支配





「ふ・・・は・・・・・・」
全裸でベッドに横たわり、佐伯は感じるまま声を上げた。


とろんとした目を、下に落とす。大きく開いた脚の間に顔を埋めたリョーガへと。


「・・・・・・ん? どーした?」
リョーガも視線に気付いたらしい。緩く立ち上がりつつあるものから手は放さず、目だけを向け尋ねてきた。


小さく笑う。


「お前も物好きだよな」


「『好き者』って意味じゃ間違ってねえと思うけどな。何でだ?」
情事は確かに好きだ。だが佐伯が言いたいのはそういう事ではないのだろう。


なまじ妙に頭が良いからだろうか、彼の発想はかなり突飛だ。しかも自分で結論付けながらさらに先へ進めるため、最初まで戻ってもらわないと聞き手にはさっぱりわからない。


今までの実績により考える事を放棄したリョーガ。佐伯との(への?)付き合いは相当慣れてきたらしい。
佐伯もまた、そんなリョーガの『賢さ』はよく知っている。
特に馬鹿にするでもなく、笑ったまま続けた。


「フェラはともかく、男で舐められるより舐める方が好きなヤツなんてそうはいないだろ?
 よりによって、おまえがまさかご奉仕好きなんてなあ」
「奉仕?」
「日本じゃそう言われたりもするんだぜ? そうやって、相手を喜ばせるってな」
「そういうモンか?」


首を傾げるリョーガに、佐伯も首を傾げた。


「じゃあお前は自分も喜んでる、と?」
「ああ」
即答。


クッと笑い、リョーガは全く違う話をしてきた。


「こんな話知ってるか? 悪魔は耳から人間に入り込み、相手を支配するんだとよ。だから古来よりピアスはそれを防ぐ守りの役割を果たす、とさ」
「知ってるぞ? だからピアスにつける石には様々な意味があり、それを相手に贈る事にもまた意味がある。
 でもって、だから俺はピアスは空けないしお前からも貰わない」
「ちっ・・・」
笑みが舌打ちになった。それを見、今度は佐伯がクッと笑った。





誰が支配などされてやるものか。それも、そんなちっぽけな石ころ如きで。





立ち直ったリョーガが、話を続ける。
「けど耳から入れねえ人間は、どーやったら相手が支配出来んだろーな?」


続けながら、握り締めた手に僅かに力を込めた。もちろん中に佐伯のものを閉じ込めたまま。
「いっ・・・!」
佐伯の顔が歪む。脚がびくりと引き攣った。
緩めてやり、お詫びの印に先っちょを軽く舐めてやる。


「これもひとつの支配の形だと思わねえ? 快感も苦痛も両方与えてやれるんだぜ?」


「つまりお前にとってこれは別に『奉仕』じゃない、と」
「『気持ち良くして欲しかったらちゃんとお願いしてみろよ』」
脅迫。相手を支配した者にのみ許される行為。あるいはそれにより相手を支配する行為。


そうわかった上で。


佐伯は決して従わなかった。瞳を細め、笑ったままリョーガを見下ろす。
握った手に、今度はじわじわと力を込めていき・・・。















「俺なら、耳だけでお前支配出来るけど?」















ぴたりと、リョーガが止まった。


こちらも細めていた目を上げ、険悪な笑みを見せてくる。
「へ〜え。ならやってもらおっか。生憎だけど、別に俺は耳が弱点じゃねえぜ?」
「もちろん知ってるぞ? 知らないワケないだろ?」
にっこりと笑ってやった。それだけでリョーガがひるむ。


(つまり、この勝負は確実に俺が勝つ・・・と)


人差し指で、招き寄せる。躰を倒し、素直に顔を寄せてくるリョーガの耳に、
佐伯は囁くだけだった。舐めも息を吹き込みもせず。
リョーガを緩く抱き締め、ただ、囁く。






























「早く来いよリョーガ」






























リョーガは動かなかった。口も開かないまま、ただ目だけを大きく見開いていた。
機械のような首振りで見下ろすリョーガ。驚き尖らせたまま固まる口に、佐伯は触れるだけのキスを送った。ますます目が見開かれ・・・


「――――やられた」


一言遺し、リョーガはぼふりと佐伯の上に落ちてきた。枕に顔を埋める。
横目で見れば、耳まで真っ赤っかだ。触れ合う躰の下の方では、触ってもいないのにリョーガの分まで熱く硬く張り詰めている。


己の勝ちが確定し、今までの妖艶な雰囲気はどこへやら、佐伯は再びにっこりと笑った。
「な?」
「・・・あーそーそーだよな。ど〜せ俺はお前の手の平で踊ってるだけだよ」
「それじゃこれからも面白可笑しくよろしく」
「・・・・・・。もーいい」
「んじゃ」


佐伯が上へと手を伸ばす。苦笑いし、リョーガも躰を上げてきた。
落とす前に、洩らす。















「あーあ。お前にゃ勝てねえよ」















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リョーガに抱かれながら、思う。


先程のリョーガの言い分を借りれば、この瞬間支配しているのは自分の方なのだろう。抱かれるという表現を用いながら、実際『抱いて』いるのはこちらなのだから。そういう意味では、役割を交換しない限りリョーガには永遠に勝ち目はない。
だが・・・


「何・・・だよ」
「いや・・・、別に・・・?」
 「そー、かよ・・・!」
さすがにリョーガも、この状態であえて聞き返しはしないらしい。


流され、改めて佐伯は小さく笑った。
(馬鹿だなあリョーガも。こんな程度で俺支配しようだなんて)
ピアスも奉仕もいらない。そんなちゃちなもので俺を支配したなんて思わないで。
(俺は・・・・・・)















お前の存在そのものに、こんなに支配されているのだから。















リョーガでなければ、リョーガがいなければ。あんな台詞吐こうとも思わなかったし、吐く事すら考えつかなかっただろう。
望ませる事すらせず、相手を作り変えていく。相手を自分の色に染め上げていく。
それこそ最高の支配だろうに。


(まあいいさ。今はせいぜい踊ってろ)
そして、気付いたならば言ってやろう。俺が支配された証であり、同時にお前を完全支配する言葉を。






























『愛してるよ、リョーガ』
と・・・・・・。






























(ま、そう簡単には言ってやらないけどな)















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「っ―――!!」
「ぐ・・・!!」
一声ずつ上げ、同時に達する。


荒い息の中、リョーガが小さく囁いた。
「愛してるぜ、佐伯」
「当然だろ?」
「・・・よく言うぜ」


やはり苦笑いで、もう一言洩らす。















 「やっぱ俺は、一生お前の奴隷だな」




















【愛の奴隷】
―――
Fin―――















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リョガサエ初の裏っぽい話?で、こってこてのベタなものを書いてみました。こういうお約束なものは、リョガサエが一番似合うと思います。うわもー勝手にやってろ!!というものは。
そしてこれが裏になった理由。『笑う箇所がないから』・・・・・・とは決して言えません。

2006.4.7