“現想”









 「跡部くんの脚って、ホント綺麗だよね・・・・・・」
 呟き、千石がバスローブから伸びる脚を舐める。
 「全体的に、骨格が綺麗なんだよね・・・・・・」
 そう言い不二がバスローブの胸元を割き鎖骨へと舌を伸ばした。
 「それに、筋肉の付き方もだろ・・・・・・? ある意味生きた芸術だよな、ここまで来ると」
 割かれたバスローブをさらに肩からずり落とし、佐伯が現れた背中を撫で回す。肩甲骨の下に内出血痕を付け、顔を上げた。
 同じく顔を上げる2人。
 3人の目の前には、何の反応も示さずただ空ろな瞳で前を見る件の人物の顔があった。
 「でも、何よりさ・・・・・・」
 「やっぱ綺麗なのは・・・・・・」
 「顔、だよな・・・・・・」
 3人で紡ぎ、それぞれその顔へと手を滑らせる。反応は何も返ってこない。
 「好きだよ。愛してる」
 誰が言ったのか、そんな言葉と共に顔を近付け―――















 『―――おい! 佐伯! 千石! 不二! いんだろ!?』
















 ドアの外から聞こえてきた声に、揃って動きを止めた。3人の中心にいた『跡部』が消える。
 何事もなかったかのようにドアを開ける。そこにいたのは明らかに不機嫌を露にした跡部で。
 「いっや〜。跡部くん、待ってたよ〜」
 「っていうかお前遅すぎ。どこで油売ってたんだよ」
 「そうだよ。どれだけ待ったと思ってるのさ」
 「ああ? 遅いだあ? こっちの用事も聞かねえでいきなり呼び出してきたのはてめぇらだろーが。来てやっただけありがたいと思え」
 「はいはい。あ〜嬉しい嬉しい」
 「帰る」
 「あ゙〜〜〜!! 跡部くん待って〜〜〜!!!」
 「あはは。いつものサエの冗談じゃないか。間に受けないでよv」
 「そうだぞ跡部。お前心狭いなー」
 「やっぱり帰る」
 「だからサエく〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!」

























 認識というのは曖昧だ。常に間接的に行われる。

 そこにあるものを五感で感じ、その情報を脳へと伝える事で、ようやくそれはそこにあると意識する事が出来る。

 即ち重要なのは、「実際にそれがそこにあるか」ではなく、「それがそこにあると思えるか否か」。

 あると思えなければ、実際にあるものでもその人の中でそれは実際あるものとして認識されず、

 逆にあるとさえ思ってしまえば、実際にはなくともその人の中でそれは実際あるものとして認識される。

 認識というのは曖昧だ。意識により、簡単に支配される。



























 「う〜ん。でもやっぱ問題は跡部くんのヨガる顔が創造できないってコトだよね」
 「だよねー。あの俺様跡部が人の手の中で踊る姿、か・・・・・・」
 「うあ。何っか凄いヘンな事考えそうでやだな」
 「だからといって実際ヤっちゃうワケにもいかないし・・・・・・」
 「見事なまでに本末転倒だよね、それじゃあ」
 「やれやれ。ま、暫くはアレで我慢するか。あれはあれでそそられるし」
 「氷の貴公子って感じ?」
 「早く溶かしてあげたいね」
 「同感」
 頷き合い、3人は丁度風呂から戻ってきた跡部を見上げた。創造と同じバスローブ姿で、何やら地べたに蹲り怪しげに顔を寄せていたこちらを呆れ返った瞳で見下す。
 「何やってんだ? お前ら」
 「別に? 何も?」
 「・・・・・・・・・・・・ああそうかよ」
 揃って首を振る怪しさ
MAXの3人に、跡部はしかしながらため息をつくだけだった。それ以上の追求はしない。こんなのはいつもの事だ。
 背を向けがしがしと頭を拭く。無防備な後姿に、3人は恍惚とした眼差しを向け生唾を飲み込んだ。




















・     ・     ・     ・     ・


























 認識を簡単に操作する方法がある。厳密には、認識を簡単に操作できる場所がある。

 1つは意識の中。もう1つは夢の中。

 自分が絶対となるそれらの場所では、現実は何の意味も成さなくなる。

 あると思ったもの、それがあるだけだ。実に単純なルール。だからこそ、実際には在り得ないものでもその中では『現実』として起こり得る。

 夢が―――現実となる。

 認識を簡単に操作する方法がある。夢を支配してしまえばいい。































 「跡部くんの脚って、ホント綺麗だよね・・・・・・」
 「ん・・・・・・」
 呟き、千石がバスローブから伸びる脚を舐めてくる。
 「全体的に、骨格が綺麗なんだよね・・・・・・」
 「う・・・・・・」
 そう言い不二がバスローブの胸元を割き鎖骨へと舌を伸ばしてきた。
 「それに、筋肉の付き方もだろ・・・・・・? ある意味生きた芸術だよな、ここまで来ると」
 「ぐ・・・!」
 割かれたバスローブをさらに肩からずり落とし、佐伯が現れた背中を撫で回してくる。肩甲骨の下に内出血痕を付け、顔を上げた。
 同じく顔を上げてくる2人。
 3人の目の前には、涙で滲んだ虚ろな瞳で3人を見下ろす跡部の顔があった。
 「でも、何よりさ・・・・・・」
 「やっぱ綺麗なのは・・・・・・」
 「顔、だよな・・・・・・」
 3人で紡ぎ、それぞれ顔へと手を滑らせてくる。気持ちよくて、目を細める。
 「好きだよ。愛してる」
 誰が言ったのか、そんな言葉と共に顔を近付けられて、
 「ああ、俺も。
  俺も、愛してるよ」
 薄く微笑み、跡部は3人を引き寄せた・・・・・・。











 真夜中、ふいに目が覚める。夢と共に、3人が消える。
 自分を起こした、不躾なメールの着信音。内容は―――













 <跡部く〜ん! 今から家遊びに来ない? サエくんと不二くんもいるよ〜>













 「またかよ・・・・・・」
 ボヤき、跡部は不躾な輩の家へと急いだ。



―――Fin





















・     ・     ・     ・     ・

 はっはっは。見事なまでにやる気0って感じですね。いやふいに思いついた話をそのまま書いただけなのでそんなもんでしょうが。しかも入れる気のなかった跡部サイドまで書いたら本気でめちゃくちゃになりました。なお互いの時間的絡みは特に決められてなかったり。全く別の日かもしれませんし、それとも跡部サイドの直後(?)に3人サイドが繋がっているかもしれませんし。いずれにしろ跡部の家から千石さんの家までは徒歩1分です。
 はい。佐伯・千石・不二→←跡部の片片想い。こういうのは好きです。ってこれだと不二跡か・・・。いやどっちでもいいけどさ・・・・・・。跡部は本人気付かないところでみんなに愛されまくってます。跡部・佐伯・不二の幼馴染話も(いやこのサイトでは4人で立派な幼馴染なのですが、世間一般では3人が多いですし)佐伯→不二←跡部より佐伯→跡部←不二の方が好きだったり。わ〜い愛されてるぞ跡部様。まあそれはいいとして。
 なお今回3人サイドにてちょっぴり参考にさせて頂いたのは富士見ミステリー文庫の『Dクラッカーズ』でした。この3人だとカプセルなしにこういうことも出来そうだ。しかしそういった創造力の強さとでもいうのか、それは実のところ魔王不二より跡部の方が強いような・・・。だからこそ最初跡部は1人でそれをやらせようと思いました。同じ事をやっても芸がなさそうな気がしたので夢の中に変えましたが。

2004.5.4