがとう」
どこでそんな社交性を身につけたか臆することなく不二がウエイターに手荷物を渡す。
同じく手荷物を渡しながら、千石はようやく不二が女装などをしていたのかようやくその理由に思い当たっていた。ここは、ランチ等はともかく正式な食事では男女同伴が原則になっていてたりする。
何で女装[そこ]までして自分をここへ連れて来たのかは解らないが、
千石:「(ま、いっか)」
不二のお祝いの気持ちだと思えば何の不思議もない。それに不二の女装などという貴重極まりないものを見られたのだ。それだけで立派な誕生日プレゼントといえる。
外の景色のよく見える、一番いい席に案内されて少々落ち着かない中、魔向かいに座った不二が笑顔でメニューを進めてきた。
不二:「好きなもの頼んでね(にっこり)v」
千石:「あ。う、うん・・・・・・(しあわせ〜vvv)」





さて、食事もいよいよ終わり、
千石:「ご馳走様。今日はとっても嬉しかったよ」
不二:「ううん、僕の方こそ。ご馳走様、千石君v」
千石:「え・・・・・・?」
にこにこと笑う不二に、何か嫌な予感を覚える。そして―――
不二:「じゃ.お会計よろしくv」
千石:「は・・・・・・・・・・・・?」
聞いてはいけないような言葉を聞いてしまった気がして、硬直する千石。その間にもナプキンを綺麗にたたんでテーブルに置いた不二はカウンターへと歩いていっていた。
不二:「どうしたの?」
千石:「い、今、何て言った・・・・・・?」
不二:「え? 『お会計よろしく』って」
千石:「何で俺?」
不二:「当り前でしょ? 千石君から誘ってきたわけだし」
千石:「け・・・けどここへ連れて来たのは不二・・・でしょ?」
不二:「やだなあ。朝からどこか行こうって誘ってきてたのは君の方じゃない」
千石:「けどホラ俺今日誕生日だし。お祝いって事じゃ・・・・・・」
不二:「お祝いならもうしたでしょ? ちゃんと一緒にいたじゃない」
千石:「え? じゃあやっぱその女装も俺のため?」
絶望だらけの中、ごく僅かな希望を見つけそこへ縋る千石。もしもそうならばココの代金を払って尚おつりの出るほどの事だ。
不二:「これ? ただ単にここへ来たかったからだけだけど?」
姉さんが以前来たときおいしかったって言ってたし、1回来てみたかったんだけどなかなか機会なくって・・・・・・と話し続ける不二を視界の端に納めながら、千石は力尽きて店の床に倒れこんだ・・・・・・。







追記。
予想通りの領収書を見せられ、それを払うのに千石は1ヶ月そこでバイトをしたらしい。
食事代を全額払い終わって、今更ながらに気付く。
千石:「不二くんの『大丈夫』って・・・・・・不二くん大丈夫だって意味だったのか・・・・・・」
そしてそんな千石を見て、室町もまた呟いた。
室町:「そろそろ学習した方がいいっスよ、千石さん」
木枯らし吹きすさぶ、そんな秋の一コマ。





fin












千石:「ねえ・・・・・」

哀里:「ん?」

千石:「コレ、ほんっと〜に、俺の誕生祝いなの?」

哀里:「当り前でしょ?」

千石:「その割に、俺やったら不幸な目に遭ってない?
だいたい結局この1日独占券って使えなかったじゃん」

哀里:「使えてたじゃない」

千石:「どこが(恨みがましい目で)?」

哀里:「ちゃんと2人ともいてくれたでしょ?」

千石:「・・・・・・それだけ?」

哀里:「山吹中の都合なんて私が知るワケないじゃない。それに一緒にいれば何をしても自由なわけだし」

千石:「そうだったの?」

哀里:「もちろん。じゃなかったらあの2人がこんな条件飲むわけないでしょ?」

不二:「そうそう。おかげでなかなか楽しかったよ」

千石:「うう・・・・・。不二くん。それってもしかして『滅多に食べられない高級店で食べられて楽しかった』って意味だったり・・・・・・しないよねえ・・・・・・(うるうる)?」

不二:「え? 他に何があるの?」

千石:「(ごす・・・・・・)。不二くんのばか〜〜〜〜〜〜〜(だーーーっしゅ)!!!」

哀里:「・・・ってアンタ何歳児よ・・・」

不二:「こんな展開前にもなかったっけ?」

哀里:「そういえばあったような・・・・・・
―――ま、いっか。
じゃ、最後は室町君にしめて頂きましょう」

室町:「千石さん、15歳の誕生日おめでとうございます。実際年齢があがったついでに精神年齢ももう少し上げていただけると助かります」

哀里:「あ、戻りかけてた千石さんが更に遠くへ」

不二:「まあいいんじゃない? じゃあ、あれは放って置いて僕達はもう帰ってもいいよね?」

哀里:「もういいわよ。室町君も、ありがとうv」

不二:「いえいえv」

室町:「じゃあ俺たちはこれで」

哀里:「これからもよろしくね〜」



笑顔で手を振る哀里。それに応える不二と室町。

そして―――






千石:「ねえ! 今日俺の誕生日じゃないの!? 誰か祝ってくれよ〜〜〜〜〜(泣)!!!」




2002.11.25 千石さん、HAPPY BIRTHDAY