「ねえバネさ〜ん!!」
「ん? 何だよ剣太郎」
仲良さげに話す2人を、
「・・・・・・・・・・・・」
佐伯は口を尖らせながら見ていた。
2度目も懲りず・・・
「なんだよサエ改まって」
放課後。部室裏に呼び出され、黒羽は首を傾げながら目の前の存在を見つめた。
見つめられ、佐伯がもじもじと俯いている。
「あのなバネさん、俺お前に言いたい事があるんだけど・・・・・・」
六角ファミリー家長の黒羽。部員のみならず誰にでも公平に接する彼は、みんなから『頼れるお兄さん』として慕われている。こんな感じで相談を受ける事はよくある事で・・・・・・
「何でお前ばっか相談受けんだよ!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」
? ? ? ? ?
30分ほどかけ、佐伯の『主張』を聞き出すことに成功。曰く『自分ばかり人から相談を受けるのが気に食わない』らしい・・・30分前から話が進んでいないような気もするが。
「それが・・・・・・どうしたんだ?」
「『どうした』じゃないだろ!? 俺だって立場的には家長じゃないけど次長って感じだろ!? 家族であてはめればお前がお父さん俺がお母さん! となれば普通相談ってのは俺の方に持ってくるんじゃないのか!? 青学だってみんなの相談役は手塚じゃなくって大石なんだぞ!?」
「そりゃ・・・・・・
・・・手塚に何か相談ごと出来るくらい肝据わりきってるヤツなんて、幸村か跡部かあとは青学なら不二程度だろーからな。しかもそこまでイっちまってるヤツらはむしろ相談いらねーだろ・・・・・・」
10000人中9999人は納得してくれそうな理論を言ってみる。が、
―――どうやら佐伯は残り1人らしかった。
「でもやっぱ! お父さんはどっしりと構えて、1人1人面倒見て気を使うのはお母さんだろ!?」
「まあ・・・・・・」
「ホラ! ならやっぱ相談は俺にも!!」
言い負かされ、黒羽は渋々ながら承諾した。次から相談が来たら佐伯に回す事を。
「サンキュー、バネさん♪」
笑顔で去って行った佐伯を見て思う。
「・・・・・・アイツにまともな相談解決なんて出来んのか?」
そんな黒羽の予感は、
もちろんぴったり当たった。
? ? ? ? ?
1人目。
「あの・・・、俺好きな子がいるんだけどなかなか告白出来なくって、それで何とかこの気持ちを伝えようと思うんだけど・・・・・・」
「よしわかった。任せとけよ」
「ホント?」
「ああ」
「あのさ、君の事が好き―――」
「ホント!? サエくん!!」
「? ああ」
「嬉しい! 私も大好きだったの!!」
「ホントか? じゃあさっそく―――」
「今日から恋人同士ね、サエくんvv」
「・・・え?」
「佐伯の馬鹿ああああ!!!!!!」
「おいちょっと待てよこれは誤解―――!!」
2人目。
「あのね、お兄ちゃんが私の事苛めるの。物取ったりいじわる言ったり最近じゃべたべた触ってきたり―――」
「八つ裂き決定だな」
「え・・・?」
「ん? 何だ? 殴った方が良しか? それとも死体確認が気持ち悪いからなるべく原型を留めて欲しいと?」
「あのちょっと―――」
「あるいは妹の愛情でせめて苦しまないように一息で殺って欲しい、か? ああわかった。積年の恨みを晴らし解放されるためにもとどめは自分に刺させてくれ、か。
よ〜しわかった! じゃあその線で行こう!」
「違うから! お願いサエくん待って!!」
「えっと兄貴の通う高校は―――ああ大丈夫だぞ。ちゃんと下調べは完璧だからな。夕刻川沿いで1人になる。あそこは人目にもつかない。なんなら君はアリバイ作りをしててもいいし」
「いや〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!! お兄ちゃん逃げて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!」
「んん? 俺の計画邪魔するのかな? 美しい兄妹愛だなあ。それに免じて殺す時は一緒にやってやるからな?」
「だ〜れ〜か〜止〜め〜て〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!」
3人目。
「部活の先輩達が厳しいんス。ちょっとでもサボってたりするとすぐ怒って・・・」
「そういうののやり返し方は簡単だ。『先輩』より実力つけて見下してやればすぐなくなるぞ。
じゃあさっそくそのためにも特訓だ!!」
「あ、あの〜・・・・・・」
「ホラさっさと動けよ! そーちんたらやってるから怒られんだろ!? やる気あんのか!?」
「も、もーダメ・・・」
「その程度でヘバるな!! もう1セット追加!!」
「・・・・・・アンタの方が鬼だよ」
4人目。
「友達とケンカしちゃってそれで今気まずくて・・・」
「ふむふむ。だから仲直りしたい、と?」
「そーなの!! このままじゃ余計こじれそうで!!」
「じゃあここは、腹を割った話し合いだな。幸い丁度相手も来た。
はい2人見合って―――
――――――ファイ!!」
カーン!!
「はいっ!!」
「たあっ!!」
「『話し』合わせろ!!」
どごげっ!!
? ? ? ? ?
対決は、飛び入り参加の黒羽が佐伯を殴り倒して終了した。乗せられ取っ組み合った少女らも、彼の突っ込みで我に返り―――ついでに仲直りした。佐伯初めての相談解決成功である。
倒れた佐伯にため息をつき、
「とりあえず・・・・・・お前に相談が来ない理由はよくわかったな」
「何だよバネさん酷いなあ!」
佐伯ががばりと起き上がり猛抗議してくる。それは果たして殴られた事に対してなのかそれとも今の結論に対してなのか。後半だろうと決定付け(なにせ前半だと今度は自分が殴られる)、黒羽は佐伯の頭にぽんと手を置いた。
向かい合い、にっと笑う。
「んじゃわかった。今度は俺が相談すっからよ。お前はそれに乗ってくれや」
「バネさんの・・・?」
「そーだ。お前は俺の相談だけに乗っててくれ」
『だけ』。
非常に独占欲を掻き立てる言葉に、佐伯が1も2もなく飛びついたのは言うまでもない。
「うん!」
飛び切りの笑顔で可愛らしく頷く佐伯に手を差し出し、
「これからよろしくな、サエ」
「こっちこそよろしくな、バネさん」
? ? ? ? ?
こうして、佐伯からの相談事は解決した。周りへの被害を最小限に食い止めるために自分を犠牲にした黒羽。彼はこの後、己の行動を死ぬほど後悔するハメになった。
「―――つー事があってよ」
「ははははははははははははははっはははは! バネさん馬っ鹿だな〜」
「・・・・・・おい」
「ああうんわかってるよ。だから慰めて欲しいんだろ? おーよちよち。かわいそうでちたね〜」
「・・・・・・・・・・・・」
「何だよ不満なのかよワガママだなあ。わかったじゃあここはコペルニクス的展開で逆に怒ってみよう。
お前その程度で何挫けてんだよ苛つくなあ!!」
ぶち!
『お前に挫けてお前に苛付いてんだよ!!』―――と言えたらいいのだが、ここでそう言わないのが、彼がみんなの相談役として頼られる理由である。相手に同調するのは大切だが、一緒にブチ切れていては何の解決にもならない(佐伯のように先回りしてブチ切れると意外と解決しやすそうだが)。
(落ち着け。コイツはコイツでちゃんと俺の事を考えていろいろやってくれてんだ。その気持ちは無駄にするな)
すはーすはーすはーと深呼吸をして落ち着く。多少引きつりながらも笑みを浮かべ、
「あ、ありがとうな佐伯。おかげでなんか元気になったぜああうん」
「そうなのか? お前怒られんのが好きなのか?
確かに周りに怒るヤツってあんまいなかったもんなー。オジイものんびりだし。
じゃあ次からは俺がしっかり怒ってやるから楽しみにしとけよ? なんなら怒るの定番で武器とかも使うぞ? リクエストによってはムチやロウソクも―――」
「使うな!!」
(誰だコイツにそういう知識植え付けてるヤツ!!)
すはーすはーがぜはーぜはーになる。これ以上コイツの相手をしていると、そろそろ脳血管が張り裂けそうだ。
そろそろと逃げ出そうとして・・・
「あ、バネさん。相談は俺限定、だよな?」
(何でコイツ、心まで先読みが!?)
にっこり微笑まれ、黒羽はがっくり崩れ落ちるしかなかった。この後彼がいきなり倒れ、本当のカウンセラーの世話になったのは・・・・・・わずか3日後の事である。
―――Fin
? ? ? ? ?
相変わらず天然ヲトメには弱いバネさん。『人気者の彼に焼きもちを妬く話』というリクを参考に・・・・・・妬き方が違いますよサエ!! そんな人気独り占めしたいなんてどこぞの帝王じゃあるまいし・・・!! そしてバネさんはこんなサエによく付き合えるな〜・・・と素直に感心。
ところでどうでもいいのですが、サエが担当した4名。実は最初除いて全部問題解決してるんですよね見ようによっては。人殺しに荷担するよりは苛められた方がいいでしょうし、彼の特訓に比べれば部活はさぞかし居心地のいいところとなるでしょう。なお2番目の彼彼女。最初普通に先輩の後輩苛めにしようと思いつつ3人目と被ったので変えてみたら―――さりげに兄→妹で好きだから苛めるといった事にもなってます。それで殺されたらお兄ちゃん不幸だろーなあ・・・・・・。
2005.5.29