「ゲーム立海大付属! 0−1!!」
「な、なんだアイツら・・・!!」
「なんでこんな先回り出来んだ!?」
青学対立海大付属戦W1。ポイント40−0からの逆転に浮き足立つ青学一同。その中で―――
佐伯は口元に手を当てクッ、と笑った。
Who's "GYP" ?
この立海コールの中どうやって聞き分けたか、近くにいた六角メンバーのみではなく試合に齧りついていた青学メンバーまで振り向いてきた。それもかなり険悪な感じで。
(ま、仕方ないか)
苦笑ではない。微笑みでも、ため息の延長でもない。馬鹿にしたのだから。
口端だけを吊り上げ口よりむしろ鼻から息を吐く。つまるところ鼻で笑った佐伯に、桃が同じく口端を吊り上げた。引きつらせた、とも言えるが。
「何、スかねえ、佐伯さん・・・。今の笑い・・・・・・」
「別に? ただ―――」
言いつつ、ゆっくりと階段を下りる。最前列にて青学一同と並んだところで、佐伯は口に当てていた手を離した。その顔に浮かぶは完全に馬鹿にした笑み。
「菊丸学ばなすぎ。またひっかかってどうするんだよ」
『え・・・・・・?』
佐伯の言葉に苛つきも忘れ誰もが注目する。彼は今なにが起こっているのか完全に把握しているのか? それに―――
「『また』?」
「どういう事?」
眉を顰める不二へと、佐伯は今度こそ吹き出した。
「あれ? 不二なら気付いてるかと思ったよ。菊丸と一緒に食らったじゃん。俺に」
「まさか―――!!」
どうやら察したらしい。
(ま、これだけヒント上げればわかるほうが当然か)
今の状況と―――前回の試合、青学対六角戦W1での不二・菊丸ペア対自分と樹の試合を思い出せば嫌でも気付くだろう。あの時―――正確にはその中盤と同じ展開だ。
「偶然じゃない。読まれてるよ、菊丸の動き」
「読まれてるぅ!?」
「やっぱり・・・」
「だがしかし何をだ? 向こうは菊丸の何を読んでいる?」
それこそ『読む人』の代名詞たる乾が呟いた。佐伯が英二の動きを読んだあの試合。佐伯が動き出したのは第5ゲームからだった。『読む』ためにはそれ相応の時間、それ相応のデータが必要になる筈だ。だが、
「まだ1ゲーム目だぞ・・・? 元々菊丸に関するデータを持っていたわけでもないだろう?」
「だろうね」
コートチェンジを終え第2ゲームスタート。フォーメーションを変えてきた青学黄金ペアを見て、
佐伯は指を2本立てた。
「ヒント2つ。1つ。サインを読んでるわけじゃない」
「何・・・!?」
バン―――!!
「15−0!」
戸惑う一同。それを証明するように立海大に点が入る。
「さっきのフォーメーション、オーストラリアンフォーメーションの時だって前衛の菊丸がどっちに動くかはアイツの判断だっただろ? 見た限りじゃサインは送ってなかった」
「確かに・・・・・・」
黄金ペアにおけるオーストラリアンフォーメーションのスタイルは英二が自由に動きその穴を大石が埋めるというものだ。お互いの視野、そして性格を考えるとこのフォーメーションでは大石の指示どおり英二が動くよりもこちらの方がやりやすいからだ。
「そして2つ。俺みたいに筋肉の動きや目線を追ってるんでもない。乾はわかるだろ? 仕掛けるのが早すぎる。あの2人は菊丸の初めての動きに対しても対応してる」
「でもそれまでの動きから予測してるんじゃ―――!!」
「いいや」
「―――実体験から結論を言わせてもらう。無理だ。特にアクロバティックプレイヤーたる菊丸の動きは予測しづらい。『読む』に必要な量のデータを集めようと思えばかなりの時間を要する。敵を称賛するのもなんだけど佐伯の攻めですら早いと思った」
「そうかい? ありがとう。
うん。俺も無理だと思うな。これだけの動きで完全予測っていうのは。それこそ某帝王の『弱点探り[インサイト]』でもさ」
データマン乾の言葉となればその重みはかなりのものだ。しかもその乾に称賛される佐伯も、さらには観察眼に優れた―――と対手塚戦にて青学の誰もが思い知らされた某帝王こと跡部ですら無理だという。
「そんな事をあのペアはやって―――」
「だからやってないって言ってるだろ?」
佐伯の言葉に僅かに苛立ちが篭る。理解の悪い青学メンバーにというより・・・・・・
「佐伯、今さりげにプライド傷付けられた?」
「つまり―――」
「誤魔化すんだ」
しつこく問う不二からは目線を逸らし、
「それ以外の方法で菊丸の動きを読んでるってワケだ。
―――ところでよく見た? あの2人の動くタイミング、菊丸とほぼ同じだけど?」
「それがどうかしたのかい?」
「つまり『読む』―――菊丸の動きを予測するのはさらに前の段階でってワケだ。矛盾した言い方だけど、菊丸の動きそのものじゃない」
「ん・・・・・・?」
促されるままに全員の視線がコートへと向く。確かに仁王・柳生の動き出しは英二とほぼ同じ。予測した上で動いているのなら、彼らが見ているのはその前の動作―――
「あ―――!!」
「どうした、越前!?」
「わかった。『クセ』だ・・・・・・」
「クセ?」
「英二先輩、動く前に必ずそっちとは逆方向にラケット倒してるっスよ」
「あ・・・・・・!」
「そうか・・・! それを見てたのか・・・!!」
「だがわずか3球で見抜いたってのか・・・!?」
ようやくソレ―――英二のクセを見抜いたリョーマ。他の人に説明をする彼の横で、佐伯は面白そうに笑った。
「出来るから『ペテン師』なんじゃん? 騙すのが上手い奴は得てして見抜くのも上手い。まあその逆はどうかはわからないけど。
ああ、ついでに一応跡部の名誉保護のために補足しておくよ。俺が読めないっていったのはあくまで動きそのものからの事。アイツなら見抜いただろうね。ペテン師と同じか、あるいはより早く」
最も―――見抜けはするが見抜きはしないだろう。跡部はわざわざ相手の先読みなどせずとも普通に勝つ。・・・・・・先読みするのが弱者の姑息な手だという事でもないが。
「でもクセなんてどうしようもないじゃんか!!」
なんだか騒ぐ応援者等(そういえば自分等の試合の時もいたか?)を横目で見やり・・・・・・
見やるだけで佐伯はもと来た階段へと踵を返した。
「ちょ、ちょっと佐伯さん!」
「ん?」
始まりも彼なら終わりも彼。桃に止められ、肩越しに振り向く。
「何だい?」
「何って・・・、言うだけ言って終わりっスか!? そこまでわかってんなら対処法とか―――」
敵に助けを求めるというのも恐らく彼の精神が許さないであろうが、溺れるものは何とやらといったところだろう。
さしてこの辺りに拘りはない佐伯は―――
あっさりと肩を竦めた。
「さあ。クセだしどうしようもないんじゃん?」
『何しに来たんだアンタ!!』
「え? 解説? なんか青学の見てると面白そうだったし」
みんなの突っ込みに笑顔で答える。凄まじいまでの役に立たなさっぷりに冷静さを取り戻しかけていた青学一同が再びパニックに陥った。
「どーすんだよこれから!!」
「どうしようもないだろクセなんだから!!」
「じゃーこのままストレート負け!?」
傍から見る分には笑える場面。見て、
佐伯は特には笑わなかった。
「菊丸はクセ以上に『どうしようもない』もの―――筋肉の動きなんてのを読まれても攻略したよ? もうちょっと信じたら? チームメイトなんだろ?」
『あ・・・・・・』
言うだけ言って、今度こそ去っていく佐伯。階段を昇る彼を、一同は誰も見送らなかった。
彼らの目は、己との戦いに不安げな顔をする英二へと注がれていた・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
階段を昇りきり。
「敵に情けか? 随分青学に入れ込んでんじゃねーの」
「跡部・・・・・・」
六角赤ジャージの隣でさも我が物顔で居座る制服姿の男―――跡部の姿を確認し、佐伯は特に他に言うべき事を思いつけずとりあえずその名を呼んでみた。
呼んで、出来る数秒の空白。その間に向きを変え、先ほどと同じ位置へと収まる。幸か不幸か、跡部の隣へと。
「特にそういうワケでもないけどね。ただ気付いた事をそのまま伝えた。それだけ」
「それを『肩入れ』っつーんだよ」
「ははっ。そうかな?」
実りの無い会話はさっさと終わらせ、試合観戦へと戻ろうとした。と、
「でもよく気付いたな、サエ」
「え? 何が?」
「ま〜たまたそんな謙遜しちゃって。菊丸さんのクセですよ。青学のみんなですら知らなかったじゃないですか」
「ああ、あれか」
頷き――――――爽やかに笑う。
「気付かなかったよ。越前に言われるまで」
『え・・・・・・?』
爽やかに告げられた事実に、よいしょしていた黒羽と葵のみではなく、天根、さらには跡部まで思考を停止させた。
「俺がわかるワケないじゃん。毎日一緒にいる青学の奴等ですら気付かなかったってのに」
「えっと〜・・・・・・」
「それじゃ・・・立海の手、見抜いたのは・・・・・・」
「仁王に聞いた」
『は・・・・・・?』
今度硬直したのは六角メンバーのみだった。
「青学に負けて以来コイツが暇だ暇だって毎日うっさいから―――」
「言ってねえだろ一言も!」
『コイツ』、跡部が佐伯を殴ろうと腕を振るう。しかしそれこそ先読みしたのか軽く避け、佐伯は先を続けた。
「それで立海大に遊びに行ったんだけど、そこで仁王の練習見て」
「あれ? でもその割に不二は知らなかったみたいだよな」
跡部と佐伯がいて不二―――とついでに千石―――が絡まないワケもないだろうに。
首を傾げる黒羽。さらには―――
「ンな事言ってたか?」
跡部もまた同じような反応をしてくる。
「ああ、お前ずっと真田と話してたからな。不二も丸井といたし。俺と千石だけの時だよ。俺は動きの予備動作で予測するけど、クセで予測するなんて手もあるんだ・・・って事で話あったから」
『・・・・・・・・・・・・』
「うん。でも確かに有効みたいだね。今度俺も試してみよっかな。攻めるのが早くなる」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「―――どうした?」
「いや・・・」
「別に・・・・・・」
きょとんとする佐伯からは視線を逸らし。
六角メンバーはため息をついた。つまり予め知っていた上でさも今気付きましたので教えます的『親切さ』でもって解説したらしい。この男は。
「もしかして『ペテン師』って・・・・・・」
「サエの方が当てはまんねえ・・・・・・?」
そんな感想を漏らす彼らを、跡部は僅かに細めた目で見やるだけだった。佐伯のこの辺りの性格に関してはもーよ〜くわかっている。この程度は日常茶飯事だ。だからこそ彼はよく知る者にこう呼ばれる―――『なんちゃって好青年』と。
「だが、教えねえで高みの見物ってのもよかったんじゃねーの? ワケもわかんねえで混乱する奴等鼻で笑ってやんのはてめぇの専売特許だろ?」
「それはお前だろ?」
跡部の言葉に佐伯が苦笑する。苦笑した、その笑みが―――
―――最初のそれに戻る。
「それに―――
ワケもわからず混乱するよりはワケがわかった上で混乱する方が見てる側としては面白い」
「うわ・・・・・・」
「ワザとかてめぇ・・・・・・」
「ワザと? やだなあ。親切心さ。
青学だって馬鹿ばっかの集団じゃない。その内嫌でも気付いただろ? 俺はそのタイミングを早めてやっただけだ」
「サイアクだね、サエさん・・・・・・」
「ん? 剣太郎、お前も同じ目に遭いたいのか?」
「いえ全然滅相もございません」
両手をぶんぶん振りどこまでも後退する哀れなルーキーを助ける気0で見送り、一同の視線はこの男―――現在「さ〜ってどっちが勝つかな〜?」などとホザきつつ実に楽しげに試合を見下ろす彼へと戻された。
全員揃ってため息をつく。
「もしかしなくても一番の『ペテン師』って・・・・・・」
「仁王じゃなくて―――」
「佐伯決定だな・・・・・・・・・・・・」
―――彼なら余裕で悪魔に魂売り渡せそうだ・・・・・・
・ ・ ・ ・ ・
はい。アニプリでは随分原作と違う流れをしました青学対立海大付属W1。原作で黄金ペアがより絆を強めていたっぽいのでケンカしてるアニメ見て思いっきり首を傾げましたがわ〜大石が英二かばった〜!!! しかも英二見る大石の目がなんか息子の成長を喜ぶ母親だったよ! 英二は英二で泣きそうだったしてか泣いてたし! 大石がいつ頭撫でるのかとめちゃめちゃ期待してしまいました!!
さてそんなワケなのか? 青学対立海大編。実は一番の楽しみは毎度無意味に出てきて最早台詞もなくなったサエにあったりするのですが・・・・・・、色々突っ込みたいぞアニプリ・・・・・・(泣)。なんでブン太の得意なものがライジングに・・・? てかジローは1回たりともライジングは使ってねーだろ・・・・・・。
そしてW1。話で載せました通り―――英二、同じ手で乗せられるなよ・・・・・・。なんっか原作とは違う話を、と考えた結果アニプリに無理が出てきているような・・・・・・。しかもサエ相手ではちゃんと攻略しようと頑張れたのに英二・・・。退行してどーするよ・・・。やっぱ大石がペアだと不二がペアなより甘えが出るのか・・・? と考えるのは菊不二兼大菊推奨だからでしょうか・・・?
しかしいいのさ。アニプリは仁王がかっこよかったから!! いや原作がどうかと言われますと実はこっちもほとんど見ていない(またまた爆)。コミックス派のため原作は1回流し読みしてるだけだったり。はっはっは。でもいいな〜仁王。柳生に抜き去られても見守る立場を取り、それでもちゃんとサポートして。器おっきいな〜・・・・・・。
―――ってこのノリでいくと私仁王Fanになるのか・・・・・・? いやいーですけどねもちろん・・・・・・。最近? 原因不明で好きな人が多すぎるような・・・・・・
2004.2.21