今大会最年少で全米のワイルドカード入りを果たしたリョーマ。彼をぜひ取材したいと、大会前から日本を中心に多くの報道陣が押しかけていた。
 「あ、あそこにいた!!」
 そんなこんなで、今日もまた1組の取材チームがリョーマを撮りに、彼らの練習しているコートへと近付いていった。





ルーキー テレビに映る




3.リョーマ・ケビン=男子シングルスのワイルドカード(それぞれ日本・アメリカ)
  真斗【佐伯の双子の姉】=女子シングルスのワイルドカード(ドイツ)。女子では最年少。
  跡部=(リョーマのみ)心配で来た。
  佐伯・リョーガ=身内の見物に来た。






 
 いつも彼らが練習しているコート。この日―――かなり早朝だが―――、4面あるコートにはなぜか合計6人しかいなかった。それも、片側には1コート1人、もう片方には2コートに1人しか。
 人のいない側には色違いのコーンが3つ。左・真中・右に配置されている。さらにコートの合間にいる2人はカートを隣に置き、そこからボールを取り上げて。
 かなり妙な光景だった。が。
 何も気付かず対象人物を呼びかけようとするリポーター・・・の方にむしろ気付かず、2コートに1人ずついた佐伯とリョーマが同時に声を上げた。
 「行くぞ!」
 「行くよ!」
 一切返事を待たず、ボールを打ち出す。左右交互に、赤・青・黄のラインの入ったボールを。
 「はっ!」
 「やっ!」
 「うらぁっ!」
 「ほらよっ!」
 順に、リョーガ・真斗(金髪ロングヘアをポニーテールにした美少女(見た目だけ)こと、佐伯の双子の姉)・跡部・ケビン。
 4人が声を上げ、ボールを打つ。ボールは同じ色のコーンへとしっかり向っていった。
 ―――つまりは青学名物カラーコーン練習の最中だった。1セット
10球で3セット。もちろん1セットごとに球出しのスピードを上げていく。動体視力を鍛えるため練習していたリョーマに5人も便乗した結果、このような事になった。なお・・・2人×3でやってもよかったのだが、さすがにそこまで余分なコーンもボールもなかった。
 打ちながら、3球目辺りでリョーマがクレームを出した。誰に対してというワケでもないが
 「適当に打ってまぐれ当たりになんないように次から球色ちゃんと言って」
 「俺はちゃんと当ててるだろ!?」
 「アタシだって当ててるわよ!!」
 「そーかまぐれ当たりはお前らか」
 「何でだ!?」
 「ちゃんとやれよそっち2人!! 俺らまで被害食らってんぞ!!」
 いろいろあったがとりあえず問題もなく1セット目終了。アンダーサーブというか下から優しく打っただけだし交互に打ったワケだしでもちろん全員楽勝でクリア。
 クリアした記念というのでもないが・・・
 「ほらどーした佐伯」
 「簡単すぎてあくびが出ちまうぜ」
 「そーそーチビちぃも」
 「ンなたりー練習やらせんなよなリョーマ」
 こんな感じで挑発大会が開かれた。実力上下で組み分けされた佐伯チームからはリョーガと跡部の、リョーマチームからは真斗とケビンの。
 むっ、とするリョーマに対し、
 「お前ら今の言葉は後悔するなよ?」
 にっこり笑い、佐伯は2セット目となる
1120球目を放った。2人分同時に。
 「
11121314・・・!」
 「青・赤・青・黄・・・!」
 「赤・黄・青・赤・・・!」
 今度はリョーガと跡部の声が被る。球が一緒にならないのは適当に取り出しているからだが、タイミングが合わないのは2球一緒に打っていながらコースや威力・スピンなどが異なるからだ。なぜこういう、むやみに達人芸かつ実際にはどこにも役に立たないものほど佐伯は得意なのか。
 しかしながら―――
 「言うほど大した事ねえじゃねえか」
 「所詮てめぇじゃこの程度が限界だってか」
 動体視力も普通に優れる2人相手では、この程度では話にならないらしい。
 余裕綽々であしらわれ佐伯が歯軋りする―――かと思いきや。
 「続けて第3セット! 相手も見ずに乱れ打ち!!」
 『――――――!!!???』
 宣言と共に、佐伯は今までボールを持っていた手で今度はカゴを持ち上げた。傾け、残り合計
20球をぼろぼろ落としながら本当にばこばこ打ってくる。狙いもタイミングも何もない。
 「うおっ! わっ! たっ!!」
 「てめっ! そりゃ! 卑怯だろ!?」
 面白いように左右に走らさせられる2人。打ち返す前に次が飛んでくればこの位焦って普通だろう。特に気にせず打ち続ける。
 「ほら・ほら・さっ・さと・打っ・て来・い!」
 「負け・ずに・ふん・ばれ・跡・部ク・ン!」
 「てめ・ぇが・頑・張れ・越・前・リョー・ガ!!」
 ・・・といった感じで佐伯チームは3セット終了。汗べったりでぜえはあやる3人に、
 隣から声がかけられた。
 「―――ねえ」
 「ん? どうした越前? まだ終わってないだろ?」
 「終わってないけど―――
  ―――2球球出しってどーやんの?」
 「出来ないのか?」
 「・・・・・・。
  ―――普通やんないし」
 心底不思議そうに訊き返され、球出し員のリョーマがむくれて答えた。
 「そういやそっか。
  お前となら手同じだから説明しやすいよな。まあ今回は左右に打ち分ける事のみって事で、まず左真横に向くだろ?」
 「うん」
 わりと素直に従う。従う事より出来ない事の方がプライドを刺激するのだろう。
 「一番わかりやすいのがこれで真横に打つ場合だ。自分の正面で丁度ラケットが相手コート向くだろ?」
 「うん」
 「さてここでボールのトス。2球打ち分ける場合はラケットの先端と根元の2箇所に落とす。ただしあんまりスイートスポット離れるとコントロールしにくいし、実際は中心よりちょっと上と下ってトコか」
 「うん」
 「ここからが重要だ。ボールのトスタイミング。ラケットが自分の正面に来る前後にずらす
 「は?」
 「正面の時同時に落としたら真ん前に飛ぶだけだろ? 正面より前なら向って左コート―――俺から見てリョーガ側、後なら跡部側にラケットが向いてそっちに飛ぶ。だから上にある球を前、下にある球を後に落とす。逆にすると打った球がまたラケットに当たるからな。
  ―――ま、基礎のキとしてはこんなトコか。ラケットのどの部分にどのタイミングで球を当てるとどこに飛ぶか。スイートスポットに限らずいろいろ試すと面白いぜ。何せそれの究極例が跡部のワンウェイショットだ」
 「『片道ショット』?」
 「つまり1回の動作で全部の的に当てるっつー技だ」
 答えながら、跡部が自分のそばに落ちていた3つの色付きボールをラケットで拾い上げた。そのまま上に投げ―――打つ。
 赤・青・黄の3色ボールは、3つのコーンの先端に当たり倒れさせた後その中にすっぽり収まった。もちろん色は正しく。
 『すげー!!』
 初めて見せられた芸当に、リョーガとケビンが惜しみない拍手を送る。単純に当てるだけならばまだしも、バウンド後の球までここまで自在に操る者は少ない。それも3球同時とは。
 「でもって、アンタは3球ミスった、と」
 「違げえよ! 俺が打ち損ねたのは2球だ!! つーかてめぇもせけぇ手使ってんじゃねーよリョーガ!!」
 つまり
30球中跡部がミスったのは2球、リョーガがミスったのが1球らしい。そしてリョーガはどさくさに紛れてその1球を跡部の方に送ったらしい。のだが、
 「はあ? 俺がセコい手? 何か使ったっけ?」
 ―――肝心の証拠は跡部の元へ行った上打ってしまった。白々しくそれでもシラを切るリョーガに、
 「じゃあ結果発表だ。1セット
10球で3セット。合計30球。内当てたのは跡部が28球、リョーガが29球」
 「何でだよ佐伯! 俺はしっかり打ったぜ!?」
 「人の言う事はちゃんと聞け。『相手も見ずに乱れ打ち』とは言ったが『コーンも見ずに』とは言ってない。数えてないワケないだろ?」
 「ぐっ・・・!!」
 「ついでに跡部。お前は正確に的狙いすぎだ。『コーンに当てれば
OK』であって誰も『コーンの中心部に当てろ』とは言ってない。ヘタに狙いつけ過ぎるからその分動作が遅れるんだよ。掠る程度で妥協してたら30球は無理でも29球は行けただろ? リョーガみたいに」
 「・・・・・・そりゃ・・・誉められてんのか? けなされてんのか?」
 「なんか・・・・・・、
28球でいいような気ぃしてきたな」
 跡部がため息をつく。ついて―――
 ―――上げた視界に、ようやく取材陣が映った。
 「何だ?」
 不審げな目を向ける跡部。他の5人も気付き、そちらを見る。
 「あ、あの〜・・・。
  越前リョーマ君に、ケビン=スミス君、それに、佐伯真斗さん・・・よね?」
 「・・・・・・(こくり)」
 「ああ・・・」
 「まあ・・・」
 肯定する3人へと、取材陣が身分と目的を明かした。3人の姿が撮りたいという。それもテニスをしている姿を。
 「丁度いいじゃねえか。お前らカラーコーン練習まだ終わってねえだろ? それやりゃ」
 という事で、映像は言い出しっぺかつ最も公平にやってくれそうな跡部球出しによるカラーコーン練習となった。





その1.リョーマ
 「赤・青・赤・黄・赤・赤・オレンジ・青・黄・・・」
 「・・・・・・あん?」
 途中に混じった妙色に、跡部は球出しをしていた手を止め首を傾げた。
 「オレンジ? ンな色どこにあるよ?」
 「あそこ」
 指差す。指された先で―――顔面にオレンジをぶつけられ、リョーガが仰向けに倒れこんでいた。一緒に紛れ込ませて投げたところ打ち返されたらしい。
 「こういうお約束なボケやるのがリョーガだよな」
 隣にいて、こちらはしっかり避難していた佐伯が笑ってそんな事を言っていた。
 「つーか避けろよリョーガ・・・・・・」



その2.ケビン
 「あお・あか・き・・・」
 
ぷうううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 「き・あか・あお・・・」
 
ぱん!!
 「うおっ!?」
 どごっ!!
 「・・・・・・何やってんだお前?」
 「それは俺じゃなくてソイツに訊いてくれ・・・!」
 指差される。持っていた紙袋を適当に膨らませ叩き割った佐伯が。
 「・・・・・・何やってんだてめぇは?」
 「いや何となく」
 「アホかてめぇはあああああ!!!!!!!」



その3.真斗
 「1・2・3・4・5・6・7・・・・・・」
 「青・青・赤・青・黄・黄・赤・・・・・・」
 「
12131415・・・・・・」
 「赤・黄・赤・青・・・・・・」
 「
252627・・・・・・」
 「黄・黄・赤・・・・・・」
 「8」
 「9・
1011・・・」
 「戻るなああああ!!!!!!」
 残り3球でなぜかいきなりほぼリセットされ、真斗がボールそっちのけで叫びだした。
 「あん? 何の事だ?」
 「何アンタもナチュラルに乗せられてんのよ!! ていうか誰!? 今江戸時代の蕎麦屋お笑い話的合いの手入れたの!!」
 『さあ?』
 「・・・・・・アンタらさりげに生きる知恵つけてきたわね」
 佐伯とリョーガはもちろん、なぜかリョーマとケビンにまで首を傾げられ、真斗はがっくりと崩れ落ちた。





 「あのすみません・・・・・・。今回ワイルドカードで出場する彼らって・・・
  ・・・・・・こんなものですか?」
 リポーターの、とても勇気溢れる質問。一応当事者らではなく見物していた3人になされたそれに、
 「ああ」
 「疑いようもなく」
 「こんなモンです」
 「・・・・・・・・・・・・。
  ――――――大丈夫ですか全米?」
 「普通の選手に期待された方がいいかと」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。そうします」





 ―――取材陣自らの手によって、ボツにされた。
 







 ―――リョーマの好みのタイプは『ポニーテールの似合う子』です。真斗は時々しかアメリカ来ないサエと違って5歳(即ちリョーマ3歳)の時からアメリカいます。普段は髪下ろしてますが、テニスの時は邪魔なので上に上げてます。
 ・・・偶然なのですが、リョーマのそれに被ったのはヒジョーにです。しかも姉ももちろん猫かぶり〜♪ 人前では大人びたお姉さん演じますよ〜。きゅんと初恋した挙句に双子の弟だとか言って来たのがアレで、その上弟の前で姉も本領発揮になったら―――まあリョーマの初恋はズタボロに終わるでしょう。今だにそのタイプを好みに出来るからには、真斗は対象外だった、と・・・。あ〜よかった・・・。

2005.4.1718