The Nightmare


―――記憶喪失烈Presents『本能による「日常生活」の過ごし方』―――




Act1 登校・及び授業 〜生活マニュアル基礎編〜






 それから3日。怪我はさして重症でもなく(でなかったら目覚めるなり出歩いて弟を叱り飛ばすなど出来ないわけで)、烈はさっそく学校へ通うこととなった。それに関して問題はなかった。
 ・・・・・・・・・・・・記憶以外は。
 家族及び事情を聞いた生徒会メンバーら中心に何とか記憶を取り戻させようと四苦八苦したのだが、残念ながら烈の記憶は一向に戻る気配を見せなかったのだ。こうなったら仕方ない。病院といういつもと違う環境ではなく、少々荒治療だが日常生活に戻すことで少しでも戻すきっかけを作ろう! というなかなかに無謀な案(提案:もちろん豪)を実践するハメになったのだが・・・・・・。





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 「あ、烈君。おはよー!」
 「お! 烈! 事故遭ったんだって!?」
 「でも入院してたんだって!?」
 「もう大丈夫なんですか!?」
  きゃ〜〜〜〜vvvvvv


 学校にて行なわれるこれらの会話(?)。さすが校内でも人気者の烈だけあって、クラスメイトから同学年、挙句に学年の異なるものまで、様々な者が言葉をかけていく。
 そして―――


 「ああ、おはよう」
 「うん。ちょっとね・・・・・・」
 「大丈夫。もう治ったよ。
  ―――ありがとう」


 このように返事する。もちろんラストは笑顔のオマケつき。なお上の悲鳴はその笑顔に対してである。


 それらを共に登校し、今も隣に立ちながら・・・・・・




 「・・・・・・・・・・・・」




 せなはただひたすらに明後日の方向を向き、何も聞かなかった事にしてやりすごすだけだった。





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 「―――お? 星馬。もう大丈夫なのか?」
 朝の
HR。担任教師もまた3日振りに登校してきた生徒に、このように声をかけた。
 それに対し―――
 「ええ。もう大丈夫です。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
 着席したまま烈が軽く頭を下げた。
 「い〜てい〜って。お前ならたかだか3日分の授業くらい簡単に取り戻せるだろうしな。だが何より生きてての物種だ。よかったな。その様子じゃあんまケガとかもなかったんだろ?」




 「ええ。大丈夫です。基本は学習してきましたから。日常生活に支障はないと思います




 『・・・・・・・・・・・・はあ?』


 突然言われた謎の言葉。烈と直接話をしていた教師のみならず、生徒らも訝しげな声を上げた―――当事者・烈と、彼女を除き。
 「―――すみません。補足します」
 烈の隣に座っていたせながさっと手を上げた。その顔には苦すぎる苦笑が混じっていた。
 彼女にしては珍しい表情。何事かと烈除く全員が傾注する中―――
 彼女の発した台詞は凄まじいものだった。


 「烈君、実は事故の後遺症で現在記憶喪失中なもので―――」


 歯に物のはさがったような物言い。やはり彼女にしては珍しい。が、
 そんな事は衝撃の告白を前に、どうでもいい事と化した。




 『記憶喪失ぅ!!??』




 「それって何!? あのなんて言うか全部忘れてるってヤツ!?」
 「ばか!! 他に何をもってして『記憶喪失』なんて言うんだよ!?」
 「ええ!!?? じゃ、じゃあ今の烈君って何にも憶えてないって事!?」
 「あ!! でも記憶喪失って一言に言っても程度の差は激しいから!!」
 「そっか!! 事故のちょっと前だけ忘れてるとかアレね!!」
 「そうそう!!」


 でしょ!? と誰もが期待を込めた眼差しで見る。それを受けながら―――
 せなは重苦しく首を振った。もちろん横に。




 「いいえ。全て。まるっきり。何も、覚えてないわ。完全記憶喪失とでも言うべきかしら・・・・・・」




 今度こそクラスはずーんと思い空気に―――
 包まれなかった。




 『えええええええ!!!???』
 「じゃ!! じゃあ朝普通に話してたのは!!?」
 「い、今だってめちゃめちゃ普通に話してんじゃねーか!!」


 混乱するのも無理はない。今までの彼の様子を見て、いつもと違うと見抜けた者は恐らく0に等しい。しかもそれが完全に記憶がないなどと気付ける者がいるわけがない。それだけ皆が烈の事を見ていない、という事ではない。今の言葉で証明された―――いや、朝からの対応を知ればわかるとおり、烈があまりに自然すぎるのだ。
 さてこれは一体どういうことか。


 「それの答えが、さっき烈君が言った通り」




 ―――『基本は学習してきましたから。日常生活に支障ないと思います





 「つまり・・・・・・」
 「この3日で、なんとか記憶を戻そうと周りからいろいろな話をしたんだけれど・・・・・・
  彼にしてみれば『いい情報を与えられた』みたいで・・・・・・」


 普段はなんだかバカばっかりやってると思われがちなこの学校。しかし元々都内でも1・2を争うレベルの高さを誇り、尚且つそれは単純に勉強が出来るという意味だけではなく、某生徒会長中心に、頭の切れる者が多い彼ら彼女ら。
 おぼろげながら、彼女の言いたい事、即ち、烈のその言葉の意味が飲み込めてきた。


 せなの更に隣にいた男子生徒が半眼で言った。佐久許[さくもと]という、烈と同等程度の長さの髪を銀色に染めた、いわゆる不良『っぽい』存在。斜に構えた態度で孤高の銀狼といった印象を受けるが、さりげに面倒見がよく、またユーモア混じりの皮肉がよく通用する性格のため烈やせなともよく気が合う(本人談。この辺りが既に『ユーモア混じりの皮肉が通用する』といえる)。


 「今までのは、予め『情報』を仕入れた上で烈がそのマニュアルに従って動いていたに過ぎない、と・・・・・・」


 「どうもそうみたいで・・・・・・」


 つまり、今の烈はそれこそ皮肉抜きで『完全マニュアル人間』と化していた。恐らく周りからの情報で、自分に接する可能性のあるものを『覚え』、さらにそれらの人、あるいはかけられた各言葉に対する対処法を徹底して『学んで』きたのだろう。


 「間違ってるとはいわないが・・・。何か違うだろ、それ・・・・・・」


 「私もそう思う・・・・・・・・・・・・」




 2人の言葉と共に、教室中を脱力し切ったため息が支配した・・・・・・。






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 さて。記憶喪失だろうが解決法が思いつかなくて苦悩していようが通常日学校にいる以上授業というものがある。そして高校の授業では当り前だが教科ごとに受け持つ教師が異なる。
 そんなわけで1限は数学・・・・・・・・・・・・




 「星馬君! 久し振りね。よくなってくれて嬉しいわ。
  ―――それなら先生サービスとしていっぱい当ててあげるからねv」


 ((ヒィィィィィィィィ!!!!!!!))


 烈の登校に感激する教師がそんな事を言ってくる。もちろん彼女は知らない。ここにいる少年が、頭の中身は0歳児と同じだという事を。


 が、


 「あはは。お手柔らかにお願いします。先生」


 『ヲイ!!』


 『普通どおり』答える烈に誰もが突っ込んだ。中には顔面蒼白で教師に急いで説明しようとするものもいたが―――
 教師の方が早かった。


 「じゃあさっそく問13。昨日やったところだけど、烈君なら簡単でしょ?」
 「はい」
 『うわあああああああ!!!!!


 無理無茶無謀。どこの世界に対数の解ける赤ん坊がいる!?


 と、思ったのだが・・・・・・


 「―――正解。烈君おみごとv」
 「いえいえ」
 『はい・・・・・・?』


 ・・・・・・なんだか今、目の前で凄く不条理な事を見せつけらたような気がする。


 呆然とする中、佐久許がせなの肩を叩いた。烈を指差し―――不信顔で尋ねる。


 (あれは?)
 (一応3日で小学生レベルまでは教えておいたんだけど・・・・・・)
 (高校レベルだろ? これは。もちろん)


 高校生に教えるのだから当り前で高校生レベルのものである。のだが・・・・・・
 さらに眉を潜める佐久許。そんな彼に、せなは関係なさそうな事を遠い目で語りだした。


 (二次関数、ってね・・・、教えさえすれば幼稚園児でも説けるそうよ・・・・・・)
 (だから?)
 (・・・まあ、そういう事じゃないかしら?)
 (『どういう事』だそれは。まだ誰も教えてないだろ?)
 「・・・・・・。あ、ホラ。烈君、天才児だから」
 「いつからそうなったんだ?」
 「3日前?」
 「・・・・・・・・・・・・無茶ありすぎだろいくらなんでも」


 朝以上にそっぽを向いて解説するせな。ちなみに彼女の言い分は必ずしも外れているというわけではない。烈は
IQ215の正真正銘『天才児』である。ただし今の会話をするのが204のせなと210の佐久許では説得力は皆無だが。




 「じゃあみんなも、烈君を見習ってしっかり勉強―――って、あら? どうしたの? 何か今日は大人しいわね」
  ((そりゃそうでしょう・・・・・・・・・・・・))




 ぐったりとしたクラス一同と、きょとんと首を傾げる数学教師。そんなこんなで、とりあえず1限目は何とかパスしたのだった・・・・・・。


―――本編2










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 はい。久し振りに(爆)続き書きました。そしていよいよ本編です! タイトルに『生活マニュアル』とついているのはこの通り。本気で兄貴は『マニュアル通り』動いています。
 そしてまたしてもオリキャラ登場してきました。前回(?)は某高校生徒会長がモデルでしたが、今回は特にいない―――見た目のみはテニスの佐伯ですな。銀髪なのか白髪なのか区別がつきにくい(アニプリの場合)んですが。しかし話し方などよくよく考えてみるとレツゴパラレル『
Mystic Eyes』の三村兄になってきているような・・・。
 はい! オリキャラ多すぎです毎度恒例! しかしこの高校生シリーズ、レツゴキャラって特に
WGPは外国人選手ばかりなので出し様がない! というのが大きいです。なんなら留学生として無理矢理出すか・・・・・・。
 あ、ちなみに烈兄貴その他の
IQ。本当は『デジレツ』芸能界シリーズの設定でした。なんだかそっちが進みそうに―――というか始まりそうにないのでこちらに持ってきましたが。なおその他選手は、まず烈兄貴が本編通り215でトップ、2位がミハエルの213、3位がブレッドの210で4位がせなの204200代はこの4人で、180以上は彼ら入れて13人。豪は153WGP選手一同の中では平均という設定。普通は100140くらい。東大クラスが120で、180以上だといわゆる『天才』。200以上で国レベルで取り合いするくらい(らしい。何かの本での知識+うろ覚えなので本気には取らないで下さい)のでああWGPメンツってやったらと頭いい人が揃ってたんだなあ、という感じです。 以上。ではこの辺で。

2003.8.14