足りなかった勘定を取りに行ってしまった桃。さて遺されたリョーマは・・・
 「おう小僧、今ヒマなんだろ? 俺の設け話に乗んねえか? 乗ったら好きなモン奢ってやる」
 「乗る」
 さて・・・・・・





リョーマ on Sale






 「・・・・・・あら?」
 2時間ちょい過ぎ。戻ってきた桃の見た光景は、2時間前とは全く以って異なるものだった。
 「なんで・・・・・・行列が?」
 店の前にわらわら集まる人・人・人。2時間前には確かに自分たち以外だ〜れもいなかったというのに・・・!!
 「どうする? 
30分待ちだって」
 「え? 待つ待つ! 当り前でしょ!?」
 「あーでも早く入りたい!!」
 「いい!? 
30分待ちぃ!?」
 あちこちから聞こえる会話に声を上げる。確かに他の店も今日はこんな感じに混んでいたが―――
 ―――はっきり言ってここの店はそれだけ並ぶ価値がある・・・それほど美味いとは思わなかった。
 「あ、あの〜、スンマセン・・・・・・」
 オズオズと手を上げ尋ねる。
 「ここの店・・・・・・なんでンなに並んでるんスか・・・?」
 「ああ、あのね! ここの売り子すっごい可愛いんだって!!」
 「チラッと見ただけなんだけど、女の子かな? 男の子かな?」
 「女の子だったら終わった後デートしてくれないかな〜?」
 「私どっちでもオッケー! あの子だったらめちゃくちゃ可愛がってあげたい!!」
 「いえっ!? え・・・っと・・・・・・」
 念のため思い出しておく。あの店には『売り子』などいなかった。
 (バイト・・・でも来たのか・・・・・・?)
 一応こちらも確認。あの店はバイトが必要なほど忙しそうではなかったし、あんな店で働きたがる人もまずいないだろう。そもそもいたとしてバイト代が払えるほど利益を上げているようにはとても見えない。
 一通り検証し終え・・・・・・
 「やっぱ・・・、そういう事か・・・・・・?」
 一番ありえる可能性を思い浮かべ、
 桃はは〜っとため息をついた。
 「まったアイツは、何やってんだ・・・・・・?」







∴     ∵     ∴     ∵     ∴








 店に入る。あったのは予想通りの光景だった。
 「ラーメン2つお待たせしましたー」
 「よっ! 待ってました!!」
 「お嬢ちゃん、可愛いねえ。どう? 後でおじさんとイイコトしない? ね?」
 「あ、駄目よ!! ボクはお姉さんと一緒に遊ぶのよね〜?」
 「俺どっちも興味ない」
 「く〜! またこのこ憎たらしさがツボに入るぜ!!」
 「待って〜! 小悪魔ちゃ〜んvvv」
 「だから苦しいって」
 『あ〜も〜カッワイ〜vvvvvv』
 目の前で繰り広げられる何か。とりあえず見慣れたそれ(部内でもこんな感じだ。誰が主に、とは言わないが)に、硬直は1分程度に留め桃は渦中の人物に近付いた。
 「あ、オイ越前!」
 「ああ桃先輩。戻ってきたんスか」
 「今ようやっとな・・・・・・ってそれはいいんだよ。お前どうしたよその格好?」
 「コレっスか?」
 言われ、リョーマが纏っていたものをぴっと指先で摘み上げる。ごく普通の腰巻エプロン。中央にデカデカ店の名前が入っているのはお約束だろう。
 「別に普通の格好でしょ?」
 「いや格好っつーか何つーか・・・
  ―――なんでお前がこの店の売り子なんてやってんだよ?」
 「頼まれたから」
 言い切るリョーマ。唖然のする桃に、店主が話し掛けてきた。
 「おう戻ってきたか中坊」
 「あ、あのオジさん・・・。コイツ、何やってんスか・・・?」
 「見たまんまの売り子よ。コイツのおかげで店始まって以来の売上になりそうだな。繁盛繁盛〜っと♪」
 「えっと・・・。でもコイツ人質代わりだったんスよね・・・?」
 「使えるモンは何でも使うモンだろ? それにコイツだって了承したしなあ」
 「働いたら食べ放題って事で」
 「えちぜ〜ん!!」
 あっさり食い物につられるリョーマ(人の事は言えないが)に心からの叫びを上げる。これではお菓子で誘われ誘拐される5歳児と一緒ではないか!!
 嘆く桃だったが・・・・・・
 「っていう事なんで桃先輩、あっち行ってて下さい」
 「へ・・・?」
 「邪魔だぞクソガキ! 引っ込んでろー!!」
 「何その子に気安く話し掛けてんのよ!!」
 「テメエそいつの何なんだ!!」
 などなど広がるヤジの嵐。逆らうと問答無用で殺されそうな勢いだったためすごすごと引っ込んでいく。
 店の奥で、
 「いやー、すっげー人気だなあお前の後輩。ちょっとした人寄せにでもなりゃいいかと思ったが、まさかここまで人気出るたあ思わなかったぜ。これでアイツが食った分もしっかりカバー出来んだろ」
 「え!? んじゃあお代は―――!!」
 「しっかり払えよv」
 「・・・・・・アンタがめついっスね」







∴     ∵     ∴     ∵     ∴








 こうして。
 「ご馳走さまっしたー!」
 「おう小僧! またいつでも来いよ! 今度はさらにいいの連れて来てくれ」
 「そしたら完全食べ放題?」
 「そりゃあたぼうよ」
 「んじゃ次は不二先輩か英二先輩と来よ」
 「お!? ンないいのいっぱいいんのか!? いいなーお前んトコの部活。どんどん連れて来い!」
 「・・・・・・だから俺の立場は? 越前」
 「ンなモンあるワケないじゃないっスか。遅れたクセに」
 「あれはいろいろあってだなあ!! いいか―――!!」
 「はいはいもういいっス。煩いっスよ桃先輩。少し黙っててくれません?」
 「えっちぜ〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!」





 以下、2人の帰路ではひたすらに桃の叫びが聞こえていたとか何とか。



―――Fin








 ―――以上、
161話『走れ、桃!』よりでした。はっきりと桃に金取って来させるより2人に売り子させた方が遥かに儲けになったような気がするのは気のせいですか?
 そしてサエ中毒完全末期です。この店長、微妙に黒サエが入っているような気がしてたまりません。

2004.12.1213