今大会最年少で全米のワイルドカード入りを果たしたリョーマ。彼をぜひ取材したいと、大会前から日本を中心に多くの報道陣が押しかけていた。
 「あ、あそこにいた!!」
 そんなこんなで、今日もまた1組の取材チームがリョーマを撮りに、彼らの練習しているコートへと近付いていった。





ルーキー テレビに映る




2.リョーマ・ケビン=男子シングルスのワイルドカード(それぞれ日本・アメリカ)
  佐伯・リョーガ=全国大会前の小旅行で来た。






 
 「今日は、まだ幼いながら全米に出場する事になった2人の少年に取材をしてみたいと思います。
  越前リョーマ君!! ケビン=スミス君!!」
 呼びかけたリポーターの声は、
 『
あ〜っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!
 呼ばれていない2人の爆笑によりかき消された。
 問題のコート。そこにはかの2人―――リョーマとケビンがいた。同じ面に
 さらに逆の面にも、2人がいた。大爆笑する2人ことリョーガと佐伯が。
 「6−0!! チビっちぃズ弱ッ!!」
 「せめて1ポイント位取れよお前ら!!」
 「うっさい!! 大体ケビンがちゃんと動かないからだろ!?」
 「はあ!? 動いてねえのお前じゃねえかリョーマ!! 何俺の邪魔ばっかしてんだよ!?」
 「ほんっとお前も邪魔だったよなあリョーガ。俺の知る限りダブルス3大ベタは跡部とお前ら兄弟で決定されたよ」
 「いいじゃねーかそれでも勝てりゃ」
 「いや多分相手がアレじゃなかったら負けてただろ」
 「『アレ』って!?」
 「ンな後ろ向きになんなって。相手に恵まれる運のよさも実力の内じゃねえか」
 「どーいう意味だ!!」
 つまるところこの4人はダブルスで試合をしていた。そして結果はこんなものだった。ケビンと佐伯はそれぞれダブルスもやるプレイヤーである。一方リョーガとリョーマ・・・・・・というか越前家はシングルス
Onlyらしい。かつて見せられた、『サムライ南次郎のダブルス』に―――
 ・・・・・・ケビンと佐伯は軽い目眩を起こした。あの南次郎が! 引退していなければグランドスラム確実と言われたあの男が!! ダブルスがここまで下手だったとは・・・・・・。
 さて本題に戻ってこんな4人のダブルス。ダブルスといえばチームワークが命だったり1+1が3にも4にもなったりするもの。だが片方とはいえここまでのヘタクソがやれば、それは『邪魔付きシングルス』としかならない。同じハンデを背負った2組。となれば―――
 ―――必然的に1人1人の実力の高い方が勝つ。今回の対戦成績はごく当たり前のものだった。
 「あ、あの〜・・・・・・」
 「ん?」
 なおもコートでぎゃあぎゃあやる一同に、声がかけられる。見てみると、そこにはマイクを手にした女性とカメラとその他諸々と。それはつまり―――
 「テレビ局の取材か」
 「お? 良くわかったな佐伯」
 「ウチの地元にもあるからな。地域密着型の超ローカル局。一応六角は毎年全国出てる強豪扱いだしな。毎年取材が来る」
 「でも青学にあっさり負けたじゃん」
 「しかも選抜代表にも1人も選ばれなかったしな」
 「そこの命知らずの兄弟。ちゃんと遺書は書いたか? 日本じゃ遺言は満
15歳以上じゃないと無理だが遺書ならいくつでも可だ。法的力がないから守る必要もないけどな」
 「つーか何遺すんだよこの2人が」
 「どっちかっつーと俺としてはそういうのよりダイイングメッセージの方残したいぜ」
 「そうか。死の間際に己を悔い改めた文章を遺したい、と。見上げた根性だな」
 「だから俺たちはアンタが犯人だって残したいんだけど」
 「ちなみに残す際は省略して『
K.S』とは書かない事を勧めるよ。『ケビン=スミス』も当てはまるからな」
 「俺かよ!?」
 「ああ。しかも越前家に恨みを持つ人物として筆頭に挙げられるからな。犯人決定だ」
 「リョーマ頼む!! そーいうのは残さないでくれ!!」
 「・・・・・・なんでめちゃくちゃ殺される方向で話進んでるワケ?」
 「まあそれはともかくだ。ついでに実は『千石清純』でもぴったり合う上周りからの認識では俺より千石の方がお前ら兄弟と仲いいからやっぱむしろ捜査混乱させそうだがまあそれもいいとして」
 「つーかさ、ヘタに間に点とか打つと実は犯人は複数犯!とか思われそうだよな。『K』と『S』ならいっぱいいんだろ?」
 「お前ら兄弟の知り合いとなると・・・手塚国光・菊丸英二・不二周助・跡部景吾・真田弦一郎・切原赤也それに俺ら姉弟。なんと選抜メンバー中忍足と越前除いて全員容疑者だ」
 「うあ・・・。本気で何のメッセージにもなってねーな」
 「というワケでダイイングメッセージは諦めて、
  ―――話し掛けられてんだから応えないと悪くないか?」
 「え?」
 「何かあったか?」
 話題をずらした当人による指摘に、ようやく肝心の2名が取材班一同に気付いた。
 「何?」
 さっそく冷たくあしらわれる。それにはめげず、リポーターが笑顔で2人に話し掛けた。
 「越前リョーマ君とケビン=スミス君よね。今度全米にワイルドカードとして出場する。ぜひあなたたちの取材をさせてもらいたいんだけど―――」
 「へ〜!!」
 リポーターの言葉を、リョーガが一声で遮った。
 「チビ助ケビン! お前ら出世したなー!! 取材だってよわざわざ!!」
 「重い・・・・・・」
 どがしっ!と乗っかり声を上げるリョーガに、のしかかられながらリョーマはふいに英二が懐かしくなった。どちらかというと英二の行動がリョーガに似ているのだが。
 「おーお前らもついに有名人じゃん。よかったな〜」
 こちらも頭に手を置きぷにぷにとほっぺたを突付く。やられたケビンが微妙に赤くなるのを見て、
 (そういえばコイツって、
Jr.で散々テレビ映ってなかったっけ?)
 佐伯はそんな、口に出してはいけない一言を心の中で呟いていた。まあれはベイカー監督が散々手を回した結果で、こうして向こうから何の前触れもなく来られるのは初めてなのだろう。
 周りの騒がしさにさっそく引いたリポーター。最初に気付いた佐伯が、リョーガの腕を引き笑顔で手を振った。
 「では、邪魔者はこの辺で退散しますので後はごゆっくりどうぞ。お邪魔しました」
 「あ、は、はあ・・・・・・」
 「え!? おいちょっと待てよ佐伯! これからが面白れえトコだってのに!!」
 「まあまあリョーガ。せっかく向こうはあんなガキ2人のためにわざわざ日本からアメリカくんだりまで来るハメにならされたんだからさ、やっぱせめて少し位はさっさと終わらせられるように協力してやるのが人情ってモンだろ?」
 『誰がガキだ!?』
 『お前ら』
 ガキ2名のダブル突っ込みに同じくガキ2名のダブル突っ込み返し。しっかり指まで指され、がるるるる・・・と唸った後、
 「あーいうのは無視してさっさとやろーぜ」
 「で、何だっけ?」
 ケビンとリョーマは、賢い大人的対応を見せた。取材陣も暫し唖然とした後、何とか本題に戻ってきた。
 「えっと、それでさっそくなんだけどぜひテニスしてる姿を撮らせてもらいたいな〜と」
 
ぷ〜〜〜〜〜〜!!!
 「・・・・・・何?」
 後ろに下がっていた2人が同時に噴出す。口を押さえて笑う2人に、リョーマとケビンは不機嫌も露に睨みつけた。
 「いやだってお前らがテニスぅ?」
 「止めた方がいいですよ撮り応え0ですから」
 「うるさい!!」
 「心底気の毒そうに忠告してんじゃねえ!!」
 「だってフィルムの無駄じゃん」
 「あと時間な。時は金なりっつーし、長くかかったら人件費かさむだろ。人情に則るんならちゃんと忠告してやんねえと」
 「だったら無駄にさせなきゃいーんだろ!?」
 「テメエら今すぐぶっ倒してやるからな!!」
 「は〜あ? お前ら弱小チビっちぃズが俺らを〜?
  いや〜さっきそー言って
24ポイント取られて負けたのどこのどいつらだっけ〜?」
 にやにや笑うリョーガ。その肩を佐伯がぽんと叩いた。
 「まあリョーガ。カメラサービスを考えたらサーブだけ、とか壁打ち、とかいうだけじゃかなりつまらないだろ。打ち合いとなれば相手がいる。越前とケビン戦わせると全米で試合観る楽しみが減る。
  となれば俺らが相手すんのも丁度いいんじゃないか? 特にお前対越前は煽りがつけやすいしな。かつて全米に出たサムライ南次郎の息子らの対決。果たして勝つのはどちらか!? とか」
 「?」
 なぜだか極めて大人しい佐伯の発言。あまりの普通さに、持ちかけられたリョーガはもちろんリョーマとケビンまで眉を顰めた。
 爽やかに笑い、指を立てる。
 「ダブルスで負けた分の挽回。カメラで撮られて流されればこの上ない確たる証拠になるだろ?」
 「まあ・・・・・・」
 「だろ? それをネタに向こう数年はからかえるからな」
 『おい!!』
 「よっしゃオッケー!!」
 「ちなみにお前らが勝負持ちかけた以上拒否権はないんだぞv 越前。ケビン」
 『ぐ・・・・・・』
 こうして、問題は一気に片付いた。取材陣もまた、取材対象としてリョーマの事を最低限は調べたのだろう。『かつて〜』の煽りに、あっさり乗ってきた。
 まず越前兄弟がコートに入り・・・
 「チビ助。ハンデどーする?」
 「んなのいらない」
 「まーそー言うなって。お?」
 何かを思いついたらしいリョーガ。リポーターに近付き、
 「すいませ〜ん。取材の内容書いた紙とかありません?」
 「え・・・? メモならちょっとあるけど・・・・・・」
 「ちょ〜っとそれ貸してもらえません? あ、もちろん汚したり破いたりしませんしすぐ返しますんで。ね?」
 「あ、は、はい・・・・・・vv」
 「お〜さっすが生来のタラシ。丸め込むのが巧いぞ〜vv」
 「そーいうんじゃねえよ!! 普通に借りただけだろーが!!」
 リポーターの女性からメモを受け取り―――茶化す佐伯に脊髄反射で突っ込む。この辺りの弁解はちゃんとやっておかないと後々の人生に禍根を残す。
 「で、何やってるわけアンタ?」
 訊いてくるリョーマにメモを掲げ、
 「打ち合いしながらこのメモずっと音読しててやるよ。今借りたヤツだからもちろん内容は知らないでな」
 「『オンドク』?」
 「
Reading aloud
  ・・・お前日本の中学入って何ヶ月だ? 日本語能力が俺以下って、どーしよーもねえだろそれじゃ」
 「だってそんな言葉使わないし。授業中ずっと寝てるし」
 「・・・・・・本気でどーしよーもねえなお前」
 「まあ中学なんて義務教育だからな。寝てようが全部休もうが留年も退学もなく卒業出来る。それに『勉強が出来なくても俺にはテニスがある!!』って言い切って逃げんのも可だしな。ただし幸村にしろ真田にしろ手塚にしろ跡部にしろ、日本男子中学でテニス出来るヤツは何でかほぼ比例して勉強も出来るけどな」
 「『ほぼ』?」
 「テニスの実力を比較するともちろんトップが幸村、2位が千歳と真田、4位が手塚と跡部。
  ところが3年限定で全国模試とかやるとトップが手塚
500点、2位が不二と俺499点、4位が跡部498点だったりするんだよな。いずれにせよ跡部のツメの甘さだけが露になる結果だったな」
 「お前・・・・・・絶対狙って取ってんだろそれ」
 「当たり前じゃないか。『跡部の1コ上』ほどいいポジションはないんだぞ? 思いっきり力の限り心の底から笑い飛ばせるからなv」
 「サイアク街道驀進って感じだな。とりあえず、逃げになってねーじゃねえかそれじゃあ」
 「ホラ、だから全米に選ばれたのは越前なんだよ」
 「・・・・・・それやっぱ俺の事馬鹿にしてない?」
 「今更訊くなよわざわざv」
 『・・・・・・・・・・・・』
 「じゃ、反論異議その他なくなったところで1ポイントマッチ。リョーガ対リョーマ。ハンデの都合上サーブ権は越前の方に」
 「? 何で?」
 「メモとラケット持ったらボールは持てないだろ?」
 「そーいやそうだったな」
 「気付けよさっさと・・・・・・」
 「こーいう抜けたヤツのに負けんのって悔しいだろ越前」
 「そりゃあね・・・!!」
 再びがるる・・・と呻き、リョーマがサーブを放った。もちろんツイストサーブ。適当にひら〜っと返しながら、リョーガは本当にメモを読み始めた。
 「え〜っと・・・、
  『今回、全米ワイルドカードとして最年少で出場する事になった、青春学園中等部1年生の越前リョーマ君。彼はその
ち・い・ちゃ・な体からはとてもとてもとてもとても全く以って全然ちっとも1%も想像つかないほどの強さで―――』
  ―――はあ? そうか? 想像どおりっつーかそれ以下の強さだろ。な? チビ助?」
 スパーン!!
 「うるっさい!! 俺に訊くな!!」
 「ていうか、それ『音読』じゃないだろ絶対
100%確実嘘偽りようもなく」
 バシュッ!!
 「んで次は・・・『彼は幼少の頃からその優れた才能を発揮させており、アメリカでは
Jr.大会に4連続で優勝し―――』
  ―――あ、このフレーズ使いにくいよなー。一緒に取材するハメになったケビンが4連続準優勝だもんな。さりげな嫌がらせか」
 ぱこーん!
 「何で俺まで引き合いに出すんだよ!?」
 「その通りだからじゃん」
 どすっ!!
 「『彼の属する青学は、関東大会を優勝し現在全国大会へ向け調整中。さらに彼はつい先日開かれた日本対アメリカ
Jr.親善試合の選手にも選ばれ、S1の大役を務めた』
  ―――なあ、確かお前コレ、補欠で繰り上がり出場じゃなかったか?」
 ぎゅるるるる・・・!!
 「だから何!?」
 ズバン!!
 「いや別にお前がそれで満足ならいいけどな。
  まあケビンがリーダーになっちまえるようなチーム相手じゃお前が選ばれたところで普通ってか? むしろそれでよく補欠扱いになったな〜」
 ひょい。
 「いーだろオーダー決めたの俺じゃないんだから!!」
 パンッ―――
 「んじゃこの辺りはやっぱケビンへの嫌がらせだったっつー事で落ち着くとして―――お?
  『最後に越前君に大会での目標を聞く』だってよ!! どーするよチビ助! とりあえず『大会が始まる前にムカつく兄貴くらいは潰したいと思います』とでも言うか!? 大会開始
300年位は待ってもらわねえとなあ。は〜っはっはっはっはっは!!!!!!」
 バシッ!!
 「うるさいって言ってんだろ!? 真面目にやれ!!」
 パ―――ン!!!
 リョーマの渾身の突っ込み―――もとい1球もまた難なく返し、
 リョーガはようやくメモから顔を上げた。
 「で、もー映像貯まりました?」
 「え・・・? あ、ええ・・・・・・」
 「んじゃ―――」
 メモ帳を女性に投げ返す。リョーマとしっかり目を合わせ、
 「こっからが本当の勝負だぜチビ助!」
 「望むところ!!」
 『え・・・・・・?』
 訝しげな声を上げるスタッフ無視で、2人揃って前に走り出す。仕掛けたのはリョーガが先だった。
 「ハッ!」
 リョーガの放つドライブA。急激に落ちる球を、スライディングをかけたリョーマがさらにドライブBとして返す。
 跳ね上がる球。追うリョーガの目つきが変わった。受けるリョーマのそれもまた。
 「無我の境地対決、ねえ」
 佐伯が苦笑する。越前兄弟―――いや、越前父子に始まり幸村・千歳・真田・切原、さらに最近ではケビンまで使うようになったこの必殺技というか何というか。見慣れると大体どの状態だとそれに入っているかがわかってくる。さらにコレは使えないがパクリ芸大好きな自分としては、どういう状況で誰のどの技を使うのかも。
 そんな佐伯の予想通り、リョーガのサイクロンスマッシュをリョーマの羆落としが破った。正確には・・・・・・破ろうとした。
 カシャン―――!!
 リョーマの手から弾き飛ばされたラケット。それでも根性で返した球は・・・
 ・・・・・・ライン僅か外をゆっくりと落ちていった。
 (残念。千石ならインなのに)
 無我の境地、さらにパクリ芸などで唯一誰もやらない―――いややれない技、それが千石の『ラッキーウォッチ』である。不可能を常に可能にするリョーマでも、さすがに『ラッキーな風が吹いてアウトの球がインになる』などというそんな不条理な技は出来ないようだ。
 振り向くリョーマ。ネットの向こうで、アウトだった球がてんてんと跳ねている。さらに前に焦点を合わせると、リョーガが肩に担ぎ上げたラケットでとんとんと肩を叩いていた。
 「ま、格の違いってヤツだな。まだまだだぜ、チビ助」
 にやりと笑われ口を尖らせる。が、負けは負けだ。
 「次は勝つからな」
 「はいはい。
300年以内によろしくな」
 「ムカつく・・・・・・!!」
 今度はラケットでぽぺぽぺ頭を叩かれ、肩を震わせながらリョーマは退場していった。
 代わり、ケビンと佐伯がコートに入る。
 「前が十分いろいろやってくれたし、俺たちはさっさと終わらせようか」
 「あーそーだな」
 そんな軽口を叩き、さっそく(こちらは普通にサーブ権を勝ち取った)佐伯がサーブを打―――とうとして。
 「あの・・・
  ―――ハンデとかないんですか?」
 きょとんとリポーターに尋ねられた。
 「は?」
 「何で・・・ですか?」
 逆に首を傾げる2人。リポーターはこの取材のためにちゃんとテニスの基礎知識は学んできたらしい。それとも元々スポーツ好きか。
 「だって―――普通テニスの試合って公平になるようにするものじゃないんですか? だからジュニアでは特に細かく年齢制限つけられてますし・・・」
 呟く彼女に、
 4人は揃って唖然とした。
 代表してリョーガが答える。自分・佐伯・ケビン・リョーマを順に指差し、
 「俺らの年齢、
15141312。でもって学校は違うけど全員中学生。これでハンデとかつけてたら全米以前に学校の部活で問題外だから」
 「そ、そうなんですか・・・?」
 信じられない様子。まあ無理もないだろう。
 「このチビらだともっとガキに見えますよねえ」
 はははははははと大笑いするリョーガを、チビ2名が射殺す勢いで睨む。が、もちろん全く効果はなかった。
 「じゃあそういう事で」
 改めて、佐伯がサーブを打ち出した。トスに回転をかけたアンダーサーブ。ケビンがこれを直接見るのは初めてだが・・・・・・
 「ファントムボールは見切ったっての!!」
 右側に立つ自分から見て左端に着地したボール。さらに外に逃げていく球の軌跡は、確かにファントムボールと同じ。ただし左利きの自分が同じく左利きのケビンに使ったところで意味はない感じだが。
 そんな―――切原のファントムボールではなく不二のカットサーブを使った佐伯は、正解ではないがおおよそ当たりのケビンに小さく笑いかけた。
 「ま、オマケで○ってトコか」
 ボールを追って2・3歩走ったケビン。打ち返す球はほぼストレートのネット際。なかなかにいい狙いだ。サービスダッシュをかけていなければ追いつかなかっただろう。
 その程度はわざわざ筋肉の動きを見るまでもなく読んでいたため、あっさりその球に追いつく。
 「―――っ!?」
 目を見開いたケビンに薄く微笑み、
 「ご苦労さん」
 パン―――!!
 佐伯は対角線上の空白へとショートクロスを放った。さすがにこれではケビンも追いつき様がない。
 「シングルスコートは縦
23.77m、横8.23m。コート片面約97.9u。全部使ってやらないと考案者に悪いからな」
 「なんでンな細かい数字覚えてんだよ・・・・・・」
 「アンタは乾先輩か・・・・・・」
 「ウチの地区で月1回テニス大会が開かれるんだ。その会場になるのが六角なんだけど、それじゃコートが足りないから臨時でグラウンドをコートにするんだよな。
  ―――きっちり線引くのに毎回毎回みんなで喧嘩してると嫌でも覚える」
 「・・・・・・絶対それ、ケチつけてんのお前だろ」
 「公平な判定[ジャッジ]は公平なコートからだからな」
 「1・2センチの誤差はあんま関係なくねーか?」
 「俺は気にする」
 「・・・・・・・・・・・・まあ、それだけ正確にライン上に打ちゃそうか」
 コートについた跡を見る。2打ともライン上だ。ヘボな審判に当たったりするとアウトにされるかもしれないスレスレ。確かにコートを端から端まで使ったようだ。
 そう思ったが・・・
 「だってそうしないと審判にクレームつけられないだろ? 白墨で描くおかげですぐライン消えるし」
 「・・・・・・・・・・・・まあ、お前ならそう言うと思ったぜ」





 ―――2人が目立たないため、ボツにされた。
 







 ―――この話を作るにあたってネットで調べたところ、
  ・ダブルスコート 
10.97×23.77260.8u 片面10.97×11.89130.4u
  ・シングルスコート 
8.23×23.77195.6u 片面8.23×11.8997.9u
  ・ネット 中央
0.914m 両端1.07m
 だそうです。勉強になりますねえ。ネットってそんなに高さ違ったんだ中央と端で・・・。
 実は今まで一番不思議だったのがゲームでサエの使う『マーク』。『6m以内にいる相手に有効』って・・・・・・6mってどのくらい? ずっとわからずかなり接近してからようやく使ってましたが―――意外と広いですねえ6m。さらに羆落とし封じにリョーマが使ったネット当て。掠ってその先で使うとなると、羆落としって相当下〜の方で使うんですね。しゃがみ込んでなので当然といえば当然ですが。ネットすれすれ落ちる球って拾いにくそうだな〜・・・・・・。

2005.4.1517