たとえ離れていたとしても・・・・・・
小さな頃、自分に出来ないものなど何もないと思っていた。自分は絶対でっけえ夢を掴みとれると信じていた。
夢が崩れるのは意外と早くて。力ではどうしようもないものを知ったとき、俺は1つ大人になった。
大人になって、求めたのは金だった。金があれば何でも出来る。だからみんな金を欲しがるんだろう?
金を求めて汚い事にも手を染めて。そしてついに出会ったんだ。俺の欲しかったものと。
ソイツと一緒になる事を選んだ。ためらいはしなかった。俺は欲しいものを手に入れたんだ。
だが。
それでもまだ足りなかったんだ。俺はそれでも求めなければならない。力でも、金でも、ソイツでもないものを。
なあ、俺は何を求めればいい?
平凡な人生。平穏な人生。俺の今までの歩みを名付けるならば、こんなものだろう。―――アイツに出会う前は。
アイツに出会い、何かが変わった。何かは変わった。
変わる事、変わらない事。俺はどちらを望んでいた?
どちらでも後悔はしない。どちらでも、それは俺が選んだ事だ。
―――ならばこの展開も?
心の声がそう問い掛ける。望んだ・・・のだろうか? よくわからない。わかるのはただ1つだった。
永遠の平穏を手に入れた。ただそれだけ。
もうここから何かが変わる事はないだろう。変わらない事を選ぼうと、変わる事を選ぼうと。
自分の無力さを噛み締める。全知全能の神だとなどと驕りを持った事はないのに。
心の問い掛けにかけ返す。
なあ、俺は何を選べばよかった?
* * * * *
「・・・・・・で?」
「え、っと・・・・・・」
「そう振り返ったところで、お前はこの責任をどう取ろうと?」
「いやだってなあ、まさかお前がそんな事やってるなんて思ってもみなかったからなあ」
額に青筋を山ほどこさえる佐伯に、リョーガはいっそ開き直って言ってみた。ああ思わなかったさ。抱きついた佐伯がまさか接着剤のチューブを持っていたなど。抱きついた弾みに押し出してしまったなど。おかげで2人がヘンな恰好でくっついたままになるなど。
佐伯がはがし剤を持っていなかったのは納得がいく。佐伯は『備え』はしないタイプだ。使うかわからないはがし剤など買うワケがない。そして、
「なあ、やっぱ諦めてはがし剤買いに行こうぜ?」
「行けるわけないだろこの恰好で」
「いいじゃねーか。仲イイ2人っつー事でさ。宣伝にもなるし」
「確かにお前が変態だっていういい宣伝にはなりそうだな」
・・・そんなこんなで買いにも行けない。どんな恰好でくっついたかは―――まあ皆様のご想像にお任せしよう。
「んじゃ何とかこう・・・、お湯にふやかして取る、とか〜・・・」
呟きながら立ち上がろうとして、
びたり! とコケた。
大騒動と大格闘の末、ようやく台所までたどり着く。熱湯の入った水筒を掲げ、佐伯は笑顔でこう言った。
「んじゃ、さっそくお湯でもかけて溶かすか」
「ちょっと待て!! ンなモン被ったら大火傷決定じゃねえか!!」
「ん? 何だったらお前が身を犠牲にして皮剥がすって手もあるぞ?」
「何で俺が!!」
「お前のせいだからだろーが!!!」
* * * * *
結局、帰ってきた父親に頼み込んではがし剤を買ってきてもらうまで、5時間半2人はくっついたままだった。
久しぶりに離れ、リョーガが握り拳を作った。
「よし! 次はもっとまともな体勢でくっつくか!! そしたら一生離れずに済むしな!!」
「最初に忠告しといてやるけど、ヘタな姿勢でくっつくとほとんど何にも出来なくなるぞ?」
「ハッ・・・!!」
「・・・。
気付こうなそういう事は自分の頭でv」
「つまりお前は何かしたいんだな佐伯!! 言ってくれりゃくっついてなくても今すぐ―――!!」
ごばしっ!!
―――Fin
* * * * *
そんなワケで、離れ離れにならなかった2人です。コメント下さった方本っ当ーに期待外れのボケをやってしまってすみません!! 「自力ではどうにもならない状況で2人が離れる・・・? 逮捕されるか? あ、リョーガが保釈金即座に払うか。不治の病か? 毎日見舞うだろ。いっそ殺すか? いや地獄までも追いかけるか勝手に蘇るかしそうだなあこの2人・・・」。悩んだ結果、いっそ『離れられない』展開にしてみました。おお! 確かにコレなら2人の力ではどうにもならないぞ!? やった目標達成!!
・・・・・・・・・・・・。
ヲトメサエはどこへ行った? 相も変わらず手段のために目的を忘れる管理人でした。とりあえず、初っ端のサエのモノローグはヲトメっぽかったか漢っぽかったか。一応最初はヲトメちっくにやったはずでした!
2005.5.7