不二周助
14歳男子。彼はこの日、女装させられた挙句痴漢に遭遇するというかなり屈辱的な目に遭っていた。






欲望







Side被害者



 事の発端は姉との勝負に負けた事。
 『じゃあ周助、その格好で適当に街うろついてきてね』
 さすが化粧品会社に入社しただけあって姉の趣味は化粧をすることだ。それも他人の。
 今回のテーマは『(女性として)不自然さのない[ナチュラル]メイク』らしい。
 ―――というわけで女性に変身させられた不二は言われるままに『適当に街をうろつく』ことになった。





 事件発生はその帰り道。混み合う電車内で発生した。
 どれだけ似合おうが(第三者視点で絶対女性にしか見えない。それもかなり美人な部類の。とりあえず姉の化粧の手腕だということにしておくが)―――恥ずかしいためなるべく見られないようドアの端に、ポールを両手に掴む形で立っていた。それが災いした。
 (ゔ・・・・・・)
 お尻に感じるこの感触。慣れたこれは絶対荷物が当たったとか偶然触れたとかそういう類ではない。明らかに意思を持って動かされる手。とりあえず今はまだ様子見のつもりだろう。触れるか触れないかのギリギリ程度。はたくようなら諦める。捕まえられたら否定する。そして―――我慢するならそのまま続ける。
 男でありながらヘタな女性よりその手の経験が豊富なのは果たして嘆くべきかそれとも喜ぶべきか。とりあえず今回触ってきたのは割とよくやるヤツらしい。そう判断出来た事については喜んでいいか。『女性』たる今の自分に手を出してきた以上そいつの許容範囲は女性だろう。もう少し触るようになれば自分が男だと気付く筈だ。日々女性的だと言われてはいるがそれはあくまで顔だけの話。躰について言われる場合言う側はやはり運動選手[アスリート]だ。いくら持久型とはいえいつもこれだけ運動をしていれば嫌でも筋肉はつく。『女性的な丸み』とは無縁だ。
 (じゃあもうちょっと、待ったほうがいいかな・・・・・・)
 出来ればといわず絶っ対! 騒ぎは起こしたくない。駅員にいろいろ問われ、最悪警察沙汰などになれば間違いなく男だとバレる。罰ゲーム云々といった事情を話せば表面上納得はしてもらえるかもしれないが、なんにしろヘンな目で見られる事間違いなし。
 と―――
 (あれ?)
 嫌悪感が、なくなった。
 (もう、気付いたのかな?)
 それとも降りたのだろうか? 丁度開き、そしてしまった逆側のドアを風の流れだけで悟り、肩を竦める。
 どちらにしよ、被害がなくなったのならそれ以上気にすることはない。
 ―――という安心感もつかの間。
 (うわ・・・・・・!!)
 再びの嫌悪感。それも先ほどまでの曖昧なものではない。イイワケの一切利かない触り方だ。
 (や、だ・・・・・・)
 さほど長くもないタイトスカートが捲り上げられる。これでそいつの手と自分の肌の間にあるのは布1枚。
 いや―――
 (う・・・ん・・・・・・)
 上がりそうになった声を、何とか喉の奥に収める。その男(決定)はやはり経験豊富らしい。それも『痴漢の』ではない。『誰かを抱いた経験』だ。
 内腿に伸ばされた手。まるで産毛(そんなところに生えてはいないが)を逆立てるように、しかしその中心には決して触れない触り方。そのくすぐったさともどかしさに腿が擦り寄ると、今度はその周りを撫で出した。
 こうやって、相手を焦らす。こうやって、相手を喜ばせる。痴漢としては素人だ。相手にヘタな快感を与えれば、その変化は周りにも気付かれる。今はウェーブのかかった長い髪(もちろん言うまでもなくカツラ)と立ち位置のおかげでかろうじてバレずにいるが、もし今顔を誰かに見られたとしたら一発で何が起こっているかバレるだろう。
 (でも・・・本気でそろそろヤバい・・・・・・)
 いつもやたらとテクのある人たちに鍛えられているため人より耐性があると自認している―――というか実のところそんな人たちに毎日相手してもらっているためむしろ普通のものでは満足出来ないのだが―――が、そんな自分からしてもこの男は上手い。それこそ『普通の人』ならとっくに声を上げて―――喘いでいるだろう。
 (仕方・・・ないなあ・・・・・・)
 喘ぐ代わりにため息を漏らし、不二は自分の前にあった男の手をそっと握った。
 内腿から、さらに上へとずらさせる。あまりやりたくない手だが、まさか後ろを向いて「僕男ですから触らないで下さいv」とは言いにくい。
 付け根まで到達した手。たとえ下着1枚あろうと同じ男なら、そしてそれだけ慣れているのなら一発で気付くだろう。男女の躰の作りの最たる違いには。
 いきなりそんな場所へ積極的に導かれて驚いたか、男の手の動きが止まった。それとも『予想外』のものに触れたからか。
 だが、これで終わりにする気はなかった。
 (ホラ、ちゃんと確認して・・・・・・)
 今まで散々やられた仕返しを込めて、股ごと思い切り掴ませる。先程からの事で早くも感じ始めていた自分にも相当キツいのだが、これに懲りて暫くは自制するようになるだろう。
 まるで信じられないと言いたげに男の手が震えた。確認するように下着の上から上へさすり、下へさすり、ふんわりと包み込み。
 (もぉ・・・、そこまでしなくたって・・・・・・!!)
 普段まず誰にも触れさせないような所を弄くり続ける男の手。泣きたいほどの嫌悪感と意識が飛びそうなほどの快感だが、これで終わりだと思うとヤケクソ気味に笑みが零れる。
 これでもう、終わり・・・・・・・・・・・・だと思っていたのに。
 (え・・・・・・?)
 今度拘束されたのは自分の手だった。
 (ウソ・・・・・・)
 今自分の足の間に入れられている手は右手。合わせて自分も右手で導い[リードし]た。なのにその自分の手、自分の腕は右側から掴まれている。こいつには絶対に無理だ。
 いや、そもそもこの男の左手は自分が逃げないよう最初から右手より下で両足を押さえている。この男の仕業ではない。
 その上―――
 (そんな―――!!)
 今度は左側から。こちらも拘束される左腕。しかもそれを待ってましたとばかりに両側から一斉にブラウス内へと手を入れられる。
 3人による共同痴漢行為。自分が知る限りは前代未聞。その上手の角度から3人の位置を考えると完全に囲まれた状態だ。唯一空いている前には壁しかない。
 (や、あ・・・・・・!!)
 あっさり解かれる、ブラジャー。パッド代わりに付けられた程度のものだが、それでも身を護っていた上の砦を崩された。
 見た目
20歳前後の女性にはそうそうない平たい胸。そこに手を滑らせ、引くどころか突起を中心に悪戯してくる。それらの動作もまたやたらとテクがある
 下にあった手もさらに大胆に動き出す。下の砦、ショーツも脚へ下ろされ、露になったものを直接嬲られる。
 (う、ん・・・・・・ふあ・・・あん・・・・・・!!)
 6本の腕が織り成す気持ちよさ。上に着る衣服に隠れて詳しい様子は見えない。だが逆に衣服を持ち上げ蠢く手たちは想像以上の快感と、想像以上の妄想を植えつける。
 (男だって、わかってんのに・・・・・・なんで、こんな―――あ!!)
 耐え切れずに、ついに達してしまった。どうしようもない恐怖が襲う。『彼ら』以外の手の中で自分は快感に酔いしれた。
 電車の中だというのを忘れて泣きそうになる。両手が自由だったら顔を埋めて嗚咽を上げていただろう。
 だが―――全ての事象は不二にまだ泣くことを許さなかった。
 (ふあっ・・・・・・!!)
 再開される、全ての行為。下では自分の出した欲望を手で受け止めたのか、ぬめる手でより激しく擦られ、その上後ろにまでその手を当てられ。
 上では上半身全てがまさぐられ、時折からかうかのように爪を立てられたりつねられたり。
 そして拘束されていた手は―――
 さっき自分が1人目の男を導いたのと同じ場所へと持っていかされた。
 ズボンから取り出していた欲望たち。緩く立ち上がるそれらを両手に握らされて。
 ずっと行われた行為の賜物か、弄られ始めたばかりの後ろはもうとろとろに溶け、既に指ではないものを宛がわれている。
 (嫌だ、嫌だ、嫌だ・・・・・・)
 他人を受け入れるのも、他人を悦ばせるのも。
 (ヤだよ! 跡部! サエ! 千石くん!!)
 「グ・・・!」
 「ゔ・・・・・・!」
 「ぎ・・・・・・!?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 周りから洩れる、3つの呻き声。聞き覚えのあるそれは今一番聞きたくて、でも聞けるわけの無い声。
 「おいたはいけねえなあ、不二・・・。てめぇはそんなにお仕置きして欲しいのか・・・? アーン・・・?」
 右から聞こえる、ドスが入った割に震えていまいち迫力の無い声。ついでに右腕を捕まれ肩に頭を乗せられる。灰白色[アッシュ・グレイ]の髪が視界の端に映った。
 「周ちゃん、ごめんね、怖がらせちゃって・・・・・・。先に言えばよかったんだけど、ちょっと事情があって・・・・・・」
 左から聞こえる、やさしく謝ってはいるがこちらも震えていて説得力に欠ける声。おまけに左肩に手を乗せられその上に頭を乗せられる。硬いのか軟らかいのか見た目では判別しにくい銀髪が優しく頬を撫でていった。
 「てゆーか不二くん・・・。俺ら殺す気だった・・・・・・?」
 そして後ろからの、震える声色に最もよく合う台詞。頭を乗せるスペースはもうないが、抱きつかれ思い切り体重を預けられる。
 「跡部! サエ! 千石くん!!」
 「バカ騒ぐな・・・!!」
 「痛っ・・・!」
 即座に飛ばされるツッコミ。ついでに頭を軽くはたかれる。いつもならここで入る佐伯の援護も今日は一切来ない。確かにここで騒ぐのはひたすらにマズいからだろう。
 ようやっと思考がまともに働き出す。つまり今までいろいろやってきていたのはこの3人だったらしい。
 (どうりで妙に上手かったり弱いポイントばっかり突くって思ったら・・・・・・)
 全てがわかり、不二は3人に抱き締められるままにがっくりと力を抜いた。
 不自然さのない姿勢でそれを受け止め、3人は不二を支えるまま衣服の乱れを直し、
 「すみません。彼女具合が悪いみたいなんで降ろしたいんですけど」
 「ちょ〜っとごめんね〜。そこどいてもらえないかな〜?」
 「おらさっさと道開けろよ」
 これまた丁度よく着いた駅―――それも今度はこちら側のドアが開いた―――に不二ごと降ろす。
 適当なベンチに座らせ、それこそ痴漢というよりカツアゲのノリで周りを取り囲み―――
 問いた。
 「で? これからどうしたい?」








・     ・     ・     ・     ・









 誰かの家に帰るのももどかしく、適当にあったホテルのスイートルーム(ラブホは跡部が了承しなかった)に駆け込んだ4人。入り、鍵を閉めるとさっそく行動を起こした。
 右に跡部、左に佐伯、そして後ろに千石を従え真ん中に立つ不二。それは電車の中での立ち位置と同じ。『続き』をやるのならこれが正しい。
 「今度は、声、我慢しなくていいからね」
 「ふ、あ・・・・・・」
 囁きと同時に佐伯に耳を舐められ、不二は感じるままごく自然に声を出した。
 それを見て―――
 「随分今日は素直じゃねーの。さっきのがよっぽど気持ちよかったか?」
 「む・・・、んう・・・・・・」
 にやりと笑い、跡部が今日最初のキスを送る。
 後ろから抱き込んだ千石も髪の生え際を犬のようにぺろぺろと舐める。
 「ん・・・もう、そんな遊んでないで・・・・・・!!」
 いつもならくすぐったい刺激。だが今全ての刺激は快感に繋がっている。
 両手で自分の躰を抱き、もぞもぞと内腿を摺り寄せる不二。可愛らしい『おねだり』のポーズ。単に身長の問題だけではない上目遣いに、
 「不二くんのご希望なら♪」
 にっこりと笑って千石が大胆にも前からスカートに手を伸ばしてきた。適当に捲り上げて、ショーツを下ろす。不二も躰を動かして手伝い、完全に脚から抜き去った。
 上では跡部と佐伯がまたもブラジャーを外している。
 と―――
 「おい千石、てめぇ自分だけイイ思いしようってんじゃあねえだろーなあ。ああ?」
 「俺たちも、楽しむ権利はあると思うけど?」
 「ええ? それって入れんの変われってコト? 俺だってまだヤってないんだけど」
 「じゃねーよ」
 呟き、跡部と佐伯、2人から同時に伸ばされた手が先ほどまで散々千石が触っていた部分へと達した。
 「え? ちょっと・・・!!」
 不二が停止させようとするのも虚しく。
 「ああ―――!!」
 2人掛りでの刺激。脚を挟み込むように前と後ろ両方を嬲られ、不二はびくりと身を仰け反らせた。
 同じようで違うリズムで動く手。微妙な、でも不快じゃなくてむしろ興奮を煽る不協和音。
 「んじゃ、そっちはよろしくね」
 あぶれた千石が今度はブラウスの中に手を入れる。
 突起に触れ、突付き、捏ね、引っ張り、抓り。
 「ん、あ・・・! はあ・・・・・・」
 下も上も、興奮を高めていくのにぎりぎりの所で周りに逃がす。悪質な、子どもの悪戯。それこそ先ほどまでの続き―――『遊び』のようで。
 さらに顔中に、どころか首元までされる戯れのキスがそれを助長している。
 「だから、早くしてよ・・・・・・!!」
 喘ぎの間に洩らしながら、むしろ自ら不二が動き出した。垂らしていた手を両側にいた跡部と佐伯の元へ伸ばし、ズボンのファスナーを下ろし中のものを取り出す。
 「へえ、俺達にもしてくれるんだ」
 「てっきり千石のヤローだけが欲しいのかと思ったぜ」
 「え・・・?
  ―――あ・・・・・・」
 両側2人の言葉に、電車の中での事を思い出す。自分が唯一積極的に動いた場面。『痴漢』の手を自分の元へと導いたアレ。確かに今考えれば立ち位置の都合上最初からずっと触れていたのは千石ということになる。
 「あ、あれはその・・・・・・男だってわかったら引くかな〜って思って・・・・・・」
 今行われている行為とはまた別の恥ずかしさに襲われもそもそと呟く不二。それに対し、3人が爽やかな? 笑顔で世にも恐ろしい発言を返した。
 「なんだ。あ〜周ちゃんってば千石がいいのか〜って思ってムカついちゃったじゃん」
 「てゆーか俺だってわかってなかったみたいだしさ、不二くんってばそ〜んなに俺達じゃ物足りないのかな〜とか思っちゃったよ」
 「え? それってつまり―――」
 「てめぇがそこまでしなけりゃただの痴漢で終わらせようって思ったけどな」
 「それこそ『おいたが過ぎるお仕置き』、かな?」
 「うそでしょ・・・・・・?」
 「ウソじゃないって。だから最初触ってたの俺だけだったっしょ? あ、ちなみにこれはただ立ち位置が丁度よかったからだけなんだけどね」
 3人の言葉は全く以ってその通りだった。『痴漢』が1人から3人に増えたのは紛れもなく今議論になっている事を自分がしてから。
 「で、それだけのために僕はこんなにも恥ずかしい事を電車の中でされてたワケ・・・・・・?」
 呆然と呟く不二が見ているのは部屋一面の窓だった。日中は絶景を見せるそれも、日の沈んだ今では簡易鏡となっていた。
 女性の格好のまま、3人の男に囲まれる自分。服を着たままありとあらゆるポイントに手を伸ばされ、しかし着たままだからこそ直接その様は見えない。見えるのは手の動きに合わせて絶えず皺の位置を変える生地、そして恍惚とした表情で無理矢理息を整えようとする自分の顔。
 「そうそう。恥ずかしい且つ大胆な事をね」
 「わっ―――!!」
 佐伯の笑みを篭めた密やかな囁きと共に、止まっていた手が強制的に動かされる。後ろを弄っていた手を離した2人が、不二の手を包み込み再び己自身を握らせた。
 後ろは後ろでなくなった手の温もり代わりと言わんばかりに、千石がこちらは自分で取り出した欲望を差し入れようとしている。
 「今度は、大丈夫だよね?」
 「『イヤ』・・・・・・じゃあねえだろ?」
 「受け入れるのも、悦ばせるのも」
 (あ・・・・・・)
 まるで、心を読んでいたかのように正確にあの時の気持ちを当ててくる彼らに、
 敵わないなあ、と思う。
 思って―――嬉しくなる。
 今ここにいるのはそんな彼ら。
 知らない『他人』じゃない。
 今自分は、彼らを受け入れ、彼らを悦ばせる。
 そこに・・・・・・『イヤ』などという思いが入る筈がない。
 それを示すように、不二は電車内とは逆の行為をした。千石が入りやすいよう躰から力を抜き、両手を緩やかに動かす。
 動作から、何よりもそれをする不二の嬉しそうな顔から了承と判断し、3人は期待に応えるべく最高の幸福を送った。







 

・     ・     ・     ・     ・









 「で、今更ながらに訊くけどさ、不二くんのあのカッコってなんだったワケ?」
 一通り終え、ロクに動けなくなった不二を風呂場に連れ込み更にヤり、ようやく服(バスローブ)まで着せ落ち着いたところで千石が尋ねた。自分と同じくベッドに腰掛ける跡部、備え付けの冷蔵庫から適当な飲み物を出してきた佐伯もまた同感であり、視線が自然と不二の元へ集中する。
 さすがに3人まとめて相手するのは慣れていないだけあって、不二でも疲れたらしい。ぼんやりするだけの彼に、返事を期待せず互いに肩を竦めあう。
 その中で―――
 「あれはその・・・・・・・・・・・・」
 不二がようやく話し出す。身体的疲労とはまた別の精神的疲労を篭めて。
 「・・・・・・・・・・・・姉さんに、罰ゲームにやらされてて・・・・・・」
 「ああ、由美子さんか・・・・・・」
 「うっわ〜。由美子さんもすっごい事やらせたね〜・・・・・・」
 「つーか・・・・・・そもそも何やった罰ゲームだよ・・・・・・?」
 ラストの跡部の台詞はともかく、もの凄く納得のしやすい理由に3人は重く頷いた。彼の姉なら自分達もよく知っている――――――決して逆らえない人間だ、という事は。
 「でも、それなら僕も訊きたいんだけど!
  ―――なんで電車であんな事してきたワケ!?」
 それすらも辛いだろうに、手の力で上半身を起こしきつく問う不二。
 「大体いつから僕だって気付いてたのさ。まさか電車の中で偶然会ったワケじゃあないだろ?」
 「いつから? ンなの見た瞬間からに決まってんだろ?」
 「え・・・・・・?」
 「実は周ちゃんの事たまたま街で見かけてね。まあ最初に気付いたのは千石だったんだけど。さすが『趣味=可愛い子ウォッチング』だけある」
 「サエく〜ん・・・。さりげに誉めてないっしょ・・・・・・。
  まあそんなわけで跡部くんとサエくんに話振ったらああやっぱ不二くんだなって事で落ち着いて。んでだったら何してんのかな〜って話に自然となったからついて行ったんだけど」
 「さっさと気付けよバカが」
 「気付け・・・って、そんなの無理―――」
 言いかけて、言葉が止まる。そういえば、自分が歩いている時何かやたらと周りがこちらを見てざわめいてなかっただろうか。姉もかなりモテる―――というか道端を歩いているだけで振り向かれる容姿等の持ち主のためそのノリでかと思っていたのだが・・・・・・。
 「ああ・・・。姉さん女性にもよく好かれるからてっきりその類かと思った」
 「周ちゃん・・・・・・。一応一般的な常識を言っておくとね、女性は男性に、男性は女性に騒がれるものだよ? まあアイドルなんかは同性でももちろん騒ぐけどね」
 そこはかとなく間違った方面から離脱しきらない不二に注釈を加える佐伯。そして―――
 「男だろうが女だろうがどっちでもいいけどな、てめぇはもう少し周りに注意配れ」
 「何・・・の事・・・?」
 「電車ン中。どれだけのヤツがてめぇにそーいう目、向けてたと思ってんだ?」
 「そーいう・・・・・・って、まさか・・・・・・」
 電車の中での『慣れた』痴漢行為。男のときですらしょっちゅう遭うそれ。女だったらどうなるのだろう?
 「まあ、出来る限りは目、光らせてたんだけどね。ゴメンね。いっこ見逃した
 見逃した、『いっこ』。
 一度離れた不快感。
 途中から変わった手口。
 「じゃあ最初のって―――!!」
 「そ。最初のはホンモノの痴漢」
 「自信持って言うことじゃないだろ?」
 「いて」
 佐伯がため息をついて、注ぎ終わったジュースのビンを軽く千石の頭にぶつけた。互いに軽く言ってはいるが、この『ホンモノの痴漢』は3人の制裁に遭い、乗車率
100%以上の寿司詰め車内にてどうやったか駅へ落とされた時には全治3ヶ月程度の怪我を負わされた。
 佐伯以上のため息で続ける跡部。こちらはそれを直接不二へぶつける。
 「んで個別撃破じゃラチが明かねえし遠くのヤツもお前の姿見てるだけでにやけてやがる。だからお前のそばにいるのは誰か、教えてやったんだよ」
 「それで、ねえ・・・・・・」
 呆れ返る口調で、不二がくつくつと笑った。笑わずにいられるか? なんと子どもじみた独占欲だ。まさか自分と同じだったとは。
 電車から連れ出される時、実は彼らにはバレないようにこっそりと電車の中を見ていた。自分の事には気を配らなくて彼らのことには充分注意している。自分を『襲って』いたのが彼らだとわかった時点でこちらを見ていた視線の何割かの意味を察していた。自分にではない。彼らに向けられていた。もちろん痴漢を見る時の気味悪げな視線ではなく。
 いつも、4人でいる時にも遠慮なく向けられるそれ。男同士な自分達では遠慮する筋合いもないかもしれないが、ムカつく事この上ない。
 だがあの時自分達に向けられていた視線は嫉妬と羨望。こんな3人に愛される存在である自分を妬まれ、羨ましがられ。
 (そう考えるとよかったかもね、今回の騒動も)
 何よりも、彼らに愛されているという事実を確認することが出来た。それだけで万々歳だ。
 「何へらへら笑ってやがんだよてめぇは。そーやって気ぃ抜きまくってるからヘンなのに狙われんだろ?」
 「痛・・・!」
 「跡部! だから周ちゃん殴んなよな!!」
 「だからンなに騒ぐほどやってねえだろーが。てめぇはてめぇで早くその親バカ直せ」
 「いや・・・。跡部くんにその台詞言う資格はないんじゃないかな・・・?」
 「ああ? 何か言ったか千石」
 「いっや〜。みんな仲睦まじくていいね〜って話」
  「「俺達の? どこが?」」
 「うん。その辺りがね」
 等々言う、会うのか会わないのかよくわからない男3人。彼らが自分の恋人なんだと、誰に言うわけでもないけれど。
 改めて不二は己の胸にその事を強く刻み込んだ。



―――というかむしろ不二は彼らの何を見て改めて刻み込ませ直さなきゃいけなkったんだろう・・・・・・(爆)?












 

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 ―――よ〜っし6日中にUpしたいがため無理矢理話を切ってみました(割に間に合いませんでした。ちなみにUpしたかった理由は早く跡部様CD発売を祝いたかったからですが)。実はこの話は加害者(つまりは3人)サイドとセット。ヤキモチ焼きまくり牽制オンパレードの3人も書きたかったぞ!!
 というわけでそちらはそちらで頑張って書きます。その内(爆)。とりあえず『被害者』不二サイドはこれにて了。


2004.1.3〜1.6