家族をたずねて3千円!





 



 かの騒ぎから××日後、リョーガが帰ってきた。
 「ただいま親父! 母さん! チビ助! やっと帰って来れたぜ!!」
 「『やっと』って・・・
  ・・・・・・アンタどっから帰ってきたの?」
 何だかやったら清々しい充実感を撒き散らし、あまつさえ額の汗を腕で拭ったりしながら入ってきたリョーガに、リョーマはそこでいいのかわからない指摘を入れてみた。同じ場所から帰ってきた自分はもちろんその日の内に家についた。リョーガなら警察に保護されいろいろ聞かれたりした分時間もかかるかもしれないが、それでもここまで遅くなるなんて事は・・・・・・
 「まさか、仮釈放・・・!?」
 「そもそも逮捕されてねえよ!! 普通に千葉から帰ってきたんだ!!」
 「千葉から?」
 尚更謎だ。自分たちも千葉から帰ってきた。確かに銚子の方からここまでとなればそれほど近距離という事もないが、それでも以下略。
 「まさか・・・、ヒッチハイクで帰ってきたとか・・・・・・?」
 「普通に電車で帰ってきたに決まってんだろ電車賃稼ぐのにバイトしてただけで!!」
 「・・・・・・。ヒッチハイクとあんま変わんないじゃん」
 呟く。むやみに沸くのは同情心。ああ一緒に来たなら電車賃あげたのにもちろん跡部が・・・・・・。
 首を振り、
 ふいにリョーマは考え込んだ。
 「どーしたチビ助?」
 「千葉からここって、ンな電車賃かかったっけ?」
 今回の船上パーティー、招かれたのが9名な上東京と神奈川などと所在地バラバラ。こうなるとわざわざバスを借りるより各自電車で行った方が遥かに簡単だ。というワケで電車で来たのだが・・・
 (確か東京組で集まって、跡部さんが俺の分と一緒に切符買おうとしたら不二先輩と千石さんにタカられて「後で部費から返せよ手塚・・・!!」とか恨み言飛ばしながら万札1枚出してたよなあ・・・。4で割れば
2500円だし、大体その位じゃないのか?)
 自分の分を子ども料金にしてはいないだろう。この間買ってもらった切符で自動改札機を通った途端 
子ども通ります の赤ランプがついて跡部に食ってかかった。あの時の事を考えれば、まさか跡部が2度同じ過ちを繰り返すとは思えない。
 (にしても・・・・・・あの人金持ちのクセにヘンなトコでケチるよな〜・・・。誰の影響かは・・・・・・
  ・・・・・・まーもー考える必要もなさそうだけど)
 頭を元に戻す。銚子からここまで。どんなにかかったとしても
5000円はいかない筈だ。それを稼ぐのに××日・・・・・・?
 「何のバイトしてたの・・・?」
 尋ねる。封筒張りだろうか? 造花造りだろうか? 募金活動だろうか? 賭けの次は大道芸でもやったのだろうか?
 「今お前すっげー失礼な想像してんだろ・・・・・・?
  違げえからな。普通に海の家でバイトしてただけだからな」
 「日給安・・・・・・」
 「それは言うな!! 日給っつーか時給は普通だった!! 居候してたヤツに『世話賃』とか言って8割位巻き上げられてただけで!!」
 「ダメじゃんその家・・・・・・」
 「俺も住んで2日目でそれ悟った。××日もチビチビ貯めなくても一切世話ンならずに1日働きゃ電車賃足りてたんだよな」
 「アンタやっぱでっけぇ夢見る前に自分見直した方がいいよ・・・・・・?」
 「心底気の毒そうに忠告すんじゃねえ!!」
 弟に掴みかからん勢いで怒鳴りつけ、
 リョーガはふうっ、と息を吐いた。
 「というワケで、帰ってきたんだ」
 「何また改まっちゃって」
 訊いてくるリョーマを無視し、台詞を続ける。台詞の後半半分を。
 「というワケで、帰るんだ」
 「は・・・?」
 直接声を出したのはリョーマ。ただし、口を挟まずとも同じ場で2人のやり取りを聞いていた南次郎、倫子、さらに菜々子もきょとんとしていた。
 彼らを一通り見渡し、にかっと笑う。
 「明日もバイトあるしさ、終電なくなる前に帰んねーとな」
 「帰るって・・・その家に?」
 「そりゃもちろん」
 「何で・・・?」
 「だからバイトが―――」
 「だって、それって家帰ってくるまでじゃないの? 帰ってきたんだからもういいんじゃないの?」
 誰も何も言わなかった。ただ1人、先程からずっと話し続けているリョーマしか。
 船でずっと聞いていたような、強い口調ではない。ただ口だけで話しているような、感情の抜け落ちた言葉の羅列。
 抜け落ちた感情で、





 ―――マタ、イッチャウノ?





 そう、問い掛けていた。
 リョーガが苦笑を浮かべた。ぽんぽんと頭を叩いてやる。
 5歳だったあの頃のリョーマ。自分が出て行った辺りの事情がわかるわけもない。7歳だった自分にもよくわかっていなかったのだから。
 家が嫌だったなんて理由ではない。家族が嫌いになったなんて事でも。
 ただ、
 自分は少し間違った方向に『成長』してしまった。家族のぬくもりを温かいと感じられなくなってしまった。
 それだけだ。
 じっと見上げてくるリョーマを見て思う。今ならどうなのだろう? 今この家でやり直したのなら。そしたら今度こそぬくもりをこの手にする事が出来るのだろうか?
 思い・・・
 結局苦笑はそのままだった。多分それは叶わない。リョーマだって久しぶりに会ったからちょっと感傷的になっているだけだ。もう少し一緒にいればすぐに気付く。自分は異分子なのだと。
 自分と同じなのは・・・・・・
 「ま、会おうと思ったらすぐ会えるぜ。千葉と東京なんてすぐじゃねえの」
 「・・・・・・その『すぐ』の電車賃稼ぐのにアンタ何日かけたの?」
 「お・・・! 俺はともかくチビ助なら跡部クンにでも頼めばすぐだろーが!!」
 「まああの人ならそうだろうけど・・・
  ―――ところでリョーガどこ住んでんの? それわかんなきゃ行き様ないじゃん」
 居候しているからにはそうそうすぐ場所を変えたりはしないのだろう。聞いたところ何だかとんでもない家に住んでいるようだが・・・・・・
 「佐伯ン家」
 「納得・・・」
 しれっと言われた家に、リョーマは重々しく頷いた。どうりで世話賃で8割も取られるワケだ。
 「というワケで―――
  ―――帰りの電車賃くれ」
 「は?」
 「いや片道稼ぐので精一杯でさ。往復稼ごうと思ったらこの倍かかるんだな〜とか思ったら、いっそ帰りはウチにタカった方が早いかって結論に辿りついて」
 「電話するとか、他に手なかったっけ?」
 「電話番号知らなかったんで」
 「・・・・・・」
 稼いだらすぐ返すから。な? と両手合わせてウインクで続けるリョーガに、
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんっきでアンタ1回自分見直しなよ?」
 「だから心底気の毒そうに忠告すんじゃねええええ!!!!」



―――Fin

 











 本気で『海の家』でバイトしてたらしいですリョーガ。そして某佐伯氏に巻き上げられていたようです。なお
3000ネタは本編でもやりましたが(あれは3000cmでしたが)、3000円って・・・かかり過ぎじゃん?という指摘はないと嬉しいです。きっとリョーマの家は八王子辺りにあったんだ(無理)!!
 なおこの話、ギャグとみせかけ微妙にシリアス。この後で【マイホーム】を読むと何となく話が繋がってます。

2005.4.24



 そういえば、ノリだけにノって書いてから気付いた。銀幕
Jr.ver、リョーガ家出て行ってないじゃん・・・・・・。まあ、7歳頃から放浪癖がついてだんだん激しくなっていった、という事で・・・・・・。