「あ〜あ。当たんなかったな〜」 　「ま、仕方ねえだろ。それが『クジ』ってモンなんだからよ」 　「それにしたって何でお前が当たって俺が外れるんだよ･･･！？」 　「･･････。 　　どーいう意味だ？　ああ･･･！？」 　　v　　　　　v　　　　　v　　　　　v　　　　　v 　氷帝と六角との練習試合を終え、その帰り道。次の日部活が休みである事を利用し実家に帰ろうとした佐伯は、必然的にお隣さんである跡部と帰りが一緒になった。 　タイムサービスに重なったのでデパ地下でちょっと買い物。本日はサービスデイで、福引を引かせてもらった。外れはなし。互いに１度ずつ。 　１〜５位と、あと残念賞にティッシュ（『物が貰える＝当たり』らしい）。佐伯が狙ったのは２位の商品券か３位の高級肉、あるいは５位のフルーツ詰め合わせ。見事なまでに一方向に染まりきった感じが微笑ましい。 　そして引いた。店の人が見守る中、がらがらと回した。 　（金！　肉！　果物！！） 　そんな怨念を受けて出てきたのは･･････ 　カランカランカラン―――！！！ 　「大当たりー！！！　１等の海外旅行〜！！！！！！」 　「････････････はい？」 　そして、今に至る。 　　v　　　　　v　　　　　v　　　　　v　　　　　v 　「大体何で１等のモンで２等のモンと変えてくんないんだよ。店側だったらそっちの方が得だろ！？」 　「それじゃ福引の意味ねえだろーが･･････」 　のんびり歩きながらグチり続ける佐伯。ため息をついて、跡部は空を見上げた。空き地から伸びた桜の木の向こうに、満月が綺麗に光っていた。 　（そういや、今満開だっけか） 　朝天気予報でそんな話が出ていたか。恋人と２人で夜桜見物。ベタなデートといったところか。周りから見れば。 　横目で隣を歩く男を見る。そんな甘い雰囲気は微塵も望めないまま、佐伯はなおもぶつぶつぼやき続けていた。 　「あ〜あ。お前はい〜な〜肉当たって」 　「海外旅行と肉比較して肉取るなんつーのはてめぇだけだろーな･･･。 　　つーかそれなら換金してくりゃいいじゃねえか」 　跡部の素朴な疑問に、 　佐伯はもらったチケットの下の方を指差した。 　≪換金不可≫ 　「うあ使えねえ･･････」 　「出来るんならとっくにやってるさ･･･！！」 　「にしてもまあ、お前んトコ親戚いろいろいんだろ？　よかったじゃねえか。会いに行く旅費浮いてよ」 　繕うように言う。現在の佐伯は本気で怒りモードだ。せっかく久しぶりに会えたというのに始終グチを聞かされても面白いものでもないし、ましてや『恨みの一撃』など喰らって病院送りにされたらますます面白くない。 　が、 　ぴくりと反応した佐伯。１cmしか違わないのにわざわざ俯きその上見上げるその眼差しは、 　―――完全に据わっていた。 　ふっ･･･と逸らされ、呟かれる。 　「リョーガと浮気でもしてこようかな･･････」 　「取り消す！　気遣いのねえ発言だった！！」 　「でもムダにしたら悪いしなー。だったらアメリカでも行ってこよーかなー。会いに来い会いに来いって毎日メール来るしなー。それにそれなら向こうで泊めてくれるだろーしなー。部屋一緒でベッドも一緒だろーけどー」 　「そのチケット俺が買い取った！！　なら文句ねーだろ！？」 　「おっし景吾太っ腹！！　んじゃその肉と交換な」 　「は･･･？」 　跡部が目をぱちくりさせた。海外旅行と肉。そりゃ世の中100ｇ数万円の肉もあるし、万札１枚で行ける海外旅行プランもあるかもしれない。が、 　「明らかにそれ損してねえか？」 　福引の１位と３位。料金差は確実にあるはずだ。 　佐伯にしてはあり得なさげな提案。まさかこの辺りを失念しているワケはあるまい。 　眉を顰める跡部に、佐伯は小さく笑い、 　「お互い損もなく、な？」 　「まあ、そりゃ･･････」 　「それに、それでお前もリョーガに会いに行けるぞv」 　「見たかねえよアイツの顔なんぞ！！」 　「奇遇だな。リョーガもそう言ってたよ」 　「･･････それで俺に喜べと？　てめぇはそう言いてえのか？　ああ？」 　「じゃあ気が変わらない内にv」 　「ああ･･･」 　交換する。して、 　「サンキュv」 　触れるだけのキスをされた。 　「･･････」 　驚く跡部へと、 　「換えてくれた礼」 　そう言い、佐伯は綺麗に笑った。 　くるりと身を翻し、歩いていく。跡部が我に返った時にはもう相当先にいて。 　「オイ佐伯！」 　「ん？」 　呼びかけに振り向く佐伯。丁度吹いた風になびく髪を押さえる。風に混じって桜の花びらが舞い上がりそして――― 　「―――っ」 　唇を掠めた感触に、今度目をぱちくりさせたのは佐伯だった。花びらのような軽さ。だが同時に伝わった温かさは決して花びらにはないものだ。 　「何、して･･･」 　「換えてやった礼、だろ？」 　「それはもうやったじゃん」 　「んじゃ、換えて『もらった』礼、ってか？　こっちの方が高いだろ？」 　「また詭弁を」 　「てめぇの得意な･･･な」 　跡部がくつくつと笑う。受け、佐伯もまた笑い出した。 　「なら―――」 　笑いながら、跡部の腕を取り、 　「これは何の礼にする？」 　「佐伯･･･？」 　「せっかく桜綺麗なんだし、もうちょっと見てこうぜ？」 　「気付いてたのかよ？」 　「そりゃな。俺は目は見えるし」 　「ま、それもそうだな」 　　v　　　　　v　　　　　v　　　　　v　　　　　v 　本日の収穫。 　海外旅行。 　佐伯からのキスと、夜桜デート。 　「ま、こんだけオプションが付きゃいいモンだな」 　本日の収穫。 　高級肉。･･････と跡部からのキスに夜桜デート。 　「嬉しいな〜♪　２週間ぶりの肉だ〜♪　家帰ったら焼肉パーティーしよ〜っと♪」 ―――――――――――――――――――――Ｆｉｎ