かつての怪我で右目のよく見えない千歳に対し、橘はスポーツマンシップにより左目で見える範囲にのみボールを打ち続けた。
 が、世の中全く逆の事をするヤツもいる。






ラバーシップ







 「のお佐伯」
 「ん?」
 「なしてお前俺ん右ばっか歩くとね? たまには逆にせんばい?」
 のんびり歩きながら、千歳は右を行く―――たとえよく見えずとも、繋がれた手をぶんぶん振り回されているため間違いない―――佐伯に首を傾げた。
 2人でいるといつもこれが定位置。そこで利き手同士を繋いでみる。その様だけ見ると恋人っぽいが、歌でも歌われそうなほどに思いっきり振り回されてはまるで幼稚園児の送り迎えのようだ。金太郎が相手の時と何ら変わらない。
 (それとも、手を繋ぐ言うのはこういうモンなんかねえ?)
 恋人同士で腕を組むのなら何となくイメージはつくが、そういえば手を繋いだ場合どういう事になるのが普通なのだろうか? 照れてみたりするには、自分たちは回数を重ねすぎた。
 そんな考えも含め首は傾けたまま、さらに横へと振る。んん〜? と、とても悩んでいるようには聞こえない声を上げる佐伯の方へと。振り向く自分に悩む佐伯。自然と足は止まった。
 左目で捉えられるまで(ついでに目線を下げずに済むまで)向けると、
 佐伯は笑っていた。上目遣いで、キスでもしたいかのように口を窄ませ。
 ―――こちらをからかえて楽しくて楽しくて仕方ないと、口よりも目よりも如実に語っている表情で。
 そんな、向けられたのが自分ではなく幼馴染の跡部だったりしたら即行ぶん殴っていそうな顔で、
 言う。
 「い・や・が・ら・せ〜♪」
 「・・・・・・・・・・・・そうとね」
 そうやって頑張って首を振るお前が大好きだよ、と嬉しそうに言う佐伯に、千歳はただ頷くしかなかった。
 首は戻さず、逆に佐伯からは死角になっているだろう左肩を小さく竦める。
 (まあ、ええけどね)
 実際のところ・・・というと語弊があるが(なにせこれも間違いなく本音だろうから・・・)、佐伯は自分の右目代わりを務めているのだろう。怪我を負ってもう1年。さすがにそろそろ慣れてはきたものの、彼はそれでも許さないらしい。尤も・・・
 (出会いが出会いやけんねえ。心配するんも当然とね)
 去年の
Jr.選抜合宿時。テニスをするには不便でない程度になったためものの試しに参加してみたところ、テニスで問題なかった代わりに曲がり角で鉢合わせた佐伯を避けフェンスに思い切り激突した。おかげでこうして恋人同士になれたが、アレは出来れば忘れて欲しい思い出である。
 「―――ん?」
 緩く握っていた手に力を込める。佐伯が笑みを引っ込めきょとんとした。
 ぎゅっと掴み、
 千歳は穏やかに微笑んだ。
 「なら、ずっとされとらんといかんばいねえ」
 「ハハ。何だよそりゃ?」










 再び歩き出す。手は繋いだままに。
 千歳はもう前へと目を戻してしまった。だが自分が何らかのアクションを起こせばまた振り向いてくれるだろう。足を止め、見えない右目で見えた振りをするのではなく、左目にしっかりと自分を収めてくれる。
 (そんなお前だから大好きだよ、千歳・・・)
 右を歩くのは愛情の確認だ。ちゃんと向いてくれたらその顔を真正面から見つめ極上の笑みを贈ろう。
 「愛してるぞ? 千歳」
 下を向き口の中だけで呟く。繋いだ手からさらに肩に凭れれば、千歳もまた頭を乗せてきた。
 閉じた目を開き、上を見る。
 柔らかい千歳の笑みを見つめ、
 佐伯も幸せそうに微笑んだ。
 繋いだ手は、とても温かかった。



―――Fin













 ―――誰!? 誰なのコレは!?
 では以上、ウチで主に取り扱っている
CPというか相方ではまず絶対成立しない話でした。多分サエがこういう形で甘えるのは、千歳かさもなければ物凄〜く頑張って忍足くらいじゃないかな〜・・・と。あといっそ逆に考えて虎跡時とか? いやそれだと照れる跡部に対する嫌がらせになります?
 それはともかく
35巻!! 来ましたよいろいろと!! ポイントは跡部の敗退からクララの毒手まで様々あると思いますが、私的に推したいのはちーちゃんが美人さんだった事!! 今までのただ穏やかに笑ってるだけのシーンでは出なかった艶やかさ!! そりゃもー光り輝いちゃってオッケーですよ!!

2006.9.1418