秋風

〜2〜






 




 会うなり恋人に、
 「俺に近付くな!!」
 ―――と言われたら、通常は別れの到来だろう。
 さて思う。恋人兼同じ家の住人に玄関前でそう言われたらどうするべきか。
 疑問だったので尋ねてみた。地面に這いつくばる恋人に。
 「コンタクトでも落としたか?」
 「なワケないだろ?」
 「だよなあ」
 頷く。彼の視力は両目とも2.0。特に何も問題はないし、オシャレなどでカラコンをつける派でもない。
 次。
 「現場保存か?」
 「ここで犯罪なんて起こるわけないだろ?」
 「いやむしろ犯人の方が返り討ちに遭って」
 「残念ながら、だとすると俺が犯人状態になる」
 「んじゃ違うか」
 再び頷く。いや少年なら罪には問われないから保釈金は払わさせられないのか・・・? などと考えつつ。
 「ああ、玄関修理してたのか」
 「それだったらむしろお前来させるだろ」
 「・・・何でだよ」
 「お前が埋まるとその分コンクリ使う量が減る」
 「断る」
 今度は頷かなかった。
 「つまり、玄関からじゃなくって窓から入れって事だな?」
 自己確認を取り、リョーガは門からくるりと踵を返した。
 「あ、リョーガ」
 佐伯の呼び止め声。振り向く。
 ―――弾みに足が何かを切った。
 「・・・・・・・・・・・・」
 とっても平和な気分になる。死を覚悟してから実際死ぬまでというのは、こんなにも平穏な気分になれるものだったのか・・・・・・。
 「そこ危ないぞ」
 「お前が呼びかけなきゃ危なくなかったよ!!」
 そんな突っ込みと共に、後ろから何かが振り下ろされてきた。風の唸りで察し、リョーガはテニスバッグを捨て前へと身を投げ出した。
 地面で1回転し、振り向く。どこに隠されていたのか、砂袋が振り子のように揺れていた。たかが砂袋されど砂袋。あの勢いで頭に当たっていたら失神確実だった。
 などといろいろ考える理由は簡単だった。回り終わったところにあった落とし穴に落ちかけていたからだ。1つの攻撃の最中は他のものは来ない。そのような下衆な真似はしない。佐伯はこれでなかなか風流のあるヤツだ。
 落ちながら、カムフラージュ部を支えていた網を掴み引っ張る。穴の直径がよく見えた。自分の身長よりは小さい。
 手足を引っ掛け落下を避ける。尖った竹が仕掛けられたりなどはしていなかったが、こちらの方にコンクリが使われていた。もちろんまだ液体。
 見上げる。尖った竹は上から降ってきた。網を引っ掛け脇へと捨てる。体に当たらなかったものは穴底に突き刺さり、丁度いい支えになった。
 腹筋を駆使して起き上がる。玄関までは残り2mで、間に佐伯が立っていた。わなわなと体を震わせ、
 「リョーガの馬鹿あああああ!!!!!! せっかく空き巣対策に3時間かけて作ったのに!!」
 「空き巣死ぬわあああああああ!!!!!!!!!」
 佐伯の叫びに、リョーガもまた叫び返す。どれもこれも実に凶悪な罠だった。
 「つーか俺は入ってねーだろーが!!」
 「入ったぞ?」
 「はあ? どこが?」
 「そこ」
 差される。もちろん門の方。
 「『敷地』って難しいと思わないか? 境目がわかるように塀や柵をつけるが、それらは全て敷地の内側に入るように作るべきかそれとも敷地をしっかり囲んで外側につけるべきか妥協して半分中半分外になるよう調整すべきか。
  ―――そこの門は敷地の内側に作られてる。門の下に少しでも爪先が入ったりすると問答無用で不法侵入だ」
 「俺は立派にここの住民だ!!」
 「だから作動させるなよ!!」
 「どうやって回避すりゃいいんだよ!? 次からちゃんと人物認識装置つけろよ!!」
 「ちゃんとつけてただろーがだから俺がそこにいたんだ!!」
 「尚更俺で作動させんじゃねえええええ!!!!!!!!」







=3     =3     =3     =3     =3








 そんなこんなで佐伯家。こんなものを仕掛けずとも安全対策はばっちりだろう。なにせ―――
 (一番危ねーのは住人自身だしな・・・・・・)
 投げ出したテニスバッグを取りに戻り、今度は違う罠を作動させ命辛々公道まで脱出出来たリョーガ。破壊され尽くした玄関先を眺め、今夜は野宿をしようかと真剣に悩みこんだのだった・・・・・・。



―――Fin


 











 ―――「俺に近付くな!」「どうしたんだよ佐伯」「リョーガの馬鹿あああ!!!」「おい待てよ佐伯!!」ダッシュ引っ掛けべちゃ!!「・・・・・・」
 ・・・でコンクリートに顔面から突っ込むリョーガも良さげでした。

2005.5.16