Challenge5.白受けサエ2 vs跡部 −安らかなる時−
自分に寄りかかり眠る男を見やる。あどけない寝顔。極めて珍しいものだ。
彼―――跡部は決して人前では寝ない。人に弱みを見せるのが嫌だからと本人は言っていたが、実際のところ神経質な彼の性格によりだろう。警戒心をむき出しにせざるを得ない『人前』という状況では、隙を丸見えにして寝られるはずもない。
『他人[ひと]』のカテゴリーの中に含まれていない事にちょっとした満足を覚える。自分たちは他人ではない。彼の中でも―――もちろん自分の中でも。
本を閉じ、僅かに体勢を変える。今まで背中を付け合っていたのを、横向きになるように。
動かした頬を彼の髪が撫でた。細く、薄い色素を持つ髪。普段はコロンの香りで隠されている汗の匂いが伝わる。少し、くすぐったい。
自然と顔がほころぶ。今自分たちがこうしている状況は、果たしてどれだけの天文学的な確率を乗り越えた成果なのだろう? 自分たちがこの世に生を受け、出会い、そして結ばれた。
世界に存在するのは自分たち2人だけではない。生まれる事、出会う事、結ばれる事。全ては無限通りの選択肢の中から選ばれた事象。自分たちが選び、他者に選ばれ。そうして今、自分たちはここにいる。
「なあ景吾。俺たちはいつまでこのままでいられるのかな?」
『今』は永遠ではない。人生が続く限り、また選択は続く。その中で、あるいは2人は別々の道を歩むかもしれない。
今を永遠にしたいのならば、
この恐怖に打ち勝ちたいのならば、
自分が選ぶべき事は1つ。
彼の頬を撫でる。唇に触れ、さらに下へ。
首に手をかけた―――ところで。
「―――何泣いてんだ? てめぇは」
「景、吾・・・?」
「人が寝てんの思いっきり邪魔すんじゃねえよ」
むくりと起き上がる跡部。2人の体が離れていく。これが現実。
俯く佐伯の頬を―――
今度は逆に跡部が撫でた。
「・・・・・・ったく」
向き合う姿勢で、ためいきをつく。
「てめぇもいちいちいんねー事考えてウジウジすんじゃねえよ。てめぇのガラじゃねえ」
「俺の柄じゃないって・・・・・・」
半眼で呟く佐伯に顔を寄せ、
「心配すんな。俺は選択は間違えねえよ。だから安心して今を生きろ」
「景吾・・・・・・」
振ってくる、優しいキス。
根拠も何もないけれど、
―――自分たちは大丈夫だ。そう思えるような気がした・・・・・・。
―――白受けサエ2 Fin
―――うわ〜。白〜。大丈夫です。今後黒くなりますAnotherVerにて!!
2004.9.25