気分 台無しv






 



扉越しにて―――

跡部:「佐伯!!」
佐伯:「来るな景吾!!」
 一体なぜだかビル地下にあるホールの爆破事件に巻き込まれてしまった佐伯。
 閉じ込められた彼を、警察の制止を振り切り助けに来た跡部は、残り扉1枚となったところで最後の制止をかけられた。
佐伯:「扉が開くと最後の爆弾が爆発する仕組みになってるんだ!! 開けるな!!」
跡部:「な・・・!!」
 扉にかけかけた手が、止まった。
跡部:「んじゃあ・・・・・・」
 頬を汗が伝う。つまりこの状況では・・・・・・
佐伯:「タイムリミット、あとちょっと・・・・・・か?」
跡部:「なんで・・・・・・、知ってる?」
 捕らえられる前に捻り上げた犯人の話によると、爆弾は時限式。聞いてすぐ放り出して来たが、ここまで来るのに時間がかかり過ぎた。残りはもう5分もない。
 焦る跡部を笑うように、中から佐伯の疲れた穏やかな声が聞こえた。
佐伯:「どれだけ一緒にいると思ってんだよ? そんな焦ったお前の声聞いたら、すぐわかるさ」
跡部:「佐伯・・・・・・」
佐伯:「・・・というのは冗談で、すぐここに爆弾の起爆装置があるからだけなんだけどな」
跡部:「・・・・・・」
佐伯:「ま、そんなこんななんでいっそ爆弾抱いて死んでみよっか? 豪勢な感じじゃん? 火葬の手間も省けるし。
    お前もそんなトコいても仕方ないだろ? こんなところまでごくろーさん。暗くなる前にちゃんと帰れよ?」
跡部:「・・・・・・・・・・・・」
 本当に全てお見通しのようだ。わざと明るく振舞われてしまった。
跡部:「・・・・・・ったく」
 髪を掻き上げ汗を拭い、跡部はくるりと身を翻した。
 そのまま、座り込む。扉を背もたれにして。
佐伯:「景吾・・・・・・?」
跡部:「疲れた」
佐伯:「は・・・?」
跡部:「どーせ今から出たところで間に合いやしねーよ。来る途中でいろんなトコぶっ壊してきちまったから、そもそも戻ろうにも戻れねえし」
佐伯:「景、吾・・・・・・」
 中から聞こえる。とても心細そうな声が。
 初めて聞いた。佐伯のそんな声を。
 彼は今まで、どれだけのものを自分に見せてくれていたんだろう・・・?
跡部:「死ぬんなら華々しく死んでやるさ。俺は俺のやりたいように生きた。後悔はしてねえ。たとえここで終わりになろうとも」
 ―――お前と一緒なら・・・・・・。
 口の中に留めた言葉。さすがに素面で言うのにためらいを覚え・・・・・・そして今を逃がせば2度と言う事は出来ないのだと気付いた。
 やはり口に出そうとする。その耳に届いたのは、
 僅かな噴出し声だった。
跡部:「ああ・・・?」
 険悪さを滲ませた唸りで振り向く。そこにあるのはもちろん扉。それが、中の者に合わせてか小さく振動しているように感じた。
佐伯:「ホンット・・・・・・お前、馬鹿だよ・・・・・・。馬鹿景吾・・・・・・」
 噴出しが、しゃくりになり・・・泣き声になる。
 聞き取った上で、跡部は再び扉に凭れた。
 見上げても何もないけれど、虚空へ向け、言葉を発する。
跡部:「馬鹿はてめぇだ、馬鹿佐伯・・・・・・」
 自分の方が危ないというのに人の事にばかり気を使い。いつもワガママ言い放題なのにこんな時には何も言わず。
 同じく笑う跡部の頬から、涙が零れ落ちた。
 逢いたい。こんな扉越しではなく、直接アイツに。
 残された最後の時間、その姿を焼き映しその体を抱き締めていたい。
 このまま別れるのは嫌だ。タイムリミットを0にしたとしても、一瞬でもいいから逢いたい。
跡部:「あ・・・た・・・。さえ・・・・・・」
佐伯:「え・・・?」
跡部:「あい、た・・・・・・」
佐伯:「景吾、聞こえないよ・・・」
跡部:「今・・・ぐ・・・。行きた・・・・・・」
佐伯:「景吾! 聞こえないよ!!」
跡部:「そっち・・・・・・行・・・たい。おま・・・に、逢いた・・・・・・」
佐伯:「景吾・・・・・・!!」





 どばん!!
佐伯:「聞こえないって言ってんだろもっとはっきりしゃべれよ!!」
跡部:「うお勝手に扉開けてんじゃねえよ!!」





 なぜか向こうからふつ〜に出てきた佐伯。開け放ってきた扉をべんべん手の平で叩き、
佐伯:「あのなあ!! こういうトコの扉が防音扉だってくらいは常識だろ!? さっきっから全っ然!!何言ってんだか聞こえないんだよ!!」
跡部:「全然!? 俺様の一世一代の告白もか!?」
佐伯:「何!? そんな事してたのか!? 扉の振動しか伝わらなかったぞ!?」
跡部:「だからって思いっきり開けてどーすんだよ!? 爆弾どーした!?」
佐伯:「最近銅の価格が上がったっていうから嬉々として銅線抜き取ってたら壊れたぞ!? 何でもっと頑丈に作っておかないんだ!?」
跡部:「それを最初に言えええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」





 こうして、事件は無事解決した。



―――Fin

 








 ―――どこまでもシリアスをシリアスに出来ない男佐伯虎次郎というか管理人自身。いえ私は女ですが。
 今回の話は、コナンの最初の映画のような雰囲気が元でした。扉越しの会話。観てる分には感動ですが、電話通じてなかったらさぞかし凄まじい光景になっていたような・・・。
 人は臨機応変でシリーズにでもしたいようなものですが、逆にギャグに浸かりすぎるとシリアスな場面というのがさっぱり出てきませんね・・・。どんなものがありましたっけ・・・(と皆様に振ってみたり)?

2006.6.1