『現場』にて






<某日のとある警察官の日記>

No

○月×日 快晴

 日本の安全神話は完全に崩壊したと言われる昨今。本日ついに俺の管轄内にて凶悪な事件が発生した。
 現金輸送車の襲撃。しかも犯人グループは全員が散弾銃で武装していた。全く、そんなものどっから手に入れてるんだ!
 ―――と、話がずれた。それに対する怒りはまた後にしておくとして、輸送車の運転手らも警戒はしていたようだ。襲われはしたが、最初の段階で警察へ通報し、我々が駆けつける騒ぎに乗じて逃げる事に成功。おかげで彼らには一切怪我などはなかった。
 だが同時に犯人グループの行動も素早かった。警察が駆けつけた途端車で逃走。付近をパトロール中だったパトカーらにも応援を要請し、どうにか追い詰めたはいいが―――なんと車で近くにあった公園に突っ込んでいった。ポールを蹴倒し、ぼこぼこの地面を疾走し。朝だったためそうそう人はいなかったが、もし子どもなどいたら確実に轢いていたであろう。
 そして、逃げられないと悟ると車を乗り捨て、たまたまいた女性を人質に取り、車を盾に立てこもりやがった。前は車、後ろは噴水。悔しいがなかなかにいいポイントを選んだと言わざるを得ない。これでは狙撃の仕様もないし一気に踏み込むことも出来ない。
 だが―――
 今回の事件はここから実に面白い―――こう書くとマズイか。実に意外な方向に飛ぶ。勤続
25年の俺からしても変わったとしか言いようがないが・・・。とにかく誰もが長期戦を覚悟したこの事件、なんと1時間ちょっとで終わってしまった。
 それも―――4人の小学生から高校生くらいの少年の乱入によって。
 まずはその1人目だ。






  
Act1.取引

 この日の朝、英二はごきげんで鼻歌などを歌いながら自前のマウンテンバイクを漕いでいた。
 (おっチビっとデ〜トv おっチビっとデ〜トv)
 事の起こりは数日前の不二との話。久し振りに弟が帰って来るらしい。笑顔で花を撒き散らしてそう言う不二に「じゃあまた
Wデートしにゃい?」と持ちかけたところ、2つ返事でOKが出た。『デート』と言えば愛しのおチビは嫌がるだろうが(もちろん恥ずかしがって。シャイだから。おチビはv)、『先輩命令』と不二が言えば絶対聞くだろう。まあ言い聞かせるのが自分ではなく不二であるのが少しムカつくが、おチビが聞いてくれるのなら安いものだ。
 待ち合わせ場所は丘の上の公園。緩い坂道を登った先に丁度見下ろせる。
 一気にそこを駆け上がっていく。初夏の陽射しは眩しい。
 (う〜ん。よく晴れてるにゃ〜v)
 頂上で一端自転車を止め、英二は手を目元に翳し、空を見上げた。小さな雲はいくつかあるが、問答無用の快晴。絶好のデート日和!
 「よ〜っし!」
 気合を入れ、ペダルに足をかける。ハンドルの向きを調節。公園へ下りる階段に平衡になるようタイヤを向けた。
 一気にヒートアップする心臓。手から汗を感じ、ごくりと唾を飲んだ。
 「行くぞ!」
 気合一戦。ペダルに足をかけ、一気に階段に乗り出した。
 一瞬の浮遊感。強い衝撃と共にぐんぐん加速する。
 隙あらば暴走しようとするハンドル。だがバランス感覚では誰にも負けない。微妙な調整と、絶妙のバランスでなんなく下っていく。
 「ぃやっほ〜っ!!」
 英二はこのスリル感が好きだった。何度やってもたまらない。伸るか反るか、一瞬の勝負。
 がこん! という一際激しい音と共に、地面がコンクリートの階段から平らな土に変化する。
 「う〜ん。絶好調v」
 千石の真似などをして、舌を出してみたりする。と―――
 「おりょ?」
 前の方―――噴水付近にやたらと人がいる。朝にしては珍しい。しかもなんだか騒がしい。
 (ま、いっか)
 ベルを鳴らし、構わず英二はそこへと突っ込んでいった。
 ちりり〜ん!
 「ほいほ〜い! 危にゃいよ〜!!」
 噴水前の花壇のレンガに前輪を乗り上げ、そのまま一気にジャンプする。
 どがっ!
 『何か』に前輪が激突した。
 (・・・・・・・・・・・・?)
 空中で、見下ろす。その足元で、男が1人倒れかけていた。すぐそばにいた女が大口を開けてこちらを見上げている。
 (ま、いっか)
 先ほどと同じ言葉でけりをつけ、英二はそのまま無視して自転車を着地させた。注意はしたのだ。ベルも鳴らしたし、前もって声もかけた。避けない男が悪い(断言)。
 着地した後、タイヤを横滑りさせる。勢いのついた自転車は
10mほど地面に跡をつけた後、噴水近くの大きな石の手前―――ぴったり待ち合わせ場所で止まった。
 腕にはめた時計を見る。約束の1時間前。
 念のため周りを見回す。まだ誰も来ていない。
 自転車のスランドを出して安定させ、英二は座席から下りるなり両手を大きく上げた。指を1本ピシリと立てた。
 「お〜っし1番乗り〜〜〜〜〜!!!!!」
 なんだか縁起がいい。やはり千石のマネになるが、
 「今日はツイてる〜v 俺ってラッキ〜♪」
 1本指を
Vサインに変え、英二は空に向かって絶叫し続けた。






No.

 中学生〜高校生くらいだろうか。赤髪で頬にバンソウコウを貼った、大きな瞳が特徴なその少年は、マウンテンバイクを丁度人質を拘束していた犯人の頭に激突させた。
 おかげで犯人は気絶。人質も無事保護する事が出来た。だが犯人グループはその少年が警察の差し金だと疑い、逆上してしまった。
 公園で起こった銃撃戦。犯人らは車に隠れ撃ち、そして我々警察官は機動隊の持っていた盾を陰にし応戦した。初めて、ではないが、滅多にない事にさすがに緊張した。
 その最中に、今度は2人の少年が公園に現れた。






  
Act2.銃撃戦

 「あ、不二ー! 裕太ー!!」
 今までわくわくと飛んだり跳ねたり忙しかった英二が、向かいに知り合いを発見して大きく手を振った。自分が下りてきた階段の上に2人。視力には自信がある。そして彼らと自分の家が同じ方向にある以上、間違いなくその2人であろう。
 まだ声が聞こえる範囲ではない。だがその仕草から向こうはこちらに気付いているのだと判断し、とりあえず階段の上から不二も手を振り返した。さすがに声は出さなかったが。
 「兄貴?」
 「英二はさすがに早いね。あの様子だとかなり前に来てたんじゃないかな?」
 不二の言葉に、裕太も手を翳し目を細めてみた。待ち合わせ場所はここから割と遠い。しかもサイクリングロード付近で木が多く、夏に向けて全開に生い茂った葉の陰に隠れ、ちらちら動く赤髪がその隙間からかろうじて見える程度だ。目はいい方だが、言われなければ気付きもしなかっただろう。
 「相変わらず勘いいな」
 「そう? ありがとうv」
 目が悪い割にこういったものを見逃した事がない兄に、心からの賛辞を送る。
 「じゃあ、まあ行こうか」
 「ああ・・・・・・って、お?」
 階段を下りかけ、聞こえた何かの音に裕太が眉を潜めた。
 「どうしたの?」
 「いや・・・、今、何か、変な音が・・・・・・」
 「ああ、拳銃の発砲音だよ。あと、幾つか散弾銃も紛れてるみたいだね」
 「はあ!?」
 世間話のノリでさらりと言われた事に、さすがに大声が洩れる。
 「どうしたの?」
 「いや、どうしたってそりゃ・・・・・・」
 きょとんと尋ねて来る兄に何かを言いかけ―――結局裕太は何も言わずにため息だけをついた。
 「いや。別に」
 「そう? それより楽しみだね。今日のデートvv」
 「ああ・・・・・・」
 言わなくて正解だったようだ。この兄にとって銃声云々はデート以下の価値しかないらしい。
 (まあ、俺達に関係あるわけじゃないしな・・・)
 その裕太の判断は―――当然の事ながらあっさり裏切られた。



 「何でだ・・・・・・?」
 「何が?」
 「いや、この偶然に対してだけど。てかむしろ必然か? こうなってくると」
 「? ヘンな裕太」
 (おかしいのは兄貴[おまえ]だ・・・・・・)
 当たり前のように目の前で繰り広げられる銃撃戦。警察
vs男数名によるそれに、危機感とかそう言ったものの前にため息が洩れる。待ち合わせ場所はこの奥。迂回する手もあるが、逆からいくとかなり遠い。そして―――
 「不二〜! 裕太〜!!」
 「英二!」
 この頃には相手の姿もはっきり見えた。嬉しそうにぶんぶん手を振る英二に、不二もまた笑顔で手を振り―――そして何のためらいもなく軽く駆け寄っていった。
 銃撃戦の繰り広げられる、そのど真ん中を。
 『き、君! 危ない!!』
 スピーカー越しに警察官が言ってくる。さすがに民間人に危険が及ぶ可能性のある状況では彼らは手を止めざるを得ない。
 だが、犯人はもちろんその限りではない。
 「バカが! 人質にしてくれるわ!!」
 どこか時代劇かかったような気もする言い方で、男の1人が不二に向かって駆け寄ってきた。その手には先ほど不二本人が指摘した通り散弾銃が。
 「兄貴!」
 それにも気付かないかのようにぱたぱたと走る兄に、裕太が慌てて駆け寄ろうとする。が、明らかに男の方が早い。
 「兄貴!?」
 大声が出る。だがその声に何か効力がある訳はない。兄を止めることも。近寄る男守ることも。
 「―――!!!」
 男が不二に追いついた。最悪のシナリオを思い浮かべ、最早声も出せない裕太。
 男の持つ散弾銃が、不二の頭に触れる―――
 ―――かと思いきや。
 がしり。
 その前に、横向きのまま銃身を不二が握り締めた。今始めてそれに気付いたかのように、男を見やり、
 にっこり笑う。
 「撃つの? それは構わないけど
  ―――
それ相応の覚悟は出来てるよねえ? もちろん
 言っただけだ。脅してすらいない。だが、
 不二に銃を向け―――そして現在、その笑みを向けられている男は、がくがくと震え、不二に道を譲った。
 「ありがとうv」
 それにお礼を言って再び駆け足で待ち合わせ場所に向かう不二。裕太もそれについていった。
 通り過ぎざま、男を見やる。哀れなその男は、真っ青を通り越し蒼白の顔からぼたぼたと脂汗を流していた。
 「不二〜! 遅い〜!!」
 「ってまだ約束の
10分前じゃない」
 「俺なんか1時間前から待ってたんだぞ!?」
 「明らかに英二が早すぎるよ」
 「言い訳しな〜い!!」
 「はいはいごめんって。
  ―――裕太、どうしたの?」
 本日3度目の台詞に、
 「いや、別に」
 本日何度目かの答えを返し、呆気に取られる警官と不二の笑みを見て怯える男らからは背を向け、裕太は軽く肩を竦めた。よかった。今日の兄貴はおとなしい。






No

 やはり中学生〜高校生くらいだろうか、茶色の髪の少年2人。短く刈り込んだ、いかにもスポーツをしていそうな少年ががもう片方、こちらはいかにもどこかのお坊ちゃん風の物腰たおやかな少年を『兄貴』と呼んでいたところからすると、どうやら兄弟らしい。髪の色除きあまり似ていなかったが。
 ともあれその穏やかそうな少年が近寄ってきた男と対峙するや否や、今まで好戦的でこちらの話を一切聞かなかった犯人グループが、なぜかそいつ含め全員大人しくなった。こちらからは少年の後ろ姿しか見えなったが、何かしたのだろうか? 僅かに声らしきものは聞こえたのだが。
 まあともかくこれを見逃すテはない。この隙に一気に近寄って逮捕しようとした。だが―――
 ここでまた少年が公園に現れた。今度は小学生くらいの少年。深く帽子を被っていたためよくわからなかったが、身長からすると小学生か、せいぜい中学生だろう。どうやら先にいた3人と知り合いだったらしい。最初に自転車に乗ってきた少年が手を振り、駆け寄ってきた・・・・・・。






  Act3.逮捕劇

 「―――あ!」
 これからどうするかなどをのんびりと3人で話していたところで、石にもたれていた英二が声を上げた。
 「「?」」
 不思議がる兄弟。その前で、英二の顔が笑みに変わっていく。今までも笑みだったのだが、さらに嬉しそうに。
 その視線を追い、ゆっくりと2人で振り向く。その視線が英二のそれに追いつく―――よりも早く。
 「おチビ〜〜〜〜〜〜!!!!」
 叫んで、2人を押しのけ英二が走り出した。人混の向こうにちらちら見える小さな姿。被ったいつもの白いスポーツ帽からすると間違いはなさそうだ。
 (やっぱ今日ってラッキ〜♪)
 偶然自分は石にもたれて話していたため、最初に歩み寄ってくるリョーマの姿に気付けた。やはり愛しの恋人に最初に逢うのは自分でありたい。
 「―――あ」
 あくびをして、自然と上を向いたリョーマの瞳が駆け寄ってくる英二を捕らえる。遠くから駆け寄ってくる英二の姿。だが―――
 (よく見えない・・・・・・)
 目の前はヘンな人溜まり。背の低い自分を嘲うかのようなその障害物に、リョーマが形の良い眉をしかめさせた。
 そしてその状況は英二も同じく。が、リョーマと彼の違いはそれを気にするか否か。
 「おっチビ〜〜〜〜〜〜〜〜〜vvvvvvv」
 当然の如く気にしない派の英二は、やはり噴水を囲む形である花壇のレンガに足をかけ、一気に前に飛んだ。
 走りこんだ勢いを利用して、前方に高く大きく跳び上がり―――
 がすっ!
 途中にいた男の頭を踏み台に、さらに前に跳び、リョーマに抱きつきつつ着地した。
 「おっチビ〜〜〜vv おっはよ〜〜〜〜ん!!!!」
 「ぐっ・・・! ちょ・・・! 英二先輩、苦し・・・・・・!!」
 そんな抗議を無視して、英二はきつく抱き締め頬をすりすり、ひとしきりリョーマを堪能すると、ぐったりと疲れたリョーマを引きずって2人のいる場所へと駆け戻っていった。途中でまた邪魔な男を何人か跳ね飛ばしたが、障害物はなぎ倒すのが当然だ。
 「おはよう、越前君」
 「おう越前。・・・・・・何かやたら疲れてねーか?」
 「ども・・・・・・不二先輩。それにその弟」
 「・・・・・・今のはぜってーわざとだろ」
 「気のせいでしょ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 ひとしきり挨拶が終わったところで、英二が前を指差し明るく言い放った。
 「さぁ! じゃ〜全員揃ったところで
Let's Go!」
 ツルの一声。それに従い3人も動き出した。
 今まで来た道とは逆側へ。
 かろかろとマウンテンバイクを押して歩く英二に、リョーマが首を傾げた。
 「あれ? 英二先輩、自転車で来たんスか?」
 「う? う〜まあ、ね」
 「けど自転車いらないっスよね」
 「ま、ま〜・・・これから駐輪所に置きにいくし」
 「駐輪所・・・って、菊丸さんの家からだと公園入る前にあるんじゃないですか?」
 「それにむしろ乗ったままじゃ入りにくくなかったっスか? 先輩の来る方向だと、入り口階段でしょ?」
 裕太まで加わっての質問に、英二がてへv と笑顔で答える。
 その様子を見て、不二が僅かに目を開いて微笑んだ。
 「ふ〜ん・・・。
  ―――英二、またやったね?」
 「ゔ・・・・・・!」
 「『危ないからやらないように』。
  僕、そう何度も注意したと思ったけど?」
 「え・・・え〜っと・・・・・・」
 全てを確信した上での不二の笑みに、英二の目が泳いだ。
 その目が、不審気にこちらを見上げるリョーマとばっちり合う。
 「何、やったんスか? 英二先輩・・・・・・」
 殊更ゆっくり問うリョーマ。不二が知っていて恋人の自分が知らない。その目にはありありと嫉妬が浮かんでいた。
 (おチビ・・・・・・vvv)
 その事実に、英二が胸の内で感動し、
 「可愛い〜〜〜〜〜〜vvvvvv」
 あっさりそれを外に放出した。
 自転車を放り出してぎゅっとリョーマを抱き締める英二。その後ろでは不二が裕太に、こちらもあっさり説明していた。
 「英二ってば公園入り口の階段、いつも自転車で勢いつけて下りるんだよね」
 「それってめちゃくちゃ危なくねーか?」
 「だから注意してるんだけどさ。特に今なんて全国大会目前だし」
 「あ〜、いよいよラストだな〜。まあ、頑張れよ」
 「ありがとv 裕太は―――今年は無理だったけど、来年頑張ってねv 今度は僕が応援しに行くよvv」
 「止めてくれ・・・・・・」
 「え〜。どうして〜?」
 (だからそういう態度が困るんだよ・・・・・・)
 広いようで狭い中学テニス界。どこへ行こうと有名人のこの兄が、笑顔全開で応援などやっていた日にはひたすらに注目を浴びまくる。いやそれはいいのだが!
 (ンな事やったらよけー兄貴にヘンな虫がつく・・・・・・!!!)
 女の子の黄色い声なら可愛いものだ。ストーカー並に付きまとわれ、挙句襲われかけたことも回数にすれば両手に余るほど。もちろんこの兄に限ってただなすがままなどという事は絶対ないが、この兄が直接手を下すと相手の命すら保証されない。なので自分はこの最終兵器[リーサルウェポン]が発動される前にその露払い(むしろ救出)をしているのだが、おかげで気分はボディーガードというより救命隊員・・・・・・。
 そんなこんなで再び人込みを横切る4人。だが、なぜかいきなり人込みの1人が突っかかってきた。
 「てめーら! さっきから黙って通してりゃぁ!!」
 とりあえず一番小柄なリョーマの肩に手をかけ、引き寄せようとする。その判断はいいと思う。ただし、実状を知る者としては同時に最悪の判断だとも言えた。
 「俺のおチビに勝手に触ってんじゃねえ!!」
 どごっ!
 怒鳴り、英二が振り回した自転車に顔面を直撃され、かなり痛そうな音と共にその男が沈み込んだ。リョーマと男の身長差を考慮したいい手だ。それを理解したリョーマがむくれていたが。
 ともあれそれを追い、さらに何度も足蹴にする英二。完全に動かなくなったところで、それをつまらなさそうに見下ろし、呟く。
 「おチビに手ぇ出そうなんて
100万年どころか一生早えんだよ、ザコが」
 「テメ・・・!!」
 「この・・・・・・!!」
 その彼の態度に、車の陰にいた男達が一気に逆上した。
 「あ〜あ。今日はツイてるって思ってたのになあ」
 ぼきぼきと指を鳴らし、英二が言った。言葉とは裏腹に、その顔には獰猛な笑みが浮かんでいる。
 「とかいって、実は嬉しいでしょ?」
 微笑み、尋ねる不二に犬歯を見せてにっと笑う。そんな英二を、リョーマが後ろからくいくいと引っ張った。
 「先輩」
 「ん? にゃに? おチビ」
 「今日、『遊ぶ』んですよね?」
 じっと見上げるリョーマ。
 「ゔ・・・。もしかして『だから争い禁止』、とか?」
 振り向いて英二が情けない声を上げる。だが―――
 ふるふると首を振ってリョーマは否定した。
 「だったらもちろん俺も『遊んで』いいんスよね?」
 そう言い、にやりと笑うリョーマに、英二が握り拳を上げぐるぐると回した。
 「もちろんおっけー問題な〜し!! さ〜じゃんじゃんやっちまお〜!!」
 「うい〜っス」
 「―――じゃあ僕たちも加わろうか。せっかくの機会だし」
 「何の機会だ何の」
 「もちろん―――」
 「わかった。もういい。それ以上言わなくて」
 「―――ってまだ何も言ってないけど?」
 「どうせ『散弾銃撃つ機会』とか言うつもりだろ?」
 「すご〜い裕太! よくわかったね!!」
 「自分で訊いといてなんだけどな・・・。
  よくよく考えなくってもまあ兄貴の答えなんてこれっきゃねーよな・・・」
 「正に以心伝心だね。愛する2人にぴったりvv」
 「ぜってー違う!!」
 「まあ裕太v そんなに照れなくてもvv」
 「照れてねえ!!!」
 等々話し、向かってくる男達に対峙しながら―――
 (やっぱ結局こうなんのか・・・・・・)
 最初に銃声が聞こえた時点で覚悟していた事態に、裕太は深くため息をついた。このメンツ、何をどうやろうとトラブルを引き寄せるらしい。






No.

 結局その後犯人グループは少年4人によって倒され、逮捕前に全員病院送りとなった。酷い有様で虫の息だったため、このまま死ぬかとも思っていたが、少年4人は余程手馴れているのだろう。診断結果によると最長全治6ヶ月。後遺症もほとんど出なさそうだ。まあ暫くは絶対安静のため事情聴取も出来ないが。
 たとえ犯罪者であろうとその身柄を出来る限り保護する義務のある警察としては少年4人のしたことは非難すべきだ。が、俺個人として言わせてもらうならば犯人グループ以外に死傷者0。しかも早期解決。少年様たち様様、というわけだ。・・・・・・どうやらそう思ったのは俺だけじゃなかったようだが。
 この事件は警察史上永遠に―――とまでは行かないかもしれないが、少なくとも俺が務めている間この管轄では語り継がれるだろう。少年たちはそのまま姿を消してしまったため正体不明だが、既にその噂は警察署中を駆け巡っていた。
 しかし今になってふと思う。この事件、一体何を教訓とすべきなのか。民間人の協力の大切さについて感謝すべきなのか、一般の人も最低限の護身の術は身につけておくべきだとアピールするのに使うべきか、それとも―――少年犯罪の悪質さに嘆くべきか。相手が輸送車強盗犯でなければ(いや、そうであってもか)彼らの行った事は集団暴力だ。しかもあの手馴れた様子、どう見ても初犯(?)ではあるまい。



 今日はもう疲れた。この問題について考えるのは明日にしよう。では今日はこれで終わりにする。
 ・・・ああ、明日は非番だ。これを機に息子に護身術の1つでも教えておこうか。






  Act4.そして・・・

 「よ〜っし! じゃあ行くぞ〜!!」
 『お〜!!』
 ぴったり約束の時間、屍(に似たもの)たちの上で再び音頭を取る英二。それに従い、リョーマ・不二・裕太も掛け声を唱和させた。
 そして―――
 和気あいあいと去っていく4人。その後ろでは、ただわけのわからない警察らのみが取り残された・・・・・・。



―――Fin












♪     ♪     ♪     ♪     ♪

 本気で最近こういった話好きだなあ。というわけで、今回はちょっと方向を変えて、第3者視点で行ってみました。しかしこの話、実は英二と裕太しか活躍していないどころかロクに出てすらいない・・・・・・。むう。失敗か(不二&リョーマ好きのため断言)。
 えっとこの話、
BGMは紹介しました通り菊ちゃんのキャラソン『翼になって』の2番、サビまででどうぞ。自転車に乗ってたり1時間前についてたりするのはわざとですが、人混は偶然でした。警官&男達。うん。確かに人混だ(笑)。
 ちなみに・・・ヤンキー菊ちゃん、菊リョの場合唾は吐かないかと。ほら、唾に触れるのって普通はキスしたりする相手だけでしょ(歯医者とかは別にしますけどね)? 『俺の唾はおチビだけのものだからv』って感じで。

2003.4.12