The Nightmare


―――記憶喪失烈Presents『本能による「日常生活」の過ごし方』―――




Act2 お弁当 〜生活マニュアル応用編〜






 昼休み。ここ生徒会室に集まるは生徒会役員と心配で見に来た豪とジュン、そして当事者の烈だった。


 「で、様子はどうだったんだよ?」
 尋ねる豪に―――


 『進展0』
 せなと佐久許はハモって答えた。


 烈は実に上手に学校生活をクリアしている。本当に彼の考案したマニュアルは立派なものだった。
 が、


 「あまりに立派過ぎてそれにさえ従っていれば問題が無くて」
 「むしろここまでくると思い出せなくても何も問題なさそうだな」


 それこそ見事なまでの切り捨て案。だが半日彼を観察し続けた2人の結論も最もなものだろう。現に今まで、誰か烈の記憶がなくて困ったか? 本人含め。


 「ダメに決まってんだろーが!!」
 どばん! と机を叩いて豪が猛反対する・・・・・・も、
 『どの辺りが?』
 これまたハモりで訊き返され、黙り込むハメとなった。
 「え〜っと・・・・・・、その・・・・・・」
 どの辺りがダメなんだろう? ぶっちゃけもう豪自身このままでいいような気がしなくもなくなっていたが・・・・・・。




 はっ!!




 「ダメじゃねーか!! このままじゃ、せっかく俺と兄貴はめでたく結ばれたってのにまたただの兄弟になっちまう!!」
 「『めでたく結ばれた』・・・・・・?」
 「それこそ何か進展あったのか・・・・・・?」
 「うるせえ!!」


 凄まじく不審げな視線を向け考え込む2人を一喝し、豪がきょとんとする烈の元へと近寄っていった。
 彼に視線を合わせるためしゃがみ込み、


 「な? 烈兄貴。俺と兄貴はただの兄弟じゃなくって恋人だったんだ。思い出してくれよな?」
 「恋人・・・・・・?」


 首を傾げつつ、それでも必死に覚えようと―――もとい、多分思い出そうと頑張る烈。その辺りの無防備な仕草は確かに『烈』のそれではなく『記憶喪失者』のそれだった。
 それを傍で見ていた会長の間宮が呟いた。


 「なるほど。記憶書き換えか。確かに今ならばやりたい放題だ」
 「違う!!」


 さらに副会長のレイが心底感心した―――普段ならまず絶対やらないほどの動作込みで続ける。
 「ほお。単純バカかと思ってたが、なかなかやるな」
 「違うっつってんだろーが!!」


 そして、会計のマリナがため息と共にトドメを刺す。
 「最低だねアンタ。そんなにして烈欲しい?」
 「うがあああああああ!!!!!!!」


 とりあえずその辺りも一喝(?)して黙らせ、豪は再び『烈教育』を続けた。


 「だから! そんなワケだから烈兄貴も俺の事は弟としてじゃなくって―――」
 「恋人として見ろ、と」
 「そうそう」
 豪の言葉に暫し悩み・・・・・・
 烈は持っていたお弁当を開いた。




 「『はい、あ〜ん』」




 『は!?』
 笑顔で差し出す一口大のオムレツ。上に真っ赤なソースのかかったそれを箸に挟み、笑顔で豪の目の前へ・・・・・・


 「何やってんのよ豪!! アンタのせいで烈完全に壊れちゃったじゃない!!」
 「ああ、せっかく今まで上手くいってたのに・・・・・・」
 「終わったな、これで」
 「仕方がない。ご両親には『最善を尽くしたがアクシデントにより断念』とご報告しておこう」
 「やれやれ。やはりお前がやるとロクな事態にならないな」
 「いつもの烈の苦労が伺えるね」
 「烈さんが全て忘れてしまったのも納得がいきますね。確かにこれはもう思い出したくもないかと」
 さらに1名増えた声。書記の姫御原を加えてもまた、全員豪の敵である事には代わりないようだった。
 それらは無視して、


 「烈兄貴〜〜〜〜〜〜vvvvvv」


 夢のような、本当なら絶対夢だろうというか夢ですら見ることが出来なかった事態。まさかこの兄にはいあ〜んv しかも裏表ない満面の笑顔でやってもらえるなんて日が来るとは・・・・・・!!!
 涙をダバダバ流して豪が感動する。感動して、口を開き―――




 「ぐあはっ・・・・・・!!??




 食わされた『ソースがけオムレツ』なる物体に、思い切り悲鳴を上げてむせ返る。
 「か、辛え・・・・・・てか、何だよコレ・・・・・・!!」
 「え? さあ?」
 訊かれ、烈がしれっと答えた。


 「昨日お見舞いに来た人がさ、お見舞い品だってくれたんだけど、どんなものかな〜って思って」


 「思って食ってねえのか!?」
 普通お見舞い品とくればまず本人が食べるだろうに・・・・・・
 「食べてない」
 「食ってくれ・・・・・・」
 「嫌」
 「なんで・・・・・・?」
 「絶対何かあると思ったから」
 「だからなんでだよ・・・・・・?」




 「その人とは相通じるものを感じたからね」




 「・・・・・・・・・・・・」


 何も言えない豪に代わり、佐久許がため息をついた。
 「つまり烈はこれまた本能的になのかなんなのか、自分も絶対ヤバい事やるってわかってたってワケか」
 「ところで烈君、そのお見舞いに来た人って誰?」
 なぜかさっきっからすっぽ抜けている点。彼はその人を呼ぶ際、その通り『その人』としか言っていない。


 「さあ。誰だろう? 名前ききそびれちゃって。向こうも忙しそうだったから呼び止めるのもなんだったし。でも結構親しそうに話しかけてくれたな。ずっと笑顔で
 「・・・・・・大体誰だかわかったんだけれど」
 「・・・・・・多分俺もわかった」
 『?』


 首を傾げる一同はいいとして、確認のためもう一つ、今度は佐久許が質問した。
 「なあ烈、その見舞い品・・・多分上にかかったソースの方・・・・・・、名前なんていうんだ?」
 「え〜っと・・・・・・。


  ―――『サルサ・デス・ソース』だって」


 『決定』
 「なるほど。『同類』か・・・・・・」
 「さすが烈君。予備知識0でもちゃんとシンパシーは感じるのね・・・・・・」
 「え? 何が?」
 まだまだわからない一同の中で、


 「・・・・・・・・・・・・。アイツか」


 ようやくわかったらしい豪が呻いた。何度も会ってはその度に酷い目に遭わされているかの男。烈とよく似た性格の彼(注釈として味覚異常)に、遭わされる『酷い目』はそういえば料理関連が8割を占めたか。


 「ホラ豪。欲しいんだろ? あ〜んvv」
 「いらねえよンなの!!」
 「そっか。それは残念」
 「って兄貴も食うな!!」
 ぱくっ。
 「うん。母さんの料理はおいしいな」
 「は・・・・・・?」
 「豪君・・・。ちゃんと見なかった? 烈君、次は違うもの取っていたんだけど・・・・・・」
 「は・・・・・・・・・・・・?」
 「や〜いや〜いば〜かば〜か♪」
 にっこにっことまたまた裏表ない笑顔で笑う烈(注釈その2で記憶喪失中)。灰と化した豪を見下ろし、




 「ほら、やっぱり元に戻す必要ないでしょ?」
 せなはこちらもまた笑顔で言ってのけたのであった。


―――本編3










・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・     ・

 今回は前回に比べ短いです。それもこれもこれが『豪烈』であるのに原因があるような・・・・・・。いや、この2人にとりあえずでも恋人っぽさげな事をさせるのは5行が限界のようです。果たして豪のやり方が悪いのかそれとも烈兄貴が最強すぎるのが悪いのか・・・・・・。
 はい、そんなワケでこの話も本編2に。今回は記憶喪失下というかマニュアルにおける恋人事情でした。ある意味マニュアルどおりのため最もこのサイトにおける2人の関係がはっきり出たかもしれません。ひ〜たすらバカにされてます弟。一片の優しさもありません兄。弟からかう事に人生賭けてます。
 ではその3。普通の烈。恋人? の烈とくれば次はもちろん最強烈! しかしすでにこの時点で十二分に発揮された感もありますが! こうご期待―――するまでもなく兄貴がいつもどおり暴走爆走していきそうです。

2004.3.4

ちなみに:烈兄貴にヘンな物件あげた問題の見舞い客。豪の台詞も込めればこれそのものは知らなくてもメチャバト読まれた方は気付かれたかもしれません。テニプリの不二先輩ですね。先輩と高校生烈兄貴、メチャバトで共演させると本気でキャラが類似しています(もちろんウチのサイト内のみ)。