「やっぱ恋人にするなら景吾君よねv 性格も(佐伯君に比べれば)良し、お金も(佐伯君より)ありvv」


こんな事を考える彼女。意外と跡部より佐伯の方が好きだといった前回の主張は合っていたのかもしれない。
最早その頭の中には跡部よりも先に佐伯が出てくるようになったようだ。





Priceless Pride
          〜プライドの価格〜





しつこくおまけ編。


 いつもとちょっと違った夜。お祭の夜。
 からん、ころんと音が響く。通りを歩く誰もが浴衣姿の折原嬢――――――の前にいる跡部と佐伯に釘付けになった。
 「うわ〜。あの人たちすっごいかっこいい〜vv」
 「外人さんかなあ? すっごいスタイルいい」
 「けどだとしたらすげーよなあ。完璧着流し似合ってんぜ?」
 「ホント。わざわざあつらえたみたい」
 「同じ柄見た事あるけど、やっぱ着るヤツが違うと違って見えるんだな〜」
 周りの注目を引かずにはいられない2人。しかしながら彼らは周り(と後をついてきている折原嬢)を完全に無視して楽しんでいた。バナナチョコを賭けたじゃんけんでは佐伯が動体視力を生かし半反則をし、逆に三色あめでは跡部がクジ運のなさを披露しプラマイ0。金魚掬い対決では店主を泣かせ、さらに綿菓子は2人で1本買い両側からはむはむ。
 当事者のみならず周りにも娯楽を与える2人。ではあったが・・・
 もちろん面白くないのが彼女、折原嬢であった。
 噴火寸前の火山のように、嵐の前の何とやらで彼女は静けさを保った。いつかは自分も振り向いてもらえるだろう、そんな儚い希望を胸に。
 が―――
 「あ、クレープ見っけ。食おうぜ景吾」
 「甘いモンばっかで腹減ったぜ。佐伯、お好み焼き食おうぜ」
 「じゃがバターだ。暑い時熱いモンもいいよな〜景吾v」
 「あっちー・・・・・・お? 丁度いいモンあんじゃねーか。カチ割り買おうぜ佐伯」
 「
400円たこ焼き発見!! あ〜やっと見つけた〜。他全部500円だったもんなー。
  ―――景吾、
400円」
 「
200円だろーが割り勘すりゃ!!」
 「じゃあ代わりに取り分は6:2で」
 「いいぜ。俺が6な」
 「よし。お前が6分で俺が残りの9割4分な」
 「そーかそんだけ金払ってくれんのか。お前にしちゃ随分太っ腹だなあ」
 「じゃ、割り勘で4個ずつ
200円、と」
 「りんごアメか。懐かしいな。よく食ってたか、不二が
 「あ、みかんアメだ。見ると思い出すなあリョーガ
 「てめぇ・・・・・・!!」
 「ハッ!」
 「・・・・・・んじゃあここは間取ってあんずな」
 「そうか。橘さんが好みか」
 「・・・・・・・・・・・・。何も入ってない水あめ下さい」
 「あいよ〜」
 ・・・・・・お前ら食いすぎだろ?といった感じですが、年に1度の祭。腹を下すまでいろいろ食べるのはお約束です金さえあれば。
 お互いしか見ない2人。他人の名前出して愛情確認とかもやってはいるが、自分は歯牙にもかけられない。
 空腹も手伝い、折原嬢が切れるのは早かった。
 「2人とも私無視して酷い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」
 主に女性限定必殺武器『泣き落とし』。いきなり道の真中で泣き出す彼女に、2人は他人のフリしてどころか全く気付かず立ち去る・・・
 ―――かと思いきや。
 「は〜・・・。お前もこの程度でいちいち泣くなよな」
 「仕方ないなあ。ここにいても邪魔になるし、その辺りででも休もうか」
 「え・・・・・・?」
 戻ってきた2人に、優しく肩を抱かれて促され。
 周りからの嫉妬を背に歩く折原嬢。その顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。







∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 神社裏の、ひっそりとした適当な空間で。
 ひくひくぐずる彼女を石段に座らせ、跡部はその前に仁王立ちし腕を組んだ。
 「あのな、何度も言うが俺はてめぇにゃ興味ねえ。わかったか?」
 「だ、だってそれでも・・・」
 しゃくりながら何とか返そうとする折原嬢。震える肩をぽんぽんと叩き、佐伯が囁いた。
 「そうだぞ? 景吾は止めた方がいいよ? 君のために言ってるんだからね」
 「なん、で・・・?」
 「今まで言ってなかったけど、景吾は特殊な嗜好の持ち主なんだ。人を苛めるのが大好きなんだ。サド気質なんだ」
 「それはむしろあなたじゃ・・・」
 「だって思い出してごらんよ。景吾はいつだって君に冷たく当たってただろ? 今みたいに君が泣くのを待ってたんだよ。そうやって景吾は悦ぶ変態なんだよ」
 「オイ・・・」
 「ほら今だって見てごらんよ。すごい嬉しそうな顔だろ?」
 「頬引きつってるんだけど・・・」
 「嬉しくてたまらないからさ。
  それに見てくれよコレ。今まで隠してたけど―――」
 佐伯が後ろを向き、着流しを肩から下ろした。はらりと落ちる布。露わになった背中は―――
 「それっ・・・!!」
 「酷いだろ? 景吾にやられたんだ。俺は啼かないからって無理やり・・・」
 着流しを再び着込む。背中一面にあった切り傷や痣が隠された。
 「俺は君のために言ってるんだよ。君ならまだ間に合う。もっといい相手見つけな」
 「で、でもあなたは―――!!」
 「俺はいいんだ。俺はもう手遅れだから。俺はもう―――景吾に愛してもらえないとダメなんだ。
  でも君なら・・・!!」
 必死の佐伯の主張に、折原嬢の見開かれた目が潤んでいた。
 佐伯が込めていた力を抜く。ふ・・・と、全てを諦めた優しい笑みを浮かべ、
 「な? わかっただろ? 逃げてくれ、君だけでも。そして君は幸せになってくれ。
  悪かったね今まで、辛い事当たって。君には何も知らない内に逃げて欲しかったんだ。君に一生消えない心の傷を負わせるなら、俺が嫌われ者になっても構わなかった・・・」
 「佐伯君・・・・・・」
 「行ってくれ。大丈夫。景吾は俺が止めておくから。
  君は今まであった事を全部忘れて、またやり直してくれ。君なら幸せになれるよ。頑張れ。
  ――――――大好きだよ、香奈江」
 「佐伯、君・・・・・・」
 よろよろと立ち上がる彼女。後ろ向きで少しずつ遠ざかり、
 「ありがとう! 私も大好きだよ虎次郎君!!」
 それだけ言い、彼女は走り去っていった。そして・・・





 ――――――もう2度と、戻ってくる事はなかった・・・・・・。


















































∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 ようやっと2人になり・・・。
 「さって一丁上がりっと」
 元の様子に戻った佐伯が、口笛など吹きつつ言った。
 「で? その傷何なんだよ?」
 「この間
500円硬貨が落ちててな。拾った。その時出来た傷だ」
 「金拾うだけで何でンな傷・・・?」
 「粗大ゴミの隙間に落ちててな。何とか潜り込んで拾ったはいいがそこで倒壊して。
  市民の義務として警察に届けたんだ。拾ったら1割はもらえるしな。そしたらお巡りさんは『いいから君のものにしなさい』って全部くれたんだよな。おかげで新しいTシャツが買えた」
 「そりゃンなぼろぼろのヤツが
500円こっきり届けに来たんだったらくれてやるだろーな。
  だからてめぇはマジで物の考え方間違ってねえか? Tシャツ犠牲にして拾った金でTシャツ買った、って・・・・・・。意味ねえじゃねえか」
 「そんな事はないさ。元からそろそろ限界のヤツだったしな。買いに向かう途中で見つけたんだ。ちなみにボロボロになったのはもちろん小さくしてボロ布として使ったぞ」
 えっへんと胸を張る佐伯に、跡部はげんなりと肩を落とした。これがついこの間1億円を燃やした男かと思うと・・・・・・。
 いろいろ疲れたので佐伯の隣に腰を下ろす。
 「にしても、何で俺が変態扱いなんだよ。変態はむしろてめぇだろーが」
 「まあいいじゃん。おかげで邪魔者追い払えたぜ?」
 屈辱的ながら間違ってはいない指摘。跡部は渋々頷き―――
 ―――渋々押し倒された。
 「・・・・・・あん?」
 「だから、さっそく実践しようぜ?」
 にっこり笑う佐伯。その手には、縁の下に隠していたらしいムチと首輪が持たれていた。先ほどわざわざ着流しの脱ぎ着をしたのは、その動作に紛れて取り出すためだったようだ。
 「折原もいいトコで泣いてくれたよなー。おかげでココ連れて来る口実が出来たよ。お前の着流しそそがれ過ぎ。ア●カンってのもいいよな〜vv こんなトコでやると神への冒涜っぽいし〜vv
  さあってさっそく〜♪」
 「やっぱてめぇの方が変態じゃねーか!!!」







∞     ∞     ∞     ∞     ∞








 その間いろいろあったらしくぜーはー疲れていた跡部。それでも着流しが全くよれていないのは、2人とも着付けはしっかり出来るからだった。
 ぜーはー荒い息の合間に、問い掛ける。
 「そういやてめぇ、なんでアイツに好きだなんて言いやがったんだよ・・・」
 他は全部からかいだとしても、あれだけは我慢が出来なかった。よりによって自分の前で(いないところでももちろん嫌だが)他のヤツへ告白など!
 色っぽい目で睨みつけられ、
 佐伯は上を向きはははははと笑い飛ばした。
 顔を戻す。こちらも人を引き付ける冷酷な笑みを浮かべ、





 「実際、ああいうノリのいい馬鹿は大好きだからさ。低俗なからかいにはぴったりだ」





 「・・・・・・・・・・・・あーそーかよ」
 もう何度目になるのかのボヤき。いつもと同じ半眼を向けながら、しかしその目元は緩んでいた。
 しっかり見極め、佐伯は跡部の腕を強く引っ張った。自然と近付く。顔から。
 触れ合う寸前で、
 「俺が愛してるのはお前1人だよ、景吾」
 「バーカ。ンなのとっくに知ってるっての」
 「ならお前は?」
 「ああ? わざわざ訊くってか?」
 「ああ。聞きたいな」
 「なら、よ〜く耳かっぽじって聞けよ?」
 唇を合わせる。口の中へ、跡部は囁きかけた。



















 ―――『愛してるぜ、佐伯。お前ただ1人だけを』と。





















 キスをする佐伯の顔は、今まで見た事がないほどに幸せそうだった。





―――Fin











 SMはMが攻めの方が好きです。「〜しろ」とか命令されてヤっちゃう感じ。あるいは苛められてる側の逆襲。実際にそれには走らずとも、私の書くCPは基本的にこのノリです。なので受けの方が一見強い。
 ・・・そんな話を語り隊の3辺りでしたような気もしますが、なぜわざわざここで強調するのか。答えはこの1文に尽きます。

 これは
跡虎です。

 決して虎跡ではありません。一応この話はずっと跡虎で進めていましたので!! ラストで跡部の方が疲れているのは精神的に負かされたか遊ぶだけ遊んで事には進んでいないかしたからです!!
 しかし
SMで首輪・・・。時期的にちょっとヤバめですかね。どーしてもやりたかったのですよこのオチ。跡部がS。あ〜珍しいな〜・・・・・・。
 では以上、ヲトメサエ初の対跡部で長編。次は漢サエで短編(こっちは全てがオチになるため長編にはなりそうもないなあ・・・)が、書けたらいいな〜・・・。

2005.5.15