Challenge6.黒受けサエ2 vs跡部   −安らかなる時 AnotherVer



 自分に寄りかかり眠る男を見やる。あどけない寝顔。本っ気で珍しいものだ。
 彼―――跡部は決して自分の前では寝ない。自分に弱みを見せるのが嫌だからとか本人はそんな建前をホザいていたが、つまるところ神経質な彼の性格によりだろう。警戒心をむき出しにせざるを得ない『自分の前』という状況では、隙を丸見えにして寝られるはずもない。
 わざわざ別のカテゴリーに入れられた事にちょっとした満足を覚える。自分たちは他人と同じではない。彼の中でも―――もちろん自分の中でも。
 本を閉じ、僅かに体勢を変える。今まで背中を付け合っていたのを、横向きになるように。
 動かした頬を彼の髪が撫でた。細く、薄い色素を持つ髪。普段はコロンの香りで隠されている汗の匂いが伝わる。少し、くすぐったい。丁度・・・今すぐ切ってやりたいそんなウザさ。
 自然と顔がほころぶ。今自分がこうしている状況は、果たしてどれだけの天文学的な確率を乗り越えた成果なのだろう? 自分たちがこの世に生を受け、出会い、そして現在彼が自分の前で油断して寝こけるなどという失態を犯して。
 世界に存在するのは自分たち2人だけではない。生まれる事、出会う事、さらには寝る事。全ては無限通りの選択肢の中から選ばれた事象。自分たちが選び、他者に選ばれ。そうして今、自分たちはこのような状況下にある。―――止めようと思えばいくらでも止めるチャンスはあったというのに。
 「なあ景吾。お前はいつまでこのままでいる?」
 『今』は永遠ではない。人生が続く限り、また選択は続く。その中で、あるいは彼もそろそろ『真実』というものに気付くかもしれない。
 今を永遠にしたいのならば、
 この快楽を手放したくないのならば、
 自分が選ぶべき事は1つ。
 彼の頬を撫でる。目元に触れ、さらに上へ。
 頭の頂上まできた―――ところで。





 「―――いってええええええええ!!!!!!」





 「景、吾・・・・・・」
 「佐伯! てめぇ何しやがる!!」
 がばりと起き上がる跡部。弾みで糸が引っ張られ、その顔からさらに洗濯バサミがぴちぴち容赦ない音を立てて取れていく。これが現実。
 俯き震える佐伯の頬を―――
 今度は逆に跡部が抓り挙げた。
 「・・・・・・で」
 向き合う姿勢で、戦慄く。
 「満足か!? こういう事やっててめぇは満足か!?」
 「ああ。満足だ」
 はっきりきっぱり肯定する佐伯に顔を寄せ、
 「心配すんな。遺族への手紙はしっかり書いてやるし、供養もちゃんとやってやる。だから安心して今すぐ死んで来い」
 「景吾・・・・・・」
 振ってくる、遠慮の欠片もない全力の拳。
 もちろん当たるワケはないけれど、
 ―――むしろコイツを今すぐ殺すべきだ。そう思えるような気がした・・・・・・。



―――黒受けサエ1 Fin








 ―――最早ノーコメントとしか言いようのない話になりましたな。というかこの2人って・・・・・・
CP

2004.9.25