かの船での出来事以来、佐伯と同じ六角に通うようになったリョーガ。
本人は「佐伯と同じ中学♪ 一緒に通って部活とかメシとか一緒にして、あ〜楽しみだな〜♪」と甘っちょろく考えていたが、中学に限らず学校というのは勉強する場である。しかも佐伯は、面倒だしからかう相手(別名跡部)もいないからとトップは取らないものの実力は充分ある。



 ―――そんなワケで夏休み。リョーガは佐伯に勉強を教わる事となった。
















 国語の参考書を開きながら、
 リョーガはしち面倒臭そうにボヤいた。
 「何で今時使いもしねーモン必死こいて覚えなけりゃなんねーんだ?」
 頬杖をついて、ぱらぱらめくっているのは慣用句事例。見た事聞いた事のない用語がずらっと並ぶそれは、さながら私たちにとっての洋書のようなものか。
 向かい合わせで、こちらは普通に宿題をやっていた佐伯が目線を上げる。
 上げて、
 「勉強なんてそんなものだろ? 社会出て、教わってきた事の何%が役に立つと思ってるんだ?」
 「いやそんな、平たすぎる意見言われてもなあ・・・・・・」
 ・・・これが、学年どころか全国トップクラスのヤツの台詞。聞いた教育委員会のお偉方はさぞかし嘆くだろう。
 「――――――ん?」
 半眼のまま、ため息混じりに視線を落とすリョーガ。ふとその目が、とある一文で止まった。





ψ     ψ     ψ     ψ     ψ






1−1.《〜を散らす》

 「佐伯佐伯!」
 「何だよいきなり元気になって」
 顔を上げた佐伯にびっと指を突きつけ、
 「『次のほにゃららに入る言葉を言いなさい。
   意味:恥ずかしさなどにより頬を朱に染める事。
   《ほにゃららを散らす》』
  わかるか!?」
 「そりゃわかるに決まってるだろ?」
 「んじゃさっそくやってくれ!!」
 ―――あくまで『言ってくれ』ではないところに、リョーガのひたすらに浅い魂胆が見え隠れ・・・もしないで見え見えなのだが。
 「よしわかった」
 佐伯はごく普通に頷くと、



 ・・・・・・なぜかきつい眼差しでリョーガを睨み出した。



 (あ、あれ・・・? 怒っ、た・・・・・・?)
 睨まれる事には慣れているといえば慣れているが哀しい自慢として。それでも、ここまで何の脈絡もなく、しかも本気で睨まれる事はまずない。
 さすがに焦るリョーガだったが・・・
 「で、どうだリョーガ?」
 「へ・・・?」
 「だから。正解じゃないのか?」
 「えっと・・・・・・。
  ―――どの辺りが?」
 「だから、さっきの問題。
  《
火花を散らす》が正解じゃないのか?」
 「違げえ!!」
 もちろん違う。何が悲しくて火花が飛んで頬が染まらなければならないのか。
 だがさすがは天然ボケの末期たる佐伯。リョーガの不正解判定を、こう解釈した。
 「そうか。散っている『ような』だからいけないのか。ここは実際飛ばせ、と」
 押し入れの中をごそごそ漁る。取り出したのは―――
 ―――鞘に収まった剣2本。
 「さあ、これで実際飛ぶぞ」
 「ちょっと待てえ!! 何でンな危険物ふっつーに放り込んでんだよ!?」
 「ハハッ。何言ってるんだよリョーガ。もちろんレプリカに決まってんだろ?」
 「たとえ刃はなかろうが打ち合って火花飛ぶ位硬てえ時点で立派な凶器だろーが!!」
 「何? これでもまだ不満なのか?
  これ以上となると、後は銃のマズルフラッシュか? じゃあこっちを―――」
 「持ってんのか!?」
 「あ、ちなみに撃つ時はお前よろしくな。俺が撃つと銃刀法違反だ」
 「俺が撃とうが違反に決まってんだろ!?」





1−2.《もみじ》

 「ああなるほど。《紅葉を散らす》か。風流な言葉だなあ・・・」
 剣と銃を片付けつつ、正解を聞き佐伯は手を叩いた。風流の欠片もない光景だ。
 「つーワケで! さっそく!!」
 (恥じらいに紅葉を散らす佐伯・・・・・・。く〜!! 考えるだけでいい!! グッジョブ昔の日本人!!)
 妄想の渦に耽りこみ、リョーガがにやにや笑う。こちらもこちらで以下略。
 「じゃあさっそく」
 頷き、
 佐伯は取り出した箒をぶんぶん振り出した。
 「ちょっ・・・と待て佐伯。何やってんだ?」
 「もちろん、これからお前に紅葉を散らしてもらおうと」
 「なんで紅葉散らすのにンなモンが・・・・・・?」
 その理由はわからなかったが。
 ―――これから佐伯が何をするつもりなのかはよくわかった。
 指を目を体を震わせ問うリョーガに、
 佐伯はそれはそれは綺麗に笑った。
 笑って、告げる。
 「もちろん、
  こうするためだ」



 ど・ご・すっ・・・・・・・・・・・!!!



 一撃で没したリョーガを見下ろし、
 「これは・・・・・・
  ――――――――――――紅葉というより曼珠沙華だな」
 フローリングの床に、それはそれは綺麗に咲いた紅い花を見て、佐伯はそんな結論を下した。










2.《〜が立つ》

 かろうじて生きていたリョーガ。床の血を綺麗に拭き取り、再び勉強にいそしんだ。
 いそしみ―――
 ―――再び過ちを犯した。
 「佐伯次だ!!
  意味:愛情が冷める事! 《ほにゃららが立つ》!!」
 「腹が立つ!!」
 「違げえ!!」
 「中指が立つ!!」
 「立てんな!!」
 「墓が立つ!!」
 「殺すんじゃねえ!!」
 「何!? 勝手に愛を冷まされたら次やるのは復讐じゃないのかそーか復讐の《誓いが立つ》か!!」
 「あのなあ!!」
 「あるいは離婚届で《判子が立つ》!!」
 「どーいうもののたとえだよ!?」
 「そして別れる前に保険金と遺産相続で《ナイフが立つ》!!」
 「殺しから卒業しろ!!」
 「確かに殺したら何も入らないからな!! 病死と見せかけるべく《注射が立つ》!!」
 「見せかけた時点で立派な殺人だ!!」
 「そして成功した暁には《記念碑が立つ》!!」
 「祝うなああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
 何だか非常に泣きたくなってくる。コイツが本当に成績優秀者なのだろうか・・・?
 (まあ・・・、これだけネタが思いつくんだから頭はいーのかもな・・・・・・)
 佐伯との勉強は失敗だったかもしれない。実のところリョーガは、夏休み前の期末で壊滅的な点を叩き出し、全国終了後に行われる追試のため猛勉強中だった。コレでまたも妙な点を出すと、残りの夏休みは全て補習に消える。
 (せっかく佐伯とあっち行ったりこっち行ったりあんな事やこんな事やってついに関係進展!! とか目指してるってのによお・・・!!)
 マズい。このままでは追試は
95%決定!! 早くもっといい家庭教師を見つけないと!!
 勉強道具を片付け、そろそろと部屋を出て行こうとしたリョーガ。ふと見やれば、佐伯は窓にもたれかかっていた。
 憂い溢れる表情で、首を傾け外を見やり、
 「もうすぐ秋だな・・・・・・」
 「いや今めちゃくちゃ夏だけどよ」
 「空も高いし、風も冷たくなってきたなあ・・・・・・」



 びゅおおおおおお・・・・・・・・・・・・



 「・・・・・・・・・・・・」
 確かに風は冷たかった。室外ではなく室内の。
 「・・・・・・・・・・・・すみませんでしたごめんなさい。馬鹿な気は2度と起こしませんので勉強教えてください」
 「よしよし」



 《秋風が立つ》
 『秋』と『飽き』をかけ、愛情が冷める事のたとえ。



―――Fin










 はい。昨日のジャ●ニカロゴスよりでした。正解はさっぱりわからないので、いろいろボケて楽しんでました。
 1.紅葉を散らすで頬を染める事。じゃあ紅葉おろしは鼻血ですか!?
 2.《腹を立てる》は私も最初に出てきました。さらに《中指を立てる》とテレビに向かって叫んで母に大笑いされました。実は別れっぽいイメージで虎跡虎とリョガサエで【秋風】というタイトルの話を書いたにもかかわらず本気で浮かばなかった。
 ・・・・・・こういう人がいるから日本語は崩壊していくんだろうなあ・・・とつくづく思いました。しっかし各種方言。きっとテニプリキャラはかなり堪能だろう。
 なお付け加えるまでもなくもちろんサエは正解両方ともわかってました。ヤだなあこういう悪質な生徒。教師なら尚更だ。

2005.9.22