「そうだ! みんなと話し合おう!!」
片道Discussion(意味不明)
関東大会決勝を目前に控えたとある日、部員に不安を覚えた大石はこんな事を考え、レギュラー1人1人と腹をくくって話し合うことを決意した。
Act1.対不二周助
「不二! 何か悩みはないか!?」
「え? なにさいきなり藪から棒に」
「藪から・・・・・・。不二、何気に古いな・・・・・・」
「慣用句は別に古くはないと思うけどね。
で? どうしたのさ?」
「ああ、あのな―――」
どちらが相談役でどちらが聞き手なのか分からない会話だが、とりあえず部室にて、優しく問う不二に大石は今思っている事の全てを話した。
話し終え―――
「―――ふーん。それで『相談』か・・・・・・」
「そうなんだ! 何かないかい!?」
いや、君の今のが『悩み相談』だったんだけど・・・・・・。
―――などというさっむい突っ込みはもちろんせず、不二は顎に手を当て首を傾げた。
息を止め、真剣な顔の大石。眉を寄せ、やはり真剣に悩む不二。
そして・・・・・・
「ある、といえばあるんだけどね・・・・・・」
「そうかあるのか!! だったら何でも聞くぞ!?」
「そう? じゃあ―――」
ふ〜っと、その見た目そのままに麗しげなため息をつき、不二は『悩み』を話し始めた・・・・・・。
「―――実は僕、最近猫を飼い始めたんだけどね・・・・・・」
「へえ。猫か。
そういえば今まで不二は動物飼ったことなかったっけ」
「うん。今までは飼いたいって思うのがいなかったからね」
「随分今回は入れ込んでるなあ・・・・・・」
「そうなんだよ。その猫がすっごくかわいくてねv」
えへv ととろける笑みを浮かべる不二。いつも笑顔ながら彼がここまで嬉しそうに笑うのは珍しい。よほどその猫を可愛がっているのだろう。
「ホントに元気で明るくて、見てるとこっちも楽しくなるんだvv」
「うんうん。いいね。そういう猫飼えて」
しかしなぜこれが『悩み』なのだろう・・・・・・?
「ありがとうv
―――で、本当に可愛くって―――」
「うん」
「可愛くって、食べちゃいたい位可愛くって―――」
「・・・・・・うん」
「だから昨日食べてみたんだけどね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「だから、『だから昨日食べてみたんだけどね』って言ったんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ふと思い出す。そういえば昨日、昼休みに英二が泣きながら自分のクラスに来なかっただろうか?
自分に泣きつきながら、言っていなかっただろうか?
―――『不二に襲われた〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』と。
さらに思い出す。先程の不二の台詞。
可愛くて、元気で明るくて、見ていてこちらも楽しくなる。
――――――英二の特徴そのままではないだろうか?
そこまでくれば最初の不二の台詞も納得がいく。―――『今までは飼いたいって思うのがいなかった』。
今まで告白してきた相手を全部振ってフリーを保っていたのはそういう理由だったらしい。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
何も言うべき台詞が思いつけず硬直する大石だったが、
はっ!!
思い出してはいけないことまで思い出す。自分は泣きついてきた英二になんと言ったのだろう?
(てっきり英二の冗談か思い違いだと思って・・・・・・・・・・・・)
『そんなことあるわけないだろ英二。あるとしてもきっと不二にも理由があったんだ。そんな風に嫌がらずに聞いてごらん。そんな風にされたら不二だって悲しむよ』
・・・・・・・・・・・・なんて感じで励まさなかったか?
(あれは本当だったのか・・・・・・・・・・・・)
顔が青褪めていっているのがよくわかる。胃がキリキリと痛むのはもっとよく。
(ああ、英二、すまない・・・・・・・・・・・・)
狼から命からがら逃げ延びてきた子羊を、自分は優しい言葉で狼の元へ蹴り返したという事か・・・!!
「あ、あの、不二・・・・・・!!」
「そしたらいきなり逃げられちゃったんだよね。なんでかなあ?」
「やっぱり・・・・・・」
「う〜ん。でもすぐ戻ってきてくれたからいいんだけどね」
「ち、ちなみにその後どうしたんだい・・・・・・?」
「その後? もちろんちゃんと食べなおしたよ。まだ途中までだったし」
「ああ・・・・・・!!」
なんて馬鹿な事をしてしまったのだろう自分は!!
(英二・・・・・・!!!)
「―――うん。大石に話したらすっきりしたよ。ありがとう」
大石の気持ちを他所に、言いたい事だけ言って一人でスッキリした不二が部室から出て行った。
結局(お互い)何がやりたかったのか意味不明なまま一人残された大石は、
ベンチに両手をつきつつ顔からだらだらと汗を流しつづけた。
Act2.対越前リョーマ
「ちーっす、大石先輩。何の用っスか?」
「やあ越前。こっちに座ってくれ」
「ども」
「で、さっそくだけど何か悩みはないかい?」
「ホンキでいきなりっスね。
悩み・・・・・・。
―――ありますよ」
「え!?」
「・・・・・・。何スかその反応」
「いや・・・。越前に悩みがあったなんて・・・・・・!!」
「帰るっス。昼まだなんで」
「ストップストップ!! 俺が悪かった!! ちゃんと聞くから!!」
「・・・・・・・・・・・・いいっスけどね」
「じゃあ―――!!」
妙に感激する大石にいつもどおり冷めた視線を送りつつ、リョーマはベンチにつき直して『悩み』を話し始めた・・・・・・。
「俺、最近猫飼い始めたんスよ」
「ああ。カルピン、だっけ。
青学[ウチ]にも来て大変だったなあ・・・・・・。
―――『最近』?」
カルピンが青学に来たのは都大会前。もう数ヶ月たった筈だ。
「カルは家[ウチ]で飼ってるんスよ。それとは別」
「・・・・・・? へえ。猫って嫉妬深くなかったか? 2匹も飼ったら大変だと思うんだけど・・・・・・」
「まあいろいろ大変だけど。不二先輩と一緒に飼ってるし」
「え・・・・・・・・・・・・」
心底嫌な予感がする。不二の飼っている『猫』と言えばアレのはず・・・・・・。
「で、昨日部活後部室で可愛がってたんスけど―――」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
またまた思い出す。昨日部活終わった後、帰り道で英二から電話が来なかっただろうか?
電話越しで、英二は酷く取り乱していなかっただろうか?
―――『お願い大石助けて〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』と。
またしても―――以下略。そんな英二に自分は、
『どうしたんだい英二。とりあえず落ち着いて、順序だてて話してごらん』
・・・・・・・・・・・・なんて感じの台詞を言わなかったか?
(てっきりまた明日提出の宿題とかが詰まってるのかと思って・・・・・・・・・・・・)
さらに顔が青褪めていく。胃はキリキリどころかギリギリ痛い。
(英二、本当にすまない・・・・・・・・・・・・!)
それだけ追い詰められていた者に対し、自分はなんて無慈悲な態度で接したんだ・・・!!
うう〜、と呻いて切れた電話。自力で頑張ろうと思い直したのかと楽観視していたが、
―――今の事情を聞くともしや・・・・・・
「あ、あのな、越前・・・・・・!!」
「そしたらいきなり助けなんか呼ぼうとしたんっスよね。どこでンな手覚えたんだか」
「やっぱり・・・・・・」
「だからもちろんすぐ切っといたからいいんスけど」
「ち、ちなみにその後どうしたんだい・・・・・・?」
「その後? もちろんお仕置きはきちっとしたっスよ。躾は飼い始めが肝心っスから」
「ああ・・・・・・!!」
なんて最悪なことをしてしまったのだろう自分は!!
(英二・・・・・・!!!)
「部長代理に話したらすっきりしました。ありがとうございます」
大石の気持ちを他所に、言いたい事だけ言って一人でスッキリした(らしい)リョーマが部室から出て行った。
結局またしてもお互い何がやりたかったのか意味不明なまま一人残された大石は、
苦しげに胃を押さえて呻きつづけていた。
Act3.対菊丸英二
「にゃ〜、大石〜。昼休みもごくろーさま!」
いつも通り―――少なくとも見た目だけはいつも通りの英二が、弁当片手に明るく部室に入って来た。
「あ・・・ああ、英二」
「どったの大石? にゃんか顔色悪いよ?」
「え? い、いや・・・! 何でもないんだ何でも!!」
「? だったらいいけどさ―――
―――ハイこれ」
「え・・・?」
慌てて首を振る大石。その前に、ヒョイっと何かが差し出された。
「アイス・・・・・・?」
「ほら、大石今大変そうじゃん。なんってったって次の相手はあの立海大だしさ。
けど、ずっと煮詰まってたらその内水なくなっちゃうよ?」
「英二・・・・・・」
如何にも普段料理をやっている英二らしい発言。
「だから、『びっくり水』って感じ? 頭冷やせってことでハイ!」
「ああ・・・・・・、サンキュ」
「へへ。『ゆ〜あ〜うぇるかむ』」
「何だいそれ」
「『どうしたしまして』ってヤツ。今日英語でやったんだよ〜ん」
「――――――ああ」
それを知らなかったわけではない。が、英二の日本語的過ぎる発音では聞いただけで『You are welcome』だったと変換出来なかっただけだ。
「にゃに笑ってんだよ〜」
「はは。何でもないよ」
「む〜!」
そんな、楽しい一時も―――
―――アイスがなくなるのと同時に、終わりを告げた。
「で? わざわざ呼び出して何の用事?」
「あ、その・・・なんというか・・・・・・・・・・・・」
ひじょーに訊きにくかった。英二の悩み―――そんなものは前の2人の話で十二分にわかっている。そしてそれを助長したのは間違いなく自分であることも。
(ああ、やっぱりこんな事は止めればよかった・・・・・・!!)
なんで悩み相談など考えてしまったのだろう。自分はカウンセラーでもなければ占い師でもない。よくよく考えずとも自分に向いているわけないじゃないか。
(いやいやでもこれはただの逃げだ・・・! 聞かなかったからといって自分の過失が無くなるわけじゃない!!)
大石の欠点であり同時に最高の魅力であることは、物事の責任を誰か、あるいは何かに擦り付けないことだ。自分の責任は自分で取る。たとえそれがどんなに辛く、苦しいものであろうと。
だからこそ、大石は尋ねた。
「今レギュラー一人一人と悩み相談をしているんだけど―――」
「ほえ? また面白いことやってるね。今度はにゃんでまた?」
「来るべき決勝に向け、こうして一人一人の悩みを解消して全力で迎えられるようにしたいって思って。
で―――」
「うっわ〜。さ〜っすが大石。俺そんな事全然考えてなかったよ」
感心する英二に覚悟を決める。
「で・・・・・・
―――英二、昨日のことについてなんだけど・・・・・・」
「あ、昨日・・・、その・・・・・・」
今度詰まったのは英二だった。泳ぐ瞳が、言おうか言うまいか悩んでいる。
だからこそ大石は先手を打って頭を下げた―――
「昨日は本当にすまな―――」
「昨日は本当にありがとう!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
ぴったりと重なった声。だが今、英二はなんと言ったのだろう?
「英、二・・・・・・?」
「んでもってゴメン! 俺いっつもいっつも大石に頼ってばっかでさ! けど大石、嫌がらずにちゃんと話してくれたよね! どうしたらいいかわかんなくってメチャクチャ言ってた俺にもちゃんと! おかげで俺も最初は驚いたりしてたけど真剣に考えてみたんだ! 大石みたいに!!」
「そ、それで・・・・・・」
「最初は不二もおチビも怖かったけどさ、でも、大石の意見を参考にして落ち着いたらさ、2人ともすっごく優しくしてくれた!!」
「・・・、で・・・・・・・・・・・・?」
聞きたくない。出来れば今すぐここから全力疾走で逃げたい。
―――と思うのだが、もちろんそんな大石の願いが叶うわけもなく・・・。
えへ〜vv っと幸せビームを撒き散らしまくり、彼の想い人はとろけるような笑みで言ってくれた。
「3人で付き合う事になったのvv 大石のおかげだよ。ありがとにゃvv」
(あ・・・あ・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁ)
頭の中で今の英二の言葉がグルグル回る。頭の外では今の景色がグルグル回る。
グルグル・・・グルグル・・・。
グルグル・・・グルグルグルグル・・・・・・・・・・・・。
ばたり。
「お、大石〜〜〜〜〜〜〜!!!????」
慌てふためく英二の前で―――
―――完全にトドメを刺された大石は、そのままゆっくりと地面に倒れていったのだった・・・。
―――悩み相談、3人目にして強制終了
・ ・ ・ ・ ・
わ〜い。記念すべきアニプリ第100話をいまさらながらにやってみたぞ!
というわけでして大石の受難話でした。やだなあこんな相談員たち(ってコレが結論かい)。
2003.9.18〜11.16
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