青学の勝利にて終わりを向かえた関東大会決勝戦。
 リョーマの回復を待って、不二がこんな提案をした。
 「ねえ、もう一試合の方見に行かない?」
 「もう一試合?」
 「3位決定戦か!」
 「でも、もう終わってんじゃないっスか?」
 「大丈夫。さっき確認したら、こっち以上に縺れ込んでるみたい。今S1だって」
 「S1というと・・・・・・」
 「橘対佐伯戦だって。どう? 見に行かない?」







『全国』の話








 「後1ポイントっスよ橘さん!!」
 「お兄ちゃん頑張って!!」
 沸き立つ会場。それもその筈、現在ゲームカウント5−2で橘が王手を掛けた状態。共に全国出場を決めている以上ただの順位決めだが、それでも全国でもまた当たる可能性がある以上今の内に勝っておきたいものだ。またどちらが勝つかにより全国大会の見方も変わるというもの。盛り上がらないワケがなかった。特に今年のダークホース、不動峰応援者たちは。
 そんな中―――
 「おい佐伯〜」
 フェンスの外から黒羽が声をかける。その顔に浮かぶはただの『呆れ』。決して絶望や諦めではない。そして、それは他の六角メンバーも同じだった。
 集まる視線の中で、
 「わかってる」
 佐伯は手を上げ、軽く答えた。
 橘に向き直り、
 「今日は相方[メイン]もいないからな。見せ場の一つくらいは作っとかないと」
 「・・・・・・お前がいつ脇役に回ったよ。
Always主役が」
 「そう? 俺むしろ裏方派だよ? ていうか参謀派? だから副部長なんじゃん」
 「この上なくヤな裏方だな」
 「お前の作った舞台じゃぜってー踊りたくねえ」
 「酷いなあ亮まで」
 「はいはいいいからさっさとやれって副部長だか参謀だかどれでもいいからゲームメイカー」
 「ゲームメイカーか。それいいな。今度からそれで行くか」
 『止めてくれ・・・・・・』
 一同の声を声援代わりに、今度こそ橘と向き直る。
 「―――もういいか?」
 「その言い方止めてくれないか? 『ああ、満足だ』とか答えなきゃいけないみたいじゃん某帝王ちっくに」
 「・・・・・・。
  なら、いくぜ!」
 「無視かよ」
 それはともかくとして、橘から1球が放たれた。ラストの1球―――おおむね誰もがそう信じて疑わなかった1球。
 打つなり前へ出てくる橘。強力なサーブに力負けしたか、返す佐伯の球は浮いていた。橘にとって絶好のチャンスボール。ラケットを振り上げ―――
 「―――っ!!」
 ぎりぎりで構えを解く。疑問に思う周りに対し、
 「へえ。さすが橘。良い判断してるな」
 同じく打つなり前へ出てきていた佐伯がにやりと笑った。球は浮いたのではない。わざと勢いを殺されたのだ。佐伯が前に出るために。もし気付かずスマッシュを打っていたなら、走り寄ってきていた佐伯にその勢いのままボレーで返され終わっていた。
 「だが――――――後ろががら空きだぜ!!」
 前に出れば、当然後ろは空くわけで。橘はスマッシュの代わりに解いた構えでロブを打ち上げた。前に走り寄っていた佐伯が今更後ろに戻れはしない。いくらフットワークが良かろうが、完全に逆方向に動く際は慣性の法則というものが邪魔をし一瞬体が止まるものだ。
 決定的な1球。それこそ誰もがこれで終わりだと思った。
 ―――佐伯当人を除いて。
 「なら・・・後ろに行かせないまでさ」
 「何!?」
 走っていた勢いを利用しいきなりジャンプ。踏み込みを始めとした準備一切なしの飛翔でありながら、空中高くにある彼の体は全く体勢を崩していなかった。驚異のバランス感覚と足腰の力により成される曲芸。
 「ま、普段あれだけ砂浜で遊んでんだ。ちょっとの体勢崩れくらい何ともねえだろうな」
 「それにバランスについちゃお墨付きだろ。じゃなきゃ裏必殺技がかかと落としなんかにゃなんねーだろうよ」
 ボールが上に上がる前に追いつく。橘を前に出した本当の理由は、ロブが上がりきる前に自分のコートへ入れるためである。
 「ダンクスマッシュか!?」
 不動峰の誰かが声を上げた。警戒して橘もまた体勢を整える。
 前へ跳び打ち下ろす事で通常のジャンピングスマッシュの数倍の威力を放つダンクスマッシュ。細身の佐伯が打ち放ったものだとしても、足腰を固めなければ打ち返すのは無理だと判断したらしい。
 それが―――命取りとなるとも知らず。
 なお上がろうとする球を振り下ろしたラケットで強制的に止める佐伯。さらに下へと―――
 ―――打ち下ろさなかった。
 ぽぺんと情けない感じで弾かれた球は愕然とする橘の頭を飛び越え、ラインぎりぎりへとゆっくりと下りていった。今更後ろに走ってももう追いつけない。
 「残念外れ」
 球に次いで落ちてくる佐伯。今度は膝を曲げ充分に威力を逃しながら、小さく呟いた。
 「後ろががら空きなのはお前のほうだよ、橘」
 起き上がる。そこに浮かぶのは、紛れもない狩猟者[ハンター]の顔。
 「で、後どれだけだって?」







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ








 青学が駆けつけたとき、そこにあったのは尋常な光景ではなかった。
 『サーエ! サーエ!!』
 『サーエ! サーエ!!』
 「にゃんだあ?」
 会場中から沸き起こる佐伯コールに英二がきょとんとした。周りが一丸となって1人の応援をする。普段はまず見られない光景。唯一あるのが氷帝の跡部に対してだろう。
 「でも、なんで他校生まで応援してるんスかね?」
 桃もまた首を傾げる。その答えは、すぐ出てきた。
 「ゲーム六角! 5−5!!」
 「凄げえ!! ついに並んだ!!」
 「嘘だろ!? だってマッチポイントまで追い込まれてたんだぜ!? そっから何ゲーム取ったよアイツ!?」
 「3ゲーム連取!! 見ろよ! 向こう手も足も出てないぜ!!」
 「凄げえよ佐伯!! もう完全にワンサイドゲームじゃん!!」
 「てゆーか今1ゲーム何分で終わったよ!?」
 「2分だぜ2分!!」
 「マジかよ!? 最初っからこのペースだったら立海の切原の記録塗り替えてたんじゃねえか!?」
 「ハア!? 信じらんねえ!! アイツ勿体ぶりやがって!!」
 「かっけー!!!」
 『サーエ! サーエ!!』
 周りあちこちからそんな声が聞こえてくる。
 「どういう事、っスか・・・・・・?」
 「橘が・・・手も足も出てない・・・・・・?」
 慄く一同の中で、不二が真正面―――ようやっと現れたコートを見下ろし、呟いていた。
 「英二・・・、別に君を侮辱するつもりでもないし僕も負けを認めるわけじゃない。それだけは念を押しておくけど・・・・・・」
 「不二・・・?」
 常にはない不二の様。思い詰めたような彼の目に映るは、もちろん現在劇的な逆転をし、見る者すべてを魅了しているかの男。
 「―――六角戦のD1、僕らが勝てたのはただの偶然以外の何者でもないよ」
 「え・・・・・・?」
 英二の呆けに答えるように、
 「ゲーム六角! 6−5!!」
 きっかり2分後、再び響く審判の声がさらなるどよめきを生み出した。







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ








 「―――で!?」
 「え? 何?」
 「だから!! 今の状況でなんでお前ラスト落とすんだよ!?」
 「おかげでタイブレークにまでなっちまっただろ!? 普通に勝てよ7−5で!!」
 六角サイド。フェンスの外では黒羽と亮が唾を撒き散らして怒り狂っていた。それはそうだろう。2人の解説どおり、5−2から一気に4ゲーム取った佐伯は、その後一気に1ゲーム落とした。おかげで現在タイブレークのための準備をしていたりする。ガス欠並みの突発的展開に、実際ゲームを取った橘すらも事態についていけなかったようだ。
 一方それの仕掛け人は飄々としたもので。
 「だってそのまんま勝っちゃったらつまんないじゃん。せっかくS1まで来たんだし、やっぱそれ相応に盛り上げないと悪いだろ?」
 「お前の逆転劇で充分に盛り上がってたんだよ!! 水差したのはお前だ!!」
 「まあそう固いこと言うなってv 要は勝てばいいんだろ? 任せとけ」
 おちゃらけたその様。とても本気で勝とうという意志は見られない。
 「お前なあ・・・・・・」
 最早何を言っても無駄だろう。頭を掻いてため息をつく亮に代わり、黒羽がじっと佐伯を見つめた。
 真剣な声音で、言う。
 「佐伯。確かにこの試合はただの順位付けだ。勝とうが負けようがどっちにしろ全国行きは決まってる。でもな―――
  ―――俺たちは勝ちたいんだ。それで何が得られるのかとかそういうのは関係なくって、ただ勝ちたいんだ。だからお前まで回したんだ
  だから―――」
 絶対勝て。その言葉は、再び上げられた佐伯の手により止められた。
 「わかってる」
 それはまるで先ほどの再現。だが先の展開は違った。
 「けどな・・・」
 今まで口の中で弄んでいたストローを離す。自分自身を見せるように下げた両手を広げ、
 「これが俺なんだ
 そんな事を言ってきた。
 「俺が俺である限り、俺そのものは否定出来ないよ」
 さらに目を閉じ苦笑し、続ける。
 「青学の天才の元の台詞じゃないけど、俺は俺が楽しめればそれでいいんだ。勝敗は関係なしに、ただ俺が面白ければいい―――そう思ってたんだ」
 「『思ってた』?」
 佐伯の言葉に―――その青学の天才が反応した。
 それを耳聡く聞きつけ、佐伯がそちらを向く。薄く、柔らかい笑みで。
 「見に来てたんだ。僕の試合」
 「興味があったからね。さすがにウチも試合中だったから全部は無理だったけど。
  ―――勝ちに拘るお前は初めて見たよ。随分楽しそうだったね、不二。そんな様を見せられると、もしかしたら勝ちに拘るのもまた面白いのかもって思えるよ」
 「そうだね。面白いよ。面白いんだ。僕も初めて知った」
 「そうなんだ。なら俺も試してみようかな。
  ――――――また今度」
 「おいサエ!」
 負ける気満々ちっくな佐伯の言葉に、黒羽が思いっきり突っ込んだ。コイツは一体何を『わかってる』んだ?
 またしてもフェンスにかじりつく黒羽に、今度は上げた手をぱたぱたやる気0で振る。
 「言っただろ? 大丈夫。この試合はちゃんと勝つって。そうしないと帰りコンクリ詰めで東京湾捨てられそうだし。
  ただ『勝ちを狙う』のはまた今度―――もっと面白い相手の時にしようかなって言っただけさ」
 『おい!』
 今度突っ込んできたのは不動峰の面々だった。橘の侮辱とも取れる―――どころかそれ以外には取れない発言を前にすれば当然の反応だろうが。
 橘もまた、視線厳しく佐伯を見やった。現在はもちろん違うがかつての九州2強としてのプライド。自分がつまらない相手だと思われるのは嫌だった。
 睨めつける橘を見返す佐伯。その顔に浮べられていた笑みは、先ほど自分の事を語った時とはまた違っていた。
 面白がる目つき。かつての知り合いを思い出させる。
 佐伯が言葉を繰り返した。
 「もっと面白かったら本気出してあげるよ
 「お前まさか―――!!」
 方言により詳細は多少異なるが、それはかつて言われた言葉だった。自分にそれを言った存在は、今は遠い九州の地。なぜそれと同じ言葉を佐伯が言う? 偶然か? それとも・・・・・・
 しかしながら、その答えを持つ主は―――
 「さ、そろそろ始めようか、タイブレーク」
 「あ・・・、ああ」







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ








 「お!? ついにアイツの反撃か!?」
 「だがやっぱ凄げえよ佐伯! 2ポイント放されねえ!!」
 「いつまで続ける気だ!?」
 「こりゃキツいぜ! 先に参ったほうの負けだな!!」
 やはり盛り上がる周り(青学陣含む)を見やり、
 リョーマはため息をついた。
 「みんな何見てるワケ? 明らかにアノ人手ぇ抜いてんじゃん」
 「どういう事だ? 越前」
 「ふふ。よくカウント考えてみなよ海堂。さっきから全部橘が先にポイント取って、それを佐伯が追い上げてる」
 「はあ・・・、そうっスね」
 「つまりアノ人、次のポイント取る自信があるからわざと先に落としてるんスよ」
 「でもおチビ、それって意味なくない? だったらさっさと7ポイント取っちゃえばいいんじゃないの?」
 「俺が知るワケないでしょ? アノ人の考えなんて。
  不二先輩に聞いた方がいいんじゃないっスか? 同類みたいだし」
 「同類、ねえ・・・・・・」
 くつくつと不二が笑う。確かに先ほどの話を聞く限り自分と佐伯が同類だと思うのもわからなくはない。ただし・・・
 「どちらかというと佐伯は千石君と同類だと思うよ。試合に対して妙な『遊び』を入れる。
  ―――多分ポイント
3836まで引っ張るつもりじゃないかな?」
 「
3836?」
 「手塚対跡部戦で出た、大会記録にプラス2ポイント。さすが負けず嫌いな佐伯だけある。内容はともかく記録の面で跡部に勝つつもりだろうね」
 「だが、それは随分な危険行為じゃないか? ヘタをすればそのまま負けるぞ」
 「せめて自分が1ポイント取ってから橘に取らせた方がいいんじゃ・・・。一瞬の油断が命取りになるぞ」
 「一瞬の油断?」
 不二の笑みがさらに大きくなる。こらえきれないように肩を震わせ、
 「そんな事はないさ。あるわけがない。
  言っただろ? これは遊びだよ。そして―――
  ―――佐伯も千石君も、『遊び』に全力を注ぐタイプだ。決してミスは犯さないよ。それこそそれは自分を否定する意味となる」
 「ほへ〜」
 「何て言うか、
  ・・・・・・橘も大変な相手に当てられたな」
 「確かに・・・・・・」
 ハハハハハ・・・、と乾いた笑いが響く。同情と―――自分達が被害に合わなかった喜びで。つくづく自分達のところには不二がいてくれてよかった。







ψ     ψ     ψ     ψ     ψ








 「ゲームセット! ウォンバイ六角佐伯! 7−6!!」
 「ほんっと〜に、その通りに終わったし・・・」
 「橘さんが抑えられた!?」
 「え・・・? 佐伯さんって実は全国区?」
 いろいろと腑に落ちない不動峰一同+青学陣。
 そこへ・・・・・・
 「―――なんね、いまん試合? 今年の関東はショボかね」
 カラン、とゲタ音を響かせ、近付いて来た男がそんな事を言い出した。
 「おいちょっと待てよう!! そこのデカいの!?」
 激昂した神尾の声に、橘もまたその存在に気付く。
 呼びかけようとして―――
 「よっ。千歳。久しぶりじゃん」
 「久しぶりじゃの佐伯。相変わらずのえげつない試合じゃけんなあ」
 「見てたんだ?」
 「立海対青学終わってからじゃがな。幸村と手塚おらんと、面白ないか思たがそんな事もなかとね。お前らが買っとった不二と越前、どっちもええ試合しとったばい」
 「お? そうだったか? 不二は見てたんだけど越前のは見てないんだよな。俺も丁度試合だったし」
 「驚くなかれ。あの皇帝・真田に勝っとった」
 「へえ。そんなにかあ。そりゃ見てみたかったな」
 「千石だけじゃのうて跡部まで買っとった理由がよくわかとよ。むしろお前が不二しか勧めんかった理由がわからん」
 「深い意味はないんだ。ただ越前の試合あんま見た事ないから勧めなかっただけで。跡部まで勧めてたってのはちょっと驚きだけど、どうせ千石が勧めるからいっか、って思ったし。
  でも跡部が越前を、ねえ。手塚しか目にないのかと思ってたよ」
 「俺もヤツの考えはようわからん。去年は手塚手塚うっさかったんにのう。
  じゃが―――」
 現れた男―――千歳の視線が佐伯から不二へと移った。
 「僕・・・?」
 「惜しいのお不二。せっかく『目覚めた』んに切原はちょ〜っと役不足だったばい」
 「幸村相手だったらもっと面白そうだったよな。実のところ俺の理想としては真田対手塚、切原対越前で幸村対不二がよかったんだけどなあ。もちろん無理だけど」
 「全国に期待、とね。もちろん無理じゃけんど」
 くっくっくと笑う2人。とりあえず知り合いの方にと、不二は佐伯に話し掛けた。
 「ねえ佐伯、彼って・・・・・・」
 「ああ。そういや会うの初めて? 九州2強の1人、千歳だよ。多分全国に向けてこっち来たんじゃないかな?」
 「『元』九州2強ばい。今は桔平おらんから俺1人なんよ」
 「・・・ああ。やっぱ橘だよなあ? 『九州2強』の1人って」
 「そうじゃのう。じゃが―――」
 再び動く千歳の視線。今度向けられたのは橘だった。
 「桔平、弱くなったばい。1年前の方が強かったんじゃなかと?」
 「む・・・」
 「だな。俺もお前と同レベルって感じの言われ方してたから結構警戒してたんだけど―――あんまその必要なかったや。
  まあ尤も・・・
  ・・・・・・切原相手に1ゲームしか取れなかったって聞いた時点で予想はしてたけどさ」
 「マッチポイントまで行かせたんは『警戒』の証とね?」
 「ホラ、俺慎重派だから。様子見はしっかりしないと」
 「本気で聞いてて飽きんのうお前の理屈は」
 「ははっ。跡部に聞かせたいよ今のお前の台詞。アイツ俺の理屈聞いてるとす〜ぐ頭痛くなるなんて言い出すし」
 「ヤツも真面目じゃから。適当に流せばいいところをいちいち蒸し返す」
 「それじゃまるで俺の話はまともに取り合う価値がないみたいじゃないか」
 「お前と千石の話は真面目に聞くと頭が腐る。流さんから跡部と真田が倒れる。合宿所から救急車で送還されたヤツらの哀れな姿思い出すとますます聞く気なくすばい」
 「ひっどいな〜。お前友人甲斐ないぞ? てゆーか真田が倒れたのは切原と仁王と丸井と幸村っていうかこうなると立海全員のせいだろ?」
 「・・・いつから関東は面白集団になったとね? でもってとりあえず俺はいつからお前の友人になったんじゃ?」
 「お前も関東来るといいよ。ますます関東が『面白集団』になる。でもって俺は基本的に1度でも会ったヤツは『友人』だって思うようにしてるんだよ。そこからカウントすると1年弱前ってトコか?」
 「1年弱前。懐かしいのう、
Jr.選抜。アレの1番の成果は関東のアクの強さがよくわかった事じゃな」
 「―――
Jr.選抜!?」
 「じゃあまさか佐伯って・・・!!」
 会話の中の聞き慣れたフレーズに、青学一同が反応した。確かに今まで会話に出てきたメンツ―――千石に跡部、立海一同とくれば共通点はそれだろうが。
 驚く一同に対し、
 佐伯もまたきょとんとする。
 「あれ? 不二、言ってなかったの? 初日から散々メール送ったじゃん」
 「ああ、いろいろ来たね。
  ≪手塚の代わりに不二が来るのかと思ったら千石が来てムカついたから6−0で片付けた。千石が泣き言洩らしてくるかもしんないけど気にせず流しといて≫とか、
  ≪跡部がスマッシュ練習で俺ばっかり狙うんだけど俺なんかアイツに恨み買う事したっけ? とりあえず輪舞曲
30回失敗した時点でそろそろ諦めるべきだとつくづく思うよ≫とか、
  ≪今日仁王とダブルス組んで試合したんだけどなんでか相手チーム途中で棄権しちゃったよ。せっかくこれからがいいところだったってのに≫とか、
  ≪切原ってからかいがいあるなあ。何気に赤目モードのアイツはいい練習相手になるよ。オススメ≫とか何とか。
  
Jr.に選ばれたって言っても代理だし、それにあんまり噂ばっかり先行させてプレッシャーかけても仕方ないかな、って思って黙ってんだけど。
  ―――そういえば九州のほうの代表で面白い人と知り合ったって言ってたけど、もしかしてそれが彼?」
 「そうそう。面白いだろ?」
 「そうじゃな。関東だと有名どころは立海除けばせいぜい氷帝の跡部が青学の手塚程度かと思とったが、去年は随分面白い代理が用意されとったばい。桔平も惜しい事したのう。もう少し引越しが遅ければ
Jr.でコイツらに会えたきに」
 「・・・・・・俺達の実力は思いっきり無視か?」
 「俺に勝ったら考えてやるばい」
 「タイブレークまで持ち込んだじゃん」
 「そこであっさり負けたら意味なかと」
 「仕方ないだろ? 跡部に『タイブレークで絶対負けろ』って理不尽に念押されてたんだから」
 「・・・・・・お前何したとね?」
 「俺のせいか? 俺はただその前の対跡部戦、タイブレークで飽きただけだぜ?
  怒られたからとりあえず『俺プレッシャーに弱いんだ』って言ったんだけど、そしたら『じゃあてめぇはタイブレークで全部落とすんだな? 間違いねえんだな? ああ!?』って脅されて。そんなワケで。
  なのにアイツもっと怒ったんだよな。な? 理不尽だって思わないか?」
 「・・・・・・・・・・・・苦労しとるのう跡部」
 ため息をつき、
 千歳がふいに顔を上げた。
 「そうじゃ。話戻すけど今年の関東妙にショボいのう? 何かあったとね?」
 「あったといえばあったかな? 幸村・手塚は現在療養中。千石はかろうじてコンソレで残ったけどそんな感じ。挙句に跡部は関東1回戦リタイア。よくよく考えるとかなり寂しい事になってるよ」
 「なんね。関東ガタガタじゃの。全国どうすっと?」
 「さあ? ウチには何にも影響ないからいいかな〜っと」
 「お前も酷か男じゃのう。跡部との試合楽しみにしとったんよ? 俺」
 「だったら氷帝行って来いよ。今ヒマだろうからいくらでも相手してくれんじゃん? 『
Jr.の雪辱戦』とかそんな感じの名目つけとけば確実に」
 「しつこい男は嫌じゃ。それに去年の全国と合わせるとこれで1勝1敗。勝手に俺の負けにするんじゃなかとよ。
  じゃから今年楽しみにしとったきに。中学ラストはどっちが勝ちよるんか」
 「そりゃご愁傷さん。じゃあ代わりに俺が倒してあげよっか? 橘もろとも。
  ああ、そうそう。さっきの話の続き。
  ―――氷帝と山吹倒して関東ガタガタにしたのがその橘率いる不動峰。おかげで大番狂わせが起こってこうなったんだけどな。関東じゃダークホースとして有名だよ。当たると楽しいんじゃん?」
 佐伯が目で不動峰を指す。合わせ、千歳の目も動いた。
 もう一度橘へと向けられる視線。すぐに戻し、軽く首を振る。
 「苦しいのう。佐伯はともかく桔平の今の実力じゃ楽しむモンも楽しめん。それにウチに当たるまで残れるん? 不動峰も六角も、立海と青学にボロボロにやられたいう噂聞きおったよ」
 『何を〜〜〜〜〜〜!!!???』
 不度峰と六角、両方の部員(の中で血の気の多いヤツ)が突っかかろうとする。それを互いのS1選手が止めた。
 『橘さん!』
 『サエ!』
 「止めておけ。アイツの言い分に一理ある」
 「ま、確かにな。去年・一昨年、立海に続いて全国準優勝校のエースが言うんだ。そりゃ正解だよな。去年は氷帝相手に3連勝だっけ? せっかくあの跡部がS3まで下りてきたってのに」
 「俺もS3まで下りた。条件は互角じゃけん」
 「でもな―――
  ―――そういう油断は禁物だぜ? 証明したのが青学であり不動峰だろ?」
 佐伯の雰囲気が一転する。吹き荒れる冷たい風。先ほどの千歳の発言、最も頭に来ていたのは佐伯だったという事か。
 真正面から全てを受け止め、その上でなお千歳は笑い続けた。
 「自分の学校[トコ]はフォローしなか?」
 佐伯の怒気が一瞬で霧散した。自分のコントロールはちゃんと出来ているようだ。ここで出来ないようでは試合中など問題外だが。
 元の好青年の笑み―――ではなく世の全てを楽しむ笑みで、佐伯が答えた。
 「俺がフォローすると嫌味になるみたいだからな。でも代わりに―――
  俺もS3で待ってるよ。当たる時は下りて来いよ?」
 「自信があるのかないのか疑問な台詞ばい。まあ構わんよ。お前がS3じゃと伝えとくと必然的に俺がそこに当てられる」
 「奇遇だな。俺もそんな感じだよ。厄介払いって感じで。だから立海と試合したくなかったんで青学戦負けといたんだけどな。剣太郎が負けたのはさすがに予想外としといて、亮と越前だとどっちが勝つかわかんなかったからな。確実に負けとかないと」
 「お前誰と試合したくなかと?」
 「仁王と。絶対ヘンなドロ沼戦になってた」
 「あえてコメントはせん」
 「ついでに不動峰が山吹に勝ってくれてよかったよ。千石と当たってもまともに進みそうになかったし」
 「・・・お前ら3人違う学校でよかったのう。同じ学校だったらそこん部長間違いなくストレスで病院送りになっとうよ。
  で、S3な。『楽しみに』待ってるばい」
 手を振り立ち去っていく千歳を見送り、
 「さって全国か。まさしく強豪揃いだな」
 間違いなくその『強豪』の1人である男は、その威厳0の仕草でぽりぽりとこめかみを掻きつつ呟いていた。



―――Fin













ψ     ψ     ψ     ψ     ψ

 千歳登場で全て食われましたが(爆)、やりたかったのは橘をボロクソに倒す佐伯です。最初は青学戦でやろうかと思っていましたが、不二も英二もまだFanなので思い留まってみたりしました。逆に言えばこう思ったわけですね。『橘なら別にいいや』と。・・・・・・不動峰Fanの方ほんっとーに申し訳ありません。
 さて千歳、佐伯を下した橘に対し『弱くなった』と批評。まるでサエを噛ませ犬扱いしているその様に、私に本誌を提供してくれる友人は絶対私が彼を嫌うだろうと予想していたようですが・・・・・・千歳いいなあ。なぜか話したたった4言で私の中ではサエと同類だと分類されました。面白ければオール
OKといった感じで。なお当り前の話、彼の方言毎度恒例めちゃくちゃです。ついでに言うと、自分の中で千歳と仁王の方言が被ってます。しかもさりげに大阪弁入ってます。おかげで危うく彼ら2人が実は同郷出身!? とかやりそうです。
 話は戻しまして橘と佐伯。こういう展開に持っていったりとかすると、何となく今後橘→佐伯とかそんな事考えてみちゃったり。ただし今回同様黒サエにボロクソに扱われて終わりそうですが。

2004.9.26