Challenge4.黒攻めサエ1 vs跡部   −待ち合わせ10分前−



 「ああよかった。景吾はまだ来てないみたいだな」
 待ち合わせ場所である駅前広場にて、息を弾ませてやってきた佐伯は目当ての人物がいない事を確認し、肺に溜まった空気を一気に押し出した。
 跡部からいきなり呼び出しの電話がかかってきたのが数時間前。さすが運なし跡部。呼び出しコール終了時丁度電車が出てしまった。平日の真昼間。次の電車まで1時間。「ああわかった。じゃあすぐ行くから3時間待ってくれ」という、それだけ聞くとアンタら東京〜広島間の遠距離恋愛ですかと尋ねたくなるような返事に、しかしながらさすがにこれだけ頻繁に会っていればそろそろこちらの交通事情も察してくれたらしい跡部は渋々頷いてくれた。ハイヤーで行ったとしてもあまり大差はない。ヘリで来るとか自家用ジェット飛ばすとか言い出さない辺り跡部もようやっと成長の兆しを見せているようだ。
 そんな跡部を少しでも待たせないように―――まあ本当に少ししか変わらないだろうがそれでも一応歩く区間は全部走った。おかげで予定時間より
10分ほど早く来れた。
 「さ、て、と」
 今度はのんびり周りを見回す。ゆっくり落ち着ける場所は―――
 「・・・・・・っと」
 見回していた佐伯の目が、
 一点で止まった。
 「なあなあいいだろお姉ちゃんよお」
 「あ、あのすみません・・・。私人と待ち合わせしてて・・・・・・」
 「ええ? 何々、お友達ぃ?」
 「だったらその娘も一緒にさあ」
 ごくありきたりな(?)ナンパ風景。嫌がる女性に男が3人がかりで詰め寄っている。
 それを見て、佐伯が目を細める。
 ゆったりとした足取りで、そちらへと近付いていった。
 「と、友達じゃなくって彼で・・・・・・。私恋人いますですから・・・・・・」
 「彼氏、だあ?」
 「思いっきりほっぽっとかれといて?」
 「それはまだ待ち合わせ時間じゃないだけで別に・・・・・・」
 「いいじゃねえの。そんな薄情なヤツ放っといってさあ」
 「そうそう」
 『男』の存在を主張され、雲行きが怪しくなったところでその場へ到着。
 「すみませ〜ん」
 ポイントは笑顔と柔らかい口調。すっかり板についてしまった『爽やか好青年』そのままに、佐伯は全員へと声をかけた。
 「ああ? なんだテメエ」
 男らの声のトーンが下がっていく。雲行きで言うなら雷雲到来といったところか。
 平然と見据え、
 言う。
 「そこどけ」
 「・・・・・・ああ?」
 限りなく端的に言ってやったというのにわからなかったらしい。笑顔のままさらに付け加えてやる。
 「さっさと立ち去れって言ってんじゃん。そん位理解出来る程度の脳みそ持っとけよな」
 今度はちゃんとわかってくれたようだ。男達が激昂してきた。
 「何だテメエその言い様はあ!?」
 「てめえコイツの男か!?」
 「は? ンなワケないだろ? なんで俺がこんなんの男なんて不名誉極まりない扱い受けなきゃなんないんだよ。そこまで相手に不足してないよ」
 あらぬ誤解。即座に否定しておく。こんなくだらないところで人生に禍根は残したくはない。
 きっぱりはっきり言い切る佐伯に、男らはなぜか逆にたじろいでいた。
 「ちょっと待てお前・・・・・・」
 「いくらなんでもそりゃ言い過ぎだろうが・・・・・・」
 「泣いてんぞそこの女・・・・・・」
 指摘され、見やる。確かに女はちり紙を手に泣き崩れていた。涙で落ちた化粧により顔がでろでろになっている。
 見下ろし―――
 佐伯は女の肩にぽんと手を置いた。
 「ちり紙ちゃんとゴミ箱に捨てて下さいね。不法投棄は街の景観を乱しますから」
 「そこかよ言うべきところは・・・・・・」
 「酷いいいいいいい!!!!!!」
 女の泣き方がさらにヒートアップする。それでもちゃんと言いつけを守ってちり紙は手に握り締めたままだった。散らばらせるようだったら後ろから頭を踏み倒そうかと思ったが、どうやらその心配はないようだった。
 「お、男じゃねえんだったら通りすがりのヒーロー気取りかガキがあ!!」
 とりあえず無理矢理話題が戻される。
 「ヒーローねえ・・・」
 洩れる苦笑。
 「生憎と俺はヒーローじゃないんだ。あくまでそれに群がる存在であってね」
 呟く。自身では否定するだろうが、結局アイツ―――跡部は悪役のフリをして実質ヒーローだ。だからこそみんな集まるのだ。そう、自分のように。
 小さな声は、全く聞き取られなかったらしい。聞き取られないよう口の中だけで呟いたのだから当り前だが。
 「やっちまえ!!」
 構わず進められる展開。こちらを『(仮)ヒーロー』とするなら向こうは典型的悪役それもザコキャラか。
 「本気でワンパターンだな。お前らもうちょっと捻り加えろよ」
 ため息を付く佐伯に、
 『うううるせええええ!!!』
 さすがに自覚があったのか、男達が怒鳴り返してくる。ちょっぴり赤面している辺り評価ポイントアップ。
 「じゃあ―――」
 今度は押し寄せる男3人と、さすがに泣き止んでこちらを見守る女に聞こえるよう、囁く。
 「俺が崩してあげるよ、その『ワンパターン』」





 その後の佐伯は確かに『ヒーロー』ではなかった。突っかかってきた1人目の膝に足を乗せそのまま踏み込む。ゴポキッ・・・という内容不明(にしておきたい)音と共に、人間の骨格ではありえない方向に脚を曲げのたうち回る男を2人目に蹴り飛ばし、ひるんだ隙にバッグから取り出した伸縮自在の警棒で2人まとめて滅多打ち。逃げようと背中を向けた3人目の髪を掴んで仰け反らせ、反った腰へと膝蹴りを見舞う。唾を吐いて倒れたところで爪先を抉りこませる蹴りを何発も放った。こんなヤツがヒーローだった日には間違いなくその番組は苦情殺到で打ち切りとなるだろう。というか検閲で引っかかってそもそも放送させてもらえないだろう。
 悪役[ヒール]としてもやりすぎの様に、周りの誰も怖くて手が出せない。ごふごふ咳き込む3人をさらに広場端まで蹴り転がし、
 「ほらさっさと立ち去れよ景観妨害どもv」
 「ひ、ひいいっ・・・・・・!!」
 徹頭徹尾笑顔で放たれる毒舌オンパレードに、えも言われぬ―――どころか身を持って証明させられた現実的恐怖を感じ取り、男らは悲鳴を上げて逃げ去っていった。ちなみにこれだけやられて逃げられるほど元気なのかと問われると、答えは
Yesである。わざとそうなるよう調節したのだから。理由はもちろん―――
 「あ、ありがとうございます」
 途中色々あったが、形上助けてもらう事となった女性が頭を下げてくる。佐伯は彼女を指差し、
 「だからお前もどけって」
 「え・・・・・・?」
 きょとんとする彼女。理解の遅い女に佐伯は重いため息をついた。
 「最初っから言ってんじゃん。『そこどけ』って」
 「あ、あれはあの男達の事じゃ・・・・・・」
 「お前もだよ。俺そこ待ち合わせ場所に使いたいんだけどお前邪魔」
 「・・・・・・・・・・・・すみませんでした。どきます」
 「サンキュー」





 
10分後。
 「あ。景吾こっちこっち」
 「お、悪りいな佐伯。いきなり呼んじまって」
 「いいっていいって。俺も会いたかったし」
 「バーカ。何言ってんだよ。
  にしてもいい場所取れたな。ココ結構いつも混んでんだぜ?」
 「ああ。ホントここいいよな。座れるし丁度影だし。たまたま空いててよかったよ。
  ―――んでどうしたんだ?」
 にこやかに相手と話すかの男を、
 周りの者たちは恐怖の目で見守っていた。なお彼がずっと動かさない左足の下では、男達の吐いた血が乾き始めている・・・・・・。





・     ・     ・     ・     ・






 ちなみに。
 付近の住民の
110番通報に駆けつけた警察官は、
 「あの、女の方が無理矢理連れて行かれそうになっていて、それで助けなきゃってとっさに出てしまったのですけど・・・・・・やはり悪かったでしょうか?」
 「あ、いやいやいや。そんな事はないよ//? むしろ感謝するよ。ありがとう。君のような若者がもっと増えてくれると嬉しいよ」
 佐伯の上目遣い攻撃を前にあっさりノックダウン。ぽや〜っとした表情でロクに話も聞かず帰り、さらに後佐伯は警察から感謝状を送られた。





 「・・・・・・で? お前何やったよ」
 半眼で問う跡部に、佐伯は裏表ない綺麗な笑顔を向けた。
 「ん? 人助け」
 「人助けぇ? 誰をだよ?」
 「俺とお前。
  いい場所取れただろ?」
 「まあな」



―――黒攻めサエ1 Fin








 ―――これはむしろサエ受け!? 一応虎跡でいったつもりなのですが、警察官を前にした態度からするとどちらかというと跡虎に見える・・・!?
 はい。ツッコミどころは本当にここでいいのか、謎なまま話は終わっていきました(無理矢理〆)。

2004.9.25