「お前のダジャレはつまんねーんだよダビデ!!」
 どがっ!!
 毎度恒例の黒羽お得意空中コンボを見ながら、
 「・・・・・・・・・・・・」
 佐伯は顎に手を当て考え込んだ。










初体験









 「なあ、バネさん・・・」
 「んあ? 何だサエ?」



 屋上にて、大空の下一緒にお昼を食べる佐伯と黒羽。いきなり呼ばれ(しかも何やら続き込みで)、黒羽は佐伯特製特大おにぎりにかじりつこうとした恰好のまま止まった。
 横を見る。隣同士柵に凭れていた筈の佐伯は、今はなぜかこちらに正面から向き直っていた。
 何やら重大な話らしい。とりあえず口を閉じ、黒羽もまたそちらへと向き直った。



 「どうしたんだ?」



 改めて尋ねる。目を合わせてみると、今度は逆に逸らされた。割と当たり前の反応。意見ならともかく、相談の類を相手と見合って出来る人はそういない。それでもあえて合わせたのは、ちゃんと話を聞くぞというボディランゲージだった。



 黒羽は、六角ファミリーの家長のような存在だ。部長部員といった役職抜きに、何か起こると中心的立場になりやすいし、そのため部員らからの相談を受ける事も多い。佐伯は大事な部員であり、同時に大事な恋人だ。相談に乗るのにためらいなどあるワケがない。



 目を背けた佐伯。なおも暫しもじもじとためらい―――チラリと視線が上がった。これから何か言うの合図。
 再び逸らされ、



 「バネさんさ、今日もダビデに突っ込んでたよなあ・・・・・・」
 「まあ、確かになあ。今日も相変わらずダビデのダジャレは寒かったからな。
  ―――ああダビデのダジャレ止めさせてえってのか? 悪りいなあ、毎日部活妨害しててよ。出来りゃ俺も止めさせてえって思うんだが、やっぱありゃ性分っつーかもうそれこそ死んでも治らねえって感じだからよ、我慢してくんねーか? まあ丁度いい冷房だとでも思ってよ。一番凍んのは頭の中だが」
 「いやそれはいいんだけどさ・・・・・・最近俺も対処法として先回りして言ってやる、っていうもの思いついたから」
 「・・・・・・ああ。お前のそのツッコミほど寒みーモンもねえからな。ダビデもマジで泣くしよ」



 ははははは・・・と視線を逸らし乾いた笑いを浮かべる。その間にも―――その中の1フレーズを聞き取り、佐伯の視線がぴったり黒羽へと戻った。



 「そう突っ込み! その話がしたかったんだよ!!」
 「・・・・・・はあ?」



 がしりと手を握られる。驚き見下ろせば、佐伯はこちらの懐に入り込みじ〜〜〜っと見上げていた。
 えらく真剣みを帯びた眼差し。緊張するが・・・それは恋人同士のものというより、テニスの試合で相手がサーブを打つ前といった感じだ。
 応えるように黒羽もまた、ふざけた様子を消し向き直った。



 火花でも飛び散りそうな緊迫感。見た人は多分、自分たちはこれからケンカをするのだと勘違いするだろう。それほどの様だった。
 見つめ合い、
 佐伯が口を開く。







 「俺にも突っ込んでくれ! バネさん!!」







 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」
 「だから! ダビデがボケ・バネさんがツッコミの漫才はいつもの事だろ!? だからみんなバネダビコンビとして認識してるだろ!?」
 「・・・・・・俺は一度もした憶えはねえけどな」
 「逆に俺とバネさんなんて何の接点も無い!! プレイスタイルが被ったし性格面でも半端な合い方だからダブルスペアとして絶対選ばれないし!!」
 「まあ、確かになあ・・・」



 自分と佐伯。共にネットプレイが得意なサーブ
&ボレイヤーな2人が組んでもあまり意味がない。
 そして佐伯。ダブルス向きのプレイをするクセに彼はほとんどの場合シングルスに出場する。理由は簡単だ。彼に合わせられるパートナーが存在しないからだ。青学戦では樹と組んだが、アレもまた佐伯対英二・樹対不二の、個対個の戦いだった。合わせられないのは実力によりでもあり・・・・・・性格によりでもある。恋人同士になって改めて断言するが―――



 (コイツと思考回路の合うヤツはまずいねえだろ・・・・・・)



 ダブルスで焼きもちを焼くのはわかる。その辺りは可愛いしこちらも嬉しいので受け入れる。が、



 (なんでそれで突っ込みになんだ・・・? ダブルスペアになりてーんだったら普通にテニスで合わせようぜ・・・・・・?)



 ―――このように、佐伯の思考回路は黒羽には完全に意味不明だった。



 それらの疑問は横に掃いて捨て、
 「それはともかく・・・
  ―――何に突っ込めばいいんだ?」
 「え・・・・・・?」
 「だからよお、突っ込むからにはその前振りとしてお前が何かボケなけりゃなんねーんだけど・・・・・・」



 言いにくそうに言われ、佐伯がはっと息を呑んだ。(
周りからの認識はどうあれ)佐伯は(自分の中では)突っ込み役である。いきなり「ボケろ」と要求されても、それは詰まるしかないだろう(たとえ周り全員に『天然ボケの末期』とまで言われようと!!)。



 口を尖らせ困り果てる佐伯。瞳を潤ませ泣きそうな表情に、
 黒羽は肩を竦め苦笑した。



 (ま、この程度でいっか)



 ちょっとしたお灸だ。これでもう、このような事は考えなくなるだろう。
 安心させるように頭を撫でようとし・・・





 佐伯が再びはっとした。勢いよく顔を上げ、言う。







 「ここは逆転の発想で俺が突っ込み、バネさんがボケになれば!!!」
 「それでどーしろっつーんだ!!??」
 『天然ボケ末期男』に約束通り空中コンボを決め・・・・・・ようとして。







 ずごげっ!!
 「うおっ・・・・・・!!」
 ・・・・・・逆にカウンターで技を喰らった。















 「しまったつい反射行動で!! バネさん大丈夫か!?」
 沈んだ黒羽へ、佐伯が駆け寄る。
 抱き起こされ揺さぶられ、「バネさんしっかりしろ傷は浅いぞ!!」と心温まる励ましの言葉を受け、







 (コイツの人生そのものにツッコミ入れてえよ・・・・・・!!!)







 黒羽は、そんな呪詛と共に没したのだった・・・・・・。



―――Fin











 ―――一番の初体験はバネサエそのものですか? 何かこの
CPはサエが可愛らしいイメージがあったのですが、『可愛さ』の意味どっか違いますね・・・・・・。これでも一応気分はヲトメ? 漢にはむしろ強かったバネさんがなぜかヲトメに負けてます。おっかし〜なあ・・・。

2005.5.13