それは、ちょっとした人間違いから始まった。





ざ☆まったり
〜まどろみを這い進む中 繋がり合った俺と君 ただ一緒にいたいと思うこの気持ちに 理由なんて必要ないだろ?〜







 

 「・・・・・・なん?」
 中2の時。
Jr.選抜合宿のため一足早く東京にやってきた・・・・・・ついでにどこを見るか決めていなかったため流れに乗る内当然のように道に迷った・・・・・・白石は、目の前の光景に軽く首を傾げた。
 「あら、コータやん・・・・・・」
 いわゆる逆ナンだろう、女子の集団に声をかけられ困った笑みを浮かべる少年。どう見てもそれは、同じ四天宝寺の2年部員佐伯虎太郎略してコータにそっくりだった。が、
 「何や。アイツ金あらへんから来ん言うとったんに」
 テニス部員なら誰もが憧れる、
Jr.選抜合宿。メンバーに選ばれれば全国でも通用する実力だと認められた事になる名誉あるそれを、「東京までの交通費あらへんから俺はええわ」などという理由で断るヤツは多分日本広しといえどコイツくらいだろう。
 ついつい納得してしまい自分1人で来たのだが・・・
 「ま、ええか」
 後になってやっぱ行くと意見を翻したか。だとしたら一応面倒は見た方がいいだろう。逆ナンの内はまだいいが、怪しいバイト(故に高額)に誘われたなら1も2もなく
OKされてしまう。大阪ではバレる危険性を考慮し自粛させているがなにせここは東京。旅の恥は掻き捨てという諺を盾に受けられてしまう。
 そんな事を考え、白石は彼へと近付いていった。銀髪の“佐伯”へと。







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 佐伯は困り果てていた。佐伯―――虎郎は。
 (やれやれ。これだけ迷惑そうにしてるんだからそろそろ理解してくれないものか・・・・・・)
 選抜合宿前に幼馴染に会いに来た佐伯。せっかく(高い交通費を払って)東京に来たのだからぶらぶらしようかと歩いていたところ、声をかけられた。アンケートだの物売りだのは即断り、高級バイトのお誘いに釣られかけながらも中学生という高いハードルにむしろ向こうが引き、じゃあ個人的なお付き合いをと申し出てきたオヤジどもとは物陰にて極めて短い時間『親密な付き合い』をした。もちろん付き合った分のお代はしっかり受け取って。
 そしてこのナンパ。控えめなものなら聞こえなかった振りをして無視。単体なら笑ってかわしていたが、数人掛りで道を塞がれてはどうしようもない。純粋なお誘いでもあるし、まさかオヤジどもと同じ運命に遭わせるワケにもいかない。
 いつまでもここで頭の悪そうな会話を聞いていても仕方がない。旅の恥は掻き捨てという素晴らしい諺に則りドスの効いた声でどけとでも言おうかと思い・・・
 ―――ここで救いの神が現れた。
 「よっ、コータ」
 かけられた声に後ろを振り向く。自分を呼んだものではないがそう呼ばれうる―――早い話が時々間違えられる呼ばれ方。
 振り向いた先にいたのは、大体予想通りの相手だった。知り合いの知り合い。『コータ』に聞かされた相手。
 判別したなら行動は早かった。
 「遅いぞ白石。何やってたんだよ」
 軽く怒ったような形相を作り、佐伯は白石の手を取りそのまま反転させた。他人だと気付いたらしく驚いた顔をしているが無視。
 骨を折る勢いで腕を絡め、後ろにひらひら手を振る。もちろんお得意の笑みを浮かべ。
 「じゃ、俺待ち合わせ相手が来たから」
 『え〜〜〜!!??』
 「じゃあ行こっか白石」
 「へ・・・・・・? は、はあ・・・・・・」







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 近くの公園まで避難したところで、佐伯は白石の手を離した。戸惑いつつも事態は理解してくれたらしく大人しくついてきてくれた彼に感謝の辞を込め、
 「ありがとうな白石」
 「礼だけかい・・・。
  そらそうと、
  ―――自分誰や? 不躾な質問やけど」
 言葉ほど刺々しくはない、むしろ面白がるような笑みを浮かべる白石。大体何かを察しはしたのだろう。
 佐伯はぺろりと舌を出し、
 恭しくお辞儀した。
 「お初にお目にかかります。コータの従弟、佐伯虎次郎です。以後お見知り置きを」
 「なん? コータの従弟か。そら俺の事もよぉ知っとるワケやな」
 「いろいろ聞くぜ? 今度の部長は凄いんだって? アイツが手放しで褒めるなんて珍しいよ」
 「あー思い出したわ。自分コジコジやな? 俺も聞いた事あるわ。
Jr.出るんやろ?」
 「一応代理で選ばれただけだけどな。ちなみに同じ苗字の家族除いてその呼び方したヤツの9割方は血の海に沈んでたかなんでか」
 「『佐伯』やな。
  せやな。コータが言うとったか。甘い顔と物腰で油断しとったら後悔するヤツ
No.1やってな」
 「同じ顔のヤツに言われたくはなかったよ」
 「そういやめっちゃそっくりやなあ。髪色同じやったら見分けつかんかもな」
 「双子の姉貴いるけど、実際の双子以上にそっくりだってみんなに言われるよ。ホント黒じゃなくってよかった」
 「それも染めとるんとちゃうん?」
 「元は金だからな。それだけはアイツと大きく違うな」
 「ほお〜・・・。
  ま、そらそうと―――っちゅー切り出しは2回目か。せっかく会うたんや。茶ぁでもしばかん?」
 軽く誘う白石に、
 佐伯は今度は驚愕の表情で引いていった。
 「・・・念のために言うとくけど、別に下心はあらへんで? でもって俺が誘ったんやからこんくらいは奢るで」
 「そうか奢りか」
 「・・・・・・・・・・・・。ホンマ自分コータとよお似とるなあ」







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 という事で奢る事になった。公園に丁度来たワゴン車からアイスを買い、その場で舐める。
 「いいなあ。こういう菓子の類は久しぶりだよ・・・・・・」
 本気で感動する佐伯を、白石はいささか気の毒そ〜な眼差しで見た。佐伯家は伝統で金を大事にする家だとコータに聞いた事はあったが・・・
 (ホンマに伝統なんやね・・・。従弟までおんなじなんかい・・・・・・)
 いろいろ思うところはありながら、それにはあえて触れず会話を交わす。初対面としてお決まりの、学校の事やらテニスの事やら。本当に楽しそうに話す。実際楽しいからだろう。
 学校は楽しい。テニスも楽しい。周り全てに愛情を振りまくようなかの少年。直接では初対面だというのに、自分ともまるで旧友であるかのように親しみを込める。
 もっと話していたかったけれど、アイスがくれたタイムリミットはあまりに短くて。
 「―――ああ、俺そろそろ行かないと」
 残ったゴミをくしゃりと潰し、佐伯が顔を上げる。そういえば彼に何の用事があるのか聞いていなかったが、何にせよそれを引き止めるほどの用件は思いつく事が出来ない。
 白石は、柔らかい笑みで手を上げた。
 「さよか。ほな、またな」
 「ああ、また」
 軽く手を振り去っていく佐伯。後姿をのんびりと眺め、
 (まあええか。また
Jr.で会えるんやし・・・・・・・・・・・・ん?)
 その佐伯が、戻ってきた。
 「どないしたん?」
 問う白石を無視し佐伯は駆け寄り、





 「アイスの礼」
 言うなり、軽くキスをしてきた。





 「え、っと・・・・・・」
 暫し、きょとんとする。
 「コレで、礼なん・・・?」
 「嫌だった?」
 「別に嫌やあらへんけど・・・・・・
  ―――礼言うて誰にでもするん?」
 「お前がして欲しそうだったから」
 再び、きょとんとする。
 頭の中に蘇ってくるのはコータ―――彼の従兄の言葉。


 ―――『アイツは舐めたらあかんで? 甘い顔と物腰で油断しとったら後悔するヤツNo.1さかい』



 (ホンマ、舐めたらあかんなあ・・・・・・)
 自分を偽るのは得意だ。感情を消す事などお手の物だというのに。
 ―――まさかアイスを食べる時間一緒にいただけのヤツに見破られるとは。
 にっと笑う佐伯。白石も苦笑し、
 手を伸ばそうとしたところでするりと身を引かれた。
 鼻先に指を突きつけられ、
 「今はアイスの礼だけ。もっと欲しいんだったらそれ相応のもの寄越せよ?」
 「つまり、もっと奢れっちゅー事か?」
 「さあな。自分で考えな。
  じゃあな〜」
 ひらひら〜と手を振り今度こそ去っていく佐伯。浮かんだ笑みは、本当に楽しそうだ
 「何や、この俺が騙されたんか」
 騙す騙さないとはまた別次元の話だろうが、あの笑顔の裏にこんな一面があるなど考えつきもしなかった。
 天使の顔した小悪魔ちゃん。生える羽根は白か黒か。
 苦笑いが浮かんでいた顔に―――再び面白そうな笑みが戻る。
 食わせ者の面の下、1つだけわかった事がある。
 ―――欲しいのは別に金ではないらしい。
 (それだけでも、成果はあったんやろな)
 「まあええで。今回は引いたるさかい。
  せやけど、





  ―――次は覚悟しいよ佐伯。俺相手にいつまでも主導権握れる思たら大間違いやで」







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 佐伯との再会は
Jr.を待つまでもなかった。
 こちらも従兄弟繋がりで忍足の家に泊めてもらおうと、事前連絡を2分前に入れたところすげなく断らた(同じ関西人でも東京に移ると冷たくなるらしい)。困っていたら「せやったらアイツん家がええやろ。むやみに広いんやし元々人多いさかい。今更1人増えたところで構へんやろ」と連れてこられたのが同じ学校の友人跡部の家。なるほど豪邸跡ベッキンガム宮殿なら大丈夫か。彼となら去年の
Jr.とかででも会ったし、ある程度は交流がある。
 ―――と期待を込め門から入ってみれば、そこには先客がいた。
 「・・・という事で泊めてくれ」
 「いきなり来たと思ったらそういう理由かよ」
 「いきなりじゃないぞ? ちゃんと事前にメール入れたじゃん。返事が返ってこないからこれは了承の証なんだな〜と思って遠慮なく来たけど」
 「そりゃ
30秒前に来たメールなんぞ開いて読むのが精一杯だろーよ・・・」
 どうやら自分と同類のヤツがいるらしい。ますます良かった。どさくさに紛れて泊めてもらえそうだ。
 「こんにちは〜跡部」
 軽く手を上げて入り、
 「―――佐伯!?」
 玄関で跡部と押し問答をしている相手に、白石は珍しく仰天を露わにした。
 「あれ? 白石」
 「白石じゃねーの。てめぇら知り合いだったのか?」
 「ああ。さっき会ったんだ」
 「・・・・・・『知り合い』か?」
 「名前は知り合った。その他性別と年齢と学校名と〜・・・・・・」
 「性別と年齢をわざわざ『知り合う』理由が知りてんだがな・・・・・・」
 実りのない会話をしている間にも白石帰還。
 「なん? 自分らも知り合いなんか?」
 「ああ。幼馴染なんだ」
 「・・・・・・えろうまともな『知り合い』なんやな。
  んで、せやから今日は遊びに来たん?」
 「いや。家からだと明日の
Jr.集合に間に合わなさそうで。だからとりあえず一晩泊めてもらおうかと」
 「奇遇やなあ。俺も今日泊めてもらお思てんねん。ちゅ−事でよろしゅうな、跡部」
 「帰れ!! ウチは寄り合い場じゃねーんだよ!! プレ合宿とかすんじゃねえ!!」







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 その後、ごねる跡部を2人掛りで説き伏せ、「ならそれこそプレ合宿っていう事で、お前にテニスで勝ったら泊まってもいい―――っていうのでどうだ?」といった佐伯の上手い誘導に乗った跡部を2人で潰して泊まらせた。余計不機嫌になられたが約束は約束だ。
 次の日から合宿スタート。あっという間の2週間だった。プレを入れたら2週間と1日か。
 合宿の最終日、白石は佐伯と2人だけで話をした。







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 「何だよわざわざ?」
 人気のない建物裏に呼び出され、首を傾げる佐伯。
 その目を真正面から見つめ、





 「あんな佐伯、自分俺と付き合わん?」





 「大阪まで? でもそうすると帰りの交通費が・・・」
 「べったべたなボケやな。そうやのうて―――でもって他に考えんでもええからな」
 「なんだ・・・」
 がっかりする佐伯に、もう一度言う。
 「俺と付き合うてくれや佐伯」
 「お代は?」
 茶化すように訊かれた。


 ―――『もっと欲しいんだったらそれ相応のもの寄越せよ?』



 さてでは一体佐伯は何が欲しいのだろうか。
 (答えは―――)










 「愛したる」










 「つまり?」
 面白がる佐伯。白石も同じ笑みを浮かべ、
 「いっぱいいっぱい愛したる。俺の愛情くれたるよお前にな」
 「なら――――――」










































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 それから、1年が経った。お互い全国大会も終え、再び
Jr.選抜合宿の地で廻り合う。
 「もうお前と付き合って1年か。早いなあ」
 「そやったか? まだ3か月くらいか思とったわ」
 「多分接触のあった日を合計すればその位だろうな。凄いな。今だに景吾との方がよく接触するよ」
 「ほおおおお・・・。跡部となあ。まああたお泊り会とかしとるんか自分ら?」
 「あ、何? お前ヤキモチとか妬いてんのか? 可愛いなあvv」
 「そら妬くやろ。俺の知らんトコでお前と跡部があない事やそない事、果てはこない事までしとらんか―――!!」
 「してねえよ」
 どごっ!
 握り拳で力説する白石。代名詞部分には何を当てはめたか、同じく今年も合宿に参加する跡部が後ろから踏みつけた。
 「痛ったいわあ跡部。久しぶりに会うたんにその挨拶はないやろ?」
 「久しぶりに会うなりない事ない事妄想してやがったヤツへの当然の対処だ。気にすんな」
 「そうだな。この位は挨拶の一環だ」
 「・・・ヤな付き合いやね自分ら」
 「つーワケで、コイツはのし付けててめぇにくれてやる。ありがたく思えよ。
  でもって俺はコイツと離れて晴れて人として真っ当な道に―――!!」
 どごっ!!
 「・・・・・・。
  んで、何しやがる佐伯」
 「『久しぶりに会うなりない事ない事妄想してやがったヤツへの当然の対処だ。気にすんな』」
 「ある事しか言ってねえがな」
 犬歯を見せ笑う跡部と何をどう理解したかうんうん頷く佐伯。コミニュケーションは最悪にしか見えないが、それでも通じ合うのだから不思議なものだ。
 「何にしてもだ。
  ―――ソイツはぜってー返品不可だからいんなくなってもてめぇが持ってろよ白石」
 高圧的に言い放つだけ言い放ち、跡部はさっさといなくなってしまった。
 後姿を見送り、
 「結局何が言いたかったんだろうな景吾?」
 「さあなあ」
 本気で首を傾げる佐伯に、白石はクツクツと笑って見せた。
 今の跡部の言動、解釈の仕方はいくらでもあるだろうが――――――
 (随分、可愛がられとるんやねえ佐伯・・・・・・)
 「まあええやん。お前がいらんようなるなんて事あらへんのやから」
 「ホントに?」
 「ほんまほんま」
 「言い切れる理由は?」
 面白がる笑顔。あの時―――告白した時と同じだ。
 去年から、ずっと変わらない自分たち。だから、
 ―――白石もまた、同じ笑みを浮かべた。
 言う。
 「自分俺に主導権渡す気0やろ?」
 「当たり前だろ?」
 「せやったら将来安泰や」
 「はあ? 何だそれ?」
 「まあ気にせんといて。つまりはそういうこっちゃ」
 「そういうって―――どういう?」
 「つまりな―――」










――――――お前は俺を永遠に飽きさせん、っちゅーこっちゃ。











 「じゃあ俺は飽きてみるか」
 「・・・。
  ええ根性やなあ自分」
 「そういうところが好きなんだろ?」
 「・・・・・・。
  ―――ほんま、ええ根性やで佐伯」
 「お前にお似合いのな、白石」
 「せやな。俺ら最高のカップルやん」
 「カップルだったのか?」
 「・・・・・・・・・・・・。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・終いには泣くで?」





―――Fin

 

















 

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 広めよう サエ
CPの輪。
 ―――という事でついにやってしまった白石×佐伯略して白サエこの略し方はすっげー嫌なので変えるとして・・・・・・白虎!? これだと残り3つも考えなきゃいけないっぽい!? ああ青学×リョーマあるいはリョーガで略して青龍という案もあり!? 玄武と朱雀はさすがに無理か・・・・・・。
 なのでここで、白石×佐伯は蔵虎[くらとら]と命名!! わ〜ぱちぱち☆ 何だか跡虎並に感じもカッコいいぞ!!
 ・・・・・・わざわざこんな命名出来るほどマイナー過ぎる
CPをなんで書いているんでしょうね私。
 白石というとコミックスではまだ抽選会に出たっきり。それで千石さんに似たキャラだろうと推測し話を書くのは甚だ無謀だと思うのですが、そういえば似たノリで千歳も書きまくっているなあという事で書いてしまう事にしました。けっこー世の全てを楽しむ食わせ者気質だと思うんですけどねえ・・・。そして幸村と気が合うのが理想(まだ言うのか)。
 ―――次はもう少し白石を掘り下げた話―――ですかね? そして次にサエ関連の
CPを作るとなればやはりお相手は・・・・・・。

2005.10.2425