「さ〜って青学についたぞ〜v 愛しのリョーマ君は〜・・・・・・って」
青学校門前にて、千石はにっこりと笑いながら後ろを振り向いた。
「なんで君たちまでここにいるのかな?」
「来たくているわけじゃないっス。俺達は南部長から千石さんの面倒を見るように負かされているだけっスから」
「千石先輩! 今は部活の最中です!! 戻ってください!!」
サングラスの鼻頭部分を指で直しながら呟く室町。千石の袖を引っ張り喚く太一。
「俺、確か1人でこっそり出てきたハズなんだけど・・・・・・?」
「千石先輩の行動なんて調査済みです!!」
「いや、そんなどっかのデータマンやらシナリオ好きやらっぽい台詞言われても・・・・・・」
「気にしないで下さい。千石さんがまたバカな行為をしないか見張るだけっスから」
「また? また・・・っていつしたんだよ?」
「自覚0だから俺達がいるんです。そんなワケで隠れてついていきますので気にしないで下さい。
―――行くぞ、太一」
「えええええええ!!? 千石先輩連れ戻すのはどうするんですかあ!!?」
「・・・・・・だからそれのどの辺りを『気にしないで』いられるのさ?」
室町が喚く太一の後ろ襟を掴んでずるずると引きずっていく。それを頬に一筋汗を流しつつ見送り―――
「―――ま、いっか♪」
千石は何もなかった事にして再び青学校舎に向き煽った。

 

 

 

 

Trial of・・・

 

 

 

試練1.不二周助

 

 その後室町と太一の姿は見えない。普通なら帰ったのかとでも思うところだが―――あの2人に関しては絶対にそれはありえない。言った事は守る真面目な性格だ(ただしそれの発揮のされ方に問題があるような気もしないでもなかったが)。どうやら本気でどこかに隠れてこちらを窺っているらしい。
 代わりと言ってはなんだが・・・・・・
 「あれ? 千石君」
 「お? さっそく不二君のお出迎えか〜v う〜ん。やっぱ今日はツイてるなあ♪」
 「?」
 わけがわからなかったようで向かいから歩いてきた不二が首を傾げてきょとんとした。
 「今日はどうしたの? その格好・・・部活抜け出してきたんじゃないの?」
 「スゴイね〜。正解! よくわかったね〜。やっぱ不二君はスゴイな〜」
 「なんでって・・・・・・」
 その格好見たら誰でもわかるんじゃないかな・・・・・・そう不二が思った通り、現在千石は山吹のジャージ姿だった。時間からしても普通は部活中だろう。現にそう尋ねる不二自身が部活中なのだから。
 「もしかして、誰かに用あるの?」
 「あ、そうそう。リョーマ君いるvvv?」
 「越前君・・・・・・?」
 笑顔全開の千石の言葉に、不二は暫し悩み込み・・・・・・
 「彼だったら今部活中だけど―――」
 「あ、ホント? ありがと、不二君v」
 テニスコートの方を指差しそう言う不二。その言葉を全て聞くまでもなく、千石はそちらへ向かって走り出そうとしていた。
 その足を、続けられた不二の言葉が止める。
 「ああ、けど今会うのは無理じゃないかな?」
 「え?」
 「越前君、今朝も朝練に遅刻して今走らさせられてる最中なんだ。今行っても相手にされないと思うよ」
 「そっか〜・・・・・・」
 呟き、一緒に長くため息をつく。なら今行っても仕方ないか。
 (さ〜ってじゃあどうしてよっかな・・・・・・)
 「―――ねえ」
 「ん?」
 「僕今個人メニューの最中なんだよね。けど出来れば相手が欲しいんだ。
  ―――練習、付き合ってもらえないかな?」
 「もっちろん!」
 不二の提案に千石は1も2もなく飛びついた。
 (不二君からの誘い・・・・・・。こ、これはもしかして脈あり・・・・・・!?)
 もちろん千石が1番好きなのはリョーマだ。だが、基本的に彼の頭には浮気と言う言葉は存在しない。つまるところ相手に対する貞操観念がない。しかも誘いをかけてくる相手はあの不二。かつて必至にアタックしてこっぴどく振られたという相手からの誘いなら、断るわけもないだろう。
 (俺ってやっぱラッキ〜vvv)
 「じゃあ、あっちでいいかな?」
 「いつでもどこでもおっけ〜♪」
 盛り上がる千石に不二はにっこりと微笑み返し・・・・・・

 

♪     ♪     ♪     ♪     ♪

 

 「―――さて、害虫駆除は終わった、と」
 練習中の『事故[アクシデント]』により、後頭部に白鯨をモロに受け倒れ伏す千石を見下ろし、不二はそう呟き、テニスコートへと踵を返した。

第1試練―――敗退

 
 

試練2.乾貞治

 

 「―――あ〜。大変なメに遭った〜・・・・・・」
 あれから程なくして、何とか目を覚ました千石。頭がかなりガンガンするが、幸いな事にそうそう大事には至らなかったようだ。
 「う〜ん不二君の白鯨か。あれはビックリしたな〜・・・・・・」
 気絶するまでの事を思い出し、恐らくそうであろう結論に達する。
 「ま、気を取り直して!
  ―――リョーマく―――!!」
 「おや? 君は確か・・・」
 持ち前の切り替えの早さであっさり立ち直り、大声をあげようと―――
 ―――したところで声がかかった。
 「あ、キミは確か乾君!」
 「そう言う君は千石君か。何をしているんだい?」
 「俺? 俺はもちろんリョーマ君に逢いにvvv」
 「ほう。越前か・・・・・・」
 笑顔全開の千石の言葉に、乾は暫し悩み込み・・・・・・
 「その様子だと山吹から直接来たのかい?」
 「え? そりゃもちろん・・・」
 「だったらさぞかし喉も渇いてるだろう。今日は特に暑いしね。
  ―――どうだい? 越前に会いに行く前にここで喉でも潤さないか?」
 そう言い、乾がどこからともなく取り出した水筒から、やはり以下略のコップへと青い液体を注いでいく。
 「青酢だ。ウチの部員たちも飲んでいる。体にはいい」
 「あ、いいの? ありがと〜♪」
 のどか沸いてたんだよね〜といいつつあっさり受け取る千石。乾が言った理由に加え、先ほど不二に付き合ってかなりハードな運動もした。
 青い液体については特に気にもせず、一気に飲み干し―――
 「ぐ・・・・・・・・・・・・!!!」
 当然の事ながら、千石はその場にて本日2度目の気絶を果たした。

 

♪     ♪     ♪     ♪     ♪

 

 それを見下ろし―――
 「やはり青酢の効果は絶大だな。あの不二を倒しただけある」
 呟き、乾はこれまたどこから出したのか愛用のノートに一通りこのデータを書き、そして去っていった。

第2試練―――敗退

 

試練3.菊丸英二

 

 「―――う〜ん、何だったんだ、アレは・・・・・・?」
 やはりあれから程なくして、何とか目を覚ました千石。今度は完全に理解出来ない現象だった。
 「ま、まあ気を取り直して!
  ―――リョーマく―――!!」
 「あれえ? お前って・・・」
 そしてまた持ち前の切り替えの早さであっさり立ち直り、大声をあげようと―――
 ―――したところでまたも声がかかった。
 「あ、キミは確か菊丸君!」
 「にゃ〜! ぴったしかんこん大当たり〜♪ んでもってそう言うお前は千石!」
 「こちらも正解! 俺だよ〜ん♪」
 やたらとハイテンションな会話を交わす2人。ノリはぴったり一緒らしい。
 「んで? にゃにしてんの? こんな所で。
  ―――さてはまた偵察だな!?」
 ずざざっと足を滑らせ大げさに声を張り上げる英二。刺してきた指先を指2本で摘んで、ついでに
Vサインを送りつつ千石が答えた。
 「はいブブ〜♪ 今回は外れ。
  俺はもちろんリョーマ君に逢いに来たんだよんvvv」
 「う? おチビに・・・・・・?」
 笑顔全開の千石の言葉に、英二は暫し悩み込み・・・・・・
 「あ、そーそー! おチビ!! 今おチビの家で飼ってるネコがウチの学校に迷い込んできちゃったらしくって!!」
 「え1? それってめちゃめちゃ大変じゃん!!」
 「そーそー! それで今みんなで探してるんだよね!!」
 その言葉を証明するかのように、現に今も2人のすぐそばをジャージ姿の男子が慌てて走っていっている。
 「じゃあ俺も手伝うよ!!」
 「ホント!?」
 「人手は多い方がいいでしょ? それにリョーマ君のためだしね」
 「ありがと〜千石v」
 「お安い御用v」
 笑顔で抱きついてくる英二に、千石は鼻の下を伸ばして答えたのだった。

 

♪     ♪     ♪     ♪     ♪

 

 走りさっていった千石を見送り―――
 にや〜っと笑って英二はすぐそばにあった茂みにしゃがみ込んだ。
 「おいで、カ〜ルピン♪」
 持っていた煮干をちらつかせて呼びかけると―――ほぁら、と独特の鳴き声を上げてカルピンが出てきた。千石が来たため急いで茂みに隠したのだが、どうやら一緒にばら撒いておいた煮干のおかげで会話の間も逃げずにいてくれたようだった。
 ポイントは100%完全なウソは付かないことだ。完璧すぎるそれは逆に不自然さを生む。
 「さ〜って、おチビに届けなきゃね〜vv おチビ喜ぶだろ〜な〜vv 抱きついてきたりして〜〜〜vvv」
 にゃ〜〜〜vvvv と千石に抱きついた時とは比べものにならない笑みを浮かべ、英二はカルピンを抱きかかえるとリョーマのいるであろうテニスコートへ向かった。

第3試練―――敗退

 

試練4.越前リョーマ・・・・・・?

 

 「―――な〜んかさっきから意図的な妨害に遭ってるような・・・・・・・・・・・・」
 やはりあれから程なくして、どこからともなく聞きつけた話―――カルピンが見つかったらしいという情報に、喜びつつも首を傾げる千石。
 「・・・まあ、それももう終わりみたいだし気を取り直して!」
 実際テニスコートはもう目と鼻の先である。練習に明け暮れるリョーマの姿もしっかり捉えられる。
 「お〜いリョーマく〜〜〜〜〜〜〜んvvvvvvvvv!!!!!!!」
 そこから大声で呼びかける。部員及び付近にいた全員の視線が千石と―――大声で呼びかけられたリョーマに集中した。
 いきなりの声に動きを止めるリョーマ。硬直する手から、ラケットが滑り落ちた。
 それを気にする事無くぶんぶんと手まで振って千石が叫び続ける。彼自身自覚しているのか否か―――恐らくているのであろうが―――妙やたらと存在感[インパクト]がある。張り合えるのは青学でも3−6メイツくらいだろう。
 その彼が、いきなり他校に出没して特定の生徒を名指しで呼んでいるのだ。しかも大声で。これが目立たないわけはない。
 (リンチか・・・?)
 (ありえるな。越前のことだ。いつどこで怒りを買っていたところで不思議はない・・・・・・)
 (けどそれにしちゃ千石さんの態度・・・・・・)
 (ありゃどっちかっつーとデートの待ち合わせだろ・・・・・・?)
 (デート!? ってことは越前、千石と付き合ってんのか・・・・・・!?)
 (そりゃ確かにちょっと人とは違うって感じだったけどな・・・・・・.あの生意気な態度といい先輩たちにやたらときにいられてるトコといい・・・・・・)
 (しかし千石さんか・・・・・・。さすがにこれは意外だったな〜・・・・・・)
 (いや、けど千石って可愛い子が好きなんだろ? 越前のヤツも黙って立ってりゃ一応可愛らしく見えるし・・・・・・)
 (口開きゃ終わりだけどな・・・・・・)
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
 なぜか電光石火の勢いで広がるヘンな話に、リョーマが拳を胸の高さにまで上げて震わせた。
 (なんであのウッサイ人と俺が付き合わなきゃなんないんだよ・・・・・・!!!)
 ただでさえ毎日付きまとわれてうんざりしているというのに、ここで周りにまで妙な誤解を受けたらどうなることか!?
 ―――もちろんリョーマは回りの事など気にも止めていない。が、
 今回はマズいのだ。ここで『自分と千石が付き合っている』などという既成事実でも造られた日には―――特にあの人に妙に絡んでくる今のレギュラーらにそんな誤解を受けた日には―――
 (マズい。人の迷惑とか全っ然考えない先輩たちのことだから、『応援』とかいって絶対ちょっかい出してくる!!)
 千石清純。確かに場の空気を一瞬で支配してしまった辺り、さすがクセ者だ。
 全く関係ないが、ついつい『敵』の戦術の巧みさにリョーマも心の中で梅いた。
 ・・・・・・ちなみにこのようなことを考えるリョーマ。当然の事ながら彼はその『人に妙に絡んでくる今のレギュラーたち』の気持ちは全然理解していなかった。
 (何とか・・・・・・対抗策・・・・・・)
 考えるリョーマがふと目を見開いた。笑みが零れそうになるのを何とか堪えて、
 仏頂面のまま、さらに仏頂面の人へと言った。
 「部長。部外者練習の邪魔するんスけど!」
 「部外者は出て行け」
 即答。
 まるでツーカー。阿吽の呼吸とはこうやるものだと例を示すが如く、リョーマの言葉を受けて手塚は千石をその厳しい眼光で睨んだ。部員たちが慄き、数歩後ずさる。それほど今の手塚は迫力があった。
 笑顔の千石と、仏頂面の手塚。
 向き合うこと数分。
 耐え切れずに倒れる部員が7人を越したところで―――
 「う〜ん仕方ないなあ。今日は帰ろうか」
 ((助かった・・・・・・))
 肩を竦め踵を返した千石に、部員全員の心の声が唱和する。
 こうして、リョーマ&千石デキてる説はうやむやのままに、その噂の元凶は去っていったのであった。
 「リョーマ君まったね〜〜〜vvv」
 『〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?』

第4試練―――敗退

 

試練5.・・・・・・

 

 「や〜っぱ手ぶらっていうのがまずかったかな〜〜〜。次はリョーマ君の好きなファンタでも持って行こうかな」
 まるでピントのハズれた心配―――と見せかけ実は物につられやすいリョーマにはこの上なく有効であろう作戦を立てつつ、青学校門から出てくる千石。
 それを見て―――
 「あ〜千石先輩! 何でもっと押さないんですか!! あと一歩だったのに〜〜〜!!!」
 「まああれは仕方ないだろ。しかし・・・厄介な相手を好きになったな、千石さんも」
 校門脇の木の枝にて、双眼鏡片手に喚く太一を押さえつけつつ室町は今日あった事を冷静に評価していた。
 実のところ気絶した千石に応急処置を施し気付けまでし、なおかつカルピンが見つかったと噂に流したのは他でもないこの2人である(正確には今現在同様文句を言う太一にため息をつきつつ室町が全て1人でこなしたのだが)。
 「いいえ! 千石先輩に根性がないのが原因です!! 千石先輩も亜久津先輩を見習ってもっと根性出せばいいんです!!!」
 「はいはい。わかった」
 「わかってないです室町先輩!! これじゃ僕達何のために部活休んでアフターケアまでしたと思ってんですか!!?」
 なおもいろいろ言ってくる太一を今度は完全に無視して、室町はジャージのポケットから携帯を取り出した。
 「何するんですか?」
 「南部長に連絡だ。千石さんが帰る以上今日はもう部活はムリだろ」
 「そーですねぇ」
 不満げに頷く太一。だからこそ千石をリョーマに押し付け厄介払い―――もとい後輩としてお世話になっている先輩に日頃の感謝を込めて声援を送り・・・・・・いやもうどう建前をつけようがごまかしようがないので厄介払いがしたかったとはっきり言い切ろう。先程の英二ではないが、100%完全な嘘というのはつきにくいものだ。
 電話の向こうでやはり南のため息がノイズに混じって聞こえてきた。
 『まあ、とりあえず時間稼ぎは出来たからその分は感謝する。ありがとうな』
 「どうも」
 短くそう言い通話を切り、
 ふと室町は思った。
 「そういや・・・・・・いっその事部活終わりまで気絶させとけばよかったか」
 「あ・・・・・・」
 枝に絡まってそんな基本的なことを今更考えた2人。木の葉を通す前の、日本の夏のキッツイ陽射しが、そんな2人を包み込んでいた。

最大試練―――失敗

 この話、『Trial of 千石』という事で初っ端は青学の皆さんが哀れ千石さんを試練していこう(どーいう日本語だよ・・・?)という話だったんですけど・・・。なぜか哀れ山吹が千石という試練に立ち向かっていく話になってましたね。
 というわけで千石さんの『
Trial of luck』いいですねえ。今もひたすらずっとエンドレスで流れてますが。
 しかし今回の話、やっぱり惨敗でしたね。ごめんよう千石さん・・・・・・。勇者ダメです。最初に魔王もって来た時点でそれを証明してますが。青学悪の巣窟かい・・・・・・。というか千石と山吹の関係って・・・・・・。いや、止めよう。これ以上進めるとひたすら何かヤな展開になりそうだ・・・・・・.
 では、千石さん、そして太一あと1名(ヒデ・・・)CDデビューおめでと〜v

2003.4.6