欲しいのは―――『保証』



ここだけが、僕たちの/俺たちの












絶対安心空間












































「よく来たね。入って」
「ども」
「じゃあこれ」
「ウス」
差し出されて、それは受け取らずにリョーマは細い首を不二に差し出した。
かちゃり
それから伸びる頑強な鎖が、擦れて小さな音を立てる。
「苦しくない?」
「大丈夫っスよ」
リョーマの首に巻かれたもの。それは―――





―――革製の、首輪だった。




















・   ・   ・   ・   ・




















いつもどおりロッキングチェアに座り、お気に入りの曲をレコードにかける不二。
ベッドにうつ伏せで寝転んで、部屋にあったテニス雑誌を読みふけるリョーマ。
不二の部屋で繰り広げられるそれら。それは、2人にとっては『日常』だった。
ただ1つ、『普通』と違うのは、
リョーマの首に絡みつく首輪。
それは鎖を介し、ベッドの脚に繋がれていた。
鎖は長く、不二の部屋ならどこへでもいける。ただし外へ出られるほど長くはない。
リョーマは、トイレに行く場合を除き、不二の家に招かれた際これを常につけている。
「ああ、越前君」
「何スか?」
「何も出してなかったけど、何か飲む?」
「ファンタ」
「わかったよ」
じゃあ持ってくるね、と言い遺し、
不二は部屋を出て行った。
残されたリョーマ。
特に気にする事もなく、再び雑誌に目を落とした。
首輪は互いの『保証』。
この鎖に縛られる限り、
リョーマは『ここ』から出て行く事はなく、
不二もまた『ここ』から出て行く事はない。
鎖そのものは頑強だが、ベッドに軽く結び付けられているだけだ。
それに首輪は簡単に外す事ができる。
だがリョーマは逃げようとはしない。
自らの意思で繋がれたのだから。
繋がれられたままでいる義務がある。
そしてリョーマをこれに繋いだ以上、
不二はそのリョーマの面倒を見る責任がある。
義務と責任。
それが2人の絶対安心材料。
そこには感情など存在しない。
だからこそ、絶対に破られはしない。
「お待たせ」
「遅いっスよ」
戻ってきた不二を見ることもなく、
リョーマは手を伸ばしてファンタの入ったグラスを受け取った。




















・   ・   ・   ・   ・




















同じ状況に中にずっとつかっていると、

時々その事実を忘れる事がある。

だからこそ

時々それを確認する必要がある。




















・   ・   ・   ・   ・




















だっ―――と、突然ベッドから身を起こしてリョーマが入り口に向かって走り出した。
立ち上がり、手を伸ばす不二。その脇をすり抜けて、ドアへと向かう。
取っ手に手をかけ、開けようとしたところで、鎖を後ろから思い切り引っ張られた。
「―――!!」
首が絞まる。たまらずのけぞって、鋭く息を吸う。そこに、
「が―――!!!」
体中を高圧の電流に襲われ、リョーマがビクリと痙攣した。
不二がチェアの脇に置いておいたスタンガンを、鎖に押し当てている。首輪そのものは革製だが、要所要所は金属になっている。首輪に繋がれた主に伝わらせるのは決して難しい事ではない。
「いけない子だなあ、越前君は」
ゆっくり近寄ってきた不二が、鎖を勢いよく持ち上げた。
その力だけで、簡単にリョーマの上半身が持ち上がる。
それ以上は逆らわず、リョーマも不二の笑みをじっと見つめた。
にやりと笑う。
「だからいいんでしょ?」
「さあ? どうだろう?」
曖昧にしか答えないまま、不二はリョーマに顔を寄せた。
そのまま、むさぼるようにキスをする。
リョーマも逆らわずに不二の首に両腕を回し、自ら進んでキスを深くしていった。
逃げたかった訳じゃない。
本気で逃げると思ったわけじゃない。
これはただのテスト。
本当に自分を求めてくれるのかのテスト。
逃げても捕まえてくれる事を、
逃げる気などない事を、
お互いに試す、ただのテスト。
こうやって、
また、『安心』を確認する。




















・   ・   ・   ・   ・




















お互い『好き』な人はいる。

2人で付き合っているわけじゃない。

もし、ほんの少しでもそんな気持ちを持っていたとしたら、

この関係は成り立たなかっただろう。




















・   ・   ・   ・   ・




















「そういえば越前君」
「今度は何スか?」
「桃とはうまくいってるの?」
その言葉に、ようやくリョーマが雑誌から視線を上げた。
かけたままの、レコードの音が流れる。
「いってますよ。それが何か?」
「いや、別に? ただ訊いてみただけだよ?」
「そういう先輩こそどうなんスか? 部長とは」
「う〜ん。さして問題はないんじゃないかな」
「しっかりやってくださいね。ケンカとかされたら次の日部活めちゃめちゃ厳しくなるんスから」
「あはは。公私混同は良くないね」
「そうさせてんのはアンタ」
「肝に銘じておくよ。
けど・・・・・・」
不二の声色が変わった。
丁度レコードが終わりを迎える。
静かな空間に、いつもより低い落ち着いた声が響いた。
「―――こんな事してます・・・って言ったら、どうなるだろうね?」
がばりと身を起こすリョーマ。
「言うつもり?」
きつく睨みつける。
唯一感情の入る瞬間。
言われたくないのか、それとも失くしたくないのか。
不二は笑顔に戻って、答えた。
「まさか。手放すには惜しいよ、『ここ』は」
「なら紛らわしい事言わないでよ」
ふ〜っと息を吐いて、リョーマがベッドに体を投げ出す。
チェアから立ち上がり、不二もベッドに腰掛けた。
「手放したくはないね。こんなに『かわいい』コは」
リョーマの頭を撫で、不二が微笑む。
暫く気持ち良さそうに頭を撫でられていたリョーマが、
ベッドの上で体をずらし、不二の腰に抱きついた。
丸まって、膝に頭を乗せ、
「俺も手放したくないっスね。こんな『やさしい』先輩」
「言ってくれるね」
笑って、リョーマの服のボタンを外していく。
リョーマは既に不二のズボンのファスナーを下ろし、
膝に頭を乗せたまま、楽しそうにそこから取り出したものを舐めていた。




















・   ・   ・   ・   ・




















人が2人以上在れば、そこには上下関係が存在する。

人はそこに納まり、安心する。

最初は無意識だったその安らぎ。

やがて、それを得るためしがみついてでもそこにいようとする。




















・   ・   ・   ・   ・




















「ん・・・あ・・・・・・」
リョーマを膝に乗せ、不二は胸の飾りを口に含んだ。
そこから伝わる疼きを逃がすように、リョーマが不二の頭を抱きこみ、躰を丸める。
「ふ・・・・・・」
不二の腿を跨いで、大きく開かれたリョーマの脚。その間にあるものが、不二のものと触れ合ってより快感を2人に伝える。
「気持ち良い? 越前君」
「こんな時に・・・訊かないで下さい・・・・・・」
上がり始めた息の合間に答えるリョーマ。
「ふふ。ごめんね」
「んっ・・・!!」
謝り、不二が2人の間にあったものをまとめて握り込んだ。
そのまま、軽く数回扱く。
そして、2人の精液で適度に濡れた手を、リョーマの後ろに回した。
「けど、つい訊いてみたくなるんだよね」
「ヤな趣味っスね」
「趣味、かな?」
「他に・・・なにがあるんスか?」
早くも溶けかけている蕾の表面をなぞる指。そのまどろっこしさにリョーマが腰を浮かせ始めた。
「う〜ん・・・・・・。立場の確認、かな?」
「そんなの・・・、どうだっていいから・・・・・・早く挿れてよ・・・」
「だけどね、僕にとっては大事なんだ」
そう言って、指はまだ入り口を弄ぶだけ。
上の空なその態度に、
「も〜・・・・・・!」
口を尖らせ、今度はリョーマが2人の間にあったものを力強く握り込んだ。
「んあ・・・!!」
「く・・・!!」
既に大きくなっていたそれら。急な刺激に2人同時に達した。
抱き合って、荒い息を落ち着ける。
「ほら、先輩だって気持ちよかったでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」
にやりと笑うリョーマを黙って見つめ、
「ん?」
不二はリョーマをベッドに転がした。
ぽてりと転がるリョーマをうつ伏せにし、腰を持ち上げ先程慣らした入り口に、
小さな機械を押し込んだ。
「何・・・?」
振り向こうと身を起こすリョーマを見下ろし、
持っていたスイッチを
MAXにあわせる。
「うああああああ!!!!!」
いきなり中で激しく振動するオモチャに、座りかけていたリョーマがベッドに沈み込んだ。左右に転がり、弓ぞりに躰をしならせ、再びあっさり達する。
それを確認して、不二はスイッチを止めた。
体中から汗を噴出し、肩で息をするリョーマの上に屈み込み、ぼんやりと見上げてくる瞼に軽くキスをして、
冷たく笑った。
「僕、人に主導権渡すの嫌なんだよね」
「口で言ったら・・・・・・十分でしょ・・・・・・」
先程以上の荒い息で、リョーマが返してくる。
「まあね。けどハッキリさせるなら体に教え込んだ方が早い」
「はいはい。わかりました。先輩がエライです」
「・・・・・・本当にわかってるの?」
疑わしげに訊く。だが浮かべる笑みはもう冷笑ではない。
楽しそうに問う不二に、リョーマも楽しそうに笑みを浮かべた。
「『さあ? どうだろう?』」
「それは僕の言った事だけど?」
「だから言ったんだけど?」
「じゃあもっと教えなきゃ」
「じゃあもっと教えて。今度は先輩直々に」
「生意気だね」
「だからいいんでしょ?」
先程と同じ質問。
不二はくすりと笑って言った。
先程と同じ答えを。
「さあ? どうだろう?」
「アンタのほうがよっぽど―――」
「ん? 何かな? まだ何かやって欲しい?」
「はいはい。取り消します」
「素直で結構」
「俺はヤダ」
そんなやり取りをして、
2人はベッドに沈み込んだ。




















・   ・   ・   ・   ・




















人を愛する事は難しい。

愛し続ける事はもっと難しい。

常に不安が付きまとい、

それを払うために努力をしなければならない。

だからこの空間を望んだ。

努力をしなくていい空間。

愛さなくていい空間。

もしかしたら、

誰もが求める『理想』は、
















































ここにあるのかもしれない。




























End














・   ・   ・   ・   ・

前からやってみたかった話。とはいってもやりたかったのはこの設定と「僕、人に主導権渡すの嫌なんだよね」だけ。これでよく1つの話にまとまったなあ、と思ってみたり(いや、まとまってなさげなそうな気もするけれど!)。
今回塚不二と桃リョにしましたが、実のところサブタイトル(というか一番上)どおりホニャララ前提不二リョですので誰でもよさげです。ただし実のところ誰にしようと不二はともかくリョーマは自分勝手に動いてるような・・・。ちなみに塚不二だと不二が白い事が私の中でのパターンですので(ただし塚といる時のみ)こっちはあんま動かせないかなあ。
はあ・・・、しかしやはり眠い中書いていると訳がわからんなあ・・・・・・。全体的に支離滅裂で(特にあとがき)すみません・・・。

2003.3.29