Triple Date!
ある部活のない日曜、デートに誘われた。
『日曜デートしない?』
電話で告げられた、その一言。『デート』という単語を、彼女ははっきり口にした。
初めての出来事で、嬉しいんだかわけわかんないんだかそんな混乱した気持ちで毎日を過ごす中、ふと気が付いた、不安感。
(俺は・・・・・・2人きりで何すりゃいいんだ?)
他の人と2人きりなら大抵わかる。だが彼女相手なら?
だからこそ知り合いを招いた。彼女も自分同様よく知るテニス部の仲間。3人なら何とかなるだろう。少なくとも2人っきりよりはリラックスできると思う。彼女も―――自分も。
そして、『デート』当日。待ち合わせ場所には―――
「お前―――!!!」
「てめえは!!」
「あら・・・」
「やあ」
「ども」
なぜか3人ではなく5人が顔を付き合わせることとなった・・・・・・。
v v v v v
「てめえ、なんでこんなトコにいやがる?」
「そう言うお前こそ」
「俺は杏ちゃんにデートに誘われて!」
「俺だって今日橘妹にデートしないかって誘われたから来たんだよ!!」
「何〜〜〜!!? てめーウソ言うんじゃねえ! 杏ちゃんに無理矢理そう言ったんだろうが!!」
「はあ!!? なんで俺がそんな事しなきゃならねーんだよ!!!」
「いーやお前はそうするヤツだ! 大体―――!!!」
などと道を歩きながらも言い争いを続ける桃と神尾。その2人の間で渦中の人物・橘杏は慣れた様子で耳を押さえ、にっこりと微笑んでいた。
更にその後ろでは―――
「ねえ、なんなのこの騒ぎ」
「俺が知るわけないでしょ?」
「やんなっちゃうな。いきなり呼び出されたと思ったらこんなトコ連れて来られて」
「おかげで寝不足だし」
「大体なんで俺が神尾の面倒なんか見なきゃなんないわけ? しかも休日潰してまで」
「言えてる。桃先輩のデートなんて興味ないし、俺」
「全く」
真正面を向いたまま口だけを動かすリョーマと伊武。隣にお互いがいるのに、独り言がたまたま会話っぽくなっているようにしか見えない。
はたから見るとかなり異様な光景なのだが、この2人にとっては別に普通らしい。
とりあえずここで会話を止めて、黙り込んだまま前を行く3人についていく。
「まあまあ2人とも。落ち着いてv」
「杏ちゃん! これのどこが落ちついてられるんだよ!」
「そうだぜ橘妹。なんで俺とコイツ一緒に呼んだんだよ」
「コイツとは何だコイツとは! 大体てめーの方が杏ちゃんとは何の関係もねーだろうが!」
「あ゙!? だったらお前はどんな関係があるってんだよ!!」
「俺は・・・・・・橘さんの妹だし同じ学年だしそれに杏ちゃんはテニス部にもよく来てくれるし!」
「今一瞬悩んだだろうが! そもそも学年だったら俺だっておんなじだ!」
「屁理屈言ってんじゃねー! そもそも学校が違うだろうが!!」
「屁理屈捏ねてんのはお前だ!!!」
「何を―――!!?」
「やんのか!?」
「望むところだ!!」
さらにヒートアップする会話―――というか口喧嘩。どうでもいいがその間でも杏に対しては同じ感嘆符付きでも口調が柔らかくなるところに、2人のお互いに対してと杏に対しての気持ちの持ち様の差が窺える。
そして、さらにどうでも良さげに再び始まる後ろ2人の会話(らしきもの)。
「あーあ、熱くなっちゃってるよ」
「バカみたい」
「本当。しかもこんなところで喧嘩しちゃって、恥ずかしいったらないね。2人とももっと大人になればいいのに」
「無理じゃない?」
「なんで?」
「あの2人だし」
「・・・・・・・・・・・・(2人をじっと見つめ)。
そのとおりだね」
「でしょ?」
見上げるリョーマと見下ろす伊武、2人の目が一瞬だけ合う。了承の合図。これでこの会話は終了した。
また会話は止まり、黙り込んだまま前を行く3人についていく。
「だったらテニスで勝負だ!」
「おう!」
「だって。なんか勝負するっぽいよ」
「いーんじゃない? どーせそんな事になると思ってたし」
「試合は1セットマッチ! 負けたほうはすぐ帰る! いいな!?」
「ったりめーだ!」
「じゃあ帰るほうは出てきただけ損だね」
「いっそ桃先輩負けないかな。そしたら帰って寝られるし」
「それも言えるね。あーあ、神尾負けないかな」
「〜〜〜〜〜!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」(←無言にて睨み合い)
「ああ、けど負けると縁起悪いか。青学とは全国で当たるかもしれないし」
「別に負けるのは先輩たちでしょ? 俺達じゃないじゃん」
「そっか」
「「―――っておい!!」」
「「何?」」
「お前らそういう縁起の悪い事言うなよな!!」
「そーだぜ越前! それじゃまるで俺が負けるみたいな言い方じゃねーか!!」
「勝つの? 桃先輩」
「なんだ神尾勝つつもりなのか。がっかりだなあ」
「「だから・・・・・・・・・・・・」」
―――と、これ以上延々とこのハイ&ローテンションの会話を続けていると本当にキリがなさそうなので、ここでちょっとした変化を設ける事にしましょう。
「あ、いたいたvv」
『え・・・・・・?』
「おう、杏。来たか」
『橘(さん)!!』
笑顔で杏が手を振る先を見やり、驚く(その差は激しいが)4人。その先ではやはり手を振って応える男・杏の兄で不動峰の部長、橘桔平の姿が。
全く以って予想だにしていなかった展開に、神尾と桃が杏に詰め寄った。
「おいおい橘妹。こりゃどういう事だ?」
「そうだよ杏ちゃん。なんで橘さんがここに?」
「ああ、説明遅れちゃってごめんね。しようと思ったんだけど神尾君もモモシロ君もなかなか私の話聞いてくれなくって。
兄さんが今日は部活も休みだから久し振りに試合でもしようかって言って来たんだけど、私じゃとても兄さんの相手は務まりそうにないから。
それで神尾君やモモシロ君だったらできそうだなって思って」
どこぞの青学部長も思っていそうな事を告白する杏。どこの部長もそんな悩みを持つのだろうか・・・・・・。
「え? じゃあ―――」
「デートっていうのは―――」
「何だ杏。そんな約束してたのか? だったら別に俺に付き合わなくても―――」
そのような事を口々に言う3人を遮って、杏がちっちっちと指を左右に振った。
「デートだよ。兄さんと」
「だ、誰が・・・?」
「神尾君と、モモシロ君」
「俺、達・・・?」
「兄さんと、テニスで付き合い[デート]」
『・・・・・・・・・・・・』
その言葉に、灰と化した2人。
それを他所に、今まで後ろ向き極まりなかった2人が出張りだした。
「へえ・・・。アンタ確か全国区だよね。やっぱ強いの?」
「橘さんと試合。とりあえず神尾のおもりよりは楽しいかも」
「ああ、じゃあ試合の相手してくれるか? 2人とも」
「する」
「橘さんと・・・。本気出せそう・・・・・・」
「良かったわね、兄さん」
「ああ。助かったよ。ありがとうな、杏」
「いえいえ。じゃあ私審判やるわね」
「頼む」
テニスコートにて、盛り上がる一行を遠くから見守りながら―――
「なんだったんだよ、結局・・・・・・」
「俺に聞くなよ・・・・・・」
「お前以外誰がいんだよ・・・・・・」
「そりゃそーだな、そりゃそーだ・・・・・・」
すっかりテンションの下がった2人が、ただひたすらに朽ち果てていきながらこんな会話をしていた。
―――End
v v v v v v v v v v
いつまでも交わらないテンションの異なる会話。いやあ、書いてて面白かった。本気で延々と続くところでした。
さてデート。デートといえばアニプリ第71話『デートだ!』。いろいろと笑えましたがこの話は一応それが元になってます。なのでOPにて桃ちゃんが電話を受けてたり。まあ神尾のほうはそういう誘い一切ナシだったけど。
どうでもいいですが伊武さんとリョーマの会話。さりげにけっこー続きますね。というか意外とまともに成立しますね。CPじゃないけどこの2人の絡み、いいなあ。なんか会話ない時は本当に軽く数時間くらい沈黙してそう。お互い相手無視して自分の好きな事やってて。で、気が向いたら一言二言。周りから見たら本気で異様な、というより不思議な光景。けど本人たちはそれで満足しそうだ。アニメではここにさらに裕太が絡んでましたが・・・・・・絵的にいいですねえ。この3人v なんか見てて可愛かった・・・vvv
・・・・・・あ。ひな祭り記念話なのに肝心の杏ちゃんの活躍が少ない。やはりこんな変な(失礼)メンツの話ではダメなのか・・・・・・!!!
2003.3.3
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