俺は佐伯。死神だ。
死の予定に挙げられた人間につき、1週間の調査の後その人間の生死について判断を下す。
今回はコイツの死を見届けるのが仕事だ。
死神哀歌
「あれが、対象者・・・か」
ビルから出てきた少年―――いや年齢からすると青年か―――を確認し、俺は小さく呟いた。
不二周助。それが今回の担当者の名。
彼を生かすか死なせるか、それをこれから1週間で判断するのが俺の仕事。
「さて行くか」
確認したならそれからためらう理由はない。さっさと行動を起こし、そして事態を進める。
雨の中、傘を差し急ぎ足で進み・・・
「あ・・・」
「おっ・・・と」
予定通り接触した。すれ違い様、肩で軽く突き飛ばす。明らかに体重の軽い彼は、簡単に転んでくれた。
「申し訳ない! 大丈夫だったかな?」
「あ、は・・・はい大丈夫です」
慌てて足を止め大袈裟に謝る。消え入りそうな声で頷く彼のスーツは、狙った通り雨と泥で汚れてしまっていた。
「本当に申し訳ない! すぐにクリーニングに出さないと! クリーニング代は俺が持つから!」
「あ、いえいえ・・・。別に大丈夫ですよこんなの」
「良くないだろ。いかにも高そうなスーツがそんなに汚れてしまって・・・いや俺が汚したんだけど」
「だ、大丈夫ですよ! 別にそんな高くもないですし。上下セットで1万円位でしたし!」
「1万円!?
・・・・・・俺のスーツはバザーで値切り倒して300円だけど・・・」
素で驚いた。5桁で安いとは。
(金銭的価値観は全く合わない、か・・・)
ちなみに死神は担当する相手に接触しやすいよう、よく身の回りのものを変える。だからといって毎回新品を揃えられるほど予算に余裕がない。使い回しは常識だ。
「何か・・・?」
「あいやいや。
せっかく安いんだったら尚更じゃないか!」
それを安いというのに多少の屈辱感を感じつつフォローに回る。
「・・・どういう理屈ですか?」
「それはともかく。
だったらせめてクリーニングし終わるまでウチに来ないか? とはいってもホテルだけど。
服も貸せるしお茶くらいだったら出せるよ。何ならどこかにでも食べに行かないか? 丁度夕飯時だしな」
笑顔でまくし立てる。とはいえ相手を引かせるほどではない。こういった掛け合いバランスは、長年の仕事で自然と培われたものだ。
と、
相手の顔が、ますます怪訝なものになっていった。
囁き声で、問われる。
「誰かに頼まれましたか・・・?」
「・・・何が?」
もちろん仕事なのだから、見方によっては頼まれて接している。上司に。
だが彼が訊きたいのはそういう事ではないのだろう。意味を察し兼ね首を傾げるが、この辺りの考えをさらに違う意味で取られたらしい。
怪訝を通り越して不信な顔で続けられた。
「とぼけないで下さい。どうせ会社の誰かにでも頼まれたんでしょう?
みんなどこにいるんですか? そうやってオロオロする僕を笑い飛ばしてるんでしょう?」
「・・・・・・。
―――ああ」
思い当たる。確か人間の間では、今俺がやった行為を『ナンパ』と呼ぶんだったか。あるいは『犯罪序章』と。
(いきなり家ってのは失礼だったっけ)
鼻から息を抜きつつ納得していたら、相手の不信はついに確信へと変わったらしい。
「失礼します!!」
「おい待ってくれって!!」
今までの控えめさはどこへやら、引っくり返った声で叫んで逃げようとした。
―――ので腕を掴んで引き止めようとして・・・
バチッ!!
「あっ―――!!」
「・・・・・・あ」
静電気のような衝撃と共に、彼はその場に倒れてしまった。今度は突き飛ばされたのではない。気絶しただけだ。
「まいったなあ・・・」
倒れた彼を見下ろし、俺はぽりぽりと頭を掻いた。
死神は素手で人間に触れると、相手の寿命を1年奪ってしまう。こう説明すると矛盾していると笑われる事があるが、死神がつく人間は寿命の上ではまだ当分死なない。当たり前だ。1週間後が寿命ならば、生かすか死なすかなど判定せずとも確実に死なれる。
死神は、予定ではまだ当分生きるが実際のところどちらにしようか悩まさせられる、いわゆる困ったさん、頭の痛い相手が全員担当だ。例えば彼のような。
「とりあえず、このまんまはマズいか」
ζ ζ ζ ζ ζ
なので家まで運んでいった。もちろん手には手袋を嵌め。
目覚めた相手を貧血だろうと適当に誤魔化し、服を貸し外に出た。2人きりではまた暴れられそうだと思ったのだが、『助けてもらった』恩があるからか彼は大人しく従ってくれた。
高級フランス料理店―――もちろん経費。ホテル代も含め。なので遠慮なく豪勢にいかせて貰っている―――で適当に盛り上がる。ワインの力もあって、彼もようやく滑らかに喋り出した。
「本当に何から何までありがとうございました」
「いやいや。困った時はお互い様、ってね。
ああ、そういえば食事すらしてるってのに名前聞いてなかったね。俺は佐伯。よろしくな」
警戒を解く笑顔で手を差し伸べる。もちろん手袋はしたまま。
死神には別に決まった名前はない。相手に接しやすいよう姿かたちが変えられるのだ(例えば今回なら、対象者と同年齢の同性、かつ気を許されやすいよう好青年風味に)。それに応じて名も変えるのが普通だろう。
だが俺はこの名でいつも通している。理由は特にない。人間の世界で言うところの、愛着というものか。
俺の自己紹介を受け、相手―――不二周助と既に名を知っている彼もまた、ナイフを置き手を差し出してきた。
「僕は不二、不二周助です」
「不二周助、か・・・。いい名前だね」
握手をしながら言うと、不二はきょとんと首を傾げた。
「え・・・? なぜですか?」
「だって、『2つとないもので周りを助ける』だろ? きっと生まれた時から親にたっぷり愛されてたんだろうな」
微笑ましく笑う俺に、
なぜか不二は視線を落として口端を上げた。はにかみではない。
「ですね。僕は全然期待に応えられてませんけど」
「ん?」
手が離れる。上げられた不二の顔には、実に皮肉げな笑みが形作られていた。
「2つとないものどころか、僕には本当に何にもなくって。困っちゃいますよね。そんな期待込められても。周り助けるなんて絶対無理ですし。
こんな感じで見た目もみにくいですし、助けるどころかからかわれてばっかりですよ」
「見難い? 非常に見やすいぞ? それとも君は身体異常発火でも起こして光の屈折率を変えるのか? 確かに2人といないだろうなそんな人は」
「そうじゃないですよ! というか何でそんな発想になるんですか!?」
けたけたと笑う彼は、とても魅力的だった。
俺の貸した服をだぼだぼに着、少女と見紛う顔に満面の笑みを浮かべ。ずっと俯き篭りぎみに話すから気付かなかったが、それらのフィルタを取ってしまえば男性とも女性ともつかない澄んだ声だった。張りのない分柔らかい。聴いてて酷く心地が良い。
店内の客や従業員らが、彼の声に聴き惚れ彼の姿に見惚れる。
確かに、2つとないもので周りを癒し救うようだ。
納得し、俺は首を傾げた。
「勿体無い」
「なにが?」
「そうやって明るく笑うのを見る限り、君はとても素敵だと思うよ。
俺には君が自ら己の価値を下げているようにしか見えない」
「・・・・・・・・・・・・」
不二の顔が曇る。
沈黙の、後。
「そんな事、ないですよ。
僕はこれで普通です」
「暗くするのが?」
「悪いですか!?」
机を叩き不二が立ち上がった。勢いそのままに叫び出す。
「だって仕事じゃいつも無理矢理明るい声上げて! それで文句言われてひたすら謝るんですよ!?
仕事以外くらい暗くいたっていいじゃないですか! もう疲れました!!」
「ちなみにその仕事って?」
「お客様の苦情受付サービスです・・・」
「なるほど。それは気の滅入りそうな仕事だな」
意気消沈する不二に付き合う事もなく、俺は淡々と話を進めた。
その手のサービスは一般的には女性がやりそうなものだが、多分彼はこの声の雰囲気により採用されたのだろう。ひたすら明るいだけのキンキン声を聞かされるより、ずっとこちらも落ち着ける。
「けどそんな仕事だからこそ逆に、仕事以外は素で明るくいたいとは思わないのか?」
「明るく?
・・・・・・そんな方法、もう忘れました」
「じゃあ例えば休日とかは? 何をしているんだい?」
「1人でいますよ。一緒に遊ぶ人とかいませんし」
「1人で?」
「ええ。1人で。
笑っちゃうでしょう? 1人でコイントスとかやってるんですよ。表が出たら良い事がありそうとか決めて、なのに全然出なくって。
確率2分の1ですよ? 50%ですよ? 2回やったら1回は出るのが普通なんですよ?
なのに全っ然。運にまで見放されちゃってますよ」
「ふーん」
軽く流す。同僚に正真正銘とことん運のないヤツがいるが、代わりに実力はあるそいつは、回転や投げる高さを調節し狙った通りの面を出す事が出来る(世間一般ではそれをイカサマというのだが)。
それほどでなくとも、延々やり続ければ自然と投げ方取り方は同じになる。無意識の内に身に付けた技量により、同じ面を出し続ける事は不可能ではあるまい。特に、
(無意識ではあっても狙ってやってるんならな)
暗さに拘るのと同じだ。自分には運がないと決め付け、だから口先だけで表を願い、心の中では常に裏である事を望み続ける。
(これも一種のナルシストか・・・)
実際、
「何でしょうね僕の人生って。出来るんなら今すぐ死にたいくらいですよ・・・・・・」
『今すぐは無理だな。お前が死ぬのは1週間後だ』
・・・とは言わないでおいてやる。この事実は相手にとって希望と絶望どちらに聞こえるのか多少興味はあったが。
酔いが回ったか妙なテンションでひたすらグチを零す不二を観察し、
俺は小さく何度か頷いた。
(死なせるのは、<可>・・・と)
ζ ζ ζ ζ ζ
その後完全に酔いが回った不二をタクシーに乗せ別れ(もちろん洗濯し終ったスーツを返し)、俺は近くのCDショップに向かった。音楽鑑賞は俺の唯一の趣味だ。おかげで人間が死ぬのは別にいいが、死に絶え音楽が作られなくなったらどうしようというのが目下の悩みだ。
女性ヴォーカルのゆったりとしたソロをBGMに、店へと入る。そこには知り合いがいた。運と実力を見事反比例させた、件の同僚が。
「やあ景吾」
「あん? 佐伯か」
軽く手を挙げ挨拶すると、景吾―――コイツも俺と同様『跡部景吾』とずっと名乗っている。ただし普段名字しか使わないため、名前まで知っているのは同僚でも極めて一部だが―――が視聴用のヘッドホンを取った。
先程の説明に補足を入れる。音楽鑑賞は俺含む死神全体の趣味だ。話によると天使は図書館に集まるというが、そんなこんなで俺達死神の溜まり場は音楽の流れる場だ。
それでもわざわざヘッドホンを取ったのだから、会話する意志はあるのだろう。もちろんなくとも構わないが。
どちらにせよ遠慮なく俺は近付いた。笑って問いかける。
「サボリか?」
「違げえよ。仕事が終わったから聴き納めだ。
てめぇこそどうしたよ? 今日からだろ?」
「お? さっすが俺のストーカー。スケジュールもよく把握してるようで」
「その言葉はそっくりそのままてめぇに返す。
無理矢理もぎ取ってきたんだろどうせ? せっかく楽そうな相手だったのにとか越前が文句垂れてたぞ」
「ま〜た自意識過剰台詞を。そんなお前も可愛いぞv」
「帰る」
「まあ待てって。聴き納めならのんびり聴いてけよ」
「てめぇがいなけりゃのんびり聴くがな」
ため息をつき、景吾は手で弄んでいたヘッドホンをスタンドへと戻した。どちらにでも隠れるような小声で、尋ねてくる。
「もう決まったのか?」
あくまで隠れる『ような』であり実際隠れなかったので、俺ははっきりと答えてやった。
「ああ。<可>だな。
確かに楽だった。死にたがりは楽でいい」
景吾がちらりとこちらを見てくる。別に咎めるような視線ではない。俺達死神にとっては、こちらの考えの方が主流だからか。
―――『全員殺していいんなら俺ら調査員なんていらねえだろ? 俺は調査員の存在価値を実証してるだけだ』
我が道を突っ走り、死にたがりを改心させ生かそうとするこの酔狂な死神は、それでも一応己のやっている事に対する自覚はあるらしく、決してその信念をこちらに押し付けようとはしない。
代わりにこんな事を訊いてきた。コイツには珍しくからかいの色を乗せ。
「だからサボリってか?」
俺も笑って答える。多分不二が見せたのと同じだろう素の笑いで。
「サボってないさ! なにせ俺は優等生だからな。
今日やる分はもう終わった。今は仕事帰りの一杯ならぬ一聴だよ。ところでこの曲いいな」
「ああ、今流れてんのな」
適当に指を立て話題転換。景吾も上を見上げあっさり乗ってきた。何だかんだ言っても、人間の生き死になどより音楽の方が大事なのはコイツも同じだ。
景吾はさらに先ほどまで聴いていたヘッドホンを指差し、
「丁度俺が聴いてたやつが、その歌手が出したアルバムだ。聴くか?」
「買うのか?」
「・・・・・・今のてめぇの思考回路、完全に理解しちまった自分が哀しいぜ」
さらにため息をつき、景吾が鞄を漁る。取り出したのは音楽雑誌だった。
「そういやコレにも何か載ってたな」
「わざわざ買ったのか? お前もマメだなあ。雑誌なんて立ち読みでいいじゃん」
「・・・・・・・・・・・・。こないだ本屋の店長の担当になったが、万引きと立ち読みが悩みの種だそうだぞ?」
「ティッシュ配りと同じだと考えれば良い。1個いくらかずつ損して道行く人に渡して、実際利用してくれる人はほんの一握り。
本っていいよな。その場で立ち読みする限り店側に損はない」
「・・・てめぇはつくづく自由でいいよな」
「サンキュー」
「ああ」
頷く景吾から雑誌を受け取る。開かれたページに写っていたのは、髪の色が派手な、少年と青年の境目くらいの男だった。丁度不二と同い年程度か。
暫く眺め・・・
「・・・・・・・・・・・・意外な展開だったな」
「違げえよ! そいつはその歌手発掘したっつープロデューサーだ!!」
「何だ。だったら最初に言えよ」
「前提として気付けよ」
「いや無理」
「・・・・・・。
ほんと自由だよなてめぇの頭の中身は」
景吾が挫けた。
立ち直るまでの間、のんびりと雑誌を読む。どうやってその歌手を見つけたかだの、良い相手を見つける方法はだの云々。全く興味のない内容だった。
立ち直った景吾が解説を加えてきた。
「そのプロデューサーってのも凄げえモンだな。今まで見つけてきたヤツら、ことごとくヒットさせてるそうだ」
「凄いか? つまりは見つけられたヤツらの実力がそれだけ高かったんだろ? 凄いのはそいつらだ。歌は歌い手がいて初めて成り立つんだから」
「そりゃそうだろ。そいつも言ってる。歌は歌い手の声が命だ。自分は単にそれを見つけて相応しい歌をつけるだけだ、ってな。
だがいくら実力があろうが、だから必ずしも成功するワケじゃあねえだろ? 残念ながらな」
「それもそうだな」
「良い歌い手は原石みてえなモンだ。掘り起こされて磨かれて、市場に出回って初めて価値が出る。掘り起こされなけりゃただの石その1だ」
「つまりこのプロデューサーがやってるのは、文字通りの発掘だ・・・と?」
「それも極めて運の良い、な。それこそ発掘なんて実力だけでどうにか出来るモンでもねえだろ」
「彼女が見つかったのも、プロデューサー様々。ねえ・・・」
会話しながら思い出す。そういえば運の良し悪しの話はさっきもしたか。
雑誌を返し、さらに新たな話題を切り出す。ポケットから10円玉を取り出しながら。
「なあ景吾。このお金使って、ちょっとコイントスやってみてくれないか?」
「ああ?
・・・まあいいけどよ」
ピン―――と指で弾かれ、戻ってきたところを手で包まれ。
甲に乗っていた10円玉は・・・
「やっぱ裏か」
「あ゙あ゙!? 何か言いてえ事あるってか・・・!?」
どうやらこちらの言い振りから何かは察したらしい。険悪に迫ってくる景吾に、俺は試しに1つ提案をしてみた。
「んじゃ次賭けしようぜ? 表が出たら夜食奢ってやるよ」
「てめぇが!?」
「俺に二言はないぞ?」
「一言目もねえヤツだからな」
「で? どうだ?」
瞳を細め笑う俺に、景吾も乗って口角を上げた。
「いいぜ? 俺様に挑んできた事、後悔するんだな。
んじゃ行くぜ!」
ピン―――!
弾かれ、戻ってきた10円玉は・・・
「おらよ表だ。約束守れよ?」
「仕方ないなあ。はい」
「・・・ああ? 何だこりゃ?」
「5円チョコ。知らないのか?」
「そりゃ知ってるが・・・・・・だから何なんだこりゃ?」
「夜に食べ過ぎは肥満の元だぞ?」
「・・・・・・やべえ。コレ1個で夜食と言い張るお前の精神が何よりやせ細ってて哀れに思えてきたぜ」
「んじゃそんな俺のためにぜひ夜食をお前の奢りで!」
「結局そういう事かよ!?」
24時間営業のファミレスで食えるだけ食い景吾と別れる。
別れ際、尋ねられた。
「まだ調査続けんのか? もう決まったんだろ?」
「何? 早く帰ってきて欲しい?」
「じゃあな」
踵を翻し本当に去ってしまった。つくづく洒落の利かないヤツだ。
後姿を見送り、一応答えておいてやる。
「ま、もうちょっとは頑張るさ。『優等生』だからな俺は」
ζ ζ ζ ζ ζ
「やあ」
「あ・・・。こんにちは」
次の日、俺は宣言通り再び不二と接触した。
「先日は何から何まで、本当にありがとうございました」
照れ笑いを浮かべる不二に、こちらも笑って手を振る。
「いやいや。こっちも楽しかったし」
「楽しかった・・・ですか? あんな愚痴ばかり聞かせてしまったのに?」
「実は俺はカウンセラーでね。人の悩みを聞くのが好きなんだ」
「あはは! それ凄い悪質なカウンセラーじゃないですか。
それじゃ聞いてもらえますか? 今日は僕が奢りますよ」
「それなら喜んで」
「それじゃあ・・・・・・こっちへ」
「ん?」
突如小声になる。袖を引っ張られるまま接近すると、楽しげな雰囲気はどこへやら不二が真剣味を帯びた表情で囁いてきた。
「申し訳ありません。このまま付き合ってもらえませんか?」
「それは別にいいけど飯も奢ってもらえるし。
どうしたんだ?」
「今ちょっと変な人に追われてて・・・・・・」
(俺も分類上それだと思うけどね)
「わかった。協力しよう」
「ありがとうございます」
ζ ζ ζ ζ ζ
タクシーを拾い、隣町のレストランへ。人間とは異なる死神の感覚を用いても、怪しい人間の気配は感じ取れなかった。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
「本当にありがとうございます」
「それで? 変なヤツって?」
「それが・・・」
ぼそぼそと(前回と変わらない様子で)不二が話し出した。
「昨日言いました通り、僕はお客様の苦情受付をやっているんです。といいますか、いろいろ言われてひたすら『申し訳ありません』って謝る仕事を」
「大変そうな仕事だよな。俺にはとても無理だよ」
「仕事そのものはもういいんですが、最近妙な苦情が来るんです」
「妙な?」
「最初はビデオデッキのボタンが壊れたというのでした―――ああ、ウチは家電製品の店ですので」
「極めて普通の苦情だと思うけど?」
「初日は僕もそう思いました。
ところが次の日もまた同じお客様から電話があり、今度は掃除機が動かない。さらに次の日にはCDデッキの取り出し口が壊れてCDが出てこない・・・と」
「よく物が壊れる家だなあ。不良品売りつけてたりしてないか?」
「してません! 明らかにおかしいじゃないですか毎日物が壊れるなんて!」
「確かに可笑しいなあ。聞いててちょっと笑っちゃったよ。
不幸は人の下に訪れる限り面白い」
「・・・笑ったままでもういいですので聞いてて下さい出来れば口は挟まないで。
しかも文句の言い方がまた妙なんですよ。2日目からは僕を指名するようになって。誰がしたってもちろん同じなんですよ? なのに何でか僕ばかり。
その上CDデッキの時なんて、出てこないCDの曲歌いだして『この曲知ってる? 歌ってみて』とか言い出すんです」
「へえ・・・。
どうやら、修理が必要なのはそいつの頭らしいな」
「・・・・・・。実は今まで話しててむしろあなたの方が必要な気もしてきましたけど」
「君もまた面白いね」
「あなたには負けます」
「サンキュー」
「もういいですどうせそう返って来ると予想はしていましたから」
「じゃあ問題は解決したところで改めて食事を」
「してないでしょう!? 冗談ですよね今の!?」
「俺はいつでも本気だぞ?」
「・・・・・・・・・・・・。
相談の持って行き先なんでこんなに間違ったんだろ。やっぱ僕って運無いなあ・・・・・・」
不二が深く息を吐く。俺は息を吸ってカクテルを飲み干した。
グラスを置く頃、深呼吸を終え己に喝を入れた不二が再び話し出した。
「今日ついに『どうしても会いたい』なんて言ってきたんですよ。それで僕怖くって・・・」
「だから俺と一緒に帰ってそいつを追っ払おう、と?」
「ええ。すみません・・・・・・」
特に責めたつもりはないが、不二は申し訳なさそうに謝ってきた。
この辺りに関して相互理解を深めても話は進まなさそうなので、フォローせず進める。
「もしかしたら、そいつは君の事を気に入ったのかもな」
「ええ・・・!?
そりゃあ、誰かに好かれるのは嬉しいですけど・・・・・・嫌ですよそんな変な人!
僕はもっと普通の人―――いやちょっとこっちはこっちで普通じゃないけどけどそれに比べたらマシな人に・・・・・・」
今までで一番小声になる。ちらりと視線が上がった。俺の方へと。
おどおどしているのに変わりはなし。ただし、その意味は今までのものとは異なっていた。
自画自賛で今回の俺は『魅力的な好青年』。優しく接し手を差し伸べてやれば、人生に疲れた相手はコロっと落とされる。
ただし俺の仕事は対象者の調査だ。恋に落ちるのは仕事の範疇外だ。
なので気付かなかった振りをして視線をかわす。不二の目が僅かに揺れ、
外へと向けられた。
「最近、雨多いですよね。まるで僕の気持ちを表しているみたいです」
「だとすると俺は常に落ち込みっ放しだな。俺が仕事をするといつも雨が降る」
「雨男なんですか?」
「だから俺は別の考え方をしている。
雨はこの地に恵みをもたらす。地を潤し植物を育み、動物の、さらには人の、渇きを癒す。
俺はありがたいものだろう?」
「あはははは。素敵な考え方ですね」
何度目かの楽しげな笑い声を上げ、
不二は視線を落とし、呟いた。不思議な笑みを湛え。
「だったら、僕の渇きも癒してもらいたいですよ・・・・・・」
ζ ζ ζ ζ ζ
その後、不二に会う事もなく俺はCDショップ巡りをし、
そして最終日。
今度不二に会ったのはカラオケ店の前だった。ついでに不二は1人ではなかった。
「ちょっと! 放して下さい!」
「ねえいーじゃん!! ちょっと!! ちょっとでいいから!! ね!?」
「止めて下さい!! 警察呼びますよ!?」
「ちょっとそこ入るだけでいいから!! お金ちゃんと払うから!!」
そんな感じで彼は争っていた。同年齢くらいの、実に奇抜な髪色をした男だ。まるでこの、止まない雨の中で太陽を望むかのような色。
(とすると俺は雲の色だから雨が降るのか。景吾の方が雨雲っぽいけどな)
とりあえずこのままいても仕方がない。今日は最終確認に来たのだ。こんな見世物を見にではない。
「何やってるんだそこ!!」
「あ、佐伯さん! 助けてください!!」
泣きそうな顔で頼んでくる不二の元へ駆け寄る。さすがに俺もその程度の情はある。
「どうしたんだ?」
「この人が、あの言ってた変な苦情の人です!」
「・・・すっげー嫌な言われ方されてんね俺」
「ああ、あの片っ端っから家電製品を壊す器用なヤツか」
「うわしかもそー受け取られてたんだ」
「この人の思考回路はもう気にしないで下さい・・・。
それで! その人がいきなりそこのカラオケ店に入れって僕を無理矢理・・・!!」
「なるほど。そして個室に連れ込みあんな事やこんな事をさせようというのか。金まで払うと言った以上決定だな。
駄目だぞどこの誰だか知らないが。そういうのはちゃんと専門の人に頼まないと」
「ねえ、何の専門? 言っちゃ悪いけどさっきっから君の人生観おかしすぎるよ?」
「お前に言われる筋合いはないな面白人間」
「俺も君に言われる筋合いないな・・・。君より遥かに負けてるし」
「サンキュー」
「それでナチュラルにお礼言っちゃう辺り、本当に君面白いね。
ところで―――」
何かソイツが言おうとしたところで。
バッ―――!!
「あ、逃げた」
目を離していた不二が、男の手を振り解いて逃げていった。
走り去りつつ一言。
「すいません佐伯さ〜ん!! あとよろしくお願いしま〜す!!」
「・・・・・・・・・・・・。
今すっげー君に同情したくなったよ」
「・・・? サンキュー」
「いやもーそれいいから。
てゆーか待って〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
「ああお前もちょっと待てって」
追いかけようとする男の首筋に軽く手刀を叩き込み、
バチッ!!
「うぎゃっ!?」
「・・・・・・あ」
そういえば手袋をし忘れていた。
「あ〜あ・・・・・・」
倒れた男を見下ろし、
気付く。
俺はコイツを知っている。
「なるほどね。そういうカラクリか・・・・・・」
事情は大体理解が出来た。
ついでに今俺は、この男に対しとてつもなく失礼な事をやってしまった。
ぽりぽりと頭を掻き、
「まあいっか。長生きしそうな顔と神経だし」
ζ ζ ζ ζ ζ
暫くして、男が意識を取り戻した。
「ああ痛った〜・・・。何だったんだろ・・・?
は〜あ。今日は俺アンラッキーかも・・・・・・」
呻き、携帯を取り出す。
物陰からそんな様を眺め、俺は耳へと意識を集中させた。俺達死神の聴覚ならば、電波に乗った音は割と離れていても聞こえる。その事について同僚(景吾ではない)は、かつて人間界で読んだ童話にかけ「なして俺らん耳はよう聞こえるか? そら、いつでもどこでも音楽聴くためやろ」と揶揄っていたか。
今回聞こえるのはただの会話だった。
《どうだ千石? いたか? お前曰くのエンジェルボイスとやらは?》
「あちょっと南〜! さりげに馬鹿にしてるね?」
《・・・当たり前だ。
たまたまかけた電話の苦情受付の声が良かった? そんな雲掴む話を他にどう受け止めろっていうんだ?》
「けど俺の情報網と仕事にかける情熱舐めちゃダメだよ?」
《お前がいつ仕事に情熱かけた・・・。どうせ可愛い子探しにだろ?》
「お〜わかってんじゃん」
《本当に可愛い子だったのか・・・? 確かお前、今回は男見つけたとか言ってなかったか?》
「男だねえ。そんじょそこらの子より遥かに可愛い男の子。笑うとパッて花が咲く。
けど今後はもっと可愛くなるよ。賭けてもいいね。あの子はちゃんと内側に輝くモン持ってる」
《えらく自信満々だな〜・・・。というかその言い振りだと〜―――》
「という事で長年の努力実り、ようやっと見つけたよんvv」
《ホントか!?
・・・・・・相手の子も可哀相に》
「ちょっとお!!」
《どーせお前何度も電話したとか、会社に押しかけたとか、後つけていったとか、ゴミ漁ったとか、パソコンにハッキングしたとか、そうやって探したんだろ?
頼むから警察に逮捕されるような真似は止めてくれよ?》
「確かに電話とストーキングはやったけどさあ。そこまで取り上げる事でもないんじゃん?」
《犯罪だ思いっきり!!
それで? その成果は?》
「ビンゴビンゴどんぴしゃ☆ やっぱあの子だった」
《お前のストーキングを自慢しろと誰が言った。
じゃなくてだ。歌は? 良かったか? せっかく見つけてきたヤツが音痴だったなんて言ったら笑い話にしかならないぞ?》
「ん〜・・・。どうだろ?」
《はあ?》
「だから今日は歌ってもらおうと思ってカラオケ誘ったんだよ。でも逃げられちゃって」
《一応訊いとくけどな、
―――警察沙汰とかには〜・・・・・・ならなかったよな?》
「だ〜いじょうぶだって! 他の人に乱入されたから」
《はあ・・・。頼むから余計な騒ぎ起こさないでくれよ。
というかそんな怪しさ大爆発な事やってないで普通に名乗ってくれよ》
「ん? それはダメ」
《なんで?》
「だって、俺の事音楽プロデューサーだ〜とか知っちゃったら、緊張とか期待とかしちゃうっしょ?」
(やっぱそういう事か)
そう。この男は俺が1週間前景吾と話していたヤツだった。
どうやら俺も気に入った不二の声に、この男も注目したらしい。あるいは景吾の言い分を借りれば発掘したか。
(ふむ・・・)
考える。今日俺が天界に帰り、上司に『不二周助の死は<可>』と報告すると、彼は明日には死ぬ。
(けど、それもつまんないか)
壁に凭れちらりと後ろを向く。問題のプロデューサーは、電話相手にまだ粘っていた。
「それじゃダメなんだよ。ありのままの声聴かせてくれなきゃ」
《まあ、その辺りのお前のこだわりはわかってるつもりだけどな。
本当に、大丈夫だよな?》
「なに南? 俺の勘信じられない?」
《いやそんな事はないけどな》
「だいじょぶだいじょぶ。びびっと来たから。
そーいう時は絶対外さないから」
《・・・実は来ない時も構わず誘ってたのか?》
「そういう子は技量でカバー。
任せてv 本格的に使い物にならない子は目に止まらないように出来てるから俺」
《さりげに鬼だなお前・・・》
「今回は間違いないよ。絶対あの子は成功する。
ラッキー千石のラッキーにかけて保障するよ」
《ま、そこまで大見得切るんならいいよ。
これでもお前の事は信頼してるんだ。頼んだぞ、敏腕プロデューサー》
「あいあいさっ!」
電話相手には見えないだろうに手を上げる男からは視線を外し、俺はほどいた手をポケットに入れた。
「どれ、俺も運にでも任せてみるか」
10円玉を取り出す。
投げてみた。
戻ってきた。
甲に乗った10円玉は、
表を向いていた。
「・・・・・・ああ」
気付く。どちらだといいのか決めていなかった。
「ま、どっちでもいっか」
もう一度投げる。今度は立った状態で摘んで止める。
「ホラ」
運なんて、どうにでも出来るのだから。
ζ ζ ζ ζ ζ
その場を去りながら、
俺はもしかしたら起こるかもしれない未来を思い描いてみた。
歌手デビューした不二の曲を、また仕事で来た俺が聴く。
それも良いかもしれない。
去りゆく俺の耳に、
まだ続けていたらしい男の会話が聞こえてきた。
「そうそう! びびっとと言えばまた来ちゃったよ! それも今度はさっき言った『他の人』の方!!」
《ああ、あのお前の凶行を止めてくれたありがたい相手か》
(俺か?)
「そっの人もまた良い声しててさ〜! 南にもぜひ聴かせたかったよ。低音で腰砕けになっちゃうよ?
しかもそーとー音楽に馴染んでるよ。台詞できっちり拍取れてたもん」
《んじゃあ今度はそっちにアタック、って?》
「とりあえず今はあっちの子っしょ。
けど惜しいね〜。名前くらい聞いときゃ良かった。訊こうとしたらあっちの子が逃げちゃうし、でもって気がついたら2人ともいなくなってたし」
《気がついたら・・・って、お前その間何があったんだ?》
「そこはまあ気にせず。
あーあ。また会えないかな〜」
《お前のラッキー次第だろ。
とりあえず、浮気ばっかりしてないでちゃんとその子誘えよ?》
「はーいはい。
んじゃ〜ね〜」
電話が終わった。携帯をしまい、男は雨振る空を見上げた。
「会えるか会えないかは運次第、か。
んじゃ、また会えるかな?」
(お前が死ぬ1週間前にもしかしたらな)
心の中で答え、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」
本日何度目だか、俺は思い出した。
髪を染めていたから気付かなかったが、
「会ったのもう2回目だった」
確か10年以上前だ。コイツ自身の死に関して調査をしたのだ。
俺も子どもの姿で接したが、多分だから声が違っていて気付かれなかったのだろう。
いずれにせよその時からコイツは良い歌を見つけるのが上手かった。1週間ずっと聴き続け、コイツの死は<見送り>にした。
礼ではない。他に何を見つけてくるのか興味があったからだ。おかげで景吾には「てめぇはどこまで自分大好きな野郎だ?」と半眼で文句を言われたものだ。
だがそのおかげでまた、コイツは良い歌い手を見つけた。コイツの『情熱』だか何だかなら、不二もその内折れるだろう。
そうしたらまた会うかもしれない。
「確か、2度ある事は3度ある、だったっけ。
これもやっぱり運の問題か」
今度こそ立ち去る。
もうひとつ未来予想が出来上がってしまった。
「俺が歌手デビューねえ・・・。
とりあえず、景吾が聞いたら大笑いしそうだな」
『不二周助の死は <見送り>』
ζ ζ ζ ζ ζ
かなり暫くして。
仕事を終え戻ってきた俺は、足元の雲にゴツいヘッドホンジャックを突き刺し何やら聴いている景吾と遭遇した。このジャックはどこにも繋がっていないが、俺たちはこうして地上に溢れる電波から好きな歌を拾う。千石とかいうあのプロデューサーが知ったらさぞかし羨ましがるだろう。
「やあ景吾」
「あん? またてめぇか佐伯」
軽く手を挙げ挨拶する。景吾はヘッドホンを取りもしなかった。
背中合わせに腰を下ろし、俺は尋ねた。ポケットにしまいこんでいた小さなヘッドホンを耳に付け。
「そんなに良い曲見つけたのか?」
「ああ。最近デビューしたヤツだ」
「へえ?」
高いクオリティを望む景吾が良いと断言するのは珍しい。俺も同じくジャックを突き刺し、音を拾ってみる。
流れてきたのは、聞き覚えのある声だった。
「こないだプロデューサーの話しただろ? そいつがまた見つけてきたんだそうだ。
『An Engel』だとか微妙におかしい名前だが、まあ芸名は歌にゃ関係ねえからな」
今回も律儀に買って来たらしい雑誌を広げられる。載っていたのは件の相手だった。瞳を伏せ、胸に手を当て歌っている。
その顔は、以前見たものとはまるで違っていた。自分に対し自信がついたのだろう。おどおどとした様子がなくなり、より一層魅力的になっていた。千石の予言は見事に当たっていた。
一通り記事を読み、頷く。
「そうだな。2つとないもので周りを助けるんなら、『たった1人の天使』っていうのも納得だ」
「知ってんのか? そいつの事」
再び頷く。
「俺が前に担当した子だよ」
「んで生かしたってか? てめぇが? また珍しいモンだ」
「そん時丁度誘われててな。歌声聴いてみんのも面白そうだったから見送った」
「相変わらず自分の事しか考えてねえんだな」
「けどお前も満足してるだろ?」
「・・・・・・」
景吾が黙り込んだ。
振り向き、にっこり笑い、
俺は言った。
「だから言っただろ? 俺は『優等生』だってな」
―――Fin
おまけ―――
2人で曲を聴き、
ふいに景吾が尋ねてきた。
「そういや、お前コイツに接したんだっけか」
「そりゃもちろん。担当したんだから」
「なるほどな」
くつくつと景吾が笑う。
「何だよ?」
尋ね返すと、景吾は自分のヘッドホンを指先でとんとんと叩いた。
「今流れてる歌な、<Rain>っつータイトルだそうだ」
「ああ・・・」
仕事中なのだから当たり前だが、俺が不二と会う時はいつも雨が降っていた。
だが・・・
「だからってすぐ俺になるのか?」
「なるぜ? やけに前向きなヤツの歌だからな」
「・・・・・・誉められてる?」
「ほんとーに、前向きだなてめぇは・・・」
それきり黙り込む耳に、歌が流れてくる。
ある日出会った不思議な君
雨を引き連れ舞い降りた天使は
見た目にそぐわぬとんちんかんで
笑っちゃったよ 悪かったかな?
窓の外は今日も雨
まるで僕の心みたいだ
鬱に呟くこんな僕に
君はあっさりこう言ったね
「雨はこの地に恵みをもたらす
そして人の 渇きを癒す
俺はありがたいものだろう?」
僕もいつかなれるかな?
誰かを癒せる存在に
君が降らせてくれたこの雨は
今も僕の心を潤わせてるよ
「・・・やっぱとんちんかん絶好調だったんだな」
「俺がとんちんかん? どこが?」
「素で疑問に思える辺りがな」
景吾が何を言いたいのかよくわからなかったので流し、
俺はぽんと手を叩いた。
「そういえば俺にも話がきかけたよ。歌手デビューの」
「てめぇが?」
ははははははは!!! ・・・とやはり大笑いされた。
なので適当に頭突きで黙らせて、
「2人で歌ったりしたら良さそうじゃん? <Squall>くらいにバージョンアップ出来そうで」
「スコールって・・・、嬉しいかそれ?」
「潤いまくり?」
「潤いすぎて沈むのがオチだろ」
ため息をつく景吾に微笑み、
言う。
「何だったら、俺ら2人で歌ってみる?」
―――Fin
ζ ζ ζ ζ ζ
という事で、先週ラジオでやっていた『死神の精度』のパロディでした。ラジプリ以外で、織田さんが出演されていないのにラジオを聴くのは珍しいですが・・・しゃばけシリーズは1・2合わせて20話中3話で挫折しました。なんっっか、イメージに合わなかった・・・・・・この話は毎回良かったです。特に千葉(この話ではサエがやった役)のズレたトーク。抑揚をあまり表さない落ち着いた声でボケるので、聴いてる分には無性に可笑しかったです。微妙に織田さんが話される地の声(サエではない。張りを無くした薔薇之介の声というのが一番近いか)に近いトーンで、会話のノリがそれこそサエっぽかったので、聴いてて妄想しやすい一方煽りを喰らって不二がおかしい事になっています(爆)。
話の方はこんな感じで死神千葉がいろんな人を観察するもの。この手の話だとラストはみんな<見送り>にするのかと思ったら、そんな事もなかったですね。周りの人の激情とかいろいろ完全無視で淡々と仕事をこなす彼が素敵でした。5回で終わったのが残念だ・・・。それ以上に2話目のラストを聴き逃したのが・・・。結局藤木は死んだのか・・・!? そして5話目の老女と何か関係あるのか・・・!?
なお補足。この話で出てきた死ぬ予定の人は、元は女性です。なのでサエが魅力的な好青年に化け、それを見てどきどきしてます。・・・・・・いや入れとかないとさすがにおかしいかな〜と。
そしておまけでは虎跡要素を増やし・・・じゃあなかった。別れたっきり終わり、最終話で歌手になっていた事が判明したその女性のフォローをしてみました。どうやってプロデューサーは彼女口説き落とせたんだろ・・・?
2006.10.31〜11.5