3.電車に飛び込み―――千石に遭遇
朝のラッシュ時、ふらふらうろつく制服姿の少女は珍しいとも珍しくないとも言える。通学中の人は大勢いるが、毎日の事なので決められた通りの行動しか取らない。
数本待って最前列へ。これで次の電車が来たら飛び込もう。
思っている間にも次が来た。さすが都会の朝。間隔が短いゾ☆
黄色い線を越え踏み切ろうとして・・・
「ねえねえそこのお姉さん、君可愛いねv」
「は・・・?」
どっからともなく現れたオレンジ頭の少年が、横から声をかけてきた。思わず止まった私の前を電車が通り過ぎていく。
「えっと・・・」
「あ、俺千石清純、人呼んでラッキー千石ですv お姉さんは?」
「あえっと私は〜・・・」
のせられ自己紹介しかけはたと気付く。今はこんな事をやっている場合じゃなかった。
しかしながら焦る私を他所に、電車は止まり、千石君は私を中へと引っ張り込んだ。
「まあまあ、こんなトコで立ち話も何だし? てゆーか止まってたら後ろのおじさま方の視線が痛いし? さーさ乗って乗って」
「あの私は―――!」
反論一切無視で肩へと手を回され優しく押される。仕方なく中へと乗り込み―――奥までプレスされた。初ラッシュ時の電車。よくみんなこれで生きていられるものだ。学校が近くでよかった・・・・・・。
「いや〜やっぱ朝は混んでるね〜」
隣で千石君もそんな事を言う。彼も乗りなれていないらしい。そういえば平日なのに私服だ。
「あ俺? 今日実は創立記念日でさ。朝の占いでこっちの方角が良かったから行ってみようかな〜って」
随分人生気楽に生きてる人だな〜・・・・・・。
心底感心する。きっと彼は悩みなんてないんだろう。
「でもってお姉さんはサボリ? だったら俺と遊ばない?」
「え・・・? 何で・・・?」
「こういう電車乗り慣れてないっしょ。しかもその制服ならこの駅が最寄でしょ?
サボリなら俺プロだからさ。ね? 面白いトコ連れてっちゃうよ?」
こ、これは・・・
世に言うナンパ!? 朝の電車内で痴漢ならともかく何やってんだ?って感じだけど、残念ながらいくら祝・初ナンパだろうと私はこれから死ぬ予定バリバリ。付き合ってる余裕はないわ。
「い、いやあの私は・・・」
「まーまーそんな遠慮せずにv 遊ぶなら1人より2人だよ?」
「そんな遊ぶ予定なんて―――」
「ないの!? だったら尚更俺とどう? せっかくいい天気なんだしさあ」
「だからアンタ人の話を・・・」
「聞いて欲しい? もちろん聞くよ? 俺わりかし聞き上手だからさ。
何々? お姉さんサミシイ口? 話し相手欲しいの?」
「てゆーかアンタが黙って私の話聞いてくれるだけでいいんだけどさ・・・・・・」
「おお!? 俺ご指名!? いや〜嬉しいね〜♪」
「会話してよ頼むから・・・・・・・・・・・・」
「そ〜んなお願いされちゃったら聞くしかないじゃんお姉さんの頼みだったらさあvv んで会話? そーいえばこんな面白い話が―――」
「だ〜れ〜か〜た〜す〜け〜て〜・・・」
「え!? 何!? お姉さん困ってんの!? だったら俺が助けるよ!?」
「アンタに困ってるって言ってんのよ!!」
走り出した電車の中で、私は血涙を流し千石君に掴みかかった。ああ周りからの視線が痛い・・・。
「ええ〜? 俺? 何かお姉さん困らせる事したっけ?」
「あーもーいい!!」
ブチ切れて放り出す。電車へ飛び込む案は不可能となってしまったが、まだ大丈夫だ。電車から飛び下りる案が残っている。この速度で動く電車から飛び下りれば今度こそ死ねるだろう―――
キキ――――――がたん!!
《申し訳ありません。ただ今線路に不審物を発見し、緊急停止をかけさせて頂きました。安全が確認されるまで、ご迷惑ですが暫くお待ちください》
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ありゃ〜。止まっちゃったね」
迷惑だ。すっげー迷惑だ。
以後、電車が動き出すまでの2時間、朽ち果てた私は延々千石君のトークショーを聞き流していた・・・・・・。
△ ▽ △ ▽ △
電車が動くようになった次の駅で。
ぷしゅ〜
「せ〜ん〜ご〜く〜・・・・・・!!」
「うげっ! 南・・・!!」
「お前何部活サボってこんなトコにいるんだ!!」
「い、いやだってせっかくの休みだしぃ〜。天気も良かったしこっちがラッキーだって言うし〜」
「だから何なんだよ!? 今日は練習試合なんだぞ!?」
「そこらへんはまあ〜・・・・・・みんな頑張れ♪」
「お前も頑張れよ!! ていうかお前が頑張れよ山吹エース!!
ほら行くぞ!!」
「っあああああああ!! 俺のさまーほりでーがああああ!!!」
「ンなモン引退したらいくらでもやるよ!!」
「今日という日は二度と返って来ないんだよ!?」
「でもって練習試合の相手も二度と返って来ねえよ!! 跡部引き止めんのにどれだけ俺たちが努力費やしてると思ってんだよ!? 今なんて新渡米と喜多が毒舌漫才やってるぞ!?」
「えウッソ!? それは見たい!!」
「なら帰るぞ!!」
「よ〜し!!」
南と呼ばれた人に引っ張られるまま、千石君は逆のホームに向かってしまった。何となく一緒に下りた私はその場に取り残され・・・
「あ〜え〜っと・・・・・・
――――――――――――帰るか」
同じく、逆のホームへとゆっくり歩いていった。
―――4.電車に飛び込み2