唐突な事なのだが。
 この度佐伯が、宇宙人に攫われたんだか謎の鉱物を手に入れたんだかお城の大神官に予言されたんだか理由は何でもいいが、とにかく絶対無敵の力を手に入れた。



 「となるとやるのは正義のヒーロー?」
 「いやぜってー無理だろてめぇじゃ」










佐伯ヒーロー伝説?











 




 事情を説明し最後にそんな提案をしてみる佐伯。
 事情を説明され最後に指を立て首を傾げられ、跡部は即座に否定をしておいた。こんなヤツに滅ぼされる『悪』が可哀想だ。



 「何でだよ〜」
 「んじゃ訊くがな?






  ―――正義のヒーローになるって、まず何やるつもりだ?」






 むくれる佐伯に今度は跡部が首を傾げる。
 佐伯は振っていた人差し指を跡部に固定し、
 自信満々に答えた。



 「弱きを助け強きを挫く!!」
 「違げえだろ強きを挫いてどーする!?」
 「弱いの挫いてもつまんないじゃん!!」
 「そういう理由か!? 一瞬ああそれでも弱者は守るのかとか見直してみたりしたが結局てめぇはそーいうヤツか!?
  ってかだったらまずてめぇが挫かれろ!!」
 「何でこの俺が!? 一体どこに挫かれる要素があるんだ!?」
 「強ええの挫くんだろ!? 自分の発言に責任持てよ!!」
 「むう・・・」



 唸ってみてテイク2。



 「そうか! 弱気を助け強気を挫く!!」
 「ああ? てめぇそりゃ俺への嫌味か?」
 「たまには謙虚になってみろという格言だな」



 何の疑いもなく頷かれてしまった。
 ため息をつき、跡部が真実を告げる。



 「だからな、
  ・・・そもそもそりゃ『弱きを助け悪を挫く』だ」






 「あれ・・・・・・・・・・・・?」






 本気で気付いていなかったらしい。






 「けど悪には巻かれるんじゃないのか?」
 「長いモンだろーよそりゃ・・・」
 「おっかしーなあ。世の中ってそういうモンだとばっかり・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「―――ああ『撒かれる』か。こうして弱者が生まれる」
 「それはそれで正しいような気がするから不思議なモンだな・・・・・・・・・・・・」


 











 夏にはありがたく涼しい風が吹き抜ける中、
 跡部が佐伯の肩をぽんと叩いた。
 〆る。



 「ほらやっぱ無理じゃねえか」
 「それもそうだな」






 こうして、佐伯正義のヒーロー化大作戦は計画倒れに終わった。



―――それでいいのかサエ!?











 ―――見様によってはサエの暴走を食い止めた跡部こそがヒーローです。ただしこうして方向性を見失ったサエは、今後得た力をどこに使うのやら・・・・・・。

2006.8.4