Challenge9.白攻めサエ2 vs跡部   −美味珍味−



 《本日のニュースです。
  岩手の名産焼きうに、その材料となるうにが大量に盗まれました》
 そんなニュースを聞きながら、
 「・・・・・・?」
 跡部は眉を顰め首を傾げた。
 「なあ佐伯・・・」
 「ん?」
 料理の仕度を止めもしない佐伯。その背中へと問い掛ける。
 「焼きうにって確か、お前の好物だよなあ?」
 「買ってくれるのか!?」
 「・・・なんでだ」
 ようやっと振り向いてくれた。何かが違うような気もしたが。
 半眼で見返し、跡部はテレビ画面を指差した。
 「今うにが盗まれて大騒ぎなんだとよ。てめぇがやったんじゃねえのか?」
 訊いておいて何だが、非常にありえる可能性にげんなりくる。肯定されたら自首を勧めよう。
 が、
 問われた佐伯はははっと笑うだけだった。
 「俺が? まさか。
  ウチじゃ犯罪は厳禁だ」
 「なるほどな。保釈金かかるしな」
 「それもあるし、あと『人様の迷惑にはならない逞しい子を育てる』が家の教育方針だから」
 「いや・・・。逞しい結果俺はめたくそに迷惑被ってんだがよ」
 「お前は『他人[ひと]』じゃないだろ?」
 ・・・ここは本来照れるべき場面なのだろう。佐伯もはにかみ笑いを浮かべている。跡部もちょっと頬を紅くしかけ・・・
 (―――ちょっと待てよ?)
 佐伯は何と言った? 「お前はひとじゃないだろ?」? コイツの性格と合わせてみよう。さて『ひと』というのは・・・・・・。
 「てめぇつまり俺は人間じゃねえって言いてえのかああ!?」
 「なっ!? これだけ芝居までつけてやったというのに!!」
 「否定しろよせめて!!」
 そんな、毎度のやりとりをし。
 「まあそれはともかく、俺は絶対盗みはやらない」
 「根拠は?」
 「盗んだヤツ取り押さえて謝礼の名目でたらふく食った方が得だろ?」
 「・・・・・・。それもそうだな」
 そんな以下略をし。
 跡部は再びテレビに目を戻した。佐伯も料理の仕度に戻る。
 《焼きうにはアワビの殻の上にうにをどっさり乗せたもので、高級料理として有名で、このようにお店の値札を見ても他の魚介類とは一桁違います。地元以外ではまず口に出来ないものです》
 「・・・・・・・・・・・・?」
 再び跡部が眉を顰め首を傾げる。今度は先ほどより深く。
 『うに』と名がついた時点で予想はしていたのだが・・・・・・。
 「なあ佐伯・・・・・・」
 「ん?」
 「焼きうにって、高けえんだな」
 「そりゃそうだろ」
 即答。
 うにだけならまだ、実はどっかの秘密基地に生えている(誤)ものを無断で捕って食ってんのかとも思ったが、
 (九十九里でさすがにあわびまで捕れはしねえよなあ・・・・・・)
 本当に捕れるなら、佐伯ならむしろ自分で食うより売りさばくだろうに。
 謎な佐伯の好物。『おから』と聞いた時はらしすぎる答えに納得したが。
 と―――
 「はいお待ち」
 「ああ――――――――――――――――――あ?」
 料理が出来たらしい。テーブルにことんことんと置かれた食器に頷き、・・・・・・
 「なあ、佐伯・・・・・・」
 「何だ?」
 「コレ・・・・・・、何だ?」
 「見てのとおりのモンだけど?」
 「つまりプリンである事に変わりはねーんだな?」
 平皿の上でふるふる震えるプリン。ちゃんと上にはカラメルソースがかかっている。
 納得し、
 跡部は隣を指差した。
 「なら・・・
  ――――――――――――なんでしょう油が一緒に出されんだ?」
 指差す。隣に当然のように置かれたしょう油ビンを。
 これが不二ならまだわかる。味覚異常者ならちょっと間違った組み合わせくらいいつもの事だ。
 「お前、舌は普通だよなあ?」
 「? 普通だぞ? 2枚あったり二又だったり青かったり味蕾がなかったりはしないぞ?」
 「ラストは割と普通だろ? 最近の若者としちゃ。まあねえんじゃなくって感じなくなってるだけの場合が多いが」
 「強いて言えば、美味いものを本当に美味そうに食べるって事で店のサクラにぴったりだと誉められるくらいだけどな」
 「最高のアルバイトだな。美味いモン食えた挙句に金まで入るのか」
 「お前もやるか? 多分マズそうに見えて即クビだろうけど」
 「誰がやるか!! つーかマジであんのかンなバイト!?」
 深い世の中に乾杯。
 「・・・つまり美味いと不味いの区別はつくんだよな? もちろん一般理論に則して」
 「多分つくんじゃないかな? いわし水はまずかったぞ」
 「・・・・・・。いまいち則してんのかよくわかんねえ基準だが、
  んで?」
 「ん?」
 「んじゃ何でプリンにしょう油がつくんだ?」
 一言にまとめればそんな疑問。佐伯の答えもまた一言だった。





 「プリンにしょう油かけて食うとウニの味がするんだぞ?」





 悟ってしまった。この瞬間全てを。
 がたっと立ち上がり、跡部は佐伯を指差した。
 「つまりてめぇの好物ってのは・・・!!」
 「もちろん焼きプリンだ」
 「んじゃ半生っつーのも・・・!!」
 「このトロトロ感がな。完全に固まると別物だし」
 「・・・・・・・・・・・・!!!」
 もう言葉も出ない。佐伯としてはありえ過ぎる『好物』に、跡部は突きつけた指ごとへなへな崩れ落ちた。
 「素直に『しょう油かけた焼きプリン』って言えよ・・・・・・・・・・・・」



―――白攻めサエ2 Fin








 ―――数日前、ニュースで焼きうにやってました。岩手辺りの名産で、アワビの殻にウニをたっぷり乗せた物品だとか。その辺りでしか食べられず、お値段は他の魚介類と一桁違う。

 ・・・・・・サエがそれ好物ですと?

 そんな! ありえねえ(失礼)!! つーか何で岩手なの千葉県民!! 今じゃ通販で全国どこでも手に入るらしいけど、けどそれでも!!
 以上、とっても謎だった焼きうにの話でした。しかしそういう料理なんですね焼きうに。ただ焼くだけかと思ってました。
 そして攻め受け。普通コレだと受けっぽさげですが、いわゆる『男の手料理』は大好きです!

2005.7.31