7.嵐の後? それとも前?




  「「せーのっ!」」
 暫く後、そんな言葉とともに、開いた扉から『何か』が転がり出てきた。まるで真っ赤な絨毯を敷くように玄関から外までを赤く染めて、外で待機していた警察官らの前で止まる。
 『うわあああああ!!!!!』
 それの正体を察し、途端に割れる人垣。その中心で、真っ赤に染まったそれは細い指先を僅かに上げ、かくかくと歯を鳴らした。とりあえず生きてはいるらしい。今の動きがなければ誰が見ても死体だったが。
 全員の怯えた眼差しが、ゆっくり玄関に向かっていく。そこから出てきた『死体寸前』。次は何が出てくるのか。
 その全員の視線の先で、
 「は〜、外だ〜v」
 「う〜ん。なんか久し振りみたいだね」
 そんな会話をしながら少年2人がう〜んと伸びをしていた。
 そして、真っ赤に血塗られた玄関から門への道を、何もないかのように歩く。
 全員の思考がパニック状態に陥った。果たして現実は血まみれの死体寸前なのか、それとも普通の少年2人なのか。
 「あ! おチビ!」
 「越前君!」
 「また先輩たちだけ楽しい事してたんスか?」
 空いた空間に進み出て、リョーマが2人を睨みつける。そんな彼に構わず、
 「おチビ〜〜〜!!! 無事だったか〜〜〜〜!!?」
 走りよってきた英二が思い切りリョーマを抱き締めた。
 「そりゃ無事でしょ。それより―――」
 「よかった〜〜vvv おチビ1人で帰っちゃうから心配したよ〜。車に轢かれたりとかしてないかにゃ〜って」
 「俺そこまでトロくありません。だから―――」
 「まあまあ英二。こんなところで立ち話もなんだから、とりあえず家の中戻らない?」
 「あ、そーそー。まだ時間あるしね。せっかく部活ない日なんだから思いっきり遊び貯めとかなきゃ。
  ―――行くぞ! おチビ!!」
 「俺の質問に答えてください・・・・・・」
 英二に引きずられ、家に戻るリョーマ。それを見送り、
 「裕太。ちょっと言うの遅くなっちゃったけど、お帰り」
 不二が弟にふんわりと微笑んだ。
 「あ、ああ・・・」
 「久し振りだね。帰ってきてくれるなんて思ってもみなかったよ」
 「ま・・・まあ家がこんだけの騒ぎになってちゃな・・・・・・」
 久し振りに見る不二の笑顔。それにつられたように裕太もはにかみ笑いを浮かべた。
 「すぐ・・・帰っちゃうの・・・?」
 「まあ・・・・・・、届出も出さずに出てきちまったからな・・・・・・」
 「少しくらい、家、寄ってかない・・・・・・?」
 心配そうに上目遣いで見上げる不二。そっと裕太の手を取り、胸元に持って行く。
 そんな兄の様子を見て、裕太が顔を真っ赤にした。
 目を逸らして―――ぼそぼそと呟く。
 「ま、まあもーこんな時間だし。今から寮戻っても門限越えちまってるしな・・・。一泊くらいなら・・・まあ見逃してもらえんじゃねーのかな・・・? みんな上手く言ってくれてるだろうし・・・・・・」
 遠まわしに一晩家に泊まると告げる。遠まわしに・・・自分に言い訳をして。
 「ホント!?」
 それを訊いて不二の目が見開き―――そして、極上の笑みを綻ばせた。
 裕太の手を取り、家に導く。
 「じゃあ早く早く!」
 「あ・・・ああ・・・・・・」
 いつになくはしゃぐ不二に引っ張られ、裕太も優しく微笑んで家に入っていった。
 「一件落着。良かったわねえ」
 「良くないわよ。お風呂汚されたわ」
 のほほんと微笑む淑子に、腕を組んで由美子が嫌そうな顔をした。
 「まあいいじゃない。周助もちゃんとお詫びはしてくれるみたいだし」
 「高いの頼もうかしら?」
 「それに裕太も帰ってきてくれたし。今夜は料理に腕を振るわなきゃ」
 「そうね! 周助もお友達連れて来てくれて、それに裕太も帰ってきてくれて、今日はいい日ねv」
 いきなりにこやかになる由美子に、淑子が首を傾げた。
 「あら由美子、そういえばあなたデートは?」
 「キャンセルキャンセル! こんなイベント前にしてデートなんてやってられないわよ」
 「ふふ。お父さんも帰ってきてくれたらいいのにねえ」
 「後で電話してみる? この話したらきっと心配して帰ってきてくれるわよ。
  ―――それに母さんが逢いたがってるって言ったらね!」
 肩から下げたバッグを弾ませ、長い髪をなびかせ由美子が小走りで玄関へと向かった。
 「まあ、由美子ったら」
 それを微笑みながら見送り、最後に淑子が玄関へと向かった。途中で血溜まりをぱしゃりと踏みつけるが、あら? と小首を傾げるだけだった。
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 無言の時が続く。警察官も、報道陣も。
 ごく稀に、犯人がごふ・・・とむせかえる音を除いては、誰も何も言えなかった。
 「・・・・・・何だったんだ、一体・・・・・・・・・・・・?」
 由美子に盗聴器を借りた警察官の呟き。
 それが、この場に残された全員の心情だった・・・・・・。






End








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さ〜てようやく終わりました不条理ワールド。うわ〜。全員おかしいよ(失礼)。ヤンキー菊ちゃん腹黒不二様、王子なリョーマに変態不二家、賭け好き一家菊丸家、そしてオモチャの裕太にオマケの犯人。ひたすらだらだらやりました。関係なさげな話のオンパレード。気が付くと一家総出でおかしな事になってます御三家(いやリョーマの家は父親だけだけど)。
ふ〜。言いたい事は全て文にしました。おかげで無意味に長すぎですが。
・・・しかしヤン菊。大失敗ですね。そしてメイツ→リョーマというより完璧ユタ不二になってましたね。裕太までそれっぽいし。
ではまとまりないまま終わりにします(書き逃げ)。

2002.9.162003.3.28(実質書いたのは10日弱(笑))