人として一度は憧れるものがある。獣姦―――まあそれは極端な物言いとして。
 耳や尻尾の生えた存在を十二分に愛でてみたい。可愛がってみたい。いたぶってみたい。
 動物好きの自分ならこんな欲求を覚えるのも当然だろう。
 さて、では・・・





 ――――――目の前のコレはどうするべきか・・・・・・。







選択に苦しむ悩み








 「・・・・・・で?」
 「だから、そんな事情でコレなんだよ」
 コレ、と指差しながら、尻尾と耳を自在にふりふりしてくる佐伯。滑らかな動きは、普段動物を見慣れている自分から見ても違和感はない。決して電動や糸・バネ仕掛けではない事を物語っている。・・・・・・ついでにそれだけ扱いに慣れた事も。
 ため息をつき、跡部は今聞かされた―――そして今見せられている事態をまとめた。
 「つまり・・・
  ―――不二を庇って毎度恒例乾のヘンな汁被ったらそうなった、ってか?」
 「乾曰く、飲んだ者を動物にする薬だそうだ。多分口開けて怒鳴ってたから、弾みでちょっとだけ飲んじゃったんだろうな」
 「規定量飲まなかったから完全にはならず半端な状態になった、と」
 「そうそう」
 佐伯が頷く。ここまでの理解は間違っていなかったらしい。現実的に何か不条理なものをいろいろ覚えるが、まあそれらについては水に流そうと思う。
 問題はここからだった。
 「
SEXすりゃ戻るっつー設定はどっから生まれたんだ?」
 「そりゃ獣か―――」
 「いい! わかった! 言うな!」
 ちょっぴり自分も考えていた事を指摘され、跡部は無理矢理話題を切り上げた。まさか自分の思考が乾とぴったり一致していたとは・・・・・・。
 気を取り直し、続ける。
 「で、だ・・・。ここからが重要なんだが―――
  ――――――てめぇは何で『ソレ』になったんだ?」
 指差す。大きな耳と、長い尻尾。共に銀色なのは彼のイメージ―――というかありていに言って髪色に合わせてだろう。それはいい。のだが。
 「普通動物化っつったら・・・
  メジャーなところで猫かウサギ、よくて犬辺りじゃねえのか・・・・・・?」
 確かに同じ哺乳類だった。さらに言えば犬と同じ科ではあった。
 が、しかし。
 「なんでてめぇはよりによって狼なんぞになってんだよ!!??」
 そう。佐伯がなっていたのは狼だった。銀狼。客観的に見てめちゃくちゃによく似合っている。『佐伯を動物にたとえると?』という質問で恐らく大抵の人間が思い浮かべるそれそのものだった。
 わめく跡部に、
 佐伯は冷静に答えた。
 「さっき言いそびれたんだけどさ、コレ、飲ませた相手のイメージ通りの姿になるらしい。意識無意識関係なしにな。
  でもって、実際かけた乾が『俺っていったら銀狼』って思ってたらしいぜ?」
 (こんなところでも俺は乾と一緒なのか・・・・・・)
 爽やかに息を吐き、額の汗を拭う。もしかしたら涙も一部混じっていたかもしれない。
 なぜ跡部がここまで動物の種類に拘るのか―――もちろん姿かたちがそうなるだけで別に中身まで動物化はされないというのに。
 答えはもちろんこれである。誰でも持っている固定観念。即ち―――



 ――――――狼といえば誰かを襲う側だ。間違っても狼が襲われる側にはならない(一部童話のラストに例外あり)。



 「と、いうわけで・・・」
 一通り解説を終え、
 「景吾v」
 佐伯はにっこりと笑った。
 「もちろん、戻すの手伝ってくれるよなあ?」
 「ちょ、ちょっと待て佐伯! てめぇ自分で何言ってんのかわかってんのか!? つまりその状態だと―――!!」
 「当然、俺が攻でお前が受だよなあ?」
 「ンなのぜってー嫌に決まって―――!!」
 「そうか。じゃあ仕方ないなあ。こんな事になった責任取ってもらうって事で周ちゃんでも襲いに行くか。きっと受け入れてくれるだろうなあ」
 「ぐっ・・・・・・!!」
 「さってどうしようかなあ〜♪」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やりゃいいんだろやりゃ!!」
 「さっすが景吾v」
 「くそっ!」
 盛大に舌打ちして―――はたと気付く。先程()内に入れた注釈。
 (待てよ・・・。狼相手に攻になるっつったら・・・・・・)
 警戒するでもなくウキウキと近付いてくる佐伯を突き飛ばし、跡部は居間へと向かった。
 居間に飾られているものを手に取り、手早く残弾を確認する。毎日手入れしているため間違いはないだろうが、念のためというものである。ついでにもちろん実際使うつもりも名目上はまあないが、これまた
念のため(強調)である。
 「よしっ・・・!」
 猟銃を手に、跡部はにやりと笑ってみせた。





 一方突き飛ばされた佐伯。よろけたのは一瞬だが、立て直す間にもう跡部は部屋から出て行ってしまっていた。
 「やってくれんじゃん、景吾・・・・・・」
 こちらも薄く笑う。随分イキのいい獲物だ。こうでなくちゃ面白くない。
 「なんにせよ・・・
  ―――お前の考えなんてお見通しなんだよ」





 居間に入ってきた佐伯に、跡部は躊躇無く猟銃を向けた。
 「おっ、と・・・」
 「動くなよ、佐伯」
 跡部の本気―――具体的には起こされた撃鉄―――を見て悟り、佐伯が降参のポーズを取る。
 「なるほどなあ、猟師か。確かにそれなら狼[オレ]に対して優位に立つことが出来るよな」
 「そういう事だ。覚悟しろよ。てめぇの腹にゃあ石の代わりに俺のモンたっぷりぶち込んでやるよ」
 「そう言われると赤ずきんちゃんも夢の無い話になるな」
 「ああ? 弾丸ぶち込まれるよりゃマシだろーが。しかも死なねえサービス付きだ」
 「いいなあ。猟師に飼われる狼か」
 「負け認めるってか。しっかり躾してやるよ。他のヤツにゃ手ぇ出さねえように」
 「代わりにお前にはいくらでも出してオッケー、と?」
 「ざけてろ」
 笑いながら、跡部が近寄ってくる。もちろん銃は構えたまま。
 佐伯もまた笑っている。先ほどと同じ笑みで。
 「けどなあ・・・」
 「あん?」
 「―――狼が猟師を襲うってのも、けっこー萌えないか?」
 言葉の終わりには、行動を開始していた。しゃがむほどに身をかがめ、脚のバネを最大限に駆使して一気に接近する。
 「ちっ・・・!」
 跡部の行動もまた早かった。急激な動きに惑わされることも無く、新たに生えてきた狼の方の耳を狙い1発。こちらなら本当に当たっても大丈夫だと思ったのだろう。
 跳んできた弾を、身をよじってかわす。もちろん弾の動きが見えたわけではない。銃口の向きとトリガーにかかった指の筋肉の動きから予測しただけだ。
 自分の後を追うように、びしりと弾丸が壁にめり込む音が伝わってきた。跡部の持っているその猟銃は単発式。1発外せばもう使い物にはならない。
 弾丸交換の時間など与えはせず、詰め寄った佐伯は跡部の手から猟銃を払いのけた。
 なおも反抗しようとする跡部。聞き分けのない彼をそれこそ躾けるように、首を掴み勢いのまま壁へと押し付けた。少々乱暴だが、まあ『狼』という性質上こんなものだろう。
 「っつ・・・」
 首が絞まったかそれとも頭を打ったか、いずれかの理由で呻く跡部から体を離す。解放するためではない。より強く、拘束するために。
 掴んだ空の両手首を頭上に固定させる。触れそうなほどに顔を寄せ、佐伯は笑みのまま囁いた。
 「残念。狼が怯えるのはあくまで猟銃に対してだけであって、決して猟師そのものに対してじゃあないんだよ」
 ぎり・・・と歯軋り音が響き渡った。悔しげな顔でこちらを睨んでくる跡部を余裕の顔で見返し、
 「ん・・・・・・!」
 乱暴さそのままに口を触れさせる。荒々しいキス。苦しくなったか口を開けてきたところで舌を突っ込み。
 「ふは・・・・・・」
 かくりと崩れ落ちる跡部に合わせ、佐伯も膝を折り曲げた。
 跡部の躰を倒し、上にのしかかる。
 垂れた唾液を舌を使ってあこぎに舐め取り、
 「随分早いじゃん。やっぱこういうシチュエーションにお前も萌えたりするワケ?」
 「ば・・・。ンなわけねーって・・・・・・、あ・・・・・・」
 否定を無視し、首筋をつーと舐めた。舐めながら、シャツのボタンを外していく。
 「ん・・・、何、しやがる・・・・・・」
 目を細め甘く睨みつけてくる跡部。裸の胸に手を滑らせ、突起を引っ掻いてやればさらに睨みに甘さが篭る。
 「ホンットお前って、食べちゃいたいくらい綺麗だよなあ」
 「何、タワゴトほざいて・・・・・・」
 「本気だって。だから―――
  ――――――食べさせて」
 「うあっ・・・!」
 今度は胸を舐められ、跡部が喉を反らせた。
 露になった、白いそこへとむさぼりつく。本当に狼になった気分だ。自分の制御の仕方がわからない。
 跡部もまた、それを感じ取っていた。いつもと違う様。本当に『襲われている』感覚。
 感じ取り―――より強い興奮を覚える。
 (ヤベ・・・・・・)
 朦朧とする頭が警告を鳴らす。自分より格下と見なしていた相手にやられる事。本来なら屈辱であろうのに・・・・・・
 (コレ・・・、マジでハマる・・・・・・)
 佐伯曰くの『萌えるシチュエーション』。絶対言ってやりはしないが。
 かちゃかちゃと、金属音がしてくる。今だ『襲う状況』に拘っているらしい。半端に脱がされたズボンから、
 既に勃ち上がり、先端から雫を零すそれを取り出された。
 「ホラ。やっぱお前も萌えてる」
 「ンなワケねーだろ!?」
 即刻否定。した跡部の躰を、妙な感触が襲った。
 「あ・・・?」
 見下ろす。勃った自分のものの下で、
 ―――入り口に、佐伯が尻尾を擦り付けていた。どうやら妙な感触の正体は尻尾のふさふさ感だったらしい。
 「何しやがるてめぇ!!」
 さすがにこれは本気で嫌だ。というか本気で屈辱だ。
 甘い雰囲気はどこへやら、怒鳴りつける跡部に佐伯はにっこりと笑ってみせた。
 「ん? せっかくいつもと違ったオプションついてんだから、存分に試しておかないと」
 「試される俺の身にもなりやがれ!!」
 「いいじゃんいいじゃん。滅多に出来ない事だし」
 「1度だってやりたかねえよ!!」
 「まあまあv」
 「さらっと流すんじゃねええええ!!!」







・     ・     ・     ・     ・








 かくて、跡部の悲劇は終わった・・・・・・かに見えた。
 「・・・・・・あん?」
 頭にある、妙な感覚。いや、頭だけではない。下の方にもまた・・・・・・
 「――――――!!!???」
 衝撃のあまり声の出ない跡部。彼の身には、
 ―――先ほどの佐伯と同じ状況が起こっていた。
 自分に生えてきた耳と尻尾。色形からするにどうやら猫らしい。
 間違いなく原因を見やる。件の人物は実に飄々としたもので。
 「お前って言ったら猫か犬か悩んだんだけどな、やっぱヤるんなら可愛げあんのは猫かなって思って」
 「ちょ、ちょっと待ちやがれ佐伯。今てめぇ何て言ったよ・・・・・・?」
 「だから―――
  ―――『やっぱ
ヤるんなら猫』。要約すると」
 「つまり・・・・・・」
 顔から血の気が引いていく。反論したくとも出来ない。最初自分も同じような事を考えていた以上は。
 結論を言えずに固まる跡部に、
 佐伯は再び笑顔を見せた。
 「じゃ、今度は正真正銘の獣姦行ってみようか」
 「嫌に決まってんだろーが!!!」





 こうして、跡部の悲劇は第2ラウンドへと続いたのだった・・・・・・。



―――Fin












 動物化の話を読んでいてふいに思ったこと。なった動物の種類によってはこのようなケースもありですか?
 そんなこんなで動物になった側に襲わせてみましたv この基準で行くと羆になる不二は果たして攻か受か・・・? そんな事はどうでもいい感じで、そしてついでに肝心なところは全てスルーされたままでは!



 ・・・・・・あ〜しっかし次は話に出てきた赤ずきんちゃんやりたいなあ・・・・・・。誰がどれとは言いませんが。

2004.11.2122