『奇』跡 〜I love you,I need you,I want you!〜
1.OPに軽く一発(何を?)
テニスにおいては天才的な才能を見せるリョーマも、ほかのスポーツに関してはごく平均的だった(まあそれでも普通の中学生からするといい方だが)。
そんなわけで―――
「―――越前、いったぞ!!」
ピッチャーマウンドに立つクラスメイトの言葉を、ライトであくびしていた彼は見事に聞き逃した。
「っておい越前!!!」
手前―――ファーストにいた堀尾に声をかけられ、それでようやく気付く。フライで飛んできた球が既に自分の目の前にあったということを。
ごん!!!
当然のことながら取り損ねたリョーマは、そのまま球に頭を直撃され保健室直行となった。
・ ・ ・ ・ ・
「おチビ!!」
休み時間―――にすらなっていない時刻。愛しの恋人が倒れて保健室へ行ったという(断片的な)情報を聞き、猛然と現れた英二に、即座に注意の声がかかる。
「英二、保健室ではもう少し静かにしような」
「ありゃ? 大石?」
「そうだよ。越前君びっくりしちゃうじゃない」
「って不二まで? にゃんでいんの?」
前述したとおり今は授業中である。なぜここまで人が多いのか。
「ああ、僕は朝部活が終わった後少しふらふらしたから休ませてもらってたんだよ」
「あ、にゃるほど。それで授業中不二いにゃかったのか」
「俺はちょうど自習で。図書室に行く途中で越前が倒れたのを偶然見たんだよ。みんなおろおろしてるみたいだったからとりあえず保健室に連れてきたんだけど」
「あ〜。さすが慣れてるね」
将来医者を目指し、今からもうその勉強を始めている大石は、部活時も怪我した部員などの世話をよくやっている。
「んで、おチビは?」
「とりあえず大した事ないって。けど頭打ってるからそのせいでちょっと―――」
と言葉を濁す不二。いつにないその態度に英二がきょとんとする―――よりも早く。
「―――誰、アンタ?」
「え・・・・・・・・・・・・」
いつの間に目覚めていたのか、そんな声がかかった。誰よりも好きな声。だがその声が紡ぐのは信じられない言葉で。
「おチ・・・ビ・・・・・・?」
「『おチビ』って、俺のこと?」
「・・・・・・・・・・・・」
ボケ抜きで首をかしげるリョーマに呆然とする英二。そんな彼に、横から不二が説明の続きをした。
「どうやら記憶喪失になっちゃったみたいで・・・・・・」
「ウソ・・・だろ・・・・・・?」
「いや・・・・・・」
不二に続き大石もまた絶望的な事を告げる。
「一時的なものだと思うから、もしかしたら英二に会わせれば戻るかと思ったんだけど・・・・・・」
―――戻っていないのは今のリョーマの態度が雄弁に物語っていた。『知らない者』に対する警戒心。リョーマ自身は無意識であろうが、明らかにそれが伝わってくる。
「おチビ・・・・・・」
ショックを受けた英二がリョーマを抱きしめようとするが、リョーマはベッドの上という狭い範囲の中でそれでも身を引き避けようとする。
―――そして!
「――――――!!!!!」
あろうことかなんとリョーマはベッド脇のいすに腰掛けていた不二の袖にしがみついた!!
「不二・・・先輩・・・・・・」
震える口から漏れた言葉。自分は忘れられていたのになぜ彼は名前まで覚えられている?
目の前で見せ付けられた光景に、英二は目を見開き硬直し、
「・・・・・・おチビのバカやろー!!!」
そう叫んで保健室から飛び出していった・・・・・・・・・・・・。
・ ・ ・ ・ ・
さて一方残された側は・・・、
「英二ってば相変わらずせっかちだなあ」
にこにこ笑いリョーマをやんわりと引き剥がす不二に、大石がため息をついた。
「不二・・・後で英二にちゃんと言ってやれよ?」
「わかってるよ。もちろん。
けど―――
記憶喪失だってわかった時点で自己紹介するでしょ、普通」
名前も知らない他人よりはついさっき会ったばかりとはいえ少しは面識のあるものを頼ろうとする。結局のところリョーマは極めて当たり前の事をしたに過ぎない。
「ねえ、あの人、ほっといていいの?」
それでも健気に尋ねてくるリョーマにやはり不二はいつもどおりの人当たり完璧の笑みを浮かべるだけだった。
「まあほっといてもそのうち立ち直るでしょ」
「そ、かなあ・・・・・・。なんかすっごいショック受けてたみたいだけど」
「気のせいだよv」
「不二・・・。頼むから・・・・・・」
その後、不二の説得は授業が終わるまで続いたという・・・・・・。
―――さあ、次は何が起こるのか!?
Go to next stage!
2003.1.27