すれ違い 〜prose〜
「ねえ越前、君は何でこんな事をやらせているの?」
尋ねる。越前の服を脱がせながら。
試すような言葉。まるで止めたがっているかのようだ。
―――止めたいわけ、ないのに。
けど、
こう訊くと、君は決まってこう答えてくれるから。
『いいでしょ? 俺の勝手で』と。
待っている。この言葉を。
待っている。君が自らこの関係を肯定してくれる事を。
この関係を、欲しているのは自分だけではないと、
そう、錯覚するため。
「いいでしょ? 俺の勝手で」
答える。服を脱がせる不二先輩をひたすら目で追いながら。
まるで止めたがっているかのような言葉。
―――止めさせるわけ、ないでしょ?
何度も為された質問。その度に俺はこう答えた。
そしたらアンタは続けてくれるから。
俺の勝手だと、強がる自分を嘲いながら。
わかっている。アンタの気持ちなんて。
わかってる。アンタにとってこの関係なんてただの遊びだって事。
この関係を、欲しているのは自分だけだって事。
わかっていても、止める事は出来なくて。
「ふ、ん・・・あ・・・・・・」
立ったままの越前の胸を舐める。一番好きな行為。
快感を逃がすように、越前が頭を抱いてくる。
崩れそうになる越前を支える事を名目に、自分も越前を抱き返す。
本当に抱き合っているかのようで。
髪に顔を埋める越前の唇が、偶然頭に触れる。
キス、されたみたいで。
一瞬だけの幸せ。
泣きたいほどのそれを胸に、今日もまた同じ行為を繰り返す。
「ん・・・・・・」
立ったまま、先輩に胸を舐められる。一番好きな行為。
快感を閉じ込めるように、先輩の頭を抱き締めて。
倒れないように、先輩も抱き返してくれて。
本当に抱き合ってるみたいだ。
先輩の髪に顔を埋める。サラサラの髪。先輩の匂いに包まれて。
偶然を装って、先輩の頭にキスをする。
一瞬だけの幸せ。
泣きたい位のそれを胸に、今日もまた同じ行為を繰り返す。
隣で眠る越前を見下ろす。
嬉しそうなその寝顔。一体誰を想っているのか。
「ん〜・・・・・・」
寝返りを打ち、こちらを向く。
その手が、
誰かを求めるように動くその手が、
―――僕の手を掴んだ。
洩れる、歯軋り。
彼が求めているのは自分ではない。
彼が求めるのは―――アイツの存在。
ここにいるのは自分だというのに、
それでも、アイツを求めるその態度が許せなくて。
眠る越前の左手を抱え上げ、
薬指を口に含み、たっぷり愛撫した後、
がり・・・と、思い切り噛む。
根元につく歯型。既に何度繰り返されたか、あざとして完全に刻み込まれたそれは、まるで2人の永遠を誓う証のようで。
眠りの中でも痛みを感じたかピクリと動く手を解放する。
布団の中に引かれた手。逆を向く越前。
これが、本来のあるべき姿。
安心して、
絶望して、
僕は独り、ベッドから離れた。
隣で身を起こした不二先輩に見下ろされる。
先輩に見られている。そう思うだけで自然と笑みが浮かぶ。
「ん〜・・・・・・」
寝返りという事にして、先輩のほうを向き。
手を伸ばす。
先輩を求めて伸ばした手が、
―――先輩の手を、捕らえる。
上から洩れる、歯軋りの音。
先輩にこんな事していいのは俺なんかじゃなくて。
先輩にこんな事していいのは―――アノ人だけ。
たとえ少し前まで抱き合っていたのは自分だとしても、
先輩はこんな自分を許してくれるわけはなくて。
抱え上げられた左手。
嫌がらせの愛撫。薬指から伝わる感覚に、上がりそうな嬌声を無理矢理殺す。
がり・・・と思い切りかまれ、さすがに反応が表に出る。
解放される手。その薬指には、先輩の唾液と、外す事の出来ないリング。
布団の中に引き込んで、先輩とは逆を向いて。
一人隠れて、その手を舐める。
背中から消える先輩の温もり。
いなくなったことを確認して、
俺は独り、また熱を持ってきたところに手を伸ばした。
何をやっているのだろう、僕は。
何やってんだろ、って思う。
越前は、手塚の事が好きなのに。
不二先輩は、手塚部長と付き合ってんのに。
僕の事なんて、ただのウサ晴らしとしてしか見ていないだろうに。
俺のことなんて、ただの遊びなのに。
手塚にばかり向けられる君の瞳が悔しくて、だから2人っきりにしないようにずっと手塚のそばにいた。
いつも部長と一緒の先輩を、俺はただ遠くから見てるだけ。
2人っきりになる相手が僕じゃ、さぞかし不満でしょ?
2人っきりになれるこの時。たとえ先輩はどう思っていようと、俺にとっては何よりも幸せなこの瞬間。
ねえ越前。
ねえ不二先輩。
こんな事、考えてる僕を知ったら君はどう思うかな?
この気持ち、全部ぶちまけたらアンタはどうする?
きっと2度と僕に抱かれようなんて思わないだろうね。
やっぱ軽蔑? でもって嘲笑?
でもね、
それでもさ、
この気持ちは嘘じゃないよ。
この気持ちは本当で。
僕は君の事が
俺はアンタの事が
大好きです
End
・ ・ ・ ・ ・
うっわ〜。やっつけ仕事万歳。
以上。不二→手塚←リョーマ・・・・・・と相手が思い込んでる正真正銘不二リョ話でした。なんで2人がこんな関係になってるかなどの細かい設定は一切考えず、全ては謎に包まれた話です(ものは言い様)。
ではやっつけ仕事に相応しくやっつけトークをこれにて終了させて頂きます。
2003.8.3
あ、ちなみにこの色、ラストが青紫(っぽい)のはせめて想いくらいは1つにしてあげよう、といった意味です。
あ〜。しっかしホンット裏ってただのゴミ置き場と化してるごふがふげふ・・・・・・。