4.電車に飛び込み2―――佐伯に遭遇


 今度こそ妨害を阻止するため、私は人気のない線路へと向かった。きょろきょろと周りを見る。よし。誰もいない。
 都合よく鳴る合図。遮断機を越え線路へと入り込み・・・
 「危ない!!」
 どん!!
 「どうっわああああああああああ!?」
 ごろごろごろごろごろごろろろろろろ!!
 ・・・再び突き飛ばされ、線路の逆にある土手から転げ落ちた。
 がばりと身を起こし、
 「だから何!?」
 またしてもあの少年かと思いノリで叫ぶ。が、そこにいたのは違う少年だった。違う少年ではあるが―――結局眉を吊り上げ怒っている時点で同じだといえば同じだ。
 「何を今やろうとしてたんだ! 線路に飛び込みなんて危ないじゃないか!!」
 「放っといてよ!! 死のうとしてんのよ私は!!」
 「だったら尚更放っておけるか!!
  いいか!? 電車っていうのは1回止めただけで数千万円の被害が出るんだぞ!? その穴埋めを誰がやらされると思ってんだ!? お前だぞ!?」
 「私は死ぬって言ってるでしょ!?」
 「だから尚更だ!! 本人が払えない分家族に回されるんだぞ!? せっかく入った保険金がそのせいで吹っ飛ぶんだぞ!? しかもそれですら補えないんだぞ!?
  遺すのが財産ならともかく借金でどうするんだ!? 『自然葬』の名目でゴミ溜めに死体捨てられるぞ!?」
 「そんな〜〜〜!! せっかくの娘が死ぬのよ!?」
 「その娘が!! 今まで育ててやった恩を仇で返した!! 親としては今まで手塩にかけた分なおさら許せないに決まってんだろ!? 金の恨みは情より深いんだぞ!? 情が絡むとさらに深くなるんだぞ!? だから連帯保証人残して蒸発した馬鹿は1ヶ月待たず東京湾に沈むんだろ!?」
 「それは借金取りの方がやった事じゃないの!?」
 「借金取りが負債者殺して何の得がある!? コイツを殺した保険金で払おうと誓った連帯保証人にやられたに決まってんだろ!?」
 「てゆーかどこの世界にそんな話がそもそもあるの!?」
 「どこの世界でも常識だろ!?
  というワケで!!
  電車への飛び込み自殺は良くない!! どころか最悪だ!! やるんなら人に迷惑をかけずさらに事故死に見える死に方をする事! その年なら事故死に一番多くの保険かけてるだろ! それで親も万々歳だ!」
 「私は家族の幸せのためのイケニエか!?」
 「当然だ!!」
 言い切られた。はっきり言い切られた。爽やかに清々しく、1%のためらいも嘘微塵もなく言い切られた。
 「・・・・・・・・・・・・帰ってもう一回人生考えてみようと思いマス」
 「よしよし。
  ・・・自殺のアドバイスか。俺もいい事したな」
 聞こえない聞こえない。今のは何も聞こえなかった。
 そう言い聞かせ、私はよろよろとその場を立ち去ったのだった。



―――5.富士の樹海で首吊り