佐伯に与えられた1つの指令。それは・・・






『てれてる』佐伯。
〜サエ的言語特殊解釈術〜






 「『てれてる』俺・・・・・・?」
 届いた指令を前に首を傾げる佐伯。傾げ―――
 そばにあった国語辞典を引き始めた。



 

1―――朝編。〔照る〕
2―――日焼け編。〔照り・照りつける・照り返し・照り返す・照り映える・照り焼き・照り降り・照り降り雨・照り降り傘〕
3―――明日も晴れるか?編。〔照り込む・てるてるぼうず〕
4―――夜編。〔照りあがる・テレスコープ〕
5―――デート編全般。〔照葉狂言・デラックス・手料理・テリヤ・テロップ〕
6―――デート小話1 リョーガの浮気?編。〔でれでれ・でれすけ・照らし合わせる〕
7―――デート小話2 人に対しては・・・編。〔照れる・照れ臭い・照れ隠し〕
8―――懐かしの文明の利器編。〔テレタイプ・テレックス・デリンジャー現象〕
9―――いきなり冬っぽい編。〔映える(=照り輝く)・テレマーク・テレマークスキー〕
10―――犯罪すれすれ編。〔手療治・テラマイシン〕
11―――ついに犯罪編。〔手榴弾[てりゅうだん]・テロ・テロリスト・テロリズム〕
ラスト―――佐伯とは・・・編。〔手練・デリケート〕
おまけ―――リョーガの救済話。〔照れ臭い・照れ隠し・デリカシー・照れる・てらてら・照り輝く〕












 

1―――朝編。

 朝。窓を開け外を見る。雲ひとつない晴れた空。真夏の日差しがまぶしそうだ。
 勢いよく窓を開け、澄んだ空気を吸い込み、
 「照った! よし! 指令クリア!!」
 「っえええええええ!!!???」
 佐伯の雄叫びに、隣で寝ていたリョーガが不満満帆の声を上げた。





 照る=光が出る。輝く。晴れる。美しく光る。

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2―――日焼け編。

 照りつける太陽。照り返しが実際目にまぶしい中、佐伯とリョーガは近くの海岸へと来ていた。いつもならばここで佐伯がリョーガを引っ張りこみ海の家で金稼ぎをしたり晩飯確保のため潮干狩りをしたりするのだが、今日は特にそんな様子もなかった。
 「珍しいな。どうしたんだよ佐伯」
 「いつも頑張ってるから今日くらいは遊んで来いだってさ。でもって今日の晩飯は豪勢に焼肉だ!」
 「本気で珍しいじゃねえか・・・・・・」
 珍しい。珍しすぎる。
 あまりにいつもと違う様に戦くリョーガ。真正面から向き合い、
 「もちろんお前のおごりだよな? リョーガv」
 「・・・・・・ああよかったぜ。いつもどおりのお前だな」



 それはそれとして、さて海遊び。砂浜でビーチバレー。海の中に入り遠泳・水かけ・ボート。普段から鍛えてる2人ならでは、すぐに息切れなどという事もなく目いっぱい遊びまくった。
 跳ねる水しぶき。目を細め、笑う佐伯はとても照り映えていて。
 どきりとしたリョーガ。動きの止まった彼を見て、
 「疲れたか? そろそろ上がろっか」
 ・・・・・・台詞回しは完璧温泉だが、ともかくそんな感じで佐伯は常にはない優しさを見せてきた。
 「ああ・・・」
 促され、手を引かれ砂浜に戻ってくる。まるで子ども扱い。それでも・・・
 (ま、たまにゃいっか・・・)
 ずっと水の中にいて冷たい佐伯の手。多分自分の手も同じだけ冷たいのだろう。握られ、握り返せば一緒に温かくなっていく。
 砂浜に上がって。
 「じゃ、暫く日にでも当たってようか」
 「だな」
 頷き合い、砂浜に直接寝転ぶ。うつ伏せとなったリョーガに対し佐伯は・・・。
 「・・・何やってんだ? 佐伯」
 「ん? こんがり焼けるように」
 にっこり笑い、佐伯はリョーガの背中にぺたぺた手を這わせていった。気持ちいい感触。うつらうつらしていると、さっそく背中から焼ける香ばしい匂いが―――
 「ちょっと待てえ!! 何でしょうゆの匂いがすんだよ!?」
 「そりゃ照り焼きっていったらしょうゆとみりんだろ?」
 「照り・・・!?」
 言葉にするよりも早く、佐伯の手からそれを引ったくる。サンオイルかと思えばいやに和風な瓶というか壺。狭い口から確かにしょうゆの香りが漂っていた。
 手にとり、舐める。色も黒ければ味もしょうゆとみりんだった。
 「・・・・・・」
 無言になるリョーガに、
 「というワケだから、しっかり焼けて俺に食われてくれ焼肉v」
 「断るに決まってんだろーが!!」



 海水でタレを落とし戻ってきてみれば、佐伯は持ってきていたパラソルを組み立てていた。
 「何やってんだ?」
 「見たまんまパラソル組み立ててんだけど?」
 「確かにそりゃ見たまんまだろーが・・・
  ―――日、けっこー陰ってねえか?」
 空を見上げる。朝の快晴はどこへやら、太陽はすっかり雲間に隠れてしまった。空気もじとっとしたのはそのままだが、心持ち少し冷たい。このままでは一雨くるかもしれない。
 『ンな事やってる間にさっさと帰りゃいいじゃねえか』
 ―――と切り出すまでもなく、佐伯はこちらが言いたいことを理解したらしい。
 頷く。しっかりと。
 パラソルを指差し、
 「大丈夫だ。これ、照り降り傘だから」
 「ンなトコ安心してねえでさっさと帰れよ!!」





  照り=照る事。光ること。艶。光沢。晴天。
  照りつける=日光が、激しく照らす。
  照り返し=照り返すこと。反照。
  照り返す=光線を反射して照らす。
  照り映える=光が当たって美しく光る。
  照り焼き=魚肉に、みりんとしょうゆを混ぜた汁を付けて、焼いた料理。
  照り降り=晴天と雨天。
  ・照り降り雨=照ったり降ったりして、天候の定まらない空もよう。
  ・照り降り傘=晴雨兼用の傘。

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3―――明日も晴れるか?編。

 先程まで晴れていたのが嘘であるかのように、いきなりどしゃぶりの雨が降り出した。間一髪ぎりぎりセーフで家に戻り、リョーガと佐伯は揃って窓から外をみていた。
 「あーあ。せっかく遊んでたってのにな」
 だれた様子で言うリョーガ。窓枠に肘を乗せ、実際だれてみせる彼とは逆に、佐伯はなぜか小さく笑っていた。
 「ま、最近ずっと照り込んでたしな。久しぶりの雨なら歓迎してやらないと」
 「歓迎・・・はいいけどよ、
  ―――雨、って、海の家じゃ致命的じゃねえか?」
 「さってリョーガ、てるてるぼうずでも作ろうか」



 
180度豹変したとはいえ、だれているよりは建設的な案に、リョーガもまた素直に従った。
 2人で適当な布を用意し(ティッシュで作ると使い捨てとなるため)、だ〜っといっぱい作り上げる・・・・・・かと思いきや。
 「あ?」
 用意したのはなぜか布だけだった。それも真っ白な・・・とはもう言いがたい・・・シーツ2枚だけ。
 「おい佐伯、綿は?」
 これでは顔が膨らまない。顔にも布を突っ込んでもいいが、それだと作れる数が少なくなる。
 問われ、
 佐伯はただ笑うだけだった。シーツを手に。ついでに吊り下げるためだろうがなぜか必要以上にぶっといロープを手に。
 「じゃ、てるてるぼうず頑張れよv」
 「また俺かよ!?」





 照り込む=日光が差し込む。日照りが長く続く。
 てるてるぼうず=晴天を祈って、軒先などに吊るす紙の人形。

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4―――夜編。

 とりあえずてるてるぼうずとして頑張った成果はあったらしい。夜にはすっかり照りあがっていた・・・夜のため日は出ていないが。
 軒先ではなくなぜか屋根の上でずっと雨に当たり続け、がちがち歯を鳴らすリョーガ。同じく今回は一緒に雨に当たっていたのに(やはり自分に損がある時は積極的に動くようだ)佐伯はいとも爽やかな様子で空を見上げていた。
 「うん。よく晴れたな。星がよく見える」
 「た、確かに・・・な・・・・・・」
 リョーガとしてはそんなものより早く家に入って何か温かいものが飲みたかったのだが。
 「じゃ、このまま星空デートと洒落込もうか」
 「は!?」
 「いやか?」
 「い、いやいやいやいやまさかンな事あるワケねーだろ!?」
 どちらに対して何の否定がしたいかよくわからない首振りをするリョーガ。小さく頬をつねると―――やっぱり痛くなかった。これは夢らしい(実際はかじかんで感覚が無くなっていたからなだけなのだが)。
 準備をする。とはいっても簡単なものだが。
 屋根の上にビニールシートを敷き、その上に寝転がって。
 「あ、そうそうリョーガ。望遠鏡あるけど見るか?」
 「ボーエンキョー?」
 「テレスコープ。父さんがこの間買ったんだよな。
  見るか? 小型だけど、多分今日だとよく見えるぜ?」
 「お。んじゃ見るか」
 そんな感じで、2人は夜遅くまで星空観察もとい星空デートにいそしんだ。





 照りあがる=雨が上がって、日が照る。
 テレスコープ=望遠鏡

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5―――デート編全般。

 さて星空デートに味をしめたリョーガ。今度は普通にデートに誘ってみた。
 「へえ。丁度よかった」
 意外と好感触。あっさりもらえた
OKサインに、むしろリョーガの方が首を傾げた。
 「よかった? 何がだ?」
 「丁度チケット2枚もらってさ、誰誘おうか悩んでたんだよな」
 「お? そりゃホント丁度良かったな」
 心の底からそう思う。今自分が誘っていなければ、佐伯は本当にそこらの人に片っ端から声をかけ誘っていただろう。



 ―――というワケで、2人はここにいる。
 「照葉狂言・・・・・・?」
 「知らないか? 狂言+歌舞伎って感じのなんだけど。観ると面白いぜ?」
 「また、何でンな渋いの・・・?」
 「ご近所のおじいちゃんにもらって。観に行こうと思ったけど都合が悪くなったらしくてもし良かったら、って」
 「まあ・・・・・・そんなモンだよな」
 佐伯がチケットなどを余分に持ち、あまつさえ換金していない時点で大体の予想はついていた。
 首を振るリョーガをどう思ったか、明るかった佐伯の顔は一気にしぼんでいった。
 「あ・・・趣味に合わなかったか?」
 「いや全然」
 「・・・・・・即答?」
 「これ素で言うとけっこー周り首傾げんだけどよ、親父が『サムライ』だったりチビ助の名前が古臭かったり―――ちなみに本当は俺を『竜馬』にしたかったらしいぜ。母さんの猛反対に遭って結局1文字変えてカタカナにしたそうだけど」
 「んじゃ何で弟の方、普通に『リョーマ』になったんだよ?」
 「カタカナっつーのが盲点だったな。親父曰く『弟なんだから兄貴と似た感じで』なんぞとほざいて許してもらったらしいぜ。んで話戻すが、
  ―――和食派だったり風呂好きだったりする時点でウチってかなり和風なんだよな。これでミュージカルとかだったらさすがに引いたかもしんねーけど、コレならいいぜ?」
 「あ、じゃあさっき訊いてきたのって・・・」
 「何でお前がンなののチケット持ってんのか、って訊こうとしてただけなんだけどな」
 「へえ。じゃあお前結構詳しかったり?」
 「そりゃなあ。あのスチャラカ親父が娯楽好きだからな」
 こうして、見た目明らかにその場にそぐわない2人は、周りの注目完全無視で話を盛り上げていった。



 一気に打ち解けた2人。芝生の広がる公園へと移動し、そこでお昼を食べる事になった。
 「まあ『デート』って事でそれっぽくな」
 笑いながら佐伯が持っていたものを広げる。そこから出てきたのは3段・・・・・・多分どこかで買った箱入り弁当か和菓子詰め合わせかの容器を使いまわしているのだろう。それでも重ねれば『3段』だ・・・・・・弁当だった。
 「じゃあ行くぞ。佐伯特製デラックス弁当〜☆」
 微妙に気の抜けた掛け声はともかくとして、開けてびっくり見てびっくり。外見のむやみな豪華さ(見た目だけ桐)に負けず、中身もまた豪華だった。
 「これ・・・全部お前の手料理かよ!?」
 「そりゃ買ったら高いから」
 感動を一言でぶち切る物言い。それもまた気にせず、さっそくリョーガは渡された箸で中のものを取ってみた。
 食べる。
 「う、めえ・・・」
 「あ、ホントか?」
 「ああ! めちゃくちゃ美味えよ! さっすが佐伯。作り慣れてるだけあんな〜」
 「そんなにおだてんなよ。んじゃこっちもどうだ?」
 「っうええ!?」
 首を傾げ、佐伯もまた箸を取った。違う段のものを挟み、それをリョーガへと近付けていく。
 (こ、これはもしかして・・・・・・!?)
 もしかせずとも『はいあ〜んvv』。恋人ならば必須の状況(偏見)に、リョーガは真っ赤になりながらも目を閉じ口を開け顔を差し出し・・・・・・
 「―――あ、犬」
 「は・・・?」
 いきなりな展開にさすがに目を開ける。目の前にあったはずのものは、とてとてと寄って来た犬に咥えられていた。
 「へえ。テリヤじゃん。どうしたんだ? こんなところで」
 微笑ましい様子で佐伯が見守る。優しい目をそっちには向ける佐伯に、
 リョーガは恨めしげに呟いた。
 「ああ・・・。俺の・・・・・・」
 「ん? お前の飼い犬か? 何だお前犬派だったんだ。越前も猫飼ってるし、てっきり猫派かと思ってたよ。ああでも景吾はどっちも飼ってるか。ついにで馬も」
 何も気付かないらしい天然ボケ佐伯。完全にリョーガを無視した1人ボケトークはその後も延々と続いていった。



 そして午後。今度はリョーガが持っていたチケットを使う事になった。
 ごく普通に映画を観る。いっそ任侠モノというのも笑いを誘えたかもしれないが、一応デートらしく恋愛モノ。ただしちんたら普通に進むだけだと2人とも飽きるため適度にアクションも含んだものを観る。観て―――
 「お前何で終わるなりさっさと立とうとするんだよ!? ちゃんとエンディングテロップまで見ろよな!!」
 「何でだよ!? 話終わっちまったらもうそれで終わりじゃねえか!!」
 「それでもちゃんと見るのが製作者に対する礼儀だろ!? 直接表舞台に立ったキャストだけじゃなくって裏で働いてるスタッフの人までしっかり名前見てありがとうございましたって!!」
 「どこの神社だそりゃ!!」



 そんなこんなで、2人の祝☆初デートはケンカ別れに終わったのだった・・・・・・。





 照葉狂言=狂言をもとにして、歌舞伎を取り入れたこっけいな芝居。
 デラックス=豪華なこと・もの。
 手料理=手作りの料理。素人料理。
 テリヤ=英国原産の愛玩用の子犬。狩に使うとすばしこい。
 テロップ=テレビ放送で、画像の上に重ねて、あるいは単独で写真・図版・文字などを送る装置。専用のカメラを使う。

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6―――デート小話1 リョーガの浮気?編。

 それは、照葉狂言を見ようと並んでいた時の事。
 「ああリョーガ悪い。ちょっと並んでてくれ」
 「おういいぜ」
 多分用足しだろう。近くのビルに消えていった佐伯を見送り、のんびりと待ち・・・・・・
 「あ〜らいい男が」
 「まあまあこんなところに並んでるの?」
 ―――いきなり同じく並んでいた見知らぬおばちゃんたちに話し掛けられた。
 無視してもいいのかもしれないが、おばちゃんたちの迫力はどうも無視しがたいものがある。それに始まるまではヒマなのだ。話していても構わないだろう。
 「ああ、そうなんですよ。知り合いがチケットもらって」
 「あら〜それは災難ねえ」
 「今時の若い子じゃ、こんなのつまらないでしょう?」
 「そんな事ないですよ。俺こういうの好きですし」
 「ま〜珍しい!」
 「おばさんたちも好きなのよねえ!!」
 にこにこ笑顔で応じる。おばちゃんたちの勢いがヒートアップしていった。と・・・
 「ああ〜・・・・・・」
 「―――っ!?」
 背中に猛烈な寒気が走った。振り向く。そこには、いつの間にか戻ってきていたらしい佐伯が立っていた。というか・・・
 「何でお前、そんな微妙に隠れてんだよ・・・?」
 いかにもな仕草で覗き見ていた佐伯。半端な驚き声を上げると、次は口元に手を当て含み笑いを浮かべてみせた。
 「み〜ちゃった。リョーガの浮気現場」
 「は・・・?」
 「話し掛けられてでれでれしてんの。このでれ助v」
 「でれ助・・・って、またえらく古い言い方して・・・。つーかこれで浮気か? 設定許容範囲いくつだよ?」
 「だってお前、墓場から揺りかごまでの博愛主義者じゃないのか?」
 「誰がだ!? そもそもなんで逆に言ってんだよ!? 普通『揺りかごから墓場まで』だろ!?」
 「だってお前年上キラーじゃん。桜吹雪といいその他といい、船の中じゃアイドル状態で」
 「違げえよ!! 誰があんな親父どもに尻尾振るってんだ!!」
 「ふ〜ん。
  じゃあさっそく他の人の証言と照らし合わせてみよっか〜」
 含み笑いのまま取り出すは携帯電話。佐伯がコレを持っているのは普通不思議だと思うだろうが、佐伯家には逆に固定電話がない。電話料金を誰が払うかで揉めるからだ。ならば自分しか払い手がいない携帯電話を各自所有していた方がいくらも平和だ。
 「他の人・・・ってまさか―――!!」
 「桜吹雪とコックは掴まったけど、他の従業員とか選手とかは普通に生活してるからなあ」
 「な、なんでお前がンなヤツらの番号知ってんだよ!?」
 「何でかよく訊かれてな。終わった後も連絡くるぜ?」
 「お前の方がよっぽどでれ助だろーが!!!!!!!!」





 でれでれ=しまりのない様子。男が女に甘い様子。
 でれすけ=女にだらしのない男。
 照らし合わせる=両方から光をあてる。比べてみて、確かめる。対照する。

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7―――デート小話2 人に対しては・・・編。

 それは、佐伯の作った弁当を食べていた時の事。
 「お、佐伯にリョーガじゃねえか」
 「奇遇ですね」
 「どうしたのね?」
 「よっ。バネさん、剣太郎、樹っちゃん」
 たまたま遭遇したチームメイトらに話し掛けられ、笑顔で手を振る佐伯。一方リョーガは、
 ―――なぜかこっそり1人、顔をしかめ冷や汗を掻いていた。
 「みんな一緒でどうしたんだ?」
 邪気のない佐伯の質問。多分・・・邪気はないと思う。
 「今日部活休みだからな。遊ぼうかと思って」
 「だったら俺誘ってくれたってよかったじゃん」
 微妙に拗ねたように上目遣いを見せる。邪気たっぷりだったと確定された。
 もちろん何も知らない彼らは、そんな佐伯を見てきょとんと首を傾げた。
 「何言ってんだ? 佐伯」
 「僕達2人もちゃんと誘ったよ?」
 「リョーガが2人で用事あるから無理って言ってきたのね」
 「へええええええええ・・・・・・・・・・・・」
 証人
Get。にた〜っと笑い、佐伯は他の部位は全く動かさず首のみを回した。必死に顔を背けるリョーガへと。
 「・・・・・・サエさん、怖い」
 「俺達・・・、マズい事したのね」
 「さってそんな感じだからじゃあなサエ、リョーガ」
 かなり苦しい流れで、黒羽は無理やり話題をぶった切った。怯える2人の首根っこを掴みさっさと去ろうとしたが・・・・・・
 がしっ。
 「まあ待ってくれよ。どうだ? 一緒にお昼でも」
 「あ、い、いや俺らは―――」
 「ん〜?」
 「・・・・・・すいません。ご一緒させていただきます」
 「ちょっと待てよ佐伯! 今日は2人で―――!!」
 「ああお前もこっち来たばっかだからさ。ちゃんと早めに築いた方がいいぞ
友情
 「・・・・・・築かせていただきます」



 いろいろあったが、とにかくお弁当は8人で食べる事になった―――遠目で見つめていた亮・天根・首藤も連帯責任で引きずり込まれ。
 「(だから声かけんの反対だっつったんだよ!!)」
 「(仕方ねーだろ!? そう言う前に樹っちゃんも剣太郎も走っていっちまったんだから!!)」
 「(リョーガめちゃくちゃこっち睨んでんじゃねえか!! 後でぜってー何か言われんぞ!!)」
 「(今去ったら後で佐伯にぜってー何かされんぞ!! お前どっちがいいんだよ!?)」
 「(・・・・・・残る方選びます)」
 「(お前ら何裏切ってんだよ・・・!!)」
 「(許せリョーガ。佐伯の怒りに比べたらお前の方がなんぼもマシだ・・・)」
 「『友情』・・・・・・?」
 隅っこの方でそんなやり取りをしている間にも、開き直ったその他一同は早くも弁当に箸を伸ばしていた。
 はくりと食べ、
 『美味〜〜〜い!!』
 「サエ! すっごい美味しいのね!!」
 「見た目も味もすっげえ手ぇ込んでんな〜!!」
 「サエさん最高!!」
 「・・・・・・!!」(←剣太郎に台詞を取られたらしい)
 「ええ? そんな事ないって。あんま誉めんなよ。照れんじゃん//」
 「だってホントに美味しいのね」
 「ンな料理だったら毎日食いてえよ」
 「あ〜! サエさんお嫁さんに欲しい!!」
 「料理のプロにプロポーズ・・・ぶっ!」
 「ははっ。何言ってんだよみんな。照れ臭いなあ」
 照れ隠しに笑う佐伯。その様は本当に嬉しそうで・・・
 「・・・・・・俺が誉めた時は軽く流したクセに・・・・・・(泣)!!」
 「まあ・・・
  ―――いろいろと災難だなリョーガ」
 「お前も強く生きろよ」





 照れる=決まり悪がる。はにかむ。
 照れ臭い=決まりが悪い。なんとなく恥ずかしい。
 照れ隠し=恥ずかしさや気まずさを、人の前でつくろうこと。

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8―――懐かしの文明の利器編。

 「帰ってきたぜ佐伯」
 と部屋に入ってくるなり、
 ズガシャッ!! ズガシャッ!!
 ―――こんな超旧式ロボットアニメの歩行音がしてくるというのはどうだろう?
 「ああおかえり〜」
 『ズガシャッ!!』と『ズガシャッ!!』の間に器用に台詞を割り込ませる佐伯に、リョーガは思い切り首を傾げた。
 「何やってんだ?」
 「ああ、メールを送ろうと」
 なるほど。そう言う佐伯は確かに機械に向かって手を動かしていた。現代っ子ならパソコンの1つは2つは楽に扱う、と。
 こんな風に考えるリョーガもまた、アメリカではパソコンをよく使っていた。千石がかつて話していたネット上で見られた桜吹雪の情報等は、機械が苦手なかの男に代わり全てリョーガが担当していた。実際千石とはメル友だ。
 が、
 (にしてはすげー音鳴ってたような〜・・・・・・)
 パソコンのキーボードを叩くならば普通『カシャカシャカシャ』といった程度だろう? 激しく叩いても『ズガシャッ!!』とは鳴らないような気がする。というかそれだけ煩いものを並べた職場では絶対働きたくない。
 そろ〜っと身を乗り出す。佐伯の後ろから機械を覗き込み・・・・・・
 「タイプライターじゃねえか!!」
 「馬鹿にすんなよ!? これでも立派なテレタイプなんだからな!!」
 「自慢になんねーよ!!」
 いきなり見せられた旧時代の物件(とはいってもせいぜい
30年ほど前といったところか。ただしこれだけ日々進化の激しい電子機器業界では立派な骨董品だろう)。そしてそれを普通に操る中学生。最近の子どもはテレビゲームだのパソコンだの使っててワケがわからんと嘆くお父さん方へとっても配慮された光景だ。
 見せられた時代錯誤な光景に硬直するリョーガを他所に、打ち終わったらしい佐伯は今度はダイヤルを弄り始めた。どうやらテレックスだったらしい。
 (つーか・・・・・・なんでコレで通じる相手がコイツ以外にいんだ?)
 通信機器というのは、当たり前だが送り手と受け取り手同じ(あるいは類似の)ものがなければ行えない。まあ会話だの手紙だの、『機器』でなければその限りではないが。
 広い世の中に慄く。と、
 佐伯は違うものに慄いていた。
 「な・・・!! 通じない・・・!?」
 (まあ・・・・・・、だろーな・・・・・・)
 はっきり言ってンなモンが通じる相手はいらん。
 そんな自分の思いはともかく、何せ古い機器。故障の1つや2つは起こるだろう。
 が、佐伯はどうやらそうは考えないらしい。
 「これはまさか・・・・・・デリンジャー現象!?」
 「ンなワケあるかあああ!!!」
 「だって実際通じないんだぞ!?」
 「他にも考えろよ!! ホラこっちはちゃんと――――――あ、通じてねえ」
 「ホラやっぱ」
 田舎とはいえ一応ごく普通の平地での『圏外』表示。携帯を手に固まるリョーガに、佐伯はうんうんと頷いてみせた。





 テレタイプ(R)=タイプライターを打つと、そのまま遠方の土地へと文字が送信される装置。自動電信タイプライター。一般ではテレプライター。ものすごくうるさい。
  ・テレックス=ダイヤルで相手を呼び出し、後はテレタイプで文字を送信する装置。
 デリンジャー現象=太陽面の爆発によって、電離層に異常が起こり、通信が妨げられる事。

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9―――いきなり冬っぽい編。

 デートではないが2人で出かけた―――東京にいる祖父母を訪ねに行った。ついでに佐伯はその近くに住んでいる幼馴染らを訪ね、リョーガは久しぶりの帰郷を果たした。
 時間を決め駅に集合したのだが、リョーガが着いた時もう佐伯は先に来ており、のんびりと待合場でテレビなどを観ていた。
 「よー佐伯」
 「ああリョーガ。んじゃ行こっか」
 「まだ観てんじゃねえのか? 別にいいぜのんびりで」
 「そうか? じゃあもうちょっとで終わるから」
 言いながらも、早くも佐伯の視線がテレビに戻る。やっていたのは映画だった。この季節にふさわしいのかどうか、冬山スキーの映画。確かにクライマックスらしく、主人公(推定)らが雪崩から逃げるように滑っていた。
 佐伯の隣に腰掛け観る。と、
 「お前スキーやった事ある? リョーガ」
 「いや、ねえな。ずっとあったかいトコいたからスキーどころか雪すらロクに見た事ねえし」
 「へえ。旅行とかは?」
 「もっぱら近場で海だったな。『やっぱ男は海だろ』とか親父がワケわかんねえ事言って。ガールハントはどっちでもいいだろーが、やっぱ見て面白れえのはスキーウェアより水着だからな」
 「・・・・・・ちなみにお前もそう思ってんのか?」
 「そりゃグラビアの基本は水着だし・・・・・・あいやホラ、お前もスキーウェアよか水着姿の方が映えるしな〜」
 「そーかグラビアの基本は水着、かあ。じゃあ俺もそんな常識を知るためにさっそく見てみるか」
 「待てよ佐伯!! お前だったらいつも俺の見てんだろ!?」
 大声で止めるリョーガに、
 周りで待っていた者、何より佐伯自身がもの凄く軽蔑しきった眼差しを向けた。
 「・・・・・・・・・・・・露出狂?」
 「違げえ!!」
 「そういう変態とはひとつ屋根の下にいたくないなあ。今日限りで出てってくれないか」
 「だから違うって―――!!」
 ぷ〜〜〜〜。
 頑張って否定するリョーガの耳に、そんな噴出し声が突き刺さった。口を軽く押さえ横を向き笑う佐伯。ようやっとからかわれていたと悟り、リョーガは頬を赤くした。
 「お・ま・え・は〜〜〜〜〜〜//!!」
 むしろ自分が照れるリョーガ。何とか怒鳴って誤魔化そうとするがもちろん佐伯にそんなものが通じるワケもなく。
 「ああやっぱお前可愛いなあv」
 「毎度恒例このノリかよ!!」
 頭をもふもふ撫でられ、無駄とわかっていながらもリョーガはただ叫ぶしかなかった・・・・・・。



 ―――と話題を終わらせるとそれこそ1話無駄になるため、元のスキーの話題に戻る。雪崩から逃げるため、道なき道―――崖寸前とボコボコの岩山の繰り返しを爆走していくシーンを観て、
 佐伯はなぜか懐かしそうに目を細めた。
 「こういうの観てると思い出すよ。小さい頃からスキーに行っては景吾に突き落とされてたあの頃」
 「・・・・・・ちなみに訊くけどよ、突き落とされたってどっからどこへ?」
 「リフトの上から未開拓地へ?」
 「・・・・・・・・・・・・あくまで『お前が跡部クンを』じゃねえのか?」
 「そんなまさか。俺がその程度の生ぬるい事するワケないだろ」
 「生ぬるいのか・・・?」
 「俺なら頂上からスキーコースと逆方向に蹴り落とす」
 「仮定で話すなよ・・・。ぜってーやっただろ?」
 「もちろん百回くらいは」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もーいい」
 「という感じで、アルペンは今だにさっぱりだがテレマークは結構得意だ」
 「ピンポイントでしか使い様のねえモン得意になったな・・・・・・」





 映える=照り輝く
 テレマーク=《ノルウェーの地名から》スキー創始期の代表的な滑降・回転技術。スキーを前後にずらし、深くひざを曲げる姿勢を基本とする。現在ではジャンプの着地姿勢などに用いる。
 ・テレマークスキー=爪先部分だけで足を板に固定するヒールフリーのスキー。足を前後に開いて内足を折り畳む独特のテレマーク姿勢で滑る。滑降のみに特化する形で進化したアルペンスキーとは違い、雪の野山を自由に駆けることにこだわったもの。

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10―――犯罪すれすれ編。

 そんな話をしたからだろうか。千葉に帰るなり、いきなり佐伯が風邪を引いた。
 「なるほどな。これが『鬼の霍乱』ってヤツか」
 「何・・・リョ、ガ・・・。げほ・・・」
 「いや何でも。にしても夏風邪って馬鹿が引くモンじゃ―――」
 どごすごっ!!
 「・・・・・・全部聞こえてんなら最初っからそう言えよ。
  とりあえず―――病院行った方がよくねえか?」
 「病院!?」
 今までの大人しさ―――佐伯視点では殴る蹴る程度は『大人しい』に分類されるらしい―――はどこへやら、台詞内の特定の単語に佐伯が過剰反応を示した。
 ベッド(これまた佐伯が持つには不思議な物件だが、家具は全部廃材を貰った手作り品かバザーでとことん値切って買うかしているため、佐伯家に家具は結構豊富である)に仁王立ちし、佐伯は下で座っていたリョーガをびしりと指差した。
 「何言ってんだリョーガ! 病院なんて行ったら検査とかいうだけでいくら取られると思ってんだ!!」
 「いくら・・・って、
  ―――医療費自己負担額が上がって3割か?」
 「
10割だ健康保険証持ってないから!!」
 「持てよ払えよ国民健康保険!!」
 もちろん現在
14歳の佐伯が払っていないのは当然なのだが・・・・・・彼の言い振りでは一家全員払っていないらしい。
 国民の義務を見事無視した一家に突っ込む。が、
 「我が家のポリシーは『堅実万歳』だ!! 健康になるために日々の食費を充実させるのは可だがいつ何時使えるかわからない博打的な保険なんて入れるワケないだろ!?」
 「そういう事考えて結局損すんだよ今回みたいに!!」
 「大丈夫だ! どうせただの風邪! 食って寝てれば何とかなる!!」
 「・・・・・・いやもーいいけどよお」



 何とかならなかった。



 「う・・・げほっ! ごほっ!! な、なんでこんな今回に限って酷い事に・・・!?」
 「いやもう手療治は諦めて医者行けよ。このまま放っときゃ最悪肺炎かかんぞ?」
 「それ・・・も、大丈夫だ!! ちゃんとテラマイシンはここに!!」
 「ンなモン買う金あったらさっさと検査行ってきやがれ!!」
 「こ、これは以前恩売った薬剤師に極秘裏格安値で横流ししてもらった―――」
 「よけー悪いわあああああ!!!!!!!!!!」
 すぱこ〜〜〜〜〜ん!!!!!!





 手療治=医者にかからず、自分で病気を治すこと。
 テラマイシン(R)=抗菌性物質の一種。肺炎・腸チフス・トラコーマなどに有効。

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11―――ついに犯罪編。

 さて風邪を引き寝込む佐伯。これを機に、懸命に看護するリョーガ。
 「ホラよ」
 「何・・・?」
 「やっぱ風邪っつったらビタミンCだろ」
 オレンジを投げ渡し、今まで食べていた食器類を片す。戻ってきてみれば・・・
 ―――佐伯は今だオレンジを手にもぞもぞやっていた。
 「何やってんだ?」
 「噛むと疲れるから・・・・・・皮剥こうと思って・・・・・・」
 頭をふらふら前後左右に揺らしながら、佐伯はオレンジをかりかり引っかいていた。ぼ〜っとして、自分が何をしているかよくわかっていないらしい。
 頑張る佐伯には悪いが、かなりほのぼのくる光景。
 (うあ・・・。何ンな可愛い事やってんだよコイツ・・・・・・)
 ほのぼのというか・・・・・・・・・・・・ぶっちゃけ萌。
 このまま永遠に見ていたいとか思ったりもするが、いくらなんでもそれでは後で怒られる―――ではなく佐伯が可哀想だろう。
 「ホラ」
 「え・・・?」
 「貸してみろって。剥いてやるよ」
 「・・・・・・」
 伸ばされた手とまだ表面の皮すら剥けていないオレンジを交互に見て・・・
 「ん」
 佐伯は拗ねたように唇を尖らせ上目遣いでオレンジを差し出してきた。いくら病気中であろうと甘えるのはポリシーに反するらしい。
 心の中で苦笑し(ここで実際に笑うと取り下げられるため)、リョーガはオレンジを剥き始めた。まず親指を突っ込み穴を開け―――
 ぶしゅ〜〜〜っ!!
 「・・・・・・・・・・・・」
 ―――突然破裂したオレンジに、頭の中含む全ての動きを止めた。
 「あ〜っはっはっはっはっはっはっは!!! や〜いや〜い!! 引っかかってやんのオレンジ手榴弾!! 馬〜鹿馬〜鹿!!」
 固まった脳に響く佐伯の元気いっぱいな笑い声。ぼたぼた顔から垂れる果肉入り果汁の感触と共に、暫しそれを堪能し・・・
 「お・ま・え・は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
 リョーガは思い切り怒鳴りつけた。
 人の親切心をぐりぐり踏みにじる最低行為! 人としてどう思われますそこの貴方!?
 そんなワケで、肩を拳を頭をふるふる震わせ、額に怒りのマークを山ほどこさえるリョーガ。こさえ―――
 ―――ぱっぱっとそれを払いどけた。
 「まあ、病人に辛く当たっちまったら悪りいよな!? きっとコイツも寂しくて心細くて辛かったからこんなイタズラ考えたんだろうしな!? それに辛くて噛みたくないから細かくしたんだしな!?
 肯定限定否定不可の強制疑問文。力いっぱい『な!?』を繰り返され、
 「いや全然そんな事思ってないし」
 ・・・佐伯は実にあっさり否定してくれた。
 とりあえずその辺りは聞かなかった事にして軽くスルーする。
 「だったら、噛まずに済むようにしてやるよ」
 にやりと笑い、リョーガはかろうじて手元に残ったオレンジの残骸を口に含んだ。
 布団越しに、佐伯に跨る。肩を掴み、緩く押し倒してやれば佐伯も逆らわずに倒れていく。実際具合が悪いからでもあり―――嫌ではないからでもあり。
 垂れた髪を感じるほど至近距離で、
 先に行動をしたのは佐伯だった。
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・テロ?」
 「何でだ!?」
 「だってそうやって暴力で言い聞かせて」
 「やってねーだろーが!!」
 「いやこれは立派な―――」
 なおも延々文句をつけようとする佐伯。それ以上言わせないよう、口を塞ぐ。
 「ん、ん・・・・・・」
 くちゅ・・・。ちゅ・・・・・・。
 2人の口の中でオレンジが潰れていく。佐伯の喉がこくこくと動き、その度オレンジが少なくなっていき・・・
 完全になくなってからさらにしばらくキスを続け、リョーガはようやく口を離した。
 「風邪で熱出たっつったら汗かいて治すのがセオリーだろ。
  お前の風邪は俺が治してやる・・・・・・・・・・・・ぜ?」
 台詞が―――
 ―――疑問文に変わった。ばたんきゅ〜〜〜〜〜☆と倒れた佐伯を見下ろし。
 「おい、佐伯・・・? どうした佐伯・・・?」



 注:佐伯は現在熱持ちです。人間は
40度程度で意識を、42度程度で命を失います。



 「すいませ〜〜〜ん!!! 急患で〜〜〜〜す!!!」
 パジャマ姿の佐伯を背負い病院へと駆け込む。他人の迷惑顧みず、深夜の病院扉をがんごん叩く蹴るしていると、ようやく開けてもらえた。
 佐伯は本当に肺炎にかかっていた。その場で緊急入院決定。抗菌剤を注射し、点滴を打ちベッドに寝かせ・・・
 「まあとりあえず、今回は彼も若くて十分抵抗力もあったから深刻な事態にはならなかったけど―――
  ―――次からはもっと早くつれてきなさい」
 「・・・・・・申し訳ありませんでした」
 「でもって費用の方は・・・・・・」



 ―――『勝手につれていった』という事で、かかった諸費用(もちろん
10割負担)は、全額リョーガが払う事になった。





 手榴弾[てりゅうだん]=手で投げつける。小型の爆弾。もちろん『しゅりゅうだん』とも読む。
 テロ=テロリスト・テロリズムの略。
  ・テロリスト=政治上の暴力主義者。恐怖政治家。テロ。
  ・テロリズム=暗殺・暴行・粛清などで、政治上の反対者を倒すこと。また、その方法で行う政治。政治的暴力主義。恐怖政治。テロ。

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ラスト―――佐伯とは・・・編。

 「で!?」
 「何が!?」
 「だから!! 俺の指令はどうなったんだよ!?」
 あの指令が佐伯の元に届いてから早一週間(しか経っていなかったらしい)。確かに他のヤツ相手ではそんなシーンもあったが、自分相手では全く従う気配のない佐伯に痺れを切らしたリョーガがついに持ち出し始めた。
 「ああ、アレか」
 斜め上を見上げぼんやり返す佐伯。
 「・・・まさか忘れてたってのか?」
 「ははv まさかv そんなワケないだろ?」
 「説得力ねえ・・・・・・」
 目を逸らし呟くリョーガを無視し、
 佐伯はそばにあった国語辞典を手渡した。
 「これがどーした?」
 「まあ開いてみろよ。付箋の辺り」
 言われ、開く。付箋―――の代わりだろう。千切った両面印刷のプリントが挟まれたところを見て・・・
 「・・・・・・で?」
 「つまりそういう事だ」
 「ワケわかんねえよ!!」
 「ダメじゃんリョーガ。ちゃんと1を聞いたら
10わからないと」
 「だったらまず『1』を言え!! 
3とかπとかN[ニュートン]とかlog2とかtan70とかそういうピンポイントで『10』に繋がらねえトコじゃなくって!!」
 魂からの叫びを上げるリョーガに、
 佐伯はは〜〜〜〜〜〜っと深いため息をついた。
 「つまりだな。そこにある単語やら語句やらをよ〜く見てみろ。自然とわかるから」
 首を傾げ、もう一度よく見てみる。普通の国語辞書である以上、見開き2ページにはあいうえお順でいろいろな語が書いてあるワケで。
 首の傾げ率ががんがん上昇していくところで、佐伯は『
10』を言った。
 「<『てれてる』お前が見たい>
  でもただ照れただけじゃ捻りがなくてつまらないだろう。
  だから俺は『てれてる』の5段活用である『てら』『てり』『てる』『てれ』『てろ』濁点含むをテーマに研究し、さまざまな形で答えてみる事にした。
  その結果がこの1週間だ」
 「違〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う!!!!!!!!!!!!!!!」
 淡々とした解説を聞き、
 リョーガは国語辞典を床に叩きつけ怒鳴った。
 「・・・・・・何がだよ?」
 「何でそこでむやみに捻る!? 普通に答えろよ普通に!!」
 「だって相手は人生裏街道現在驀進中のお前。だとしたら普通にやるのはむしろ失礼だろ」
 「確かに裏っぽい道進んでたのは認めるが人としての生き方は表のまんまだ!! 裏驀進中はむしろお前だろーが!!」
 「俺が? どこが? 至極平凡真っ当に生きてるじゃないか」
 「『てれてる』1つでンなに考えついた時点で明らかに平凡真っ当から離れてんだろーが!! 平凡真っ当なヤツってのは『てれてる』って言われたら普通に照れるモンだ!!」
 「つまりこんな感じで?」
 ぽっ・・・・・・//
 顔を背け口元を隠す佐伯。口と共に隠された頬は仄かに紅く色づいており・・・・・・
 「うわ。価値ねえ・・・」
 どうやってるのかは不明だが明らかにわざとやった『動作』に、リョーガが半眼で突っ込みを入れる。入れ終わった時にはなぜか頭を押さえて蹲っていたが。
 蹲る。伏せた目に映るのは先程投げ捨てた国語辞典。丁度開かれたページに、2つの単語が載っていた。







 <手練=人を丸め込んだり、騙したりする手段・腕前>

 <デリケート=際どくて、取り扱いが難しい様子>








 ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 リョーガの心の中を、日本の夏に相応しくない乾いた涼しい風が吹き抜けていった・・・・・・。





 手練=人を丸め込んだり、騙したりする手段・腕前。手管。手練手管=手練の強め。
 デリケート=こまやかな様子。細部。敏感な様子。繊細。際どくて、取り扱いが難しい様子。



―――
Fin
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おまけ―――リョーガの救済話。

 「―――まあそれはともかく、だ」
 崩れ落ちたリョーガの前にしゃがみこみ、
 佐伯はその耳元に囁きかけた。
 「看病ありがとな。嬉しかったぜ」
 「へ・・・・・・?」
 顔を上げる。その先では照れ臭げに外方を向く佐伯が。今度頬が赤いのは演技ではないだろうまあ多分。
 「さえ、き・・・?」
 「・・・何だよ?」
 そっけなく問い返す佐伯。照れ隠しによるそっけなさで。
 リョーガがふっと笑った。表面的にはなかなか現さずとも、こういうデリカシーをちゃんと持っているのが佐伯だ。
 「・・・・・・だから何だよ?」
 「い〜や? ただ―――」
 笑みの形を変える。にやりと笑い―――
 リョーガは佐伯を抱きしめた。
 耳元に、囁き返す。
 「どーいたしまして。この位やって当たり前だろ? 大事なお前なんだから」
 「〜〜〜〜〜////」
 横目でそっと見る。佐伯は耳まで真っ赤だった。正真正銘<『てれてる』佐伯>。
 満足していると、
 とん、と突かれた。体が離れる。
 座り込むリョーガ。見下ろし、佐伯はにっと笑ってきた。
 「な〜に言ってんだよ」
 てらてらと照り輝くその笑顔はとても眩しくて。
 (あ〜あ。やっぱコイツにゃ勝てねーなあ)
 リョーガもまた、嬉しそうに楽しそうに笑い再び佐伯を引き寄せた。





 照れ臭い=決まりが悪い。なんとなく恥ずかしい。
 照れ隠し=恥ずかしさや気まずさを、人の前でつくろうこと。
 デリカシー=心遣いなどのこまやかさ。優美さ。敏感さ・鋭敏さ。
 照れる=決まり悪がる。はにかむ。
 てらてら=艶を持って光る様子。
 照り輝く=明るく、また美しく輝く。



―――強制終了。

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 ―――はい。ランキングにて『「照れてる」サエが見たい』というリクエストがあったのでさっそく照れさせてみましたあ!? 何か違う!! なんでそのテーマでテロリスト!? 冗談抜きで書いてる間に『「照れてる」佐伯? 「照れてる」って、どういうモンだっけ・・・?』と悩みこんでしまいました。なおおまけはこれ以上は他の誰より書いている私がこっ恥ずかしくて照れるため続行不可能となりました。
 そして余談ですが、今回下に付け足されている意味は、テレマークスキーとテレタイプ除き全部家に古くからある辞書から引っ張ってきました。それびっくりなんですよ。金田一さん(って親しい人かよ・・・)が監修なのはいつもの事なのですが、なんと作ったのが大石さんとそして佐伯さん(とあと1人)!! も〜開く度に嬉しくてたまりませんな。

2005.3.1630