二人のサムライ チェンジング・アナザー
「どーも青学の皆さん! 越前リョーマっス」 『は・・・・・・?』 コートに入ってくるなりそう言う男に、青学一同は大口を開けて硬直した。レギュラージャージのその男。ああ確かに本人名乗った通り、青学期待のルーキー越前リョーマに似ていた。似てはいた。が、 「あれ? 意外とウケ悪りーなあ」 「おかしいなあ。完璧な変装だと思ったのに」 首を傾げる男の隣で、こちらはご存知佐伯虎次郎が同じく首を傾げる。 「えっと〜・・・・・・」 コメントに困る一同。その中で・・・ 「・・・・・・とりあえず、敗因は身長じゃないかな」 『ああなるほど』 「違げえから不二ツッコミどころ!!」 「―――ってゆーかどーいう意味っスか不二先輩それ!!」 がこん!! 自称『越前リョーマ』の後ろ頭を一斗缶で殴り現れた本物のリョーマ。彼は彼で、なぜかレギュラージャージではなくだぼだぼの黒ジャージ(否不動峰)だった。 ワケもわからず呆然とする一同の中で、一応両方と知り合いである不二・英二・手塚が―――やはり呆然とした。 「結局・・・」 「にゃにやりたいワケお前ら・・・・・・?」 「そりゃもちろん見たまんまで」 「つまり・・・ ―――越前に成りすまし部活に参加する、と?」 「おーさっすが手塚クン! 頭いいじゃねえの!!」 「・・・・・・・・・・・・一応礼は言うべきなのか?」 「ここまで嬉しくねー褒められ方もねえよなそうそう」 「それならいっそ越前みたいにけなすだけにして欲しいよね」 「おチビありがと〜〜〜〜〜〜!!!!!!」 「何の話っスか!!」 会話が意味不明の方向に流れたところで、 佐伯が修正をかけた。 「仁王に最近変装マル秘テクを教わってな。さっそく実践してみよう! ってコンセプトで」 「うあ・・・。仁王かよ・・・・・・」 「とりあえずリョーガと越前なら顔立ちも似てるし、後は服装と印象かな〜と」 「確かに全くの他人やるよりも楽だとは思うけど・・・・・・」 「ほらリョーガだから言ったじゃん。越前の真似するんなら会話は必要最低限以下にしろって」 「『以下』って・・・・・・」 「・・・会話成り立たないじゃん」 「は〜。小せえ頃のチビ助は煩い位泣き喚いてたってのにな〜」 「凄い・・・一方向に偏った意思疎通だね」 「どちらかっつーと・・・・・・ ―――コイツよりおチビの方が家出てくモンじゃねーのか? 裕太みたいに(ぼそり)」 「何かな英二。それは僕に対する宣戦布告かな?」 「いーえ別にまさかそんな!!」 ・・・・・・かけられたおかげで何だか余計な方向に行ったようだが。 今度こそリョーガが結論付ける。 「っつー事で、今朝家を出ようとしたチビ助を物陰に連れ込んで服引っぺがしてそのまま転がしとこうかと思ったけど着替えたおかげで俺の服が余ったから着せといた」 『なるほど・・・・・・』 どうりでリョーマがリョーガのジャージを着ていきなり殴りかかるワケだ。一斗缶はきっと同じく物陰に転がっていたのだろう。 一通り事態に整理がついたので、もう少し根本的な問題に突っ込んでみる事にした。 「で、そもそも何でお前らここにいるワケ?」 「ああホラ、今度青学と六角で合同合宿するだろ? それについて2・3な」 「む? ならばわざわざ青学に来ずとも電話で済んだのではないのか?」 「でもホラ、俺ら来てもらう側だろ? ならせめて打ち合わせ位はこっちから出向くのが礼儀だから」 「なるほど」 実に六角らしい、仁義礼儀に則した考え方だ。 納得する手塚の後ろで。 「でもなんでお前ら2人?」 「電車賃が浮くから」 「・・・・・・・・・・・・」 ・・・・・・頷いていた手塚が頷いたままコケた。 「部費がないのは大抵どこの学校でも共通だろうからな。特にウチはどこかと練習試合する度交通費がかさむ。俺とリョーガだと『家に行くついでに学校行ってきてくれ』って言いやすいからな」 「それって・・・・・・交通費自己負担?」 「『家に行く』だけだからな。私用だからもちろん誰も払ってはくれないぞ?」 「・・・・・・さりげに六角って厳しいんスね」 「大丈夫だ。俺も払ってない」 『は・・・・・・?』 断言する佐伯に、全員の目が点になった。なら一体誰が払ってるんだ・・・・・・? 非常に間抜けな空気が流れる中、一発殴って落ち着いたらしいリョーマが会話に加わってきた。ジャージ交換の件は脇に捨て、 「で、佐伯さん。ここで会ったんなら丁度よかったんスけど・・・」 「ん? どうした越前?」 反応する佐伯に、 手のひらを差し出す。 「この間リョーガに貸した金、返してもらえません? アンタの家まで帰る交通費」 「・・・・・・・・・・・・」 佐伯が止まった。リョーマを見る。リョーガを見る。 ふっ・・・、と軽く息をつき、 近付いたのは起訴者の方にだった。 リョーマの肩を手を置き顔を近づけ、 「でもお前、頼まれて跡部に泣きついたよな? でもってタクシー呼んでもらって家までの金払わさせたよな跡部に」 「・・・何の事っスかね?」 「俺に誤魔化しは通用しないぞ越前v 一瞬の頬の引きつり見逃すほど目は悪くないんだ。 リョーガが帰ってきた時、車の音とドア開く音したんだよな。でもって帰ってきたんだよな。まさかリョーガが自分でタクシー拾ってきたとは思えないし、お前ら家族だってそこまでの親切はしないだろ? タクシー代いくらかかるのやら。 そんな事頼まれてくれるヤツって考えたら〜・・・・・・ ・・・・・・答えはもちろん1つしかないよな?」 「ちえっ」 舌打ちするリョーマの肩をぽんぽんと叩いて、 佐伯は仕方ないなあといった笑みを浮かべた。 「うん。でも利用できるものは何でも利用する。自分だけは損しない。そんなお前の根性は大したモンだ。十分世間でやってけるぞv 電車賃分だけだけど、そんなお前へのご褒美だ」 懐から出された札数枚。ぱっと受け取り、 「へへっ。どーも」 にやりと笑うリョーマは確かに世渡りが上手そうだった。少なくとも電車賃片道分に××日もかけた兄よりは。 佐伯は今度はリョーガに向き直った。笑みの種類が変わる。 リョーマ同様手のひらを差し出し、 「そんなワケだ。今の金、5倍にして返してくれ」 『はあ!!??』 全額返せならともかく何ゆえ5倍? 驚く一同の中で、もちろん最初に反対したのは払わさせられる当人だった。 「ちょっと待てよ佐伯!! お前今払ったの、巻き上げた俺の金だろ!?」 「当たり前だろ? 何で俺がお前のために自分の懐痛めなきゃならないんだよ?」 「・・・・・・。 だったら返す理由はねえだろーが!! 大体何でいきなりンな額跳ね上がるんだよ!?」 「お前だって海の家でバイトしてて気付くだろ? 飲食物の値段の5割は人件費だ。それそのものである材料は全体の料金の内のごく僅か。 さて今俺はお前の代理人として越前に金を返した。仲介者として働いた分の費用を求めるのは当然だ」 「・・・・・・・・・・・・。 ちなみに『払わねえ』、っつったら?」 「言うのか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 払わせて下さい」 「円満解決だったな。 あ、今すぐ5倍払うのは無理だろ? 貯まってからでいいからなv 利子は今日の分の交通費って事でv」 「結局7倍になってんじゃねーか!!」 「心配すんな6倍だ。帰りは『よっ。久しぶりに会いに来たぞ』って跡部に恩を売るとタダで送ってくれるから」 「それアダだろぜってー・・・」 「何言ってんだよ? 幼馴染が会いに来たんだぞ? わざわざ忙しい合間を縫って交通費払って。泣いて喜ぶのが普通だろ。感謝の印でせめて帰り位送ってくれるのが」 「お前が交通費一切払った事ねえ理由がよくわかるな・・・・・・」 「よし。じゃあそういう事で」 「納得してねえよ!!」 ぎゃーぎゃーやりあう2人を遠くから見守りながら、 「うあ・・・。佐伯さんツワモンっスね〜・・・・・・」 「払ってないのにタカる越前もどうかと思ったけど・・・・・・さらに上もいるんだな・・・・・・・・・・・・」 「というか、これは立派な恐喝ではないのか・・・・・・・・・・・・?」 「まあ・・・ ・・・一応解決したからいいんじゃないかな? サエ視点で円満に」 「けど・・・・・・」 英二がぼそりと呟いた。 「やっぱリョーガが家出てった理由よくわかったわ」 「つくづく人運ないねリョーガ君」 「実は桜吹雪の元にいた時が一番よかったのか・・・?」 「まあ・・・・・・ ――――――幸せの形は人それぞれだから」 「幸せじゃねーよンなモン!!!」 青学コートには、そんなリョーガの悲壮な叫びが広がっていった・・・・・・。 ―――Fin |
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『前略ジャケット』というオマケがつくそうですDVDの高い方(爆)。何なんでしょうね? とりあえず『ジャケット』な時点で普通にそんなものでしょうが、『チェンジング・アナザー』などつけられたおかげで「2人が変わる!? 何がだ!? どれがだ!? やっぱ定番で服装(ジャージ)か!?」と悩んだ結果、こんな話になりました。
・・・しっかし衣装交換までやってなぜリョガリョになんないんだろう・・・? そしてそれすらどうでもよくなるリョーマとサエの外道っぷりが・・・・・・・・・・・・。
2005.4.24〜25