秋風

〜1〜






 




 「なあ、景吾・・・」
 いつものように、ベッドに座る跡部へにじり寄る佐伯。が、
 「うっせー。近付くんじゃねえ」
 なぜか、背中を向けたまま一蹴された。
 「え・・・?」
 きょとんとする。理解が遅れた。
 「なあ、今なんて・・・?」
 「だから俺に近付くんじゃねえっつってんだよ」
 真っ白になった頭に、ゆっくりと言葉が浸透していった。





 ―――俺に近付くんじゃねえ。





 「はは・・・。何、言ってんだよ景吾・・・・・・。面白くないぞ? そんな冗談・・・・・・」
 「冗談でも何でもねえよ。本気だ。金輪際てめぇは俺に近付くな」
 はっきりした拒絶の態度。向けた背中が、言葉どおりこれが本気だと告げていた。
 佐伯の引きつり笑いが、大きくなった。今にも泣きそうな顔で、それでも笑い続ける。
 泣いてしまえば、自分もそれを受け入れた事になりそうで。
 笑っていれば、その内跡部も「なーんてな」などと言いながら振り向き一緒に笑ってくれるかもしれない。
 「なあ、嘘だろ・・・? 嘘だって、そう言ってくれよ景吾・・・・・・」
 背中に縋り付く。両手をつけ、心臓の音を聞き取るように顔を近付け―――
 「触んじゃねえ!!」
 どん―――!!
 突き飛ばされ、佐伯はベッドに横倒しになった。
 ようやっと振り向いてくれた跡部。眉を吊り上げカッとした表情で、
 「何度言ったらわかりやがる!! いいか!? てめぇは二度と俺に近付くな! 邪魔だ! 失せろ!!」
 「景、吾・・・・・・・・・・・・?」
 倒れたまま、見上げる。仁王立ちでこちらに指を突きつける跡部を。
 自分の中で、何かが崩れ落ちていく。今度こそ完全に真っ白になった。
 呆然とした佐伯に、もう跡部の言葉は何も入っては来なかった。ただ、
 「てめぇが出ねえんならもういい。俺が出てく」
 ―――こちらに再び背中を向け、去っていく跡部の姿だけが映った。
 動かなかった体が動く。手を伸ばし、佐伯は愛しい者の名前を叫んだ。
 「行かないでくれ景吾!!」









 
抱きっ★










 
「うがごらぎどえれわだげでごずぐがおどえぐああぁあああぁぁぁあああぁああ!!!!!!!!!!!!!」






































=3     =3     =3     =3     =3








 悶絶し絨毯に倒れた跡部を、佐伯は大爆笑して見下ろした。親指など立て、
 「カッコいいぞ景吾v」
 「どこがだあああああ!!!???」
 這いつくばったまま睨め上げる跡部。1人では起き上がれないのだから仕方ない。
 ―――母親に付き合い、昨日ヨガなぞをやってみたそうだ。決して体が硬いワケでも筋肉がないワケでもないのだが、母親に対抗しすこ〜しばかり無理をしすぎたらしい。全身の筋を違え、今日は強制的に絶対安静を喰らっているという。
 「楽しいか!? てめぇはこういう事ばっかやってて楽しいか!?」
 「いやイマイチ」
 「・・・・・・あん?」
 「予定ではもうちょっとお前が地面でのた打ち回ると思ったんだけどなあ。ちゃんとやってくれなきゃダメじゃん景吾」
 「俺のせいか!? それも出来ねえっつってんだろーが!!」
 「そこは根性で」
 「出来るかああああ!!! つーかてめぇその割に散々笑い飛ばしてたじゃねえか!!」
 「だからお前がびたばたやってくれたらもっと笑うから。
  さあ!」
 「やらねえに決まってんだろーが『さあ』とか促してんじゃねえ!!」
 完全にヘソを曲げたようだ。ふん!と顔を背け―――ようとしたらしく、頭の向きが
10度ほど変わった。
 代わりに実行してあげるべく、逆側へと回り込む。鏡の類もないため、完全なる死角へと到達し、
 「まあまあ、そんな怒るなよ。な?
  こっち向けよ」





 ごき。





 
「うがげらわああああああああああああ!!!!!!!!」
 
びたばたびたばたびたばたびたばた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぱた







=3     =3     =3     =3     =3








 ・・・・・・こうして、完治はさらに1週間ほど延びた。



―――Fin


 











 ―――筋違えた・・・? 何か骨までイカれたっぽい音がしましたが・・・・・・。とりあえず前半ヲトメ、後半漢のサエでした。

2005.5.16