snow MAGIC!
クリスマスイブ。世の男性女性がこぞって恋人と1日を過ごす聖なる記念日。
自分もまたその中の1人。愛しの人とクリスマスイブをともに過ごしたいと思うのは当然の事だ。
その上彼の人物は今日が誕生日。となればぜひとも今日は一緒にいたいと思う! それはもう思い切り道端で力説しても構わないほどに!!!
が、世の中そうそう思い通りに動くほど甘くはできていなかった。
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「―――何やってるんですか、英二先輩」
道端で頭を抱えてなにやら苦悶に呻いているらしい英二に、リョーマは極めて冷めた質問をした。
「何って・・・その、え〜っと・・・・・・」
「別にいいっスよ、いちいち悩むなら言わなくって」
「・・・・・・おチビ・・・・・・」
悩む英二を一言で切って捨ててスタスタと歩いていくリョーマ。早くも小さくなっていくその後姿に英二は心の中で涙した。
今宵は聖なるクリスマイブ。しかし当然の事ながらそれのために部活が休みになる訳もない。終業式を終え、さあ今日から冬休みだ! と意気込んでみても部活の壁は厚く、クリスマスもお正月も全て部活三昧となっている。おかげでリョーマと遊びにいったりという事は夢の又夢。何とか後輩指導だなどと理由をつけ引退後も毎日の様に顔を出してはいるが―――同じ事を考えている輩は何人いるのか、なぜか今でも3年の元レギュラーは全員毎日部活で顔を合わせていた。
(タカさんや大石はわかるとして、乾はまあ、海堂かにゃ? ・・・・・・それはともかく、不二と手塚は絶対おチビ狙いっしょ!!)
お互い飛ばし合うあからさまな牽制。隙あらば自分を売り込もうと水面下での争いは日常茶飯事。最早毎日部活に顔を出すのはリョーマに逢いに行くためというよりその他2人に出し抜かれないようにするため、という本末転倒に近い状況になっている。
「先輩、さっさと来てくれません? 俺早く買い出し終らせて帰りたいんスけど」
「ゔゔ〜・・・・・・」
がっくりと肩を落とし、それでも目線だけでこちらを見てきたリョーマに追いつこうと足を進める英二。1年がローテーションで行う買出し。今日の当番はリョーマだった。いつも付きまとう1年トリオはおらず珍しくリョーマ1人。そのため1人で充分持てる量を現部長の桃城はリョーマに言いつけたはずなのだが―――。
もちろんこの絶好のチャンスを見逃すわけがないのがリョーマ狙いの3人。自分だいや自分だとリョーマの前で醜く争う事30分。呆れたリョーマの「さっさとしてください」の一言にくじ引きで決める事が決定。かくて某山吹中のラッキー男の如く運を手中にした英二がリョーマとの買い物権を手に入れた。
が、
「英二先輩。来る気ないんなら帰って下さい。別に俺1人でも平気ですから」
またも歩の緩まった英二に、さすがに今度は振り向いてリョーマが言う。その最終宣告のあまりの冷たさに、英二の中でびゅ〜っと嵐が吹き荒れた。
(そ、そりゃわかってるけどさ・・・・・・!!!)
はっきり言ってリョーマは鈍い。いや正確には自分の関心のある事(主にテニス)以外は本当にアウトオブ眼中である。そしてどうやら彼にとって恋愛とはどうも最も関心のない事らしい。あからさまに態度に表す3人の気持ちも、テニス部内で知らないのは最早リョーマ本人のみとなってしまった。
(こんなにアプローチかけてるのに、にゃんで気付いてくれにゃいんだよ〜〜〜!!!)
感情を表に出さない手塚ならわかる。だが自分と不二は事ある毎に「好きだ好きだ」と言い続けているのだ。抱き締めたりもしてるし、お昼とかに誘ったりもしている。はっきりいって他の後輩たちとの接し方とは雲泥の差がある(先輩として最低の行為)!!
「―――う?」
俯く英二の鼻に何かが当たった。手で触ってみる。
(冷たい・・・・・・。雨?)
よくよく見てみれば空には灰色の雲がかかり、今すぐ降り出しそうなほど重苦しいものだった。今までそれに気付かなかったのは、その状態でも割と明るかったからだろう。
「あ・・・・・・」
上を見上げてほけた声を上げる。確かに降ってきた。ただし、それは予想とは違って―――
「雪・・・・・・」
「え・・・・・・?」
英二の呟きにリョーマもまた歩みを止めた、いつも被っている帽子を外し、英二同様上を見上げる。
その2人の優れた動体視力に、1つまた1つとのんびり舞い落ちてきた白い固まりが映り出す。
「雪・・・っスか、これが・・・・・・」
口を開け呆けた顔をするリョーマに英二が首を傾げた。
「これが―――って、おチビもしかして雪見た事ないの?」
純粋な疑問だったのだが、どうやらこのひねくれ者の彼にはバカにしてると映ったらしい。大きなアーモンドアイを普段以上に吊り上げ、ムッとした表情でリョーマが返してきた。
「テレビとかじゃ見た事あるっスよ! ただ今までいたのが温かい地方だっただけで」
「・・・・・・あ〜にゃるほど」
そういえばリョーマは今年の4月アメリカから日本へ帰って来たのだ。恐らくアメリカで住んでいた地では冬も雪が降らなかったのだろう。それにリョーマのテニスの実力から考えると、小さい頃からテニス一筋でスキーなど、他の遊びを一切してこなかったのではないだろうか?
(おチビも大変にゃんだにゃ〜・・・・・・)
などと頭の中で呟いた英二の目が―――
一点を見て止まった。
「すごい・・・・・・」
リョーマが上に手を掲げていた。その手の中に雪は降り注ぎ、そしてリョーマが手を握り締めた時にはしゅんとしぼみ、水に変わる。何度も何度も繰り返すその行為。それでも水しか残っていない手を見るめるリョーマの憂いを帯びた顔は何度見ても自分を引きつけるものだった。
「―――おチビ!」
思わず大声で呼ぶ。手の中で消えてなくなる雪のように、リョーマもまたこの手をすり抜け消えてなくなりそうな気がした。
「何スか?」
振り向くリョーマの瞳は愁いを帯びた神秘的なものではなく、いつも通りの生意気なものだった。その事に安心する。
「・・・なんなんスか、英二先輩?」
「え? 何って・・・その、え〜っと・・・・・・」
「・・・・・・。もういいっス」
先程の繰り返しにリョーマがため息をついた。
「さっさと行かないと、もっと寒くなりそうっスね」
ジャージのファスナーを上まで上げてリョーマが呟く。手に持ったままだった帽子を被ろうとして―――
「おチビ!」
「何スか―――」
訊こうとしたリョーマの言葉が、英二の口の中に消える。
一瞬だけ触れた唇は、まるでさっきの雪のように気が付いた時にはもうなくなっていた。
「あ、あのさ・・・・・・!!」
それでもそれが幻ではなく現実のものであったと証明するものが2つ。1つは真っ赤になった英二の顔。
「い、今・・・おチビの唇に、雪・・・付いてた、か、ら・・・その・・・・・・」
苦しい言い訳に苦笑するリョーマ。
「英二先輩―――」
呼びかけるが、下を向いてしまった英二は気付かないだろう―――自分が呼びかけつつ近寄っている事など。
俯いた英二を下から覗きこむように顔を近づけ、ニヤリと笑う。
「それじゃすぐに溶けちゃうでしょ?」
「〜〜〜〜〜〜//////!!!」
相手の反応を無視するのはいつもの事。リョーマは英二が更に赤くなって何か言うよりも早く、今度は逆にその言葉を飲み込んだ。
これが2つ目。唇に残った感触は間違いなく今のものと同じ。
「・・・・・・・・・・・・!!!!! お、おおおおおおチビぃ!!!???」
唇が離れるなり、ずざざざざっ!! っと後ずさる英二にリョーマの追い討ちがかかる。
「イチイチ理由がなきゃキスもできないんスか? まだまだっスね、英二先輩も」
「え? え? うええええええ!!?
おチビ、それってつまり・・・・・・!!!」
「さ、これ以上遅くなったら手塚先輩と不二先輩に怒られるっスよ。さっさと行きましょう」
「おチビ、待って〜〜〜!!!」
先程以上のスピードで歩き出すリョーマにそれを必死で追う英二。そんな2人に雪は優しく降り注いでいた・・・・・・。
―――Fin
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王子お誕生日記念小説その2にして実は単独で書くのは始めての菊リョ。しかし私が書くとなんでこうも攻キャラが情けなくなるのでしょう・・・。これと割と似たノリの不二リョ話(特にリョーマのラスト近辺の台詞)も不二様けっこーへタレだったような・・・・・・。
まあそれはさておきリョーマ君、お誕生日おめでとうございます!!!
2002.12.24