今大会最年少で全米のワイルドカード入りを果たしたリョーマ。彼をぜひ取材したいと、大会前から日本を中心に多くの報道陣が押しかけていた。
 「あ、あそこにいた!!」
 そんなこんなで、今日もまた1組の取材チームがリョーマを撮りに、彼らの練習しているコートへと近付いていった。





ルーキー テレビに映る




4.リョーマ・ケビン=男子シングルスのワイルドカード(それぞれ日本・アメリカ)。
  真斗=女子シングルスのワイルドカード(ドイツ)。
  跡部=(リョーマのみ)心配で来た。
  佐伯・リョーガ=身内の見物に来た。






 
 「越前リョーマく〜ん!!」
 呼びかけたリポーターの声は、
 見事なまでに無視された。
 今度は近付き、肩を叩く。丁度肝心のリョーマはコート脇で周りと話し込んでいたため、少し話す程度は問題ないだろう。
 「あの、リョーマく―――」
 「うっさい」
 「え・・・・・・?」
 「うっさい。ちょっと黙ってて」
 「・・・・・・はい」
 見向きもされず手だけで振り払われ少しへこむリポーター。ではそんなリョーマはどこを見ているのかというと・・・
 「いくぜ佐伯!
  ハッ―――!」
 丁度コートで始まった試合を見ていた。リョーガ対佐伯の試合を。
 いきなり放たれたツイストサーブ。リョーガお得意のこの技で試合を一気に握る―――
 ―――ほど佐伯は甘くはなかった。
 「はいっ!」
 同じツイストサーブでも、逆の手相手に打つと打たれた球は顔面に飛ばず逃げていく。佐伯は逃げようとした球をしっかり捕らえ打ち返し、
 「うあ。いきなりコードボールかよ」
 「大好きだろ? 前に出んの」
 ボールは佐伯から見て右端のネットに引っかかった。しかも引っかかって跳ね上がるのではなくぼてりと落ちるコードボール。普通ならここで試合は終わりだ。が、
 「ま、後ろからちまちまやり合うってのは俺の性にゃ合わねえからな」
 予め想定していたらしい。サーブ後即座に走り出していたリョーガは余裕で追いついた。落ちるボールにラケットを伸ばし、
 見上げたすぐ前に、同じくリターンダッシュをかけていた佐伯がいた。このまま打ち返せば佐伯はあっさり取る。ネット際にしゃがみ込んでいる以上ボールは上にしか上げられず、半端に超えたそれは佐伯にとって絶好のスマッシュチャンス。
 絶体絶命のリョーガ。だがそんな状況でも、彼はいつものふてぶてしい笑みを揺らがせる事はなかった。
 「知ってっか佐伯? 前に出るってのは―――同時に後ろががら空きになんだぜ!?」
 そんな台詞を掛け声に、ボールを打ち上げる。徹底して高く。
 ロブとして完全に打ち上げられた球。佐伯のコートに入る時にはもう手の届かない高さにあって。
 現時点とは対面を狙ったコース。驚いた佐伯の顔が上に上がり・・・・・・下りた時にはもう走り出していた。ボールに向かい。
 体のバネをフルに使う。追いつくか追いつかないかは瀬戸際といったところ。どちらにせよまともな体勢では返せない。ならば・・・
 「あんま、この手はやりたくなかったんだけどな」
 呟き、佐伯はラケットの持つ手を変えた。右手に持ち、ボールへとジャンプをし―――
 「佐伯ビーム!!」
 「うおわっ!?」
 いきなりの叫びに驚いたリョーガのラケットを、振り向きざま放った一応スマッシュ?が弾き飛ばした。
 空中でそのまま半回転しつつラケットを持ち直し、再びロブで戻ってきた球に今度は普通にジャンプしてスマッシュ。
 「ポイントアンドマッチ。ウォンバイ佐伯」
 こうして、あっさり1ポイントマッチの勝負は片を付けたのだった。
 跡部のコールを聞き、見ていたケビンはリョーマにぼそぼそと耳打ちした。
 「なあリョーマ、お前今の、どこまで返せた?」
 いくつものフェイントにテクニック。まるでチェスのようだ。相手の手を先読みし、どれが最良か選び出す。限りなく0に近いシンキングタイムで答えが導き出せなければそれは即座に負けを意味する。
 難しい顔で俯き、
 「コードボールは拾えたと思うけど・・・・・・」
 「俺ヤベえな。あそこで終わってたかも。
  お前は? ―――って訊くまでもねえか」
 さらに横に振るケビン。横にいた真斗が噛み付く勢いでぎっ!と睨みつけた。
 「アタシはアンタたちと違ってちゃんと返せますー!!」
 「んでリョーガとおんなじトコで駄目になる、ってか? アーン?」
 「ぐ・・・!!」
 にやにや笑う跡部に、真斗の言葉が一気に詰まった。
 「そういうお前も同じパターンで負けたよな?」
 「ぐ・・・!!」
 ―――そしてそんな跡部の言葉もまた。
 睨みつける2人は無視し、佐伯はリョーガへと手を伸ばした。
 「残念だったなあリョーガ。こういう手もあったりするんだよな」
 「はあ? 今の跡部クンの破滅への輪舞曲じゃねえか! 何であんな変則スマッシュになんだよ!?」
 「いや元のでも十分変則的だろ」
 「つーか何でてめぇが菊丸の技なんぞやってんだよ? ぜってー意地でもやんねーんじゃなかったのか?」
 「それに関しては言わせてくれ!
  ついこの間、つまりは
Jr.選抜合宿での事だ。ある夜、跡部が手塚を誘って深夜に秘密練習を行っていた」
 「何でてめぇがそれ知って―――」
 「何いいいいいいいい!!!???」
 跡部の疑問を遮り、リョーマが大口を開けた。跡部の腕を掴みがくがく振る。
 「手塚部長と!? 深夜の秘密練習!? 何で俺誘ってくれなかったんスか!? 俺だったら喜んでいくらでも付き合ったのに!!」
 「待てよ越前! そん時ぁまだお前メンバーに選ばれてなかったじゃねえか。ンな時に練習付き合わせちまって体調崩されたら困るだろーよ」
 「手塚部長だったらいいワケ!?」
 「当たり前だろ(即答)? 手塚なら別に寝不足と過労で体調崩そうが手塚班が迷惑するだけだ。あの班は竜崎コーチにいきなり倒れられて挙句監督変更で既に迷惑は被りまくってんだろ? 今更ちっと増えたところで問題もねえじゃねえか」
 「恐ろしいまでに自分勝手な解釈だったな。付き合う手塚も手塚だと思うけど」
 「そういやてめぇが何でンな事知ってんだよ?」
 「たまたま見つけてな。千石と2人で見物してた。千石は元々遅寝だし、俺は早寝早起きモットーだけど逆に1日貫徹位だったらどうにでもなるしな。第一ただの見物だ。こっちも付き合わされるんならともかく、その程度なら疲れないしな。
  んで2人で練習してた。それで手塚が跡部にこんな注意をしていた。
  『お前の技は確かに威力もあり狙いも確かだ。が、打つ前にそれだけ見据えていては相手に予告しているようなものだぞ』。
  そしたら跡部はこう答えた。
  『ンな事言ったってよう、俺は不二だの柳だのじゃねえんだから見ねえと打てねえぞ?』と。
  ―――ああコイツ本当の大馬鹿者だなあ、って千石と2人笑い噛み殺すのに必死だったよ。手塚も遠目にも呆れ返ってたし」
 「うっせえ!! 一言一句間違えずに覚えて挙句に感想つけんだったらさっさと用件言え!!」
 「うわアンタ本気でバカ?」
 「てめぇも言うか越前!?」
 「あ〜っはっはっはっはっは!! 本気でバカアンタ!!」
 「てめぇに言われたかねえよ真斗!!」
 「だよなあ。真斗は真斗で『相手に絶対先読みされない方法はズバリ目の動きを見せない事!!』とか言って濃いサングラスかけてむしろ自分が全然見えなかったとかいう逸話あるしなあ」
 「コジコジうっさい!!」
 「は〜っはっはっはっはっは!! てめぇもやってんじゃねえか真斗!!」
 「・・・どー聞いてもどっこいどっこいだろ今の勝負は」
 「ホント、何で俺の周りにはこういう馬鹿ばっかが集まってんだろーな、ってつくづく思うよ」
 「テメーがその筆頭だからだろ(ぼそり)」
 「ん? 行き過ぎた発言は身を滅ぼすんだぞケビン? ところで何か言ったか?」
 「いーや全く何も!」
 「そーかそーか。で、話は戻すが。
  そんなこんなで新たな技を作ってみようと思った」
 「なるほどな。さっきの跡部クンのアレンジもそういう事か」
 「技全体がフェイント扱いな。
  俺は『打つ前に見ない』っていうので行ってみた。振り向きざまなら意表はつけるだろ? しかもそれで狙い定めてピンポイントショットなんて普通思わないだろうし」
 『それだけ考えた成果が「菊丸ビーム」』
 跡部とリョーマに同時に突っ込まれ、理論武装で誤魔化そうとしていた佐伯の頬が僅かに赤くなった。
 「今はまだ開発中でたまたまそれと似た形になっただけだ! 完成した暁には絶対そうは見えないものにしようと―――!!」
 「・・・前から思ってたんだけどさ、アンタなんでそんなに英二先輩の真似だけ嫌がんの? 他の人のは普通にパクってんじゃん」
 常にない様子で熱く語る佐伯を遮りリョーマが首を傾げた。佐伯の技パクリ(本人曰く『自己流アレンジ』)はいつもの事だ。技が被ると普通なら盗んだっぽく見えて嫌がるが、佐伯はむしろ進んでパクる。同じ技を使い―――さらに1ランク上げてみせる。やられた本人への嫌がらせとしては最高レベルだろう。
 そんなリョーマに、
 佐伯はこう言い切った。
 「だって考えろよ。菊丸の真似だぜ? しかもそのまんま」
 「だから?」
 「となればセットでついてくる各種叫びもしないとダメなんだろ!? ビームだのバズーカだのしかも名前付けて!! 名称としてだけならまだしもそれ叫びながら打つってどういう神経だ!? むしろ気ぃ抜けるだろ!? ハタから見ててお前一回でもアイツア・ホ・だ・な〜って思わなかったか!?」
 「・・・・・・・・・・・・ちょっと思ったけど」
 「ホラ! つまりそれをそのまま真似ると俺まで同列に見られんだぞ!?」
 「つーかむしろてめぇの方が周りに心配されんだろ。菊丸ならまだ普段の言動から『コイツならちっと位アホでも可』っつー認識生んでるが、てめぇならあの辺りやりゃ一発で病院送りだろ」
 「だろ!? だからやりたくないんだよ菊丸の技は!! というワケで今のはただの偶然だ!!」
 「・・・・・・・・・・・・そー思うんなら叫ばなきゃいいじゃねーか」
 「何言ってんだよ!? 真似するんなら徹底して真似する! アレンジはどこかに元ネタありとわかりやすい部分を残す! それが真似する側としての礼儀だろ!? 完全別物にしちまったらただの『オリジナル』じゃないか!」
 「『オリジナル』にしろ普通に!!」
 「だってつまんないじゃんそれじゃあ!!」
 「てめぇはテニスに何求めてる!!!???」
 「そんな感じの辺り!!」
 「もーちっとマシなモン求めろおおおおおお!!!!!!」
 ぜ〜は〜ぜ〜は〜やり、
 とりあえず立ち直ったのは佐伯の方が先立った。
 手の平を上に出し、
 「というワケで、俺全勝したぞ?」
 『ゔ・・・・・・』
 佐伯の今更確認するまでもない宣告に、5人が同時に呻いた。この勝負はただの1ポイントマッチではない。ちょっとした賭けをしていたのだ。つまり―――



 ≪佐伯がここにいる他の5人を倒した場合、1人につき5ドル払う≫、と・・・。



 そしてケビンに始まりリョーマ、真斗、跡部と下され、リョーガが最後の砦だったのだ。
 「やっぱ金かかると無敵か・・・・・・」
 「はあ・・・。つくづく思うよ。青学対六角戦前にヘンな事持ちかけられなくってよかった、って。
  というワケで俺の分もよろしく跡部さん」
 「・・・・・・だろーと思ってたからもういいけどな」
 呻き、跡部が
10ドル札を出す。リョーガとケビンも泣きながらそれぞれ5ドルを佐伯の手に乗せた。そして・・・
 「えへv コジコジぃvv」
 「どうした真斗。熱中症か?」
 「違うわよ!! じゃなくてだから!!
  ここは姉弟に免じて―――」
 「2倍の
10ドル払ってくれる、と? さすが真斗。持つべきものは姉だなあ」
 「何でそーなるのよ!? 身内なら普通割引でしょ!?」
 「わかった。マイナス
20OFF15ドルで手を打とう」
 「だからそこで増やさない!!」
 「何だよワガママだなあ」
 「アンタよアンタ!!」
 「じゃあここは間を取って
20ドル、と」
 「どこの間取ったのよそれは!? 思いっきり端っこの極みじゃない!!」
 「そんな事ないぞ? 例えば
10倍して賭け金が50ドルだったとする。間を取れば本来なら25ドルだ。それを俺は姉というのを免除項目に5ドルも差っ引いてやった。こんなに親切な弟はいないだろ? というワケで感謝した姉は涙を流しながら弟の手にそっと倍額を乗せた、という展開だ」
 「何でそんなヘンに話進んでんのよ!?」
 「なるほどなあ。確かに金の鬼たる佐伯がそんな妥協してくれるなんて弟の愛だぜ?」
 「姉ならそういった弟の気持ちは汲んでやるべきだよな〜」
 「リョーガもケビンも何あっさり同意してんのよ!?」
 「当然だ。お前1人の死で俺たち全員が助かる。となれば1人を売り渡す事に何のためらいがある?」
 「アンタがむしろ鬼よ景!!」
 「駄々捏ねてないでさっさと払いなよ真斗。みっともないなあ」
 「1ドルも払ってないアンタに言う資格なんてないわよ!! アタシだってそんなに持ってるワケないでしょ!?」
 「なんだ
50ドルもないのかよ。ダメじゃん真斗」
 「1文無しのアンタに言われたくないわあああ!!!」
 「仕方ないだろ!? リョーガに交通費及び宿泊費全額負担するなんて言われたから喜び勇んで来れば食事なしホテル!? まだ周りに山だの海だのあれば適当に取って作るとしても、大都会のど真ん中となれば買うしかないだろ!? 持ち金なんてあっさり尽きた!!」
 「なんでそういうヘンなホテル選択すんのよ!? 普通の1泊2食付きにしなさいよ!!」
 「だってチビ助が泊まるホテルがそれだったんだぜ!? 同じ場所の方が何かと便利かと思って案内見ねえで予約しちまったよ!!」
 「というワケだから! 今日ここで稼げるだけ稼がないと本気で飢え死にするからな俺は!!」
 「自信持って言わないでよ! わかったわよ! 払えばいいんでしょ払えば!!」
 「よしよし。やっぱ世の中渡っていくのに必要なのは誠実さだな」
 「何がどう違うのか、その修正すらもう不可能な程に根本から徹底的に間違ってんぞ佐伯」
 「(無視)じゃあ真斗、
100ドル」
 「はい!?」
 「だから『感謝した姉は涙を流しながら弟の手にそっと倍額を乗せた』」
 「しとらんわあああああああ!!!!!!!!」




 その後、『誠実さ』はさらに『情熱』と『奸計』と『冷静さ』とその他いろいろとが組み合わさり、かくて佐伯は『足りない金を利子付きで貸す』という、何もせずとも儲かる方法を考案し、事態は一件落着となった。
 「もちろん借りた物を返さないなんて人として最低的行為をするヤツは人の風上にもおけず、よって人として扱われないので人の法には一切関与出来なくなるからなv」
 「・・・・・・どーいう意味?」
 「つまり、金返さなかったら殺されても文句言うなっつー事だ」
 「なるほどなあ。『人』じゃなけりゃ殺したところで罪には問われねえしな」
 「あああああああ・・・・・・。全米で賞金もらえないともう帰れない・・・・・・(泣)」
 「そんな事ないぞ? いざとなったら臓器売り飛ばして残りのパーツだけでも帰るって手もあるし」
 「お? 高い臓器っつったら心臓とかそこら辺じゃねえのか?」
 「諦める時期の問題だな。今すぐなら利子もまだほぼ0だから目片方くらいでお釣り来るだろ。あるいはそういうのが嫌なら銀行強盗とかに走る手もある。どうでもいいけど『走る手』って言うと矛盾してるよな」
 「・・・本気でどうでもよかったな」
 「いやあああああ!!! 至極真っ当に生きたい〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
 「ま、頑張れv」





 ―――倫理的に問題があるため、放送されなかった。
 







 ―――アニプリにて、リョーマが泊まっているホテルが食事なしと判明した瞬間思ったのは『それじゃサエ泊まれないじゃん!!』でした。・・・なぜこう誤った方向にばかり発展していくのか私の頭は。
 さて『ルーキー』4。もう試合もやらせてもらえませんかのルーキー。そして他の誰よりサエが壊れました。私の中のサエって一体・・・・・・。そしてさらにどうでもいい話題として、日々規則正しく生活している人は意外と1日貫徹位は平気だったりします。あまりにペースを乱されすぎたせいなのか、むしろ次の日はハイテンションになる・・・と。・・・・・・あ〜かつては自分もそうだったのになあ・・・。

2005.4.15