線上にての価値 You want to Bet








  おまけ―――

 こうして、佐伯とリョーガが狙われる事はなくなった。代わりに跡部・千石・リョーマが狙われた。
 「・・・・・・・・・・・・は?」
 「なん、で・・・、俺たちが・・・・・・?」
 「いやあ、世の中恐ろしいなあ。俺たち亡き今、有力なのはお前達だという噂がどこからともなく」
 「明らかにそれの発信源てめぇだろーが!!」
 「そんな俺がまさか。友人売るなんてそんな
人として最低行為すると思ってんのか?」
 「ぐ・・・・・・」
 詰め寄る千石と跡部に飄々と答える佐伯。事情アリとはいえその、『人として最低行為』をしてしまった身で反論の余地はない。
 黙りこんだ2人に替わり、リョーマがぼそりと呟く。
 「てゆーかだったらなんで不二先輩は無事なんスか?」
 「俺が周ちゃんをそんな目に遭わせるワケないだろ?」
 「今のはしっかり自白じゃねえか!!」
 「俺たちは!? 俺たちは別にいいワケ!?」
 「だからちゃんと言ったじゃん。『友人売るなんてそんな人として最低行為すると思ってんのか?』って」
 「友人以下か俺らの関係は!?」
 「いやだって友人なら売るなんて真似は〜・・・」
 「おんなじ事やってるサエくんに言う資格ないから!!」





 この後、3人はさらに強くそして文句は言わない真田と手塚を人身御供に差し出すまで、半月間地獄の目に遭うハメとなった。なおこの中に幸村と千歳が入らないのは〜・・・・・・まあ深くは追求しない方がいいだろう彼らのためには。
 そして・・・







・     ・     ・     ・     ・








 「よかったな〜佐伯v これで俺らはずっと一緒だvv」
 「そうだな一緒だな。
  それはそれとしてリョーガ。お前も一枚噛んだんだって?」
 「ぐ・・・・・・」
 2人同様こちらも詰まるリョーガ。にっこり微笑む佐伯を前に、せっかく肩に回した手もびくりと跳ね上がった。
 「あ、け、けどな? 俺はさらに騙されたんだぜ?」
 「ほうほう『さらに』。
  つまりその前は違った、と」
 「そ・・・そんな細かい事気にすんなよ。な?」
 「ああわかった。細かい事は気にしない。死んでても大好きだぞリョーガvv」
 「ちょっと待て!! お前その斧はどっから取り出した!? マジで殺す気か!?」
 「なんだよ文句あんのかよ。俺が好きだなんて言ってやるの珍しいんだぞ? その証拠に跡部はそれを1億ドルで買うって言ったんだぞ?」
 「そりゃ確かにお前のその手の告白は珍しいしそれが聞けんだったら俺だって1億ドル払って惜しくもねえけどな。
  ・・・・・・その前についた『死んでても』っつーのは何なんだ?」
 「心肺停止で瞳孔が開ききった状態。あるいはお骨になってても可。冷凍保存よりもっと建設的かつタダで済む手法として、誰か他人の体の一部として生きる手もあるけど」
 「それでも愛するってか!?」
 「死んだヤツの愛ってのは凄いらしいぞ? 『死者には勝てない』とか『不滅の愛』とか『あなたの事は永遠に忘れない』とかいろいろ言うだろ特に遺産残してくれた場合」
 「ラストはいらねえ。つーかそれぜってー『愛』じゃねえ」
 「・・・・・・生命保険なら愛だと?」
 「おんなじだ!!」
 「ああなるほど。臓器その他諸々の代金こそが愛」
 「タダで済むんじゃなかったのか!? 愛してるヤツ売りさばこうとか思うな!! とりあえず金から離れろ斧も下ろせ!! 俺殺しても遺産は家族に渡るだけだからな!!」
 「じゃあ俺のモンだな。もうお前は家族の一員だ」
 「オッケー!! んじゃ今すぐ国籍アメリカに移して結婚だ!!」
 「よっし了解!! そのまま日本へ新婚旅行だな一生!? もちろん旅費は全部お前持ちで!!」
 「そんじゃ
Lets Go!!」
 「―――ってちょっと2人とも」
 ぐい。
 『ぐげ』
 場にて、唯一冷静だった不二が2人の襟首を掴む。細身と見せかけさりげに筋力のある不二。青学での合宿にてさらにつけた筋力―――よりも受け流しの天才技にて、全くよろめく事なく爆走しかけた2人を転ばさせる事に成功した。
 首を反らし見上げる2人を見下ろし、
 「あのね、確かにアメリカの州によっては男性同士でも結婚できるかもしれないけど、なんにしても
15歳と14歳じゃ無理だと思うんだ」
 「なら残すは未開の奥地!! 現地民なら
10歳くらいで結婚する部族だってあんだろ!!」
 「そういう部族なら逆に同姓は無理だと思うよ。種の保存はより重要だもの」
 「あんだよかってえなあ!! いーじゃねえかちっと性別が違って年齢が低くっても!!」
 「・・・・・・結婚の可能条件に掠りもしてないんだね、君たち」
 「チビ助と跡部クンよりは合ってんじゃねーか!!」
 「まあ・・・・・・、そういう低いレベルで争えば確かに合ってるけど・・・・・・。
  ―――どっちにしろ合わないんじゃ意味ないんじゃない?」
 不二の言葉に、佐伯がぽんと手を叩いた。
 「それもそうだな。じゃあ保険金殺人は保留という事で」
 「却下じゃねえのか・・・・・・?」
 「そうか結婚から却下か」
 「あ〜保険金殺人!! おっけーです!! 素敵ですねえ保険金殺人!!」
 「・・・・・・そこまでして結婚したいんだリョーガ君」
 「結婚推奨のお偉いさん方は泣いて喜ぶだろうな」
 「いや・・・。そういう人たちはゆくゆく子どもを産んでくれる事を期待してるんだから、多分哀しむと思うよ」
 「そこは科学技術の発展で」
 「生体培養・・・? 男性の妊娠・・・・・・?」
 多分クローン技術ではないだろう。卵子提供主を誰にするかで血みどろの争いが起こる。
 それはともかく謎な会話終了。
 「大分話題は逸れたがという事で、お前の情報もしっかり流しておいたぞリョーガ」
 「俺の?」
 きょとんと首を傾げる。一体どこへ流したのだろう? アングラへではないはずだ。せっかくの作戦が無駄になる。騙されたとはいえ、佐伯はみんなのはからいを無駄にするほど友情に薄い男ではない(説得力はとことん薄いが)。
 そんなリョーガに、佐伯は持っていたデジカメを掲げた。なんでこんな高級物件?と首を傾げられそうだが、カメラあるいはフィルム代に現像代を考慮すれば、一度買えば後は費用のあまりかからないこちらを選ぶのも当然だろう。「俺たちの想い出作りにvv」と購入したリョーガのものを無断拝借したとなれば尚更。
 掲げ、尋ねる。関係ないと思われる事を。
 「俺の事が好きなんだよな? 俺と結婚したいんだよな?」
 「そりゃもちろん」
 「俺の事だけを愛するんだよな? 他のヤツにはなびかないよな?」
 「当ったり前だろ?」
 即答断言するリョーガ。佐伯も笑顔でうんうん頷く。
 「じゃあその約束忘れるなよ?」
 「? ああ」







・     ・     ・     ・     ・








 このやり取りの意味をリョーガが悟ったのは、それから3日後だった。
 「リョーガく〜んvv」
 「きゃ〜〜〜vvv リョーガさまぁ〜〜〜vvv」
 「うげぇ!! 来たあ!!」
 見も知らぬ複数の女性に迫られる。かつてのリョーガならうはうはモンだっただろう。
 奇声を上げ逃げようとするリョーガ―――を塞ぐように、物陰から人が現れた。
 ジ―――・・・パシャ。
 「『×月●日
1423分。街角にて13回目のリョーガの浮気発見。相手は20歳前後の女性3名。これから乱交に及ぶ模様』」
 「逃げてんだろーが今しっかりと!!」
 胸元にマイクをつけ手にはデジカメと小さなメモ帳。完璧マスコミの装いをした佐伯は、素早く外したマイクをそんなイイワケほざくリョーガへしっかりつきつける。自供として使うらしい。
 さらにウエストポーチから別のラジカセを出し、再生ボタンを押す。流れるのはあの日の会話。





 《俺の事が好きなんだよな? 俺と結婚したいんだよな?》
 《そりゃもちろん》
 《俺の事だけを愛するんだよな? 他のヤツにはなびかないよな?》
 《当ったり前だろ?》
 《じゃあその約束忘れるなよ?》
 《? ああ》





 「そう言っておきながらお前は堂々浮気をすると。これだけ口が酸っぱくなるまで注意しているというのに舌の根すら乾かないうちに」
 「お前がヘンな情報[モン]垂れ流したからだろーが!!」
 確かに佐伯は賭けテニスの胴元らには流さなかった。代わりにネットの怪しいサイトに流した。顔もしっかり収めて。
 元々顔のいいリョーガ。あんな事やこんな事をやっている様は、溜まっている方々に馬鹿受けした。特に攻め追い詰める時の妖しさとカッコ良さは、ちょっと姫を目指している自称『可愛いお嬢様』方から面白いように支持された。《お相手現在募集中。俺様の美技に酔わされたいヤツは声かけてくれよな!》などと、知り合いのネタをパクって煽りつけておいたところ、このように声をかけて下さる方が大勢来た。
 ―――ちなみにこれらの写真を撮ったのはもちろん佐伯である。先に述べた、リョーガのデジカメ購入目的の一部は佐伯のそんな写真を撮るためである。今までひと蹴りで黙らせていた佐伯があの日なぜか了承した。その時点で怪しめばよかったのだろうが、ついに想いが通じたと踊り狂ったリョーガにそれを求めるのは酷だろう。さらに「俺ばっか撮られてても恥ずかしいって・・・//」とはにかみ笑いをしながら手を差し出す佐伯にカメラを手渡さずにいろというのも。
 今度は佐伯に騙されたのだと知ったのは、次の日意味もわからず声をかけられラブホに連れ込まれ、振り切ってきた後証拠写真を押さえられ九分殺しの目に遭ってからだった。よっぽど佐伯の写真も公開してやろうかと思うが、恋人のそんな姿を自分以外のヤツが見るのもムカつく。
 かくて勝負はリョーガの惨敗となった。
 「酷いよなあリョーガってば。俺の事もやっぱ遊びだったんだー」
 「ちげえって!! 聞けよ佐伯!! 遊びだの冗談だのだったらそれこそそこらにいる女で手ぇ打ってる!! それでもお前を選んだのは―――!!」
 「―――リョーガあああ!!!」
 「またかよ・・・・・・・・・おおおおおおお!!??」
 続イイワケを遮り轟いた声。舌打ちして振り向き―――リョーガはそのまま硬直した。声の低さから予想はしていた。だが、
 ・・・筋骨隆々とした
30歳前後の白ランジャージ角刈り男が自分の名を呼びながら猛ダッシュをかけてくる。賭けテニスをしていた頃おっさんどもに言い寄られる経験は多数あったが、今回の相手に対する怖さはそれらの比ではない。
 自分を包み込みたいらしく手を広げる男から、間一髪で飛びのく。恐怖心で硬直していた体は、同じ恐怖心により本能からの回避を命令した。
 佐伯もいつの間にか物陰に隠れ(あくまでゴシップ記者に徹するらしい)、
 「『×月●日
1425分。街角にて14回目のリョーガの浮気発見。相手は30代の男。リョーガは婦女に限らず男色もこなす事が判明。しかも攻め受け両刃らしい。対象も同年齢の中性的なヤツから年上の男らしいヤツまで何でもアリ』」
 「違げえ!! 俺が本気で求めてんのはお前1人だ!!」
 「遊びで他もあり。そこまで開き直って浮気を肯定されてもなあ」
 「これは!! お前が仕組んだからだろ!?」
 「挙句俺の責任にする。彼女の親友と浮気した彼氏としてよくある最低の言い逃れだな」
 「なんでお前そんな・・・実際経験したっぽく親身になって語ってんだよ?」
 「今されてるからな。まあ俺は『彼女』じゃないけど」
 「だから誤解だっつってんだろ!?」
 「相手抱きつかせて何弁明なんぞしてんだ? 素直に認めてやれよ相手も可哀想じゃないか」
 「こんなに言ってなおかつ認められねえ俺は可哀想じゃねえのか!?」
 「リョーガあああ!! もう放さんぞおおお!!!」
 「って離れろよアンタも!!」
 「説得力皆無だからな」
 「そ〜んなあ〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」







・     ・     ・     ・     ・








 写真も消され騒ぎも収まるまでこちらは1ヶ月。その間のリョーガの『浮気』回数は
65回。3日目の結果と比べるといやに少なく感じられるが、物理的暴力に飽き足らず奴隷としてこき使われ散々嫌味を言われもちろんその間触れられたのは足と拳だけで絞め技もなし。がんがん精力を削られていったリョーガは、10日を過ぎた辺りからはもう写真とは似ても似つかないげっそりとした姿となっていた。
 そしてついに解禁日!!







・     ・     ・     ・     ・








 「さ〜えき〜〜〜〜〜〜〜vvvvvv」
 抱きっ☆
 「そんな焦んなよリョー・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何か香水の匂いするな」
 「あ、ああ・・・それは、買い物してた時ちょっとよろけた人抱きとめたからでだからその〜・・・」
 「何かいやに言いよどんでるな。後ろめたい事でもあるのか?」
 「ンなワケねーだろ!?」
 「ふ〜ん・・・・・・。
  ――――――あ、服に口紅が」
 「〜〜〜〜〜〜!!!???」
 バッ!!
 「リョーガ」
 「は、はひ・・・・・・」










 「以降1ヶ月お触り禁止」









 「そ〜〜〜〜〜〜んなあああああああああ!!!!!!!!!!」
 リョーガの悲痛な叫びは、ご近所一帯に響き渡ったという。



―――了








・     ・     ・     ・     ・

 なおリョーガは決して浮気はしてません。言ったとおりの事態が発生しました。言いよどんだのは、相手が人の揚げ足取り大スキーな佐伯だからです。実際見ていない彼相手に慎重になるのは当然です。・・・余計ドツボに嵌ったようですが。
 さて【線上〜】のおまけ編。一応なんか幸せっぽく終わったのでそのまま〆にしたところ、『仕返ししないサエじゃあないですよね?』とのコメントが来ました。わかってらっしゃるうvv やっぱしないとサエじゃないですよね!!
 ―――という事でさせてみました。もちろん自分を騙した時点でリョーガも立派な対象です。そしてそれだけやりながら、やっぱり不二は対象にならないんですな。さすが兄馬鹿。同じ立場になるはずの跡部との雲泥の差はどうかと思います。人としてステキだぞサエ!!
 では以上、サエの仕返しはこんなもんでよろしいですかね(どきどき)? それともこれじゃ手塚と真田が巻き込まれただけ損? いやだって跡部とリョーマだけならともかく千石さんへの復讐は難易度高しですぞ!! 自分以外何でもかんでも切り捨てそうですし、挙句最終手段として不二を脅しのネタに使いそうでやだなあ・・・。どんどんドツボに嵌りそうだそれこそ・・・・・・。

2005.7.26