Safety Security 〜これさえあれば大丈夫?〜






 夏休みに入ったばかりのとある平日。この日、青学では顧問の竜崎の都合で部活はなく、ルドルフスクール生もテニスコートの整備のため休みとなった。
 と、いうわけで。


 「「
Wデートしよ〜〜〜〜〜〜〜vvvvv」」


 誰の意見かはあえて言わないが、予想通りの2名の提案(というか既に決定事項)により、英二とリョーマ・不二と裕太は
Wデートを行なう事になった。





♪     ♪     ♪     ♪     ♪






 「に゙ゃ・・・・・・!!!!」
 これから不二の家に行って4人でテニスをしよう、という事になり、その前にスーパーで食材を購入したいと言い出した英二に倣ってスーパーにきた4人。そのレジにて。
 財布を開いたまま硬直する英二。行きに持ってきた家族共用の財布、その札入れ部分には―――お札が1枚も入っていなかった。
 代わりに、

 英二、お姉ちゃん昨日お金卸してくんの忘れちゃったv 卸しておいてね。     優しい姉より


 メモをぐしゃりと潰して放心する。目の前にはカゴに山と詰まれた食料品。さらに前では不信気な顔をする店員。
 徐々に顔が青褪めていく。お金は今日のデートで既にすっからかん。おチビに喜んでもらおうと、節約していた分を一気に使い果たしてしまった。
 ギギギ・・・と音が鳴りそうな勢いで首を動かし、先にレジの外に出ていた3人を見やる。泣きそうなその目から事情を察してくれたらしく―――リョーマと裕太が首と手をぶんぶんと左右に振った。
 蒼白を通り越して真っ白になる英二の顔。その肩を、誰かがぽんと叩いた。
 「仕方ないなあ。暫くなら貸してあげるよ」
 「不二〜〜〜〜〜〜〜vvvvv」
 苦笑して店員にお金を渡す不二。
 「ありがと〜〜〜〜〜〜〜〜〜vvvvvvv」
 「わかったから、外出ようね。つかえてるよ」
 感極まって抱きつく英二をよしよしとあやして外へ促した。
 こうして、4人は本日最大の危機を乗り切ったのであった。



―――Fin










 ―――と終わらせるとなんだか訳がわからないので、もう少し続ける事にする。





 さてその後不二にお金を返し、さらにこれからの菊丸家の生活費確保のため銀行による事になった4人。込み合う機械に英二1人が並び、その他3人は脇でのんびり待つ事にした。
 ジリリリリリリ―――!!!
 じゃきじゃきじゃき!!!
 「動くなあ!! これよりここの銀行は俺達が占拠したぁ!!!」
 警報[サイレン]と共に、拳銃を持った
10人の男達がそう騒ぎ出したのは、ちょうど英二がお金を卸し終わった時の事だった。





♪     ♪     ♪     ♪     ♪






 銀行の対応は極めて迅速だった。警報と共にシャッターが閉まり、直接警察署へ通報されるらしく、パトカーのサイレンがここに近寄ってくるのも早かった。
 が、それが逆に仇になることもある。
 逃げ場を失った犯人が、なし崩しに銀行内に立てこもったのだ。給料日直後という事で込み合う銀行内には、『人質』はたくさんいた。
 そんなワケで、現在客及び銀行員ら全員が人質になっていた。





♪     ♪     ♪     ♪     ♪






 「せ〜っかくのおチビとのデートだったのに、おチビってば不二とか裕太とかとばっか話しやがって・・・・・・!!!」
 目の前の光景に、英二がどこぞの中学2年のごとくぼやく。彼にとってはそう見えるようだが、これは当り前である。『その場』で座ってじっとしてろ、と命令され、当然の事ながら英二は1人機械の前、そしてリョーマは不二兄弟と共に壁際に座っていたのだから。
 警察に追い詰められて強盗犯らが、この状況におおむねの人質が、そして焼きもちで英二がぴりぴりする中、
 「ふえ・・・え・・・・・・」
 「こ、こら・・・・・・」
 英二の右隣にいた5歳くらいの少年が、この雰囲気に耐えられなくなったらしく肩を震わせ始める。母親(だと思う)が必死に止めようとするが、そんな彼女の焦りも伝わってか、少年は限界にさらに近まった。
 ギロリ、と視線を、そして銃口をその親子へ向ける強盗犯ら。
 「うるせーぞガキ!」
 「アンタもさっさと黙らせろ!!」
 「ひ・・・・・・!!」
 その怒鳴り声に怯えた母親が少年をぎゅっと抱き締めた。
 「ほ、ほら何やってんのよ・・・!! 早く泣き止みなさい・・・!! おじさんたち怒ってるでしょ・・・・・・!?」
 「ふえ・・・・・・!!」
 少年の肩を掴み、がくがく前後に振って言い聞かせる母親。だがもちろんそれで少年が落ち着くわけもなく。
 ますます泣き顔になる少年に、先に母親が限界を迎えた。
 「あんたをそんな聞き分けのない子に育てた覚えはないわよ!! さっさと泣き止みなさい!!!」
 メチャクチャな事をヒステリックに叫びだす。その声が引き金となり、強盗犯らもまた緊張の糸が切れた。
 「ガキがあ!! 舐めんのもいい加減にしやがれ!!!」
 並ぶ列を作り出すポールを蹴倒し、犯人の1人が少年の下へ近寄っていった。その手には拳銃。銃口は少年の頭をしっかりと捕らえていた。
 周りの人質らが息を呑み、顔を手で覆う。これから起こる惨劇を見ないように、耳を塞ぎ目を閉じた。
 母親も、少年を放り出して床にうずくまった。目を見開いた少年だけが残される。
 「う・・・あ・・・・・・」
 少年は自分に向けられた拳銃を見て、気圧されるように小さく後ろに下がった。その正体ならわかる。アニメや戦隊ヒーローものでおなじみのアレだ。それらに比べると地味な感じもしたが、それでもそれが必殺の武器だという事はよくわかった。
 もう1歩下がろうとし、機械に阻まれる。もう下がれない。
 機械を伝って、左―――母親とは逆の方向に動こうとする。そっちは何もなかった
 1歩かに歩きしたところで―――
 「くたばれガキがぁ!!」
 「うわあああああ!!!」
 少年の目の前にたどり着いた男が、引き金を握る指に力を込めた。少年の断末魔の叫びに、他の人質らがびくりとし―――
 轟音が響いた。
 「え・・・・・・?」
 そして―――涙と鼻水に濡れた少年の、間の抜けた声もまた。
 引き金を引く寸前、何かに髪の毛を引っ張られた犯人の体は右に傾いていた。自然、銃口も移動し、少年の左側にあった機械に小さな穴が空く。
 犯人の隣に立ち、頭を引っ張った英二が、自分の方に倒れてきた犯人の右脇腹を膝蹴りする。
 「ぐはっ・・・!!」
 脇腹を押さえて呻く犯人。前のめりになろうとする犯人の頭を掴んだまま、さらに強制的に後ろへ倒した。
 「ぐ・・・!?」
 首をのけぞらせ、息が詰まった犯人から手を離し、英二は両手を組んで高く上げ、
 「ほいっ」
 ごずっ!!
 軽い掛け声とともに犯人の顔面に振り下ろす。
 顔面からおびただしい量の血と体液を流し、悶絶もせず意識を失う犯人をさらに踏みつけ、ぐりぐりとかかとを食い込ませながら英二は彼を冷たく見下ろした。
 何の感慨も篭っていない声色で、呟く。
 「バカかてめえは。大声で脅しゃ泣くに決まってんだろ? それともてめーは銃口突きつけられて笑えるってのか?」
 それだけ言って、呆気に取られる一同の中、英二はくるりと後ろを振り向いた。
 やはり呆気に取られて大口を開けたままの少年ににっこりと笑いかけ、その目の前でしゃがみ込む。
 ぐりぐりと頭をなで、
 「よ〜しよし。よく泣かなかったな。偉いぞ、お前」
 「お兄ちゃん・・・・・・正義の味方・・・・・・?」
 「ん? 俺が?
  ん〜・・・・・・。
  ・・・・・・ま、お前が思ってんならそうなんじゃにゃい?」
 少年の質問に目を泳がせて悩み―――結局英二は親指から中指までの3本を立てて、ぶい〜v と笑った。自分は全くそんなつもりはなかったが。
 ただムカついただけだ。子どもを脅す犯人も、子どもを見捨てる母親も、そして何もしようとしない回りの人間も。
 「てめー! ざけんじゃねえ!!」
 頭の悪そうな犯人の1人が、頭の悪そうな脅し文句と共に今度は英二に向かって銃口を向けた。距離は
1.5m程度。まだ少々遠いが銃弾が当たるには十分に近場だ。
 それに応戦しようと英二が立ち上がりかけ―――
 その後ろに見えたものに顔を引きつらせ、少年を自分の方に抱き寄せた。
 「ぐがっ!!」
 後ろから飛んできた『何か』が頭を直撃し、犯人がたたらを踏んで1歩前に踏み出す。弾みで引いた引き金。弾は、一瞬前まで少年の頭のあった位置、そして今では少年を抱き込んだ英二の右手甲を掠め、やはり後ろの機械に突き刺さった。
 「何・・・!?」
 振り向きかけた犯人の目の前に、小さな膝が迫る。『何か』が飛ぶと同時にダッシュしたリョーマが、まだ倒れていないポールに手をかけ、飛び上がりざま犯人の顔面に膝をめり込ませた。
 「が・・・!?」
 のけぞる犯人。飛び上がったままのリョーマが空中で方向転換しながら器用にポールを倒し、足場を確保する。
 「てめえ・・・!!」
 やはり不安定な姿勢からの一撃では気絶には至らさせられなかったようで、立ち直った犯人が、英二のすぐそばに着地したリョーマに銃口を向けようとした。が、
 リョーマの方が早かった。
 低い姿勢のまま着地すると、リョーマは先程英二の倒した男の手から銃を奪い取り、ハンマーを起こして迫ろうとしていた犯人の眉間にぴたりと照準を合わせていた。
 しゃがんだまま左足を上げ、迫ろうとした犯人の胸に当て動きを止めた状態で、リョーマが両腕をぴんと張る。
 不安定な姿勢を英二の背中にもたれる事で支え、呟く。
 「あんたたち銃の使い方ヘタすぎ。何だったら俺が教えてあげようか?」
 「な・・・?」
 わけがわからない犯人の額からゆっくり銃口をずらし、こめかみのあたりで引き金を引く。
 「―――!!」
 頭を掠める銃弾。その衝撃に三半規管をやられ、犯人の意識が飛んだ。つま先で少し押しやり、その体を後ろに倒す。
 「まだまだだね」
 いつもの台詞と共に、銃と足を下ろすリョーマ。その小さな体が―――いきなり後ろから拘束された。
 普段なら焦るところだろう。だが、その『犯人』を知っていれば話は別だ。
 「おチビ〜〜〜vvv」
 「ぐ・・・・・・」
 どうやったのかもたれられたまま反転した英二に後ろから抱き寄せられ、リョーマの息が詰まる。
 それは気にせず―――ついでに先程自分で助けた少年もほっぽりだして―――にゃ〜〜〜vvv と感激しながら英二が騒いだ。
 「ありがと〜〜〜vvv おチビ俺の事守ってくれんだね〜〜〜〜vvv」
 「げほ・・・・・・。
  助けるつもりなんてありません。自分の身ぐらい自分で守って下さい」
 抱かれ、頬ずりされながらもリョーマは冷静なものだった。
 立て続けに2人を倒され、犯人たちの怒りが一気にピークに達した。
 「このガキどもお!!!」
 「逆らおうってのか!!?」
 8人の内、半分が英二とリョーマを、そして残りの半分が、先程何か―――テニスボールを打ち出した不二を攻撃対象とした。
 今までの騒動で英二とリョーマのまわりはほとんど人が居なくなっていた。そこへ銃口を向ける4人。
 たたん! たん!
 軽い発泡音と共に、全弾が機械か床に着弾する。その時点で2人は既にその場を飛び退いていた。
 英二は少年を抱きかかえたまま犯人から見て左、母親のいる方へ。リョーマは銃を片手に右へ。
 左に飛んだ英二は少年を今だうずくまる母親に無理矢理預け、そしてリョーマは受け身を取って転がりながら、残り4発となった銃を床に滑らせた。
 「不二先輩!」





 一方、犯人らに迫られた不二兄弟サイド。こちらは逆に人が密集していたため、さすがに飛び道具を使おうとは犯人達も思わなかったようだ。
 慌てて離れようとする他の人々。柔和な物腰の不二に油断したか、先頭で突っ込んできた男が何も警戒せず彼の胸元を掴もうとする。
 実際不二は何もしなかった。する必要はなかった。
 犯人の手が、不二の元へ届く前に逆につかまれる。後ろ手に極められ、その痛みで膝が折れた。
 前のめりに倒れる男。その後頭部に手を乗せ地面にぶつけた裕太が、低い姿勢のまま反転して2人目のみぞおちを左手で殴った。
 「ぐほっ・・・!!」
 倒れる2人目の首に肘を叩き込み気絶させ、裕太もまたその手から銃を奪った。
 「兄貴!!」
 奪って、後ろに放り投げると自分は攻撃を止め、その場にしゃがみ込んだ。
 これで立っているのは犯人6人と―――不二。
 リョーマが床を滑らせた銃を足で踏んで止めるのと、
 裕太が後ろも見ずに投げた銃を受け止めるのは同時だった。
 不二が投げられた銃を構え、6発一気に打ち込んだ。立ったままの犯人それぞれを掠め、壁や機械に適当な穴を穿つ。
 犯人らとは比べものにならないほどの射撃の腕。それを察したのだろう。犯人らが硬直する。
 にっこりと微笑んだまま、不二は役に立たなくなった銃を捨て、足元からもう一丁の方を拾い上げた。ハンマーを上げ、いつでも撃てる状態にして―――しかし特にどこにも撃たずに、ゆっくりと右から左に動かした。
 笑みのまま、告げる。
 「犯人・人質問わず死にたくないのなら一切動かないで下さい。この銃、量産品の上ロクな整備もされていないため、どこに弾が飛ぶかわかりません」
 顔と言葉がかみ合わない。銃に脅されというよりその異様さに呑まれ、全員がそれに従った。
 そんな中、動かないままリョーマが言った。感嘆して、
 「その割に良く当たりましたね」
 「てか兄貴拳銃使うの初めてだろ? それでなんでそんなにうめーんだよ?」
 実のところ不二は猟銃のライセンスを持っている。リョーマや英二は話でそれを聞いただけだが(ついでに実物を見せてももらったが)、裕太は何度かその練習に付き合い、兄の腕は知っていた。同じくライセンスを持つ姉の由美子も「上手いわよ。周助が的外したところ私見た事ないもの」と珍しく絶賛したところからすると、間違いなく上手ではあるのだろう。
 が、同じ銃でも猟銃と拳銃では大違いだろうに。そう思って裕太も尋ねたのだが・・・。
 「まあ基本はライフルとそうそう変わらないから。それに森で野生の獣撃つのに比べれば人間撃つ方が遥かに簡単だしね」
 その質問に、笑みのまま不二が解説する。視線が裕太に逸れた。
 「この―――!!!」
 その一瞬を狙って。
 犯人の1人が不二に銃口を向けた。
 響く発泡音。
 「が・・・!!」
 腕を伸ばして銃を構えた犯人、その右肩を不二の撃った弾がえぐった。
 「があああああ!!!」
 肩を押さえて転がる犯人を無視して、リョーマは不二に忠告した。
 「ああ、先輩、言いそびれましたけどその銃、照準した場所より少し右に弾が飛びますんで、狙う時は左の方向けた方がいいっスよ」
 「ああ、そうなんだ。どうりで」
 細く煙をたなびかせる銃口を見て、不二が首を傾げる。一応犯人の銃を狙ったつもりなのだが、なんで外れたのかと思ったら。
 ―――それ以前に照準していなかったような気もしたが、特に誰もそこには突っ込まなかった。
 「―――って不二!!!」
 代わりに、英二が立ち上がり―――
 タン!
 リョーマの指摘どおり銃口から左に身をよじった。その右側を、今度は正確に貫く。どうやら1発で完全にマスターしたらしい。
 「・・・・・・お前今のわざとだろ」
 「ちゃんと言ったじゃない。『動くな』って」
 半眼で問う英二に、一片の曇りもない笑顔で不二が答えた。
 「じゃなくって!
  てめーさっき俺に銃当たんのわかっててボール打っただろ!?」
 間接的ながら、先程の不二の一撃が元で怪我した右手を見せつける。赤く引っかかれた程度のものだが、少々ずれていれば指を1・2本無くすところだった。
 「やだなあ。なんでわざわざ?」
 くすりと笑う不二をその右手で指差す。
 「次のランキング戦! その前に俺の事怪我させてレギュラーから落とすつもりだろ!!」
 1週間後に行なわれるランキング戦。特に3年にとっては重要な意味を持っていた。ラストであり―――そして同時に全国大会でのレギュラー決めとなるそれなら、なんとしてでもレギュラーになりたいだろう。が、
 そんな英二を見て、不二が僅かに瞳を開いた。
 「それで英二に妨害? そんな意味のないことする訳ないじゃない」
 「なにぃぃぃぃぃ!!!!!???」
 そんな事しなくても実力で簡単に蹴落とせるんだから―――暗にどころかあからさまにそう言われ、英二が肩を震わせる。
 「それに―――」
 その笑みのまま不二が視線と銃口の向きを変えた。英二の左側―――リョーマに向かって。
 「もしも本当にそうするのなら、僕は迷わず越前君を狙うよ」
 手塚が治療のため休部中である以上、現在青学男子テニス部で(仮)
No.1の座を競っているのは不二とリョーマである。確かにここでリョーマを潰しておけば、不二のレギュラー入りはほぼ確定となるだろう。
 「おい兄貴!!」
 ただならぬ雰囲気に、さすがに裕太が制止をかけようとする。だが、
 「ふ〜ん。じゃあやってみたら?」
 リョーマがそう言い、ゆっくりと立ち上がった。開けた場所に出て、不二が狙いやすいように両腕を軽く開いて。
 「狙うのは、左手? 脚? 目? それとも、頭?
  どこでもいいっスよ。できるなら
 「「できるなら・・・?」」
 殊更ゆっくりと紡がれた一言に、裕太と英二が訊き返した。
 それを黙殺し、不二はリョーマの眉間に狙いをつけ―――
 ―――ハンマーを戻し、引き金部分を中心に銃を
90度手の中で回した。銃口が床を向く。
 いつも通りの笑みで、不二が肩を竦めた。
 「止めておくよ。君は実力で負かしたいからね」
 「そっちの方が無理なんじゃないっスか?」
 「さあ? どうだろう?」
 リョーマの嫌味に笑い―――まだ突っ立ったままの犯人のうち、4人から最も遠い2人を狙って撃った。
 手品のように一瞬で持ち直された銃。その弾丸が、2人のこめかみを掠める。
 先程リョーマが撃った犯人同様、ばたりと倒れる2人。その頃にはリョーマ・英二・裕太も行動を起こしていた。
 開けた場所に出て、同時に、自然に犯人の1人に近寄っていたリョーマが、すれ違いざま膝の裏をかかとで蹴り、倒れる犯人に合わせて自分も膝を立てて倒れこんだ。
 「ぐがっ!!」
 みぞおちにリョーマの全体重を受け、一度そこを支点に弓なりに起き上がってから、完全に気絶する犯人。
 英二もまた先刻のアクションにより犯人とは1
m程度の距離となっていた。右側に立っていた犯人に向け、右足を軸に半回転する。
 「ごっ・・・!!」
 左足でのハイキック。つま先が見事犯人のこめかみにあたり、もんどりうって倒れ込む。
 ラストに裕太。真後ろにいた犯人の鼻柱に、後ろ向きのまま裏拳を放ち、不意をついたところで全体重をかけた肘をみぞおちに当てる。
 「ぶほ・・・・・・」
 鼻血が喉に詰まったかそれとも内臓のどこかを傷つけたか、咳込み真っ赤な液体を垂れ流す犯人から肘をどけ、裕太が起き上がった。
 「まあ・・・・・・一応これで終わりか・・・」
 「意外とあっけなかったね」
 「もうちょっと粘ってくれないと」
 「せっかくいい機会だったのに」
 「・・・・・・・・・・・・」
 真顔で、本気で残念そうにそんな事を言ってくる3人からは視線を逸らす。
 「んじゃ次は―――証拠隠滅?」
 「菊丸さん・・・、それやるとむしろ俺達が犯罪者です」
 「けどさあ、銀行のものけっこー壊しちまったじゃん。弁償しろ! とか言われたらどーする?」
 「そうだねえ。ちょっと違うけど、この間銀行の
ATMが1億するってニュースで言ってたし。代金請求されると困るよね」
 「別に俺達がやったわけじゃないし。いいんじゃないっスか? そこらへんに倒れてんのが弁償するでしょ」
 「ああにゃるほど」
 「まあそっちはそれでいいんだけどね。けど後で警察に呼び出されたりとかしたら面倒じゃない。最悪『過剰防衛だ』とか文句言われるかもしれないし」
 「そういや兄貴が一番問題なんじゃね―のか? ばんばん銃撃ちまくって。しかも菊丸さんまで狙ったし」
 「銃に関してなら越前君も撃ったしね」
 「そういや日本じゃ違反でしたっけ?」
 「違法だね。ちなみに僕も登録したもの以外を使ったから同じく違法。けどね―――」
 不二が一端言葉を切って苦笑した。
 「証拠隠滅は難しいよ。指紋消すくらいならできるだろうけど、防犯カメラのテープは警備室だろうし、それに何よりここにいる全員が証人だからね。本当に消すつもりなら全員殺さないと。その上外は既に警察に囲まれてるから。その包囲網を抜け出すのも難しいしね」
 完璧犯罪者の台詞を吐くが、それを咎めるものはどこにもいなかった。
 「つまり諦めろって事?」
 「少なくとも今日この後のデートは諦めるべきだね」
 「ぶ〜! せ〜っかくのデートだったのに〜〜〜!!!」
 「―――ってデートだったんスか、今日!!?」
 「兄貴!! 4人で遊びに行くだけってしっかり言っただろ!!?」
 「うげ・・・。バレた・・・・・・」
 「やだなあ裕太v ちゃんと4人で遊びに来たじゃない。間違った事は言ってないよvv」
 「『遊びに行く』のと『デート』じゃ全然違うだろーが!!」
 「どっちっスか企画したの!!!?」
 詰め寄るリョーマと裕太。たじろぐ英二。そして飄々とした不二。
 4人のこの言い合いは、中で連発される銃声を聞き、一気に突入してきた警察官らの前で延々と繰り広げられ続けた。
 ラストに、やはり不二の予言通り、その後のデートはお流れになったことを記しておく。



―――(今度こそ)Fin
















♪     ♪     ♪     ♪     ♪     ♪     ♪     ♪     ♪

 さりげな〜く『加害者より〜』から続いてます。しかしその話、メイツ→リョーマのはずがユタ不二ちっくに見えてたまらない、という事で、開き直って菊リョ&ユタ不二にしました。しかし今度は不二リョに見えるような・・・・・・。なんか協力し合ったり敵対してみたり。一応菊リョ・ユタ不二・そしてメイツも協力し合ってますけどね。
 あ、そんなワケで今回ヤン菊第2弾。菊ちゃんって菊丸語とネコ語が抜けるとか〜な〜りガラの悪いしゃべり方してるような・・・。そして『加害者〜』を引きずった結果、メイツが妙に仲が悪く、そして良いです(どっちだよ)。まあ『悪友』と言う事で。
 では、なんとなく思いついてなんとなく書いた『銀行強盗テニス編』。これにておしまいとさせていただきます。

2003.3.29