L i n e ~Retsu side~
『私、豪君の事、好きなの』
教室の扉越しに聞こえてきた声に、僕はピタリと止まった。
豪―――って、アイツだよなあ・・・
自分の知る限りこのクラスに『豪』は弟1人しかいない、僕はそれを思い出して次の言葉を待った。
『悪いんだけど・・・』
ホラやっぱり
昏い満足を憶える。
『何で・・・?』
そう、何で・・・?
『俺・・・好きなヤツいるから・・・』
そう言う豪の声はどこか苦しそうで―――そしてどこか嬉しそうだった。
あーあ・・・
せっかく我慢してたのに・・・
このままなら一生隠し通せる自信あったのに・・・
お前がそんな事言うから・・・・・・
デッドライン、越えちゃったよ・・・
ガラリと扉が開き、少女が飛び出してくる。
もちろんぶつかるような馬鹿な真似はしない。僕はすぐ隣の壁に身を沈め、やり過ごした。
ちらりと中を見る。
豪はまだ気付かない。あいつは黒板にもたれただため息をつくだけだった。
想いビトの事でも、考えてるんですかねえ・・・
胸中で皮肉など言いつつ腕を組みからかうように言葉を飛ばす。
「好きなヤツがいる、ねえ・・・」
「烈、兄貴・・・?」
声だけでわかるのはお互い様らしい。身を起こして僕は教室内へと足を踏み入れた。
「いたんだ、初耳」
チクリ
「それは―――」
聞きたくない
聞きたくない
聞きたくない
―――しゃべるしかない
「へえ、何? 両想い? それともまだ片想い?」
イヤダ
イヤダ
イヤダ
「・・・あ、あ。片想い・・・」
誰だろうね、その羨ましいヤツ・・・
「それはまた。お前なら即言うと思ってたんだけど?」
ホント意外。そんなに大切に想われてるのかな、その娘。
「ねえ・・・」
薄く笑って近づく。
「その娘に―――」
豪の頬に手を添え、
「こんなコトして欲しいの?」
キスをした。
驚いた? だろうね。
気味悪い? かもしれない。
けどね、
嘘―――じゃ、ないんだよ・・・
「何、して・・・」
憐れに想うほど動揺して尋ねられた。
「じゃあ・・・」
無視して先に進む。
「こんなコトは?」
ドクリ
頬をなでて、
ドクリ
髪を掻きあげ
ドクリ
豪の顔中にキスの雨を降らせた。
ドク・・・
・・・・・・・・・・・・
お前はどう思う? 僕のこんな行為。
結局僕は隠し通せなかったよ。
けど・・・・・・
―――知ってしまったのなら全てわかって・・・
嘘じゃないこのキモチを・・・
頬にかけた手を掴まれ、
驚いていたら豪に腰を引き寄せられた。
隙間なく合わさる躰の中で、
唯一合わさっていない唇を今度は豪から合わせてきた。
豪の舌、豪の熱、豪の匂い。
気持ちいい・・・・・・
そうこのまま
―――堕ちてきて・・・
2人を繋ぐ残滓を舌から垂らし、薄く目を開く豪へと尋ねた。
「次は、どうして欲しい・・・?」
「次は・・・・・・」
* * * * *
「あ・・・、ん、は・・・・・・」
「はあ・・・・・・、そしたら次は髪ほどいて、そんで首舐めて・・・」
「ん・・・・・・。次は・・・?」
「制服脱がせて、躰触らせて・・・・・・」
「くすり」
「?」
「じゃあこの手離せよ。脱がさせられないだろ?」
「・・・・・・。んじゃ、まだいーや」
「いいのか?」
「まず上から順に、ってな」
「―――お前の口から出たとは思えないセリフだな」
「せっかくのモンなんだし、楽しまなねーと」
「何をまた・・・・・・」
「いーからいーからv」
「ん・・・、あ・・・・・・」
* * * * *
「・・・・・・で?」
「何が?」
「いーのかよ、こんなことして?」
「何で?」
本気でわからずに豪に尋ねてみる。
「だからその・・・・・・」
「うん?」
「―――せなとか、泣くんじゃねーの? こんなトコ見たら」
「はあ?」
一体何をどうやったら彼女が出てくるんだろうね・・・
あ、それとももしかしてコイツせなさんが僕の彼女だって勘違いしてた?
だとしたらちょっとお笑い者。
そんな訳ないじゃない。
そんな訳・・・・・・ねえ。
「ああ、泣くだろうね・・・・・・」
「だろ・・・・・・?」
やはり予想通りなのか虚ろな目で相槌を打つ豪に、にやりと笑ってやる。
「泣いて狂喜乱舞するかも・・・というかそうしそう」
「へ・・・?」
「『烈君の面白いところ見ちゃったわvv』とか言って」
「・・・・・・」
「カメラとかも持ち出すんじゃないかな。でもって後で高く売りつけてきそう。誰かに売りつけるより俺に買い戻させた方が儲けは少ないけど後々持ち腐れはないって彼女自身よ〜くわかってるだろうし」
「・・・・・・って!!」
いきなりがばりと身を起こす豪に、きょとんと(振りのみ)する。
「せなって兄貴の彼女じゃねーのかよ!?」
ああやっぱり。
うろたえる豪にようやく納得して、ついでに種明かしもしてやる。
「・・・なワケないだろ? 俺とせなさんはただの友達」
「け、けどしょっちゅう一緒にいるし・・・」
「一緒にいて? 何やってたか知らないだろ?」
「そ、それはまあ・・・・・・」
「5割は勉強。3割は生徒会の仕事」
「勉強って、他のヤツとは?」
「国立目指してるヤツけっこ―少ないから。それにせなさん頭いいし」
「・・・兄貴もじゃん」
「だから、だろ? バカのおもりは疲れた」
「・・・悪かったな。で、残りの2割は?」
「世間話」
「へ?」
「別名無駄話。お前だって普通に友達とするだろ?」
この『世間話』の中に実は恋愛話が含まれていた事はもちろん口にせずに。
けど彼女、何でわかったんだろうねえ、僕の事。
ちゃんと隠してたつもりなんだけどなあ。
ま、今日のことなんてバレたらそれこそからかいの対象になるだろうから黙っておくけどね。
「で?」
「へ・・・?」
「何か言いたい事あるか?」
「え? それって・・・?」
「ないんなら帰るけど。体早く洗いたいし」
1つの―――賭けに出る。
一生に一度の賭けに。
もしこれで、何もなければ・・・・・・
―――この気持ちは闇へと葬られるだろう。
さあ、どうする?
今日の事は、ただ僕の『遊び』に付き合っただけ?
それとも、別の考えがあったから?
ねえ、教えてよ
オマエハボクノコト、ドウオモッテルノ?
長い、沈黙の後
真剣な、それでいて今にも泣きそうな蒼い瞳が僕を捉える。
抱き締めたい衝動に駆られる弱々しい光。だけどそう出来るのはまだ先。
「あ、あのさ・・・」
「・・・・・・」
「俺、兄貴の事・・・・・・」
「・・・・・・」
「好き、なんだ・・・・・・」
賭けに―――勝った・・・・・・
「俺も・・・お前の事好きだよ」
抱き締めて、耳元で囁く。
夢じゃない。
これは現実。
僕は―――ついに豪を手に入れた。
* * * * *
抱き締めた腕の中で、豪もまた抱き締め返してくれた。
これで―――豪は僕のもの・・・・・・
End
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はー、長々とかかってようやく終わりました、この話。かかった時間の割には内容は薄い・・・しかも尻切れトンボというまさに最悪を絵に書いたような話。かなりダメっぽいです。
見てわかるとおり、この話は豪サイドとセットです。とりあえずそちらは文字通り豪の気持ち(とか色々)を追ってますので、そちらを読むと豪がなんで突如豹変したのか(笑)わかると思います、多分。
半端にシリアスなんだかギャグなんだかワケわかりませんが、とりあえず少しでも楽しんでいただけたら―――というかせめて暇つぶしぐらいになれたら幸いです。
2002.8.3(write2001)