それは、ランキング戦2日目の朝の事。
 「よっし今日も元気に頑張るぞ〜!!」
 気合を入れながらオムレツを作っていた英二は・・・
 「本日のスポーツニュース。まずはテニスの話題です。
  今回の全米オープンでは久々に日本人が大活躍!! プロデビューしたての新人、
越前リョーガ選手が―――」
 「うえええええええええええ!!!!!!?????」
 ひっくり返した卵をそのまま天井にぶつける勢いで(そして実際にぶつけて)驚きの声を上げた。







その幕開けに・・・・・・








 「おい越前! どういう事だ!!」
 「そうだぜ越前!! お前今朝のニュース・・・!!」
 「『越前リョーガ』って誰!? どう見たっておチビの身内だったし!!」
 「ああ・・・・・・」
 話題を振られ、ようやく気付いたらしいリョーマが声を上げた。
 何気ない様子で、言う。
 「言ってませんでしたっけ? 俺の兄貴っスよ?」
 『聞いてない!!』
 「え!? 何!? て事はおチビに兄貴がいて!?」
 「しかもその人がデビューしていきなり全米優勝しちまう位のスゲー人って事か!?」
 「そっスよ?」
 『ええええええええ!!!???』
 これまたあっさり頷くリョーマに、誰もが驚きの声を上げる。
 「・・・何驚いてるんスか?」
 「驚くに決まってんだろーが!!」
 「なーに冷静にしてるワケ!? 身近にプロ! しかもそんな凄い人いたら興奮するっしょ!?」
 「って言われても・・・。元々親父もプロだったし怪我してなきゃグランドスラム確実とか言われてたし、リョーガのプロデビューも別に普通にそうなっただけだし・・・」
 「うわすげっ!!」
 「にゃにそのサラブレッド一家!!」
 「・・・・・・ワケわかんないっス。先行きますね」
 ばたん。
 なおも部室内で騒ぐ一同を背に、リョーマは出て行ったのであった・・・・・・。







・     ・     ・     ・     ・








 「越前と不二除いて全員遅刻だ! お前たち何をやっていた!!」
 「え!? いやあのそれは・・・・・・」
 「越前の兄貴の事で盛り上がってて・・・・・・」
 手塚の一喝を前におどおど説明する遅刻者一同。聞き、手塚が眉を僅かに跳ね上げた。
 「越前の兄、だと?」
 「ああ、リョーガさん・・・だっけ」
 「そうそうそれっス」
 「そういえば彼は先日全米に優勝したそうだな、越前」
 「自慢たらたらでメール来たっスよ。馬鹿じゃんリョーガ」
 「って、えええええええ!!!???」
 「先輩たち何普通に話してるんスか!?」
 リョーマが普通に話すのはわかる。身内なのだし。
 しかしなぜこの2人は普通に話しているのだろう? しかも先ほど部室には2人もいた。リョーマ同様全く興味を持たず出てきたからこそ間に合ったのだが、考えてみればなぜこの2人は興味を持たなかった? 特に手塚などプロデビューする気ならばさぞかし気になる存在だろうに。
 思う。のだが。
 「越前君のお兄さんの事なら前おじさんから聞いたから」
 「・・・・・・何て聞いたんスか?」
 「『息子は2人とも好みのタイプ似てるから不二君気いつけなよ』って」
 「あのクソ親父・・・・・・!!」
 「ちなみに手塚は?」
 「ドイツでのリハビリ中に彼に会ってな。まだその時はデビューしたての彼に声をかけられて、俺も越前によく似ていたから興味を持ったんだ」
 「・・・・・・・・・ちなみに手塚部長、最初声かけられた時どういう理由でかけられたんスか?」
 「アメリカ西海岸と
Jr.大会を行っただろう? その様子をテレビで観て、試合には参加しなかったが俺に興味を持ったそうだ」
 「あのタラシが・・・・・・!!」
 歯軋りするリョーマ。不思議がる一同。
 なんでもない、と言おうとしたところで。
 「―――へ〜。珍しいじゃんチビ助。お前が俺の話してるなんてよ」
 「リョー、ガ・・・・・・」
 後ろから聞こえた声。恐る恐る振り返ってみれば、そこにいたのは呼びかけた通りの人物で話題の人、越前リョーガだった。
 「わ!! わ!! わ!!」
 「本物の越前リョーガ選手だ・・・!!」
 驚く周りは気にせず、リョーガはフェンスに手をつき顔を近づけてきた。
 「なんだよそう嫌そうな顔すんなよ。忙しい中せっかくお兄様が可愛い弟に会いに来たってんだから」
 「忙しいんならわざわざ来んなよ。全米終わったばっかだろ?」
 「表彰式の後そのまんま飛行機乗ったからな。早ええモンだろ?」
 「そこまでして何帰って来てんの?」
 「メールの最後に入れといただろ? 『自慢はお前の顔見てやってやるよ』ってな」
 「はいはい。ならもーいいだろ見たんだから。さっさと帰れ」
 「あ〜冷た〜。あの頃の可愛いチビ助はどこ行ったんだろーなあ。サーブ1つまともに決めらんなくて親父にからかわれて俺に泣きついてきた可愛いチビ助は」
 「ンなの何年前の事だよ!!」
 「あ、お前ちょっと顔赤いぞ」
 「うるさい//!!」
 「あ〜やっぱ可愛いなあチビ助はv うりうりvv」
 「さっさと帰れ馬鹿リョーガ!!」
 「へいへ〜い。んじゃあさっそく家に『帰る』―――前に」
 リョーマを見下ろし笑っていたリョーガが、
 ふいに顔を上げた。
 フェンスの中にいたのは、もちろん部員一同。見回し、
 「なあチビ助。親父から聞いたんだけどよ、お前のそれがアレか? 『レギュラージャージ』」
 「・・・・・・? そうだけど」
 「へ〜え」
 やはり笑う。今度は先ほどとは違う笑いで。
 周りをほのぼのではなく苛立たせる類の笑みを浮かべ、バッグから何かを取り出した。
 手の中で広げる。真っ白い封筒が、9枚。
 「中入っていいか?」
 「ダメ」
 「失礼ですが、部外者は立ち入り禁止です」
 リョーマに続き、手塚も口を挟んできた。ただでさえ彼の乱入で部活が開始出来ていない。この上遅れさせられるのを、部長として黙って見てはいられない。家族の再会ならばまた家でやってもらえばいいだろう。
 そう判断した手塚に対し、
 「まあそう堅くなんなよ。お前にとっても損な話じゃねえからさ」
 「今は部活中―――」
 「今度とあるパーティーがあるんだよな。俺も招待されててよ、知り合いでテニスの強いヤツがいたらそいつ誘ってくれって話なんだよな。って事で、思い出したのが青学レギュラー9人なんだけど、どう? 豪華客船でテニスの試合。相手もけっこー強いの集まってるよ?」
 「豪華客船!?」
 「パーティー!?」
 「テニスの試合!?」
 『行く!!』
 ・・・どうやら一般的テニス好き中学生を釣るにはうってつけの単語だったらしい。大賛成する一同に対し、
 「やだ!!」
 「え・・・?」
 「越前・・・・・・?」
 一人頑なに拒むリョーマ。拒む理由は何かと問われればそりゃもう決まってる!! 人には言えないが!!
 というワケで頑なに否定を繰り返すリョーマ。しかしながらそれではもちろん伝わらない・・・・・・同じ考えの持ち主を除いて。
 「そっか〜嫌か〜。じゃあ仕方ないなあ」
 「え!? リョーガさん!!」
 「ちょ、ちょっと待って下さいよ!! コイツの説得は今すぐしますから!!」
 「うん。まあ気を使ってくれなくていいよ。じゃあ当初の予定通り
Jr.のメンバーに手塚君入れて9人にしようかな」
 「っだあああああああ!!!!!!!」
 しれ〜っと言った言葉に、リョーマが過敏に反応した。無視して進める。
 「どっちかってーと俺としてはそっちの方がいいんだよな〜。あの
Jr.選抜って何? 顔で『選抜』した? お前の知り合いマジいい子多すぎ! 最初アメリカチームの方見てたけどさあ―――グリフィン弟とかケビンとか? けどよかったなあお前のチームもとい関東代表! 見てて楽しくてたまんなかったよ特にダブルスつ―――」
 どがしゃん!!
 いつの間にかフェンスから出ていたリョーマの一撃。中に入った
200個あまりのボールごとまともにカゴを頭に喰らい、リョーガがずるずる崩れ落ちた。
 ぜーはーぜーはー息を吐き、
 ぶんどった封筒―――つまりは招待状だろう―――を有無を言わさずレギュラーに押し付ける。
 最後に、英二と不二と手塚の前で止まり、
 「コイツ、男女見境ありませんので気をつけて下さい」
 「それってまさか〜・・・・・・」
 非常に嫌な予感に、英二が小さく呟いた。頷く。
 「ちなみに越前君・・・。
Jr.メンバーより青学の方がまだいいっていう理由は・・・・・・」
 不二が尋ねてくる。これにも頷いた。
 「ところで越前・・・。以前跡部に聞いたのだがアイツもお前の兄に会った、と―――」
 「それについては触れないで下さい!!」
 過剰に反応するリョーマを見て、
 「『息子は2人とも好みのタイプ似てる』、か・・・・・・」
 「つまり、今おチビが注意した俺ら3人はおチビの好み、と・・・・・・?」
 「で、
Jr.選抜は越前君の好みの宝庫だった、っていうわけなんだ・・・・・・」
 「そういえば、跡部も会った時確か越前と2人で出かけていたと言っていたな・・・・・・」
 結論付ける。
 ―――越前父子は全員要注意だ、と。







・     ・     ・     ・     ・








 こうして・・・
 「食われずに帰れるといいね、俺たち・・・・・・」
 「全くだな・・・」
 「ところで気付いたんだけどさ・・・、
  ―――僕たち3人って、青学レギュラーであろうと
Jr.選手であろうとどっちにしろ来るしかなかったんじゃないかな・・・・・・?」
 『はっ・・・!!』
 慄く。なんにせよイケニエに差し出された自分たちに。
 「いっそ食われてオッケーかな・・・・・・」
 「全くだな・・・」



―――Fin











 なんかまたも登場してますよ越前兄!! 
166話の《青学名物、ふたたび》ラストシーンで南次郎とリョーマに届いたエアメールがリョーガからのものだと信じて疑わなかった結果こんな話になりました。そして映画に青学メンバーしか招かれない理由をこのように自己納得してみました(泣)。しかし映画予告、リョーマがリョーガを「兄貴」ではなく呼び捨てだった・・・・・・vvv そして映画を観たら兄貴は兄貴で「チビ助」と呼んでいたので直しました。「チビ助」って・・・。「チビ助」って・・・・・・!!!

2005.1.15